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『転生悪役令嬢、異世界ゴルフでホールインワン!』 〜マナーとスイングで世界を変える〜  作者: 南蛇井


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第20話『水上グリーンと精霊騒動』

湖面に、陽光がキラキラと反射していた。

その上に、円形のプラットフォームがまるで水面の蓮の葉のように点々と浮かんでいる――ここが《アクア・リンクス》。本日のラウンドの舞台だ。


フェアウェイもグリーンも、すべて魔法浮遊石で作られた人工島。だが安定しているように見えて、足元は波や風に合わせてわずかに揺れている。パットどころか、立っているだけでも微妙なバランス感覚が要求されるコースだった。


「おおっ、湖の上か! 面白ぇじゃねぇか!」

隣でグラードが目を輝かせる一方、コーデリアは額に手を当てて眉をひそめる。

「これ……バランス崩したら、そのまま水没じゃない……?」

想像しただけで背筋が寒くなる。


湖の周囲には、観客用の大型ゴンドラがゆったりと周回していた。空色の旗をはためかせ、そこから熱心なファンたちが声援を送ってくる。魔法スピーカーを通した歓声が、湖面を渡って耳に届いた。


――どうやら、今日の試合はゴルフというより、半分はサーカスか綱渡りの演目みたいになりそうだ。

コーデリアはそんな予感を抱きながら、そっと足場を確かめるように一歩を踏み出した。


ティーグラウンドに立ったコーデリアは、揺れる足場に気を取られないよう深呼吸をした。

――その瞬間、愛用のクラブ《ウィンドリリー》が、かすかに震えた。


「……え?」

手元から柔らかな光が漏れ、シャフトの中を走り抜けていく。次の瞬間、小さな光の人影がポンッと飛び出した。


「ふははははっ! 久方ぶりの目覚めだな! 我が名は――芸術の精霊リュミナス! このショット、ただの一打で終わらせるわけにはいかぬ!」


コーデリアの目が点になる間もなく、精霊は勝手にクラブを握り直す。

「まずはこう! 片足を上げて――おお、バランスが絶妙! そして腰をひねり、ひねり、ひねりぃ!」

「ちょっ、ちょっと待って! こんな体勢じゃ――わっ!?」


クラブは彼女の意志を完全に無視し、謎のスピン動作を追加。

横で見ていたグラードは「……なんだ、あれ」と口を半開きにし、

敵チームの魔族選手でさえ眉をひそめ、「いや、フォームが……芸術的すぎないか?」と苦笑する。


観客席からもクスクスと笑いが漏れ、ゴンドラの上では子供たちが手を叩いて面白がっていた。

――完全に見世物だ。

コーデリアは顔を真っ赤にしながらも、クラブを振り切らされる運命から逃れられなかった。


クラブが勝手に振り抜かれ、奇妙なスピンと共にボールは高く――いや、なぜか低く、湖面スレスレを滑るように飛び出した。


「え、沈む!?」

観客も選手も息を呑む。だが次の瞬間、ボールは水面に軽く触れてバウンド。波間を蹴るように進み、そのまま水面を跳ね渡っていく。


「まるで……生きてるみたいだ……!」

実況の声が震える。ボールは湖中央の波の山に乗り、その勢いを保ったままグリーンへと滑り込み――ピタリとカップの真ん中に止まった。


「入ったぁぁぁ! これは……奇跡か、それとも悪ふざけか!? 判断が分かれるスーパーショットです!」

観客席からは割れんばかりの歓声。ゴンドラの上では、帽子を振り回す子供たちの声が湖面を揺らした。


コーデリアは半泣きで《ウィンドリリー》を睨む。

「お願いだから、次は普通に打たせて……!」

だが精霊リュミナスは胸を張り、

「芸術に“普通”など不要! 我らの道は常に奇跡と喝采と共にある!」

と、高らかに宣言するのだった。

湖上のプラットフォーム裏、観客の目が届かないエリアで、もうひとつの戦いが静かに繰り広げられていた。


フィリップ王子のキャディー、細身の青年レオンは双眼鏡を片手に、湖面の波紋と風向きをじっと観察する。

「……次のパット、十五秒後の波の谷を狙ってください。風は北東から、秒速二メルト。打点はわずかに下目で」

緻密な計算と冷静な声色。選手たちも思わず姿勢を正す。


一方、獣人チームのキャディー、モルガンは腕組みしながら鼻息を鳴らす。

「風? 波? そんなもん気合でぶっ飛ばせ! 思い切り腰入れて打て!」

その声は雷鳴のように響き、聞いた者の血を騒がせる。


結果、選手たちは二つの極端な指示の間で揺れた。

「えっと……谷を狙って……いや全力で……どっち!?」

そんな混乱の中、ある選手が半ば反射的にレオンの計算どおりに構え、そしてモルガンの怒号どおりに全力で振り抜いた。


ボールは計算された軌道に乗りつつ、常識外れのパワーで波を裂き、一直線にカップへと吸い込まれる。


「……まさか、これが正解?」

フィリップ王子は目を細め、モルガンは牙を見せて笑った。

真逆のアプローチが、思わぬ最強コンビネーションを生み出していた。

夕暮れが湖面を黄金色に染める中、最終ホール。

コーデリアのクラブから、例の光の精霊が勢いよく飛び出した。


「さあ、芸術のフィナーレと参ろうではないか!」

声と同時にクラブが勝手に構えられ、意味のない片足立ちからの三回転――そしてスイング。


ボールは湖面すれすれを疾走し、パシャッ、パシャッ、パシャッと三度跳ね、最後は旗竿にカンッと直撃。

次の瞬間、カップへストンと吸い込まれる。


観客席からは大歓声と腹を抱える笑い声が入り混じり、実況も笑いを堪えながら叫ぶ。

「な、なんという軌道! これぞ奇跡……いや、悪ふざけの極致だぁー!」


コーデリアは歓声の中でクラブを抱え、涙目で低く呟く。

「……次のラウンドまでに、絶対説得しなきゃ……」


だが精霊は鼻歌を歌いながら、すでに次の“芸術条件”を考え始めていた――。

そして、第4ラウンドはさらにややこしい大波乱へと突入していく。






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