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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第七章 2回戦 ~vs河咲女子高~
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97/150

96話 反応速度

「……さて、ここで一番嫌なバッターに打席が回ってきたわね」

「3番の空木って人、詩織先輩にプレースタイル似てるっスよね」

「そうかー? だいぶ違うと思うけどなー」


 後輩である柴谷の唐突な指摘に、霊山は首を左右に傾げる。


「ま、長打率が高いってところだけっスけどね。あとは打順と、走力っスかね」

「確かに空木と私は3番で、足は平均くらいだけどなー。だけど、打ち方は全く違うぞー。空木は天才だしなー」

「どんなところがっスか?」


 柴谷の質問に、霊山は照れ臭いのか『うーん……』とうなるだけで返事をしようとしない。

 代わりに返答したのは高峰だった。


「パワーがあるのは2人とも同じだけれど、詩織には空木さんにはない技術があるわ。そして空木さんには、詩織にはない反応速度があるのよ」

「……反応速度、っスか? そんなに差が出るものなんスか?」

「あら、恵美は見ていて気付かなかったのね。あたくしもそこまで詳しくはないから絶対とは言い切れないけれど、反応速度には埋められない個人差があるのよ。人間が光や音の情報を入手して、実際に体が動き出すまでの時間。手術でもすれば変わってくるのかもしれないけれど普通では絶対に埋まらない差。コンマ1秒に満たないけれど、それがどれだけ大事な時間か、恵美にも分かるわよね?」


 練習を積んだところで、それは鍛えられるものではない。

 だからこそ、霊山は空木のことを天才と呼んだ。


「先輩方がそんな言うってことは、将来もっと化ける可能性があるってことっスかね」


 それを聞いて、霊山は押し黙った。

 バックスクリーンに映し出されるカウントを見つめた後、ようやく口を開く。


「『天才かもしれない。天才じゃないかもしれない。でも、どちらかなんて、結果の前では何の違いもない』」


 霊山は普段とは全く違う声色と言葉違いで呟いた。

 柴谷や高峰だけでなく、監督でさえも視線が霊山の方に向く。


「ちなみに、今のは私の言葉じゃないぞー。似たような言葉を誰かさんがも言ってたような気もするけどなー」 


 霊山は少し口角を上げながら隣に座っている高峰の方を見る。


「……あら、あたくしそのようなことを言ったことがありまして? 過去は振り返らない主義だからあまり覚えてなくてよ」


 高峰はあくまで優雅に受け答えをする。

 そんな姿を見て、霊山は意味深な表情を浮かべながら更に続けた。


「今の言葉はなー、今打席に立ってる、空木が言ってたやつだぞー」

「詩織先輩、本人がいないところでさらっと言うんスね。っていうか、なんでそんなことまで知ってるんスか?」

「私はなー、高峰と違って色々と交友関係があるんだぞー」

「あら? どうしてあたくしを引き合いに出すのかしら。嫉妬をしなくてもよろしくてよ?」


 今度は少し動じてるな、と感じ取って柴谷は苦笑いを浮かべた。 



 グラウンドでは、状況が進行しカウントは2—2。

 平行カウントではあるが、どちらかと言えばマウンド上の投山が有利。


「空木も配球を読むとか、いろいろ試してるみたいだけどなー。結局悩みは、私には解決できなかったなー」


 空木は霊山が持っていない才能を持っている。

 だが同時に、空木は霊山の持っていない技術を持っていない。


 技術と言えば努力で身に付けられそうな意味合いを含んでいそうだが、実際にはそうではなかった。

 どんなに会心の当たりでも、野手の正面に飛んでいく。

 守備位置というのは考えられて決められているという話もあるが、まさに空木はそれに嵌っていた。加えて弾道も低いため、ホームランも全くでない。


 柴谷も霊山も、高峰さえも。空木の悩みを解決する力は持っていない。

 そして監督も、絶対に解決出来るかと聞かれれば、首を縦に振ることはできない。


「天賦の才能を有していても、それをそっくりそのまま試合で活用できるとは限らない。常人でも他人の技術をそのまま流用できるわけではないし、天才なら猶更だ。試行錯誤の積み重ねで解決の糸口を模索するしかない。ただ……」


 監督は一息間をあけてから、昔を懐かしむように呟いた。


「実践では開き直るしかない。むしろそれが、解決の糸口にもなる」




(カウントは2—2。これまでの打席内容を鑑みりゃあ、反応速度が尋常ではないことは分かっとる。じゃが、球に当てられるだけにボール球へ手を出してるのも事実。そうなりゃあ、シンカーしかない)


「……タイム」


 熊捕がサインを出したのと同時に、バッターボックスの空木は審判にタイムを要請した。

 スパイクの土を落としながら、ぽきぽきと首を鳴らす。


(……駄目だな。いろいろ考えているが、ドツボに嵌ってる気がしやがる。後続には悪いが、四球を狙うような場面じゃあない。たとえ次がボール球でも、確実に仕留める)


 息を整えて再び打席に入る空木に、熊捕も何か違いを感じ取った。


(普通のストライクからぎりぎりボール球になるシンカーを要求しとったが止めじゃ。ストライクゾーンぎりぎりから、確実にボールゾーンへ落としてこい)


 この時の熊捕の読みはある意味正しかった。

 だが空木の反応速度は、熊捕の想定を上回っていた。


 投山が投じたシンカーは、熊捕の要求通りの高さで落ち始める。

 止める気が更々ない空木のスイングを見て、熊捕は打ち取ったと確信した。

 ……ボールが、空木の差し出したバットの芯に当たるまでは。


「セカンド!」


 打球方向を熊捕は叫んだが、打球は無情にも、セカンドの右上を超えていった。


 センター前ヒットで1死一・二塁。

 野球経験者の3人を除いてそう思っていたが、友希・小鳥遊・真中は直感した。


 これは右中間を抜ける―――と。


 丁度セカンドとセンターの間で着地したボールは、まるでイレギュラーしたかのように大きくライト方向へ跳ねていく。


「―――あのシンカーを無理に打ちに行けば、スライス回転もかかるわね」


 そのスライス回転を予め計算に入れていた真中だが、それでも何とかフェンス間際で押さえるのが精一杯だった。

 セカンドの二宮に返球し、二宮が受けて振り返った時にはすでに、空木は二塁に到達し、一塁ランナーもホームへ生還していた。


 歓声が沸き上がる河咲女子のベンチの中で、華園は静かに帽子を脱ぐ。

 それが見えたのか、はたまた見えはしなかったのか、空木は拳を耳の横まで掲げた。


 そして対照的に、相模南の守備陣はみんな唇を噛み締めていた。

 その中で、友希は投山の様子を窺う。


 落胆している、わけじゃない。

 ただ、どこか前の回の華園の様子に似ていた。


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