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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第七章 2回戦 ~vs河咲女子高~
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96/150

95話 孤高のエース

 華園は今まで、チームの中心として皆に慕われる雰囲気だった。

 チームのエースとして闘志を前面に出すことはあっても、冷徹なものではなかった。


 だが、点を取られたことに加え、友希の持つアビリティが華園を別の人間へ、いや、昔の華園へと戻らせた。


 その姿はまるで、人間の皮を被った、感情のないロボットのようなものだ。


 友希への初球は110km/h後半のストレート。


(雰囲気は変わったけど、球質は変わってない……)


 友希が気付いたのだから、バッテリーを組んでいる胡蝶もその異変には当然気が付いた。


 だが、胡蝶でさえ見たことがなかった。

 感情が消え失せかけている華園の姿を。

 初対面から数か月は野球であまり絡まなかったために、誰も、知らなかった。


(甘えては。いけない。マウンドの上では。戻らないと。あの頃の。自分に)


 華園の頭でフラッシュバックが起こる。

 あの中学の時の、怪我をした試合。


 華園の瞳から、完全に感情の光が消えた。

 その目を見たことがあるのは、今ネクストバッターズサークルに座っている真中だけ。


「野球マシーン、か……」


 華園がセットアップから足を上げる。

 足の遅い一ノ瀬がランナーとは言え、非常にゆったりとしたフォーム。

 今日、初めて見せた投球モーションだが……。


「スライダー? いや、まさか……」


 投げるわけがない。


 その球が原因で怪我をして、1年ものブランクを経験したはずの華園が。

 そもそもサインは胡蝶が出したのだ。

 サイン違いで、あのスライダーを捕れるわけがない。


 ……だが。

 打ちごろだと思った友希の手前で、それは直角に曲がった。


 事実を言えば、直角のはずがない。

 だがライズボールやジャイロボールと同様に、打者にそう感じ取らせるほどの鋭い変化をもって、友希のバットの先端に直撃した。


「痛っ!」


 電流が走ったかのように友希の体に痺れが伝わる。

 一瞬の硬直の後、友希は打球を目で追った。


 ……ファーストゴロ、併殺打コース。

 そこから先は、まるで流れるようなプレーだった。


「……3‐6‐1、か。流石だな、河咲女子の安定した野手陣も、精密無比なピッチャーのエースカバーも」


 友希の母親は複雑な表情で今のプレーを眺めていた。

 ゲッツーでチェンジとして、攻撃に移る河咲女子のベンチにしても、妙な雰囲気が流れていた。

 俯き右肘を押さえながら歩いて戻ってくる華園に、声をかけられない。


 恋女房であるキャッチャーの胡蝶も、悲しげな表情を浮かべて防具を外している。

 そんな折、空木がセンターから小走りで近づいてくる。


 直後。

 バチン、と乾いた音が響いた。




「ごめんなさい、せっかく優美先輩が出塁したのに、ゲッツーになっちゃって……」

「仕方ありませんわ。スライダーを投げるなど誰も想像しませんもの」

「すぐ走っとけば……」


 ため息をつきながらベンチを出る友希と、一ノ瀬が先ほどの攻撃を振り返る。


「後悔ばかりしてはいけませんわ」


 一ノ瀬は優しく友希の肩に手をかけようとしたが、それよりも先に他の手が友希の背中を強く叩いた。


「どんまぁい、優美だってあの打球なら、最初から全力疾走でも余裕でアウトだろうしさぁ」


 二宮のその言葉を聞いて、今まで柔和だった一ノ瀬のこめかみに青筋が浮かぶ。

 と同時に、一ノ瀬の拳が二宮の腹を抉る。

 ぼごっ、という何とも痛々しい音とともに、二宮は呻き声をあげた。


「け、怪我人に何てことするのさぁ……」

「あら、お腹は怪我していないのですから、いいではありませんこと?」


 結構本気でいったな、とみていた友希は作り笑顔を浮かべる。


「隠していたとは思いませんが、あのスライダーは厄介ですわね」


 一ノ瀬につられて、友希と二宮も河咲女子のベンチに視線を向ける。

 その瞬間だった、空木が華園の頬を思い切り引っ叩いたのは。




「お前、胡蝶のサインを無視しただろ」

「……センターから。よく、分かったね」

「もう一発殴られたいのか?」

「……ごめん。でも。あの打者は。……スライダーじゃないと抑えられないと思って」

「だったら! サインの確認だけでもすりゃあ良いだろうが! 試合はてめえ一人でやってるんじゃねえんだぞ」



 6回の裏、投山は先頭の1番打者を内野ゴロに打ち取る。


「……次の回もそんな顔してやがったら、外野から殴りに行くからな」


 そう言い残し、3番の空木はヘルメットを被り打席に入る準備を始める。


 1死ランナー無し、投山が投じた3球目のストレート。

 決して悪いコースではなかったが、打者が上手くすくい上げ外野の前にポトリと落ちた。


 皆で立ち上がって盛り上がる河咲女子のベンチの中で、バッテリーの華園と胡蝶だけが腰かけていた。


「……ごめん、ね。蘭ちゃん」

「うん」


 華園は下から覗き込むように胡蝶の顔を見る。

 だが胡蝶は、試合の状況を凝視しながら言葉を続ける。


「投げられたのがスライダーだって分かった時、凄い悲しかった。サインを無視されたのがじゃないよ。百合ちゃんが怪我したら嫌だよ……」

「……私は。怖かった。あの打者に、打たれる気しか、しなかった。周りが、何も見えなくなってた」

「大丈夫だよ。百合ちゃんは一人じゃないよ、きっとすみれちゃんが打ってくれるから」


 1死一塁。

 バッターボックスには、河咲女子の中でも随一の打撃力を誇る空木が入る。


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