第1章 #16 『憤慨起死回生』
「貴族共は皆捕らえろー!」
「俺たちの怒りを食らえ!」
ミナトが黒幕、フランと話していた時のこと。同時刻、中央地区では暴れる紅蓮教団によってアテナ騎士団は手を焼いていた
「くそ。なんで急にこんな暴れ始めたんだ!?」
「落ち着いて対処しろ!死者だけは出すなとクリス団長の命令だ!」
「相手は魔法やら投擲やら面倒なことばっかしてくるってのに加減しろってか!」
「せめて…副団長率いる遠征組が帰ってくれれば…」
アテナ騎士団の総人数は1万人。そのうちの約7割が遠征に出ていて不在のため今のように王国全域で暴徒が暴れられると手に負えない状態が生まれるのだ
「姉貴!」
「なんだ?今は呑気に話している暇は……」
「ついさっき、ミナトの兄貴からの信号が届いたんだけど…」
「何?なんてタイミングだ……」
もしや、ミナトの信号もこの騒動と関連しているのか?だとすれば…いや、キリナがいる。問題なかろうが…この胸騒ぎ。駆けつけるべきだと、そう思う自分がいる
現状、アテナ騎士団の指示、暴徒の制圧にまだ時間がかかる。ミナトの方へ駆けつけるのは難しい
そんな事を考えていると
ブォンッ
風の切る音がクリスの耳を刺激する
「…なんだっ!?」
風が過ぎた方へ剣を構える。尋常ではない風だ。敵襲か?そんな事を考えていたがそれは的外れに終わり、目の前に立つ男にクリスは目を丸くするのであった
「お前は……!?」
「用があって、立ち寄ったのだが……これは手伝った方がいいかな?」
風のように現れた男。相変わらずの爽やかイケメン。だが、立っているだけで素人でも分かる確かな重圧。
「『仁神』....!」
「龍の手も借りたいのだろう?僕が力を貸すよ。君は君のすべき事をしてくるといい。」
「突然現れたかと思えば、状況は分かっているのか?」
「紅蓮教団だろう?前々から危惧はしていたけれど、まさか想定より遥かに早い行動だね」
「あぁ、こちらとしても遠征組もいない中こう暴れられるとなかなかにこたえるものでな。」
「この暴徒は僕が止めておくよ」
「すまないが頼む。私はルイと向かわないといけない――」
「ミナトのところだろう?」
わかっているよ。と、それだけを残し背を向けその場を去る『仁神』
相変わらず、全て見透かしている
「ルイ!予想外の増援だ。私たちは二人でミナトの元へ行くぞ!」
「了解だぜ!姉貴!」
――――――――――――
「さぁ!キリナ!これから私たちの願いは成就するのですよ!喜ぶのです!」
「はい!これで私たちの家族も帰って来るのですよね!」
「ん?あぁ…そうですね」
なんとも歯切れの悪い返しだ
「フラン様?」
「いや、なんでもない。術式は発動しているし、あとは古代兵器を起動するだけ」
「私は何をすればよろしいでしょうか。そうだな、そこのアレシアと一緒に護衛でも……」
「!?」
何かが突然フランにめがけて飛んでくる
「フラン様ッ!」
右腕を獣化させ、咄嗟の出来事にも対応を見せ飛んできたものを弾くキリナ。
「よくやったキリナ。さぁて誰かな私にこのような……これは……制裁の剣!?」
「誰だっ!フラン様に楯突くのならば……」
戦闘態勢に入ったキリナ、後ろに下がりつつ剣を投げてきた主の方へ目を向けるフラン。2人は動揺していた
「お前……は!?」
「なぜお前が…!」
――いいかい?輪廻永劫は君にとってとてもいいモノだ。起死回生という言葉があるように蘇生後時間にしておおよそ5分。魔力と身体機能が上昇状態にある。
詳しくは――――まぁいいだろう。もし彼らと戦うならその1分でかたをつけること。いいね?
