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無色永劫~異端なる貴方へ贈る異世界生活~  作者: 餅宮 モッチー
第1章 『異世界なんて…』
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第1章 #17 『手を差し伸べれば』

 ――外。


 轟音と共に、キリナの身体が吹き飛ぶ。


「ぐっ……ぁ……!」


 地面を何度も跳ね、瓦礫の中に叩きつけられる。


 立ち上がろうとするも、膝が震える。


「……もう終わりだ」


 剣を構えたクリスが、静かに言い放つ。


「まさか…潜入捜査中に裏切り……敵側になっていたとは驚きだが…彼らは教団…迫害を受けたものたちの集まりだ。キリナにも思うところがあったのだろうが、諦めろ」


「……私は…」


 クリスもまた1人の恩人である。獣人である自身を受け入れてくれた優しい人だ。


「……殺すつもりはない。行け」


 どこまでも優しい


「……なぜ……」


「今は…あちらを相手しなくてはならないな。…洗脳…されているようだしな」


 フラン様…フラン様なら!


 踵を返し、その場を去る。


「キリナ…私はお前の心の寄り添える人間に在りたかったよ」


 向かう先はただ一つ。


 フランの元へ。




 

 ――聖堂。


 崩れた壁。抉れた床。


 その中心で、ミナトとフランが対峙していた。


 そこへ――


「フラン様ッ!!」


 キリナが飛び込んでくる。


「……キリナですか」


「無事でしたか……!」


 安堵の表情。


 だが、その空気を壊すようにミナトが口を開く。


「キリナ……そいつから離れろ」


「……何を馬鹿げたことを!私はフラン様の――」


「フランは――裏切り者だ」


 一瞬、時が止まる。


「……何を、言っているんだ」


「全部嘘だ。お前の家族のことも、教団も……全部利用されてただけだ」


「……」


「キリナ――」


「侮辱はやめろッ!!」


 叫び。


 その目には明確な拒絶が浮かんでいた。


「フラン様が……利用なんてするわけないだろ!フラン様は私達、東地区の獣人亜人を誰もよりも大切に思ってくださっている!」


 希望に縋る声で瞳で、後ろを振り返る。


「……ですよね?」


「フラン様……この人の言っていることは……嘘ですよね?」


 一歩、近づく。


「家族は……帰ってくるんですよね……?」


 祈り。


 それは、信じたいという意思そのもの。


 フランはそれを見て――


 ゆっくりと、口角を上げた。


「……はぁ」


 ため息。


「本当に、獣人の頭は足らないようだ」


「……え……?」


「まだ分からないのですか?」


 冷たい声。


「全部、嘘ですよ」


 その一言で、世界が崩れる。


「家族?帰ってくる?はは……そんなわけないでしょう?死んだ生き物は帰ってこない!何を馬鹿げた夢をみている」


「…あなたはただの駒です」


「利用しやすい、愚かな獣」


「…………」


 音が消える。


「助けたのも、信じさせたのも……全部計算ですよ」


「あなたみたいなのは、少し優しくすれば簡単に懐く」


「本当に、便利でしたよ」


 嘘だと、膝から崩れ落ちるキリナ


 カラン、と乾いた音。


「……うそ……だ……」


「現実ですよ」


 トドメのように、フランは言い放つ。


「大分ボロボロですね。もう戦えないあなたに価値なんてありません。死ぬか失せなさい」


「……あ……あぁ……」


 地面に手をつく。絶望。それはそうだ。


 震えが止まらない。


「……ちが……ちがう……」


 否定。


 だが、返ってくるものはない。


 ただ残るのは――


 裏切られた現実だけ。


「……なんで……」


 ぽつりと零れる。


「……なんで……」


 視界が滲む。


 息が苦しい。


 胸が、壊れそうだった。


 その姿を見て――


「もう。わかっただろう?キリナ、こいつは悪なんだよ。人の弱みにつけ込む悪魔なんだよ」


「…………………」


「さぁて茶番も終わりです。さっさとケリをつけてこの国を落とさねばなりませんね」


「させるとでも?」


「あなたは先程より強くなっているのは見て分かりますが、それでも私には届かない」


「どうかな!」


《アン・リーパ》


 3ヶ月に及ぶ、魔法練習の成果。ミナトは風魔法も習得していた


「ぬ!風魔法まで…」


 不意をつかれ体勢は崩したものの、ギリギリ躱す

さすがここまでただ隠れていただけではないようだ。実力もある


「それにしても先程からあなた…無詠唱魔法とは…色々な国を見て回り戦いも経験もしてますが…初めてみましたよ。世界は広いですね」


繰り広げられる攻防。最初は拮抗していた戦いも次第に優劣が付いてきた


「魔力が萎んで来ましたね。ここいらが限界でしょうか?」



 蘇生されてそろそろ5分が経つ…このままじゃほぼ無傷のフランが有利になり終わる。何とか打開したいが現状防御魔法でいなされているこの状態では時間を潰される一方だ。


「火力…実力不足……」


 ただ噛み締めるその現状。


「貴方はとても正義の味方でありたいようだ。そんな貴方へひとつ尋ねよう」


「?」


 フランは高出力の魔力を手に集め始める。


 丁度魔力の昂りも止んだし…今の…ボロボロの身体だは耐えられないほどの魔力…。あんなものを喰らえば――


「そこに意志喪失。戦意喪失したか弱く、可哀想な人がいる。その人が目の前で死にそうになった時貴方はどうする?」


 フランの集めた魔力の塊はミナトへではなく、絶望の末崩れ落ちたキリナへと不敵な笑みとともに向けられる


「キリナ!」


 土魔法………は、魔力の昂りなしの今間に合わない


 ――吹き荒れる自由の幻想よ 我が身に追い風を!


