表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生悪役令嬢、異世界ゴルフでホールインワン!』 〜マナーとスイングで世界を変える〜  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/31

第18話『開会式と空中島コース』

浮遊大陸アエテルス、その中心にそびえる中央島――《セレモニア・グリーン》。

 眼下に広がるのは、限りなく白い雲海。夕陽を浴びて金色に染まる空の中、巨大な魔法ステージが空に浮かんでいた。周囲には無数の観客用飛行艇が円を描き、ゆっくりと旋回している。


 開会式のファンファーレが鳴り響く。まず現れたのは、獣人族の代表チームだ。

 先頭の虎獣人、グラードが歩みを止め、分厚い胸板を拳で叩く。

 ドンッ――! その音に合わせて仲間たちが一斉に咆哮を上げる。

 轟音のような雄叫びが会場を揺らし、観客席のガラス窓までも震わせた。


 続いて、エルフ族の列が現れる。

 リュミエールが細身の風笛を唇にあて、静かに息を吹き込む。透き通る旋律に合わせ、仲間のエルフたちが木精の鈴を鳴らす。

 すると、島の花々が一斉に開き、香りを乗せた花弁が空へと舞い上がった。風はその花吹雪を渦に変え、観客の頭上を柔らかく撫でていく。


 三番手はドワーフ族。

 小柄なミーネ爺が肩に担いだ魔力ハンマーを構え、鐘へと振り下ろす。

 ゴォォン……と低く響く音が広がるたび、会場全体を包む透明な結界が微かに光を帯び、安定していく。観客の間から感嘆の声が漏れる。


 最後に姿を現したのは、魔族の一団。

 ザラドを中心に、黒い霧をまとった影が静かに進む。その霧の中で、ひとつだけ――銀色に輝くゴルフボールが浮かんでいた。

 声ひとつ発せず、ただ前を見据えるその姿に、会場の空気が一瞬、ひやりと引き締まる。


 やがて、魔法ステージの中央にフィリップ王子が進み出た。

 風に金のマントを揺らし、朗々とした声を放つ。


「――剣も矢もいらぬ! クラブひとつで誇りを示す者たちよ、今ここに、空の上の祭典を開幕する!」


 その宣言が響き渡った瞬間、空中で無数の光花火が弾けた。

 いよいよ、異種族混合ゴルフ大会の幕が上がる。

開会式の熱気をそのまま乗せて、いよいよ第1ラウンドが始まった。

 舞台は、浮遊島群を縫うように設計された《空中島コース》。大小様々な島が鎖のように連なり、その間をロープブリッジや魔法の滑空路が結んでいる。


 キャディーたちは飛行魔法で選手の横を滑るように移動し、小型飛行艇を操る者もいる。ホールインワン級のロングショットが放たれると、キャディーが空中でボールを追い、光の標識をつけて行方を知らせる――そんな、地上ゴルフでは絶対に見られない光景が広がっていた。


 第一の難所は、《雲海越えパー5》。

 地表が見えないほどの高度から、雲の切れ間へ向けて打ち込む。

 打球が白い霧の中に消えると、観客席から一斉にどよめきが上がる。風の読みが一歩でも狂えば、球は無限の下へと落ちて二度と帰ってこない。


 次のホールは《滝縁グリーン》。

 カップのすぐ外は絶壁、その下を轟音と共に滝が落ちていく。

 わずかにラインを外したパットが、音もなく滝下へ吸い込まれていく様子に、観客も思わず息を呑んだ。


 さらに待ち受けるのは、《逆風ホール》。

 島全体が上昇気流に包まれており、打ち出したボールが予想以上に浮き上がってしまう。力任せに打てば、まるで凧のように風に持ち上げられ、グリーンどころか隣の島へ行ってしまう危険すらあった。


