第一章 #15 『創造神』
「創造………神?」
創造神。神話や宗教において、宇宙、世界、そして人間を含むあらゆる生命を、自身の意志や力で「無」から創り出したとされる根本的な神のことである。
目の前にいるこの、男か女かも分からない人がその創造神なのか?
「うん。混乱するよね。でもホントなんだ。証拠を見せるていうのが手っ取り早いと思うけど……」
そうだ!と思いついたようにこちらに向け手をかざす『創造神』
その手のひらを見ていると驚くべきことが起こった。
「………ラーメン!?」
なんと、手のひらからラーメンが出現したではありませんか。
「君が1番好きな食べ物だろう?」
「なんで、俺の好きなものを…」
「僕は創造神だ。この世、万物のことは全て知ってるし、もちろん人間のことも全て把握している」
とりあえずは創造神ということにしておこう。そもそもここがなんなのかすら分からない今、ただ死んだ後の変な妄想の可能性だってある
「うん。今はそれでいいよ。実際のところ創造神という立場は他の生命物達には理解し難いものだからね。それに、今は僕が誰かなんてのは重要じゃぁない」
重要という単語を聞き我に返る
そうだ。大事なのはそこではないだろう!
「そ、そうだ。エレモア王国は!ルイやクリスさんたちは!」
自分が死んだ後のことは知りえないことだ。故に心配でならない。計画は実行されてしまったのか。実行されたならエレモア王国やクリスさん達はもう…
「自分のことより他人のことかい?自身を卑下してた割に余裕があるようだね」
からかうようにそう告げる神にぶっきらぼうに答える
「俺は……結局また中途半端に終わって…今回は死んでしまいましたから」
「喪失か……まぁ人として当たり前の感性だ。そういう考えも悪くないだろう」
「ははは。神様って聞いたから説教でもされるかと思いましたよ」
説教?とキョトンとした顔をする創造神の表情はほんとに豊かだと思わされるところがある
「まぁまぁ、もちろん君の守りたいものの話も大切だけどね。ほら、僕が最初に言った言葉思い出して」
「最初に言った言葉……」
最初に言った言葉、それを多少冷静を取り戻した頭で掘り返す
――君はまだ助かるよ
「俺は…まだ助かる?」
「そう!君はまだ助かるのだ!まさに奇跡!いいね!人間は奇跡とか、運命とか!そういうのが好きなんだろう?」
キョトン顔の次はドヤ顔……つくづく表情に困らない神だな。この神は…
それはそうと
「俺が助かるというのはどういうことですか?」
「こほんっ!うん!では説明を始めよう!」
「ゴクリ…」
「前提として、世界は世界事にルールが異なる」
「と言いますと?」
「君の元いた世界と転移した先の世界で例えよう。まず1番の違いで君が気付いたことはなんだい?」
元の世界と転移先のこの異世界の違い。それはやはり
「魔法の有無ですか?」
魔法。元いた世界ではあくまで創作の範囲でしかない存在。だがこの世界にはそれがある。
「君の元いた世界には魔法がない。だがこの世界にはある。つまり世界には、それぞれ別々の法則があるということだよ」
難しい話になってきた……
「難しいかい?ふむ。もう少し噛み砕くのなら……うーん。」
神様が熟考している。おそらくIQが違いすぎると話が噛み合わないと言うやつだろう。俺に合わせようと頑張っているようだ。創造神といえど難しいこともあるのか
「パンを焼く機械で米は炊けないだろう?」
「それは……そうですね?」
さすが神様。滅多にない例えだ
「君の元いた世界とこの転移先の世界とでは"死"のルール、命の循環が違うという話なんだよ」
「死の……ルール」
「君の元いた世界には、色んな考え方があるようで、それに基づいたルールがあるんだけど…君のいた日本では死後は輪廻転生というものがあるそうだね。」
「確か…仏教の考え方ですね..」
あれ?ヒンドゥー教もだっけ?忘れちゃたな