「ぐぁぁ!!」


「!!?」


「やはり貴方は面白い」


 土魔法の防御では間に合わないとふみ風魔法で高速移動何とか自身が盾となることでキリナへの被害は防いだ……が


「ですが、それではもう動けまい」


「クソッ」


「どう……して」


「言っただろ………俺はキリナを責めるつもりはないって……だってそうだろう…家族を奪われて…勝手に忌み嫌われて…それで…恨みが募らないはずがないだろう…」


「それでも……俺は君を止めたかったんだよ………せめてその恨みから復讐を生むんじゃなくて…今生きる獣人亜人、これから生まれる子供たちが…同じ目に合わないように……そう…手を差し伸べて言葉を交わせば分かるはずなんだよ…」


 ボロボロの手をキリナへと差し伸べる。信じろとは言わない。信じたものに裏切られたばかりの人にそれは良いものではない


「でも……私は……ッ」


「俺と一緒に…変えないか?獣人亜人たちのこれからの未来を……過去に引きずられない明るい道を」


「ッ……!」




――――裏切られた。裏切られた。裏切られた。

 それは正しく、鉄のように冷たい眼差しで


 ――――奪われた。奪われた。奪われた。

 それは正しく、人々を飲み込む荒波のように突然にそして甚大に


 ――――壊したい。壊したい。壊したい。

 それは正しく、心の奥底の例えようのない憎悪に苛まれているように


 道は血に染まり、過去は地獄に焼かれ、未来は暗黒へと誘われていると思っていた


 でも、あぁ…そうか思い出した


 (……お願い…キリナ…………無理なお願いなのは分かっているの…それでも…復讐なんかに囚われないで………幸せに…生きて)


 涙を流しそう語り絶命する母。


 (お前はまだ子供でこれから先も長い身だ。いいな。復讐は自分を壊すだけだ。たとへ人間が憎くともそれだけは考えるな。それといつか……俺たちのことを助けてくれる人間も現れる。だからそれだけは信じ続けろ)


 ――裏切られてなどいなかった

 今、目の前に助けようと必死に手を差し伸べてくれる人間がいる


 身体はボロボロで、自分よりも弱く、でも強く優しい人間が。


 道は分岐していた。暗闇と光明に。





「遺言は終わりましたか?それでは2人仲良く死になさいッ!」




 血に汚れた手は冷たく感じた。命のギリギリまで闘ったのが肌身に感じる。自分なんかのために。


 裏切られたが裏切られてはいなかった


 なら、まだ信じてもいいはずだ。差し伸べられたのならまだ取れる未来があるのなら取るべきだ


「ありがとう……ミナト……」


「キリ……ナ?」


 もう、過去とは決別しよう。だが、心には刻みつけよう。矛盾のようだがそれでいい。結局この世界は矛盾でできている。ならそれをも受け入れてくれるだろう。もう、下を向くのはやめよう。これからの先の未来を形作るための…真の意味での獣人亜人の名誉回復を目指すのだ



 ――お父さん、お母さん……ありがとう


「加速………グラム・セリヤ」


「!?」


「なぁっ!?」



 刹那であった。フランのトドメの一撃は当たることはなく。放とうとした右腕ごと胴体と離れ宙を舞い落ちる。


「………なぜっ!」


  フランの顔に、初めて明確な動揺が浮かぶ。


 キリナは静かに立っていた。


 先ほどまで膝をついていたはずの身体は、まるで別人のように軽い。


「……もう復讐などいい」


「なに……?」



 一歩踏み出す。


 地面が、踏み込みに耐えきれず砕ける。


「私は……もう迷わない」


 風が渦巻く。


 キリナの足元から、まるで意思を持つように。


「これからの獣人と亜人の幸せのために」


 獣化した手を構える


 その手の先には鋭く研ぎ澄まされた爪がただ真っ直ぐにフランへと向けられている


「――未来のために斬る」



「獣ごときが!人並みに未来を語るかっ!」


「遅いッ!」


 そこからはとても呆気なかった。腕を切り落とされ動揺はしたものの反撃しようと試みたフランのその首は一瞬にして落とされ。抵抗する間もなく戦いの終止符が打たれたであった。


「キリナ……お前は…」


「これまでの無礼……申し訳ございませんでした。この罪はしっかりと償い…貴方の言っていたようにこれからのために生きていこうと思います」


「あぁ、そうであると嬉しいよ」


 吹っ切れた様子で静かに微笑むキリナのその笑顔は初めて見たが、外から漏れて入る夕日と重なりとても美しく…脳裏に刻まれるものであった


 

 


 


 


 


 

 

 

 

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