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無色永劫~異端なる貴方へ贈る異世界生活~  作者: 餅宮 モッチー
第1章 『異世界なんて…』
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第1章 #19 『終わり良ければ』

「はぁ……私のいない所で、そこまで話が進んでいようとは……」


 深く息を吐き、頭を抱えるクリス。その声音には、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。


「そういうなよ姉貴。ミナトの兄貴もいるしよ、大丈夫だって」


「……もとより、私は騎士団長であり、次期王女だ。責任を負うのは当然だ」


 一拍置き、鋭く言い切る。


「だが——私が怒っているのは、私を抜きに話が進み、終わらせられていたことだ」


「……すみません。あの時は、他の選択肢なんて考えられなかったんです」


 ミナトの言葉に、クリスはしばし沈黙し——


「……まぁいい。結果としてキリナは救われた。それは事実だ」


 小さく息を吐いた。


「お優しいクリスさんに感謝です」


 コンコンコン


 扉越しに響くノックは、妙に軽やかだった。


「入れ」


「失礼しますよ。クリス大団長」


「仁神殿か……そういえば用があると言っていたな」


「ええ。なかなか立て込んでいるようで、入るタイミングに困りましたよ」


「仁神!お久しぶりです!」


「やぁミナト。久しいね。元気にしてたかい?」


「元気かって言うとあれですけど……まぁ、生きてます」


「それで十分さ。こうして再会できたことを嬉しく思うよ」


「でもまさか、この一件で仁神が助けてくれるなんて思いませんでしたよ」


「ほんとだぜ。最初、本物か疑ったくらいだ」


「ははは。見ての通り、本物だよ」


 


