第1章 #18 『罪』
「シスター殿……なかなかの腕前ですね」
「…………」
繰り広げられる激戦。シスターの戦い方はなかなかに洗練されたものだった。陰魔法による空間移動で距離を保ちつつ大量のライフルを陰空間から召喚し迎撃する。クリスはほぼ防戦一方を強いられていた。
ルイも同様であった。ルイの戦い方は魔力強化と『足撃の加護』による近接戦闘。距離を保つ銃撃戦とは分が悪すぎる
「シスターは今洗脳状態にある……なんとかできないものか」
陰空間から吐き出されるように現れる銃口。
「姉貴!これじゃ拉致があかねぇぞ!」
その時――
「………!」
シスターの動きが、一瞬だけ鈍る。
プツン
「!?」
戦闘の最中、突然シスターの意識が途切れたように倒れる
「シスター殿!」
「おいっ!近づいて大丈夫なのか!」
「大丈夫。魔力も途切れている。完全に気絶だよ。それに………洗脳の印も消えている」
魔力の途切れ、洗脳の印が消えているということは洗脳した主が解除したもしくは死亡したということだ
「てことは……」
「あぁ、ミナト殿がどうやら解決したようだ」
――――
「クソッ……なんで『仁神』がこの国にいる!」
「『仁神』様は入れないはずでは…!?」
王都中心、西地区、北地区、南地区で起こっていた紅蓮教団の暴走。それらは『仁神』の現着後、時間にしておおよそ30秒で鎮圧された。
「たしかに僕は本来この国…というよりどこの国にも所属できず出入りもできない身故、君たちが驚くのも無理はないけどね」
「各国の最高権力者か、それに直属する者の指示があれば動く時は動くよ」
最も、戦争ごとや、独裁的思考が入り交じったものには協力はしないが…
「今回は、ちょっとこの国に用があったからそのついでにって感じだけどね!」
「クソッ……俺たちの……宿願が…」
「僕は誰の味方でもあり、誰の味方でもない存在。そんな僕が言うのもあれだけどね、宿願と言っても…復讐の先にあるものが、君たちの望みとは限らない」
「仁神さま…」
紅蓮教団は壊滅。教団の人間は全て捕らえられ、罪に問われたが、今回の一件はこれまでの獣人亜人に対する仕打ちが根本にあるとクリスの主張により東地区立て直しを罰として命じ、クリス自身もその東地区立て直しの最高指揮官として任命された。
フランは死亡したが、解析魔法により脳に残る記憶を解析。その結果、今回の紅蓮教団の黒幕はフランであると同時に、3ヶ月前の魔眼組織による北地区襲撃も黒幕はフランであることが判明した。
アレシアは目を覚ましたあと今回の件について初めて認識。フランに操られ本人の意志ではないものの、魔眼組織の者と内通、指示をしていたことを自ら罪として認識し牢に入ることを所望。それに対し、最初はそうする必要はないと止めたクリスやミナトであったが、アレシアとて1人のシスター。この件はさすがに堪えたようで頭を冷やすという名目で牢に入ることに
そしてキリナは――
紅蓮教団壊滅から数日
王都の大広間には、重苦しい空気が満ちていた。
中央に跪く一人の少女。
キリナ・アマイス。
「……物心ついた頃よりフランに拾われ、その思想に傾倒。王都に潜入後も継続的に情報を流出させていた……相違はないな?」
「……はい。間違いありません」
静かな声だった。
だが、その指先はわずかに震えている。
「付け加えるならば――ミナト様への攻撃。あれも私の意志です。……どのような罰も、受け入れます」
顔を上げる。
「……では、判決を言い渡す」
場の空気が張り詰めた。
「キリナ・アマイス。貴様は首謀者の一人として――死刑に処す」
ざわめきが広がる。
「なお、その遺体は民衆へ公開し――これをもって長き因縁に終止符とする」
その言葉に、
キリナは、ゆっくりと目を閉じた。