 ――空の上のラウンドは、ひとつの油断も許さない。

 それでも、選手たちの顔には恐怖よりも高揚が浮かんでいた。ここは地上では絶対に味わえない、異世界のゴルフ場なのだから。


コーデリアはティーグラウンドに立ち、深く息を吸い込んだ。

 眼下にはどこまでも広がる雲海。見上げれば、別の島々が白い霧の合間に浮かび、遠くで観客席代わりの飛行艇がゆるやかに旋回している。


 ――落ちたら、もう帰ってこれない。

 そんな事実を、頭ではなく肌で理解する瞬間だった。


 「大丈夫……普通のティーショットと同じ。風を読んで、スイングするだけ」

 自分に言い聞かせ、クラブを構える。


 だが、バックスイングの途中――

 ゴォッという低い唸り声のような風音が、背後から襲いかかった。

 観客艇が島のすぐ横を通過した影響で、突風がティーエリアを舐める。

 クラブはわずかに軌道を狂わせ、インパクトの瞬間、球は予想より高く、右へと逸れた。


 「……っ!」


 白球はギリギリの弾道で隣の島の縁に向かう。

 次の瞬間――

 コンッと乾いた音を立てて岩肌にバウンド。

 そのまま斜面を転がり、奇跡的にフェアウェイの端にとどまった。


 観客席からはどよめきと安堵の拍手。

 コーデリアは胸の奥で冷たい汗を感じながら、息を吐いた。

 今のは……あと数センチで落ちてた。

白球が斜面を転がり落ちかけた、その瞬間だった。

 背後で、すっと空気の流れが変わる。


 視界の端で、ザラドが左手をわずかに掲げていた。

 指先から放たれたかのように、目には見えぬ風が球を包み込み――ふわりと押し戻す。


 次の瞬間、ボールはフェアウェイ中央に吸い込まれるように着地し、コロコロと転がって完璧な位置で止まった。


 「……!」

 コーデリアは一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 だが、視線を向けると、ザラドは黒いマントの影からこちらをちらりと見て、軽く顎を引くだけ。言葉はない。


 心の中で、コーデリアはそっと呟いた。

 ――ありがとう。


 風のざわめきの中、ふたりの間に、まだ小さくても確かな信頼の芽が息づき始めていた。


 空中島コースの中盤、観客用飛行艇の上からも拍手と歓声が絶えなかった。


 まずはグラード。虎獣人特有のしなやかな筋肉が、しなるようにクラブを振り抜く。

 ――ドンッ!

 炸裂音のようなインパクトとともに、白球は一直線に雲海を突き抜け、二百ヤードをゆうに超えて舞い上がる。

 観客席からは「おおおおおっ!」と地鳴りのような歓声。グラードは牙を見せ、腕を組んで満足げにうなずいた。


 続いてミーネ爺。小柄な体をゆったり構え、クラブを振り下ろす軌道は刃物職人のように正確だ。

 「……ここは、半歩右じゃの」

 芝目を読み、風向きを読み、迷いなく打ち出した球は、ピンそば数十センチにピタリと止まる。観客のどよめきに、爺は鼻を鳴らすだけ。


 リュミエールは両目を閉じ、頬を撫でる風の感触に耳を傾けていた。

 「……北東の風、三つ数える間に変わる」

 その声は歌うように柔らかく、チーム全員に届く。彼の助言に従えば、驚くほど狙い通りの軌道が描ける。

 コーデリアもまた、その声に背中を押されるように、次の一打を振り抜いた。


 観客席の熱気と、島を渡る風の冷たさ――異種族混合チームは、それぞれの得意を存分に発揮し、空の戦いを進めていく。

夕刻、空中島コースの最終ホール手前。

 西の空に傾いた太陽が、雲海を黄金色に染め上げる中――コーデリアは静かにティーに立った。


 深呼吸。胸の奥まで澄んだ空気を吸い込み、クラブを握る手に力がこもる。

 「……いくよ」

 スイングは、迷いのない弧を描いた。


 ――カンッ。

 乾いた快音と共に放たれた白球は、夕陽を背に光の矢となって飛び立つ。

 黄金と紅が混ざる空を裂き、雲と空の境界線を一直線に貫いていく。


 観客用飛行艇のデッキから歓声が沸き起こる。風笛の音色、獣人の雄叫び、ドワーフの鐘鳴りが混ざり合い、ひとつの大きなうねりとなった。

 グラードが拳を突き上げ、ミーネ爺は満足げにうなずき、リュミエールは微笑みながら拍手を送る。

 そしてザラドは、ただ静かに彼女の背中を見つめていた。


 (……空でも、風は同じだ)

 胸の奥に芽生えた確信が、コーデリアの口元に小さな笑みを作らせる。


 こうして第1ラウンド前半戦は幕を閉じた。

 だが、この後――各チームの思惑が、水面下で静かに動き始めることを、まだ誰も知らない。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