「ところで、用とはなんだ?」


 和やかな空気が引き締まり、室内に緊張が走る。

 仁神が表に出てくる——それはつまり、それ相応の事態を意味するはずだった。


「いや、そう強ばらせないでくれ。南地区名物トンガ焼きを頂きたくてね」


「……は?」


「え?」


「………はぁ…」


 ルイとミナトは困惑し、クリスは深くため息をついた。


「……そのためだけに、あの状況で来たのか?」


「そんな事とは言わないでくれよ」


 一拍置き、仁神は肩をすくめる。


「それに僕が来たことで、この件が早く片付いたのは事実だろう?」


「……それはそうだがな」


「それに、あのトンガ焼きはね——世界中の料理を知る僕の中でも別格だ。老舗五百年の味は伊達じゃない」


「食べるのお好きなんですね。ちなみにトンガ焼きってどういう料理なんですか?」


「兄貴、食ったことねぇのか?南地区の“ブラム”って店で食えるんだけどよ——」


 ルイが身を乗り出す。


「トンガっていう豚科の生き物の太もも肉を、秘伝のタレに漬け込んで焼いたやつだ。めっちゃうめぇぞ」


 秘伝のタレが染み込んだ肉は、焼かれることで香ばしい香りを放ち、噛めば肉汁が溢れ出す。


 想像しただけで、腹が鳴りそうになる。


「俺も……食べてみたいな」


「それなら僕と行くかい?」


「いいんですかっ!?」


「もちろんだとも」


「なら費用は私が出そう。どうせそれを目的に来たのだろう?」


「そうなんです?」


「君も知っての通り、僕はどこの国にも所属していない。許可がなければ入国もできない——つまり一文無しなんだよ」


「……なんか大変なんですね」






  数刻後——南地区。


 石畳の通りは活気に満ち、香ばしい匂いが風に乗って漂っていた。露店の呼び声、行き交う人々の笑い声。その中でも一際、強い香りを放つ一角がある。


「……あれか」


 ミナトの視線の先。年季の入った木造の店構え。その暖簾には大きく“ブラム”の文字が刻まれていた。


「おう、ここだここ。南地区に来たらまずここってレベルの店だぜ」


「……確かに、匂いだけで分かる。これは美味い店の匂いだ」


 クリスが腕を組みながら小さく頷く。


「はは、だろう?だが、まだ興奮するのは早いよ」


 仁神はどこか誇らしげに笑った。


 店の前には既に行列ができていたが、仁神は迷いなくその列を横目に通り過ぎる。


「え、並ばないんですか?」


「必要ないよ」


 そう言って、何気なく店の戸を開ける。


「おや、これはこれは——仁神様」


 奥から現れた店主らしき老人が、深々と頭を下げた。


「席、空いてるかい?」


「ええ、もちろんでございます。どうぞこちらへ」


「……予約してたの?」



「まぁ、多少は顔が利くだけさ」


 “多少”という言葉に、クリスがじっとりとした視線を向ける。


「……その“多少”の範囲が広すぎるんだがな」



 案内された席に腰を下ろすと、すぐに香ばしい匂いがより濃くなる。


 厨房では、大ぶりの肉が豪快に焼かれていた。ジュウウと脂が弾け、煙と共に甘辛い香りが広がる。


「……やばいな。ヨダレが止まらない」


 思わずミナトの口から本音が漏れる。


「だろ?まだ焼いてる段階でこれだからな」


 ルイが得意げに笑う。


「さて、せっかくだ。好きなだけ頼むといい」


「いいんですか!?」


「もちろん。今日はクリスが払ってくれるからね」


「……言い方に悪意を感じるのは気のせいか?」


 クリスが眉をひそめるが、完全には否定しないあたり優しい。



 やがて——


 目の前に運ばれてきたそれは、まさに“塊”だった。


 こんがりと焼き色のついた肉。滴る肉汁。絡みつく濃厚なタレ。


「……これが、トンガ焼き……」


「冷めないうちに食べるといい」


 仁神の一言で、ミナトは箸を伸ばす。


 一口。


 ——次の瞬間。


「……っ!!」


 言葉が出ない。


 噛んだ瞬間に広がる旨味。甘辛いタレと肉の脂が絶妙に絡み合い、噛むたびに味が深くなる。


「……なんだこれ、うっま……」


「だろぉ!?」


 ルイが嬉しそうに笑う。


「そうだそうだ、キリナ!お前も食べよう!美味しから!」


店の端っこにポツンと立っているキリナをミナトが呼ぶ。


「私は……その…大丈夫ですので」


 罪悪感からか、あまり表に顔も出さないキリナを半ば強制的に外に連れ出したのだが、やはり居心地は悪いだろうか。いや、ここで放っておくのは手を引いた者としていかがなものか!ここは大胆に



「いいから!食べよう!ね?」


「ちょ…ミナト様ッ…」


 無理やり手を引き横に座らせると、タイミング良くキリナの目の前に大きな肉が出てくる


「お?」


「これはサービスだよ。可愛いメイドさん。なんで暗い顔してっか、俺は世間知らずだからわかんねぇけどとりあえず食べれば元気になるぜ?」


「キリナ遠慮することはない。もう過去の話だ。これからは前を向くときめたのだろう?」


「そうだよ。僕たちは生き物の中でも知能を授けられた身、過ちは誰でも犯してしまうさ」


「ミナトの兄貴の勧めが受けれねって訳じゃねぇだろうな!」


「ルイ。お前はいちいち輩みたいなことを言うな」


 せっかくクリスと仁神が慰めの言葉をかけたのにルイのおふざけで台無しだと注意したものの、こういうおふざけも時に必要な時もあるとミナトは思った


「ほら、冷めないうちにさ」


「では…頂きます」




「どう?」


 一口、二口と肉を頬張るキリナ。


「…とても…美味しいです」


 とても素敵な笑顔だと…そう思った。本来あるべきキリナの表情なんだとそう思った


「それなら良かったよ」


「だな」


 暖かく、和やかな一時はとても素敵でそして一瞬なものだったが、それは確かに思い出として刻まれ一生のものとなった





「それじゃ、目的も果たしたし僕は行くよ。ご馳走様」


「次来る時は事前に連絡をくれ。急にお前が来るとなにかあったのかと深読みしてしまうぞ」


「あぁ、次からはそうさせてもらうよ。申し訳なかったね」


謝罪と共に去ろうとする仁神。しかし


「ちょっと待って」


「なんだい?」


「ずっと聞きたかった事があるんだけど、仁神て名前の他に違う呼び名ってないの?」


「…………」


「何を言っているミナト殿。仁神は仁神。他に呼び名はないぞ」


「いやでも、呼びずらいですし…せっかく友達になったんですよ?仁神はなんか堅苦しいですよ」


「だがな…」


「ははは!君は僕を友達と認識してたのかい?」


「え?違うの?」


「いや、君みたいな人は初めてた。普通みんな神の地位にいる人を讃えるか恐れてお近ずきになろうとすること自体少ないというのに。友達と。ははは!」


「たしかに、君はとても珍しい」


 クリスもルイもキリナでさえ、口を揃えそう言う


「え、じゃクリスさんは違うんですか?」


「いや、たしかに友達とは考えてはいないが私はたとえ神でも人とそう変わらないと思っているからな。割とフラットなんだよ。ルイは単純にまだ幼稚な上神に対する信仰心もない」