(……ああ、終わるんだな)
一瞬だけ――
本当に一瞬だけ。
(……生き、たかったな)
ミナトが差し伸べた手はとても暖かく、穏やかなものだった。だが、もうその手を取ることはできない
胸の奥で、誰にも聞こえない本音が零れる。
だが次の瞬間には、その感情を押し殺し――
「……異論は、ありません」
静かに、受け入れた。
「――待ってくださいッ!!」
その声が、すべてを裂いた。
扉が開かれる。
息を荒げ、立っていたのは――ミナトだった。
「ミナト様っ!?」
「……その判決、取り下げてもらえませんか」
ざわめきが一層大きくなる。
「ミナト殿。此度の働き、誠に見事であった。だが――それとこれとは話が別だ」
冷静な声が返る。
「死刑の撤回を求めるとは……責任から目を逸らすつもりか?」
「違うッ!!」
即答だった。
一歩、前に出る。
「俺は……こいつを見捨てたくない!!」
場が、静まり返る。
「……正しいとか、正しくないとか、そんなのは分かってる!こいつがやったことが許されないのも分かってる!」
拳を握り締める。
キリナは復讐心に駆られたその行動は他の獣人亜人を巻き込み、人間を巻き込み、国を陥れるものだった。
「でも!だからこそ!見直さなきゃならないこともあるんじゃないんですか!」
「見直すとな?」
「もう二度と…差別や非難が起こらないように!見せしめなんか…より印象を悪くするだけだ!」
「ならば…聞こう。ミナト殿はどうする?この罪への罰をいかようにする?」
「この世界のあらゆる獣人亜人の差別…非難を無くす。奴隷にされた者たちも解放させる。復讐にかられ怠惰になった彼女が許されるためには、これからの平和の道標になることだと思います」
「なるほど、穢れてしまった道を自ら立て直せと?」
「はい」
「貴方も存外、酷いお方だ。そんなこと生涯かけてもなし得られるものではないぞ?」
「キリナなら成し遂げられますよ。苦しみを、辛さを知っているキリナなら」
「だが、彼女が再びその穢れを目の当たりにし折れてしまわぬ保証はあるのか?」
「そうならないように、俺が傍に付きます。彼女の手助けをし、彼女自身も救われるように」
「ミナト殿………」
「……なんで……」
思わず、声が漏れる。
「なんで、そこまで……」
ミナトは振り返らない。
「決まっているだろ」
一言だけ。
「君を……キリナを助けたいと手を取りたいと思ったから」
静寂。
誰も、言葉を発せない。
やがて――
裁く者は、深く息を吐いた。
「……私とて……このような現状。同情もある。」
ぽつり、と零す。
「救ってやりたい」
だが、その次の言葉には重みがあった。
「――だが私は“国”だ。国で動いている」
再び、沈黙。
そして。
「……キリナ・アマイス」
その名が呼ばれる。
「貴様の死刑は――」
「取り下げ、生涯をかけてその身を人間と獣人、亜人の手を取り合うための道標を作るための礎となることを刑として幕を下ろす」
「刑の監視役をミナト殿に。そしてその責任は……この私とこの場には居ないがクリス次期王女にあるものとする!」
「裁判官さん…」
「なぁに。国で動いていると言っただろう。君のようなとても優しく誠実な者の頼みを無下にすればこの国の面目も危ういというもの」
「ありがとうございます」
「感謝は後ろの者がミナト殿に言うべきではないかな」
「……キリナ、俺の手を取って前を向いて歩いてくれるか?」
「はい。ミナト様……私は…キリナ・アマイスは生涯をかけて貴方に感謝と…罪への贖罪を…いたします」
やはり暖かい。これほど暖かい心音を最後いつ聞いただろうか。暖かい手を取っただろうか。
お父さん。お母さん。私は必ず仲間を…ミナト様が私にしてくれたように、みんなを明るい未来へと導いてみせます