死んだのは一瞬のように感じた。でも、死んでから大分時間が経ったようにも感じた。蘇生されたばかりの身体は冷たく。まるで凍ったように硬く感じた。
死ぬ時感じた痛みは忘れられぬ程、痛く。辛く。苦しく。気持ちの悪いものだった。出来ればもうあれは味わいたくない。
だが、今はそんな事よりも、あの死の間際、一瞬だけ…一瞬だけ悲痛な面をしてこちらに手を伸ばそうとしたキリナ…俺はきっと彼女の手を必ず取るべきなのだとそう勝手に確定付けることにした
「さっきぶりですね……フランさん。そして……キリナ」
「なぜ生きている?命は尽きていたはず!」
「さぁて…なんででしょうね。僕はどうやら中途半端なバグらしいですから…それが原因では?」
「訳の分からんことを………だがいい。こうなれば私自ら相手しよう」
「アン・フレイヤ」
「!?」
魔力の昂りを感じる。身体が軽い。なんでもできるそうとさえ思う。
――聖痕に準じ 我が身を 護る盾となれ
《ゲートオブリング》
フランの目の前に光の輪が展開されると、火の玉はそれに吸収され消失した
「キリナ…どうやら外が騒がしくなりそうです。そちらに向かいなさい。そこのアレシアも行きなさい」
「御意に」
「1人でいいのか」
「えぇ。全く…予定が狂わされて苛立ちが収まりませんよ。これではナハトさんに面目がたたないというものですよ」
「ナハト……?あの憤怒の」
「えぇ、あの方は私の取引相手でしてね。今回も国が買えるほどの大金と引替えにこの国に封じられてる古代霊機を手に入れて欲しいと依頼されてここに来ていたのですよ」
「取引で…?お前の目的は東地区の民の差別撤廃と貴族没落じゃないのか?」
「ははははは!」
「?」
何がおかしいのか脇腹を抑え笑うフラン。
「あんなもの、目的達成のために利用した嘘に決まっているじゃないですか。考えてみてもくださいよ。貴族の没落自体は簡単に起こせるでしょうけど、こんなくだらない教団など建てたところで亜人、獣人の差別が無くなるわけないでしょう?」
「嘘…教団の信者の人達を騙した…じゃ…キリナも…」
「あぁ、あの獣人もいい駒でしたよ。たまたま死にそうにしてるところに出くわしましてね。助けたらいいように懐いてくれた。」
「お前は……」
怒りが込み上げる。これまで迫害を受けてきた獣人に偽の笑顔で手を差し伸べ利用する。これが人のすることか。
「あの獣人亜人ときたら頭がホント悪いですよね。争いは憎しみしか生まないというのに、自分らの怒りを力…争いでしかぶつけられない。その醜い力の現れが人間に煙たがられ恐れられ迫害される理由のひとつということに気づきもしない。馬鹿で愚かだ」
「……それ以上、キリナを侮辱するな」
低い。底に沈んだような声。
空気が、変わる。
ピシ……と、地面に微細な亀裂が走る。
「ほう……?怒っているのですか?」
「当たり前だろ」
ミナトは顔を上げる。
その目には、明確な“殺意”が宿っていた。
「お前はキリナの全部を踏み躙った」
「信じたことも」
信じていたものが崩れた時、どんな感情になるだろうか
「縋ったことも」
奪われたものを取り戻すためにどれだけ抱えてきたか
「生きようとしたことも」
一歩、踏み出す。
――ドンッ
踏み込みだけで床が砕ける。
「全部だ」
「はは……それがどうしたというのです?あの獣は――」
「黙れ」
瞬間。
ミナトの姿が消える。
「――ッ!?」
次の瞬間、フランの視界が大きく揺れた。
頬に走る衝撃。
身体が横へ吹き飛ぶ。
――バゴォォォン!!
壁に叩きつけられ、瓦礫が崩れ落ちる。
「……ぐっ……!?馬鹿な……今の速度……」
瓦礫の向こうから、ゆっくりと現れるミナト。
その身体からは、淡く揺らめく魔力が溢れている。
「俺…お前を…お前だけは絶対に許さないッ!」
その言葉と同時に、空気が震える。
蘇生直後の強化状態――限界時間付きの暴力的な力。
「これは“俺の時間”だ」
足元が弾ける。
再び、姿が掻き消える。
フランは咄嗟に魔法陣を展開する。
「――《ゲートオブリング》!」
だが――
ガキィィィン!!
防御を、正面から叩き割る。
「なっ……!?」
「お前をぶっ倒してッ!俺がキリナの心を救う」