「そう。君の世界では死のルールの基盤は輪廻転生という考え方に縛られていて人が死んだらそのルールに沿って転生をすることになる」
「なるほど」
「そして、転移先の世界での死のルールは。"永劫循環"」
「永劫…循環?」
初めて聞く四字熟語だ。この世界ならではの単語だろう
「永劫循環とは、人間や魔物、あらゆる生命は死後、同じ人生をゼロからまたやり直すことになるというものだ。それを死ぬ度繰り返し…終わることはない」
「同じ人生を繰り返すということですか?」
「そうだけどそうじゃないね。ifルート。君でも知ってる単語を分かりやすく斡旋してみた。死んだ後同じ道を歩くかもしれないし、違う考え方に至り、歩む道を変えるかもしれない。そもそも人間の選択は無限にあるからね。ひとつの道だけをずっと歩む事なんて無理だ」
「なるほど…なんとなくは分かりましたが、それが、俺の助かる理由になるんですか?」
「元いた世界のルールに縛られている君が違う世界にきて、違う世界のルールに無理やり組み込まれたとしたら?」
「ふたつの死のルールがぶつかる…でも、異世界に来た時点で元の世界のルールは無くなるのでは?」
「なくなるわけないでしょう?君が生まれた世界は元の世界A。Aの世界には世界樹。名前くらいは聞いたことがあるだろう?それがありそこに君の全ての記憶が詰まっているんだ。そこから抜け出すことなんてできやしない。転移した先のB世界にも世界樹はあるが君が記録されるのは転移後の人生だ。」
「じゃ、やっぱり2つのルールがぶつかってる…そうなるとどうなるんですか?」
「普通なら、相互相殺して君は存在が無くなる!他のものに転生もできないし、同じ人生も歩めない!無!」
すっごいニコニコしてやがる……怖いことをすっごいニコニコとこの神、少しサイコなのか?
「てか!そしたら俺助からないじゃん!」
「そこなんだよ!問題は!」
眉間に皺を寄せ、額に指を当てこちらを見る
「君はとても特異な存在だ。異端とも言える。人間という概念として中途半端な存在。」
「中途半端……」
「あぁ、ごめんごめん。悪い意味では無いんだ。そんな異端な君の中で死というルールと溶け合い混ざり合い新たなルールを、君だけのルールを確立させた!」
ゴクリ吐息を飲む。一体俺はどうなってしまったのか
「輪廻永劫」
「輪廻……永劫……」
「君は死ぬとね、現時点での死んだ場所に回帰する。未来永劫ね。輪廻は循環。永劫は無限。無限なる命の循環を君は強いられることになる」
「つまりゲームのリスポーンみたいな感じになると……」
「その認識で構わない。」
「でも、なんで俺はそんなことになっているんですか?」
「その話はいずれ君自身が自分の足で、目で、耳で、人生を歩むうちにわかるさ。全てを今知る必要はないし、今知るべきことじゃない」
「そっか…そうですね。いずれ知れるならいいです。」
「聞き分けが良くてよろしい。まぁとにかく君は僕との会話の後、死んだ場所で蘇りまたスタートすることになる。ただ、向こうの時間も進んでいるし、時差は生まれるからそこだけは注意。」
「分かりました。」
「そして、君が心配していることの答え合わせだ。君の心配している人、国はまだ大丈夫だよ。」
まだ大丈夫。その単語を聞けただけでどれだけ安堵できることか
「良かった…まだ助かるってことですね」
「そうだよ。だから早く行くといい。君との会話は一旦終わりだ。これから先、君の旅路で手にしたモノが君にとって"未来永劫"忘れられぬ物となり、かけがえのないものになる事を願うよ」
そう言い終えると、創造神の姿は音もなく消えた。
気になることは山ほどある。聞きたいことだって、まだ尽きない。
だが、今はそんなことをしている場合じゃない。
「行かなきゃ……」
エレモア王国を。
クリスさんたちを。
今度こそ守らなければならない。
一度味わった死は、確かに恐ろしい。
それでも、その死が俺に教えた。
――後悔は、もう二度と…したくない




