29.アムスベルク家の日常
本日更新二話目です。
なぜかクリフがデレた件について
あの怒涛のクリフ捕縛騒動の後、ルドルフが静かに手配していたアムスベルク家の使用人が、中央広場すべての屋台に支払いをしてくれたこととか。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた騎士団の副団長さん(イケメン)から、事情聴取という名のお小言をもらい、密かにドキドキしたこととか。
冒険者サニーさんが、実は、騎士団が出動しないような街のいざこざに駆けつける地域の顔役で、私たち姉弟の追いかけっこの話を知った彼は、本当は無報酬でも助けてくれるつもりだったこととか。
本当にドタバタと色んなことが降りかかって目を回した日々がなんとか落ち着き、ふと気付いたら。
クリフが、私に、デレていた。
なにを言っているか分からない? いや、私もなにを言っているか分からないんだけど、なんでか、そんな感じなのだ。
あの日、確かに私は、クリフを追いかけ回したあげく、酷い目に合わせてしまったはずなんだけど……
気付いたときには、なぜかクリフが、フィー姉さん、フィー姉さんと、後ろからついて回るようになってしまった。
これは、あれか。あざと可愛い振りして、あの日の報復を考えてる的なやつか。
怯えながら、夜、髪色を変えに部屋に来てくれたルドルフに相談すると、髪を静かに撫でつけながら、冷たーい声で返事が返ってきた。
「フィーお嬢さまは、相変わらず残念ですね……どうして、そう思われたのですか?」
「え? だ、だって、クリフを捕まえた日って、ルドルフが提案した誘拐案より、よっぽど酷い大捕物になっちゃったじゃない」
「左様ですね」
「クリフも怖かっただろうし。だから、多少の報復は覚悟してるの……」
しょんぼりとそう答えると、ルドルフはため息を吐いた。
「……フィーお嬢さまは、もう、そのまま残念な感じで良い気がしてきました。ちなみに、覚悟している報復とは、どういう感じのものですか?」
「そうね……例えば、ベランダから水をかけられるとか? 料理人と結託して、チキンライスの具を、嫌いなグリンピースだけにされるとか?」
「……」
え、なんで無言?
「え、なんで無言なの?」
そりゃあ、ちょっと、いまいちな報復かもしれないけど、人間そんな急に話題を振られても、キレのある報復案とか、思いつかないよ。
それに、チキンライスなのに、チキンが無くてグリンピースだけとか、結構ダメージ大きいと思うんだけど。
「……分かりました。クリフ様に、お伝えしておきますね」
「え? ちょっと、待って。え、なにを伝えるのよ?」
「フィーお嬢さまが、罪悪感をお持ちのようなので、なにか適当な意地悪をしてあげてください。そう、お伝えします」
いやいや、ちょっと待って。それ、なんかニュアンスが可笑しいから。
「ええ? いやいや、可笑しいよね。私のために意地悪してあげてとか」
「でも、そうしてもらったほうが、気が楽になるのでしょう?」
う……そう言われると、確かにそうなんだけれども。
でも、どの世の中に、加害者側の罪悪感を減らすために、意地悪してくれとお願いするお嬢さまがいるのだ。まあ、ここにいるけれども。
「いや、……ルドルフが言うと、なんだか魅力的な提案に聞こえてくるんだけど。……でも、ホントやめといて。やっぱり、今度、もうちょっときちんと謝るから」
「あの日もしっかりと謝っていたように見受けられましたが」
「そうだけど、クリフの心の傷はきっと、あんな簡単な謝罪じゃ、癒せないと思うの」
そうだ。謝り方にもっと誠意が必要だったのだ。
土下座して、なんでもするから許してくれと縋ったりするべきなのかも。なのかも?
「フィーお嬢さま。……今、考えていることだけは、絶対に、やらないでくださいね」
「え。でも、こうなったら、やりすぎるくらいのほうが、お互いすっきりするかなって」
「お願いだから、やめてください。もし、万が一、なんでもするなどとクリフ様に言ったら、後悔するのはフィーお嬢さまですよ?」
心の中を読みすぎるルドルフが怖すぎる。というか、後悔ってなんだ、なんなんだ。
「……やろうとなさってましたね?」
「い、いや。そんなこと、考えたこともなかったよー」
ルドルフに棒読みすぎる返事をしていると、部屋のドアが遠慮がちに叩かれた。
「あの、……クリフです。フィー姉さん、入っていい?」
「クリフ? ど、どうしたの」
ちょうど話題にしていたのでドキッとし、思わず、どもってしまった。
部屋に入ってきたクリフは、これからの成長を期待した大きめのパジャマに、なぜか枕を抱えていた。
「あの、……一人で寝るの寂しくて。フィー姉さんと寝てもいい?」
「ぐふっ」
やばい、クリフが可愛すぎてやばい。首を傾げて、おねだりするクリフとか、この可愛さを世の中に、どう伝えればいいのか。
語彙力が崩壊した私には、荷が重すぎるが、ただ、こう言おう。可愛いは正義だ、と。
「クリフ様。幼いとはいえ男性を、お嬢さまのベッドに上げる訳には参りません。お寂しいのでしたら、私が寝るまで、おそばにいて差し上げましょう」
ダメージを受けてうずくまる私を無視して、ルドルフがバッサリと断る。
「はあ? なんでルドルフが断るんだよ。お前こそ、姉さんのベッドから降りろよ」
「私は、フィーお嬢さまに、特別に許可をいただいておりますので。そうですよね、フィーお嬢さま?」
にっこり笑うルドルフが怖い。なんだか分からないが、男性同士の意地の張り合いは、私のベッド以外でやってくれないだろうか。
「姉さんの許可があれば、いいんだろう? ね、姉さん。僕と寝てくれますよね?」
「ぐふっ」
あ、もうダメだ。経験値の低い私では、この二人には勝てる気がしない。とにかく、この場を凌がなければ。そんな気持ちから、口を押さえながら、無言で、二人をぐいぐいと押す。
とにかく、ぐいぐいと押して、なんとか廊下に押し出した私は、扉越しに、廊下にいるはずの二人に叫んだ。
「とにかく、……とにかく、今日は! 心臓が持たないので、もう一人にしてー!」
「……」
「……」
なんとか言い切ると、扉にもたれかかり、ずるずると崩れ落ちた。無言で対抗しているだろう二人のことは考えない。
とりあえず、もそもそとベッドによじ登り、布団を頭まで被って、目を瞑る。明日のことは、明日考えよう。
アムスベルク家は、今日も平和だ。……たぶん。……きっと。
本日で、いったん、身代わり令嬢編、完結となります。
最初は戸惑いしかなかった主人公が、だんだんと周囲を巻き込むお騒がせっぷりを発揮し、血の繋がらないクリフと家族になる。
ラブコメを目指すといいつつ、ラブまで至らず、すみません。
この先、義弟クリフの心境の変化や、主人公との出会い、ちょこっとだけ登場していた第二王子や、本物のお嬢様のその後など、考えると楽しくはあるので、需要があれば、少しストックを増やしてから、再開するかもしれません。
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基本は通勤中のスマホ執筆のため、なかなかストックを増やせず、毎日更新は綱渡りでしたが、毎日読みに来てくださる皆さんを励みに、なんとかここまで来ることができました。拙い文章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
皆さんと再開出来ることを願って
2020年9月22日
紀乃 結也子