「幼稚って…姉貴酷くねぇか?」


「そう思うなら身も心も鍛え直せ」


「そうなんだ……じゃ友達では無いのか」


「いいや、友達でいこう。君は僕の初めて出来た友達だ。気に入ったよ」


 さっきまで腹を抱えて笑っていた仁神が笑いすぎて出てきた涙を拭きながらそう答える


「それと…名前だけど、そうだな。君が付けてくれないか?僕の仁神として以外の名前を。初めてできた友達である君につけて欲しい」


「え?そんな大事なこと……うーん」


 悩む。いざ名前を考えるとなると適当には付けられない


 特徴的な青髪。颯爽と駆けつけるその様。神としての神秘さ


「シリウス……」


「シリウス?」


「あぁ、シリウスて名前はどう?」


「星の名前なんだけど、太陽を除いて1番輝いている星。光り輝くものを意味する…なんだっけ…そんな感じの意味合いがあるんだよ」


「うん。シリウス。いい名前だ。今後僕の名前はシリウス…肩書きを仁神と改めよう。ありがとう我が友ミナト」


 満更でもなさそうな仁神…もといシリウス。


「生涯…この名は大切させて頂くよ」


「そんな大袈裟な」


「大袈裟なものか。ミナト殿。結構前に言ったことを覚えているか?名前にはその者の魂と願いが込められていると」


「そういえばそう言っていましたね」


「どんなものにでも名前はありその名前こそ天命の次に大切と言っても過言では無い」


「そっか…じゃシリウス。これからも友達としてその名前を大切にしてくれ」


「勿論だとも」


「では、もう少し話していたいが結界の維持に戻るとするよ」


「あぁ気を付けて」


「また来いよな!」


「お気を付けて」


「シリウス殿。うむ。いい名を授かったものだ。ではまた何か用があればくれぐれも事前に連絡をくれるように」


「あぁ。では息災で」



 去るシリウス。それを見送り、ミナト達も帰路へ立つ








「疲れたなぁ…」


「ミナト様…」


 部屋で休んでいるとキリナが部屋へと入ってくる


「ん?」


「えっと……その…今回の件本当にありがとうございました」


「あぁ、いいんだよ。俺が助けたくて助けたんだし」


「ミナト様のおかげで、復讐から離れ…こうして今を生きることができているのです」


「これから先、キリナは大変だと思う」


「はい。世界中の奴隷の解放と明るい未来への道標になる。とても簡単なこととは言えません」


 今聞いても、大変なことだとそう思う。自分のいた世界でも未だに差別はあるし、奴隷の名残が残っていたりする



「でも、それでもやっていこう。それが罪滅ぼしであるんだからさ。俺も手伝うし」


「ありがとう…ございます」


「あと、様はいらないし、俺に対して敬語も必要ないよ。そういうのはなんかむず痒いから」


「……わかっ……た。ミナトこれからも…よろしく」


「はは。ぎこちないことこの上ないな」


「すみません…」


「いいよ。そのうちなれるさ」



 キリナも部屋から去りまた一人になる



「今日はぐっすりと寝れそうだな」


 目を瞑る。慌ただしく賑やかで楽しかった1日が目を瞑り暗闇に溶け込むように流れていく。そして――――



 白い空間……


「また死んだのか…俺」


 見覚えしかないこの空間はつい最近一度死んだことによって訪れた場所だ。


「いや、君は今回死んではいないよ」


「やっぱりまた居たか創造神」


 この空間に来たということはと思ってはいたが案の定、今回も創造神のお出ましだ


「いやね。言い忘れてたことがあったからそれだけ言いに来たのさ。」


「言い忘れてたこと?」


 なんだろうか。


「輪廻永劫のシステムについてなんだが」


「はい……?」



「バグで生じたものということは勿論修復もされる」


「つまり時間経過で、そのバグが治ると?」


「少し違うね。厳密に言うと君は死ぬ度に蘇るけれど、死ぬ度にそのバグは修正され、狭間の存在からこの世界の存在となっていく」


「つまり?」


「君が死にすぎた結果。バグが完全に修復されればこちらのルールが完全適応され、死んで蘇生される…なんていうチートとも言える能力を失うことになるということだよ」


 やはり代償はあったようだ。死んだら復活出来る…が、それも使い続ければいずれできなくなり復活は叶わなくなる。つまりもう生き返ることができない


「そのことを伝えに来たということか」


「そう。君はこれからも戦いの道を選ぶことになるだろう。ならその命。能力に怠慢にならず、大切にするといい」


「そんな事。そんな代償がなくとも大切にするさ」


 命はひとつしかない。本来死んだらそこでおしまいだ。だからこの能力があろうとも特別なんて思っていないし、そもそも生き返ることができたとしても死にたくなんてない


「それならいいんだ」


「じゃ、要件はそれだけだから。僕はこれで…」


「そういえばこのバグの理由って…」


「それはこれから先の旅路で自ずと知ることになるよ。絶対に。」


「絶対に?」


「そう。絶対だ。これは君の人生において避けては通れない道だからね」


「避けては通れない道」


 創造神はそう意味深な言葉を残すと煙に巻かれたように消える。そしてミナトの意識も薄れていく


――自ずと知れるなら今は深く考えなくてもいい……




 疲れもあるためあまり深くは考えず深い眠りに着く


 エレモアの夜は静かでとても澄んだもので、居心地の良いものだ

 


 


 

 

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