第19話『溶岩地帯の死闘』
灼熱の陽光が空から突き刺さり、地平の向こうでは火山が赤黒い煙を吐き上げていた。
その山肌を縫うように広がるのは――「マグマ・リンクス」。
フェアウェイは耐熱性の魔草で覆われているものの、その下では常にマグマが脈動しており、足元から不気味な熱気が吹き上げる。所々に走る赤く光る溶岩の川が、まるで巨大な蛇のようにうねり、プレイヤーの行く手を阻んでいた。
「……まさか、本当にこんな場所にコースを作るなんて」
コーデリアは眉をひそめ、息を吐くたびに熱気が肺にまとわりつく感覚に顔をしかめた。
その隣で、グラードは額の汗をぬぐいながら、逆に目を輝かせる。
「はっ、こういう危険な場所ほど燃えるもんだ! おれのドライバー、今日は火山の噴火に負けねぇぜ!」
その瞬間、島全体が「ゴウッ!」と低くうなり、遠くのクレーターから噴煙が天高く噴き上がった。
地面がわずかに震え、フェアウェイの形が一瞬で変わる――まさに生きているコース。
そして彼らは、この灼熱のラウンドが“ただのゴルフ”では終わらないことを、まだ知らなかった。
試合開始直前、コーデリアたちがティー付近で準備をしていると、ミーネ爺がクラブのヘッドをじっと見つめ、眉をひそめた。
「……いかん。この熱じゃ、数ホールもたずに焼け曲がっちまう」
そう言うや否や、爺はキャディーバッグの底から、鈍く光る耐熱鉱石と、年季の入ったドワーフ秘伝の打ち出し槌を取り出す。
「こいつは練習じゃねぇ、本番だ。ちょいと待ってな」
フェアウェイ脇にしゃがみ込み、鉱石を火山の噴気孔の上にかざして赤熱させ、手際よく打ち出し始める。カンッ、カンッ、と鋼の音が響くたびに、観客席のあちこちからざわめきが起こった。
「おい、あの爺さん鍛冶始めたぞ…」「試合じゃないのか!?」
やがて、真紅に焼けた鉱石は冷やされ、黒鉄色のヘッドを持つ一本のクラブへと姿を変える。
爺は汗を拭い、ニヤリと口元を上げた。
「ほれ、熱にゃ負けねぇ一本だ。全員で使い回せ」
黒鉄のクラブは、まるで炎を吸い込むように静かに輝き、握った瞬間に頼もしさが手に伝わってくる。
コーデリアはそれを構え、息を整えた――これなら、灼熱の地獄でも振り抜ける。
中盤、勝負所となる溶岩川越えのロングホール。
フェアウェイの向こうでは、赤く煮えたぎるマグマが川となって流れ、熱気がゆらゆらと視界を揺らしていた。
グラードは黒鉄クラブを肩に担ぎ、豪快に笑う。
「ここは俺に任せな!」
そう言ってティーに立つと、足元の熱風すら力に変えるように腰を沈め――
バァンッ!
渾身のスイングから放たれたボールは、真っ白な弾道を描き、200ヤードを軽く超えて飛び出す。観客席からどよめきが上がった、その瞬間――
「ゴウッ!」
地鳴りとともに火山が小噴火し、空を裂くように真紅の溶岩弾が飛来。
まさかのタイミングで、その一つがグラードのボールの進路をかすめた。
カンッ!
鈍い音とともにボールは弾かれ、予想外の方向へ跳ね飛ぶ。
そのままマグマの川へ――と思われたが、チーム全員の目が見開かれる。
「……止まった!?」
熱を帯びた岩場の縁、ほんの数インチ手前で、ボールは奇跡的に転がりを止めていた。
溶岩の赤い光がその白い表面を照らし、グラードは額の汗をぬぐって苦笑する。
「……あっぶねぇ。危うく“焼きゴルフボール”になるとこだったな」
岩場の縁、下はどろりと赤く煮えたぎる溶岩。
グラードが覗き込み、眉をひそめる。
「……こりゃあ、俺の豪腕でも無理だな」
コーデリアはすぐに一歩前へ出た。
「じゃあ、私に任せて」
キャディーバッグから耐熱加工のウェッジを抜き取り、足場の安定しない岩場に慎重に立つ。
「こんなときは――バンカーの応用よ」
低く呟き、クラブフェースをわずかに開く。
灼熱の上昇気流が頬を撫で、ボールの白が熱の揺らぎで霞む。
コーデリアは呼吸を整え、しなやかにスイング――
シュッ、カツンッ!
高く、ふわりと舞い上がるボール。
熱気がわずかな浮力を与え、まるで炎の上を滑るようにゆっくりと飛ぶ。
そして――グリーン手前に、そっと降り立つようにソフトランディング。
「おおおーーーっ!」
観客席から大きな拍手と歓声が湧き上がり、灼熱の空気を一瞬だけ忘れさせる。
グラードは肩をすくめて笑い、親指を立てた。
「やるじゃねぇか、“炎のロブショット”ってわけだな」
チームの士気は、熱気以上に高く燃え上がった。
最終ホール。
火口の向こうに揺らめく旗竿を睨みつけ、魔族チームの主力――漆黒の角を持つ男が、不敵に笑った。
「炎の息吹こそ、我らの道具だ」
彼は迷わず、火山の噴出口ぎりぎりを狙ってティーショットを放つ。
キィン、と鋭い音とともにボールが一直線に飛び――
ボフッ!
噴き上がる真紅の噴炎に呑まれた瞬間、ボールは灼熱の力を借りて跳ね上がる。
炎をまとう白球は、夜空を切り裂く彗星のような輝きに変わり、火口を越えて一直線にグリーン方向へ。
「な、なんだあれは…!」
観客席がざわめき、実況席からも半ば悲鳴のような声が上がる。
ボールは旗竿わずか数ヤード手前で止まり、彼らのスコアは一気に縮まった。
勝負は、最後の一打で決まる――。
コーデリアは静かにクラブを握り直し、熱に揺れる視界の奥で旗竿を見据える。
次回、「炎のフェアウェイ、決着の時」――。




