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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第六章 1回戦! ~vs斡木クラブ~
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76/150

75話 奇跡を願って

 1点ビハインドで9回の裏。

 打順は9番の左門から。


 左門が打席に入ると、体験したことのない違和感が体中を包んだ。


 9回というのはそういうものなのだ。

 泣いても笑っても、この回で試合が終わる。


 初球。

 インコースのストレート。

 ズドン! という重い音が後ろのキャッチャーミットから耳に届く。


「速い……」


 左門は投手が変わってから初めての打席だから、そう感じるのは至って普通のことだ。

 だが、体中を包む違和感が左門の脳内に告げる。


 9回の独特な雰囲気が、速いと錯覚させるのだと。


「友希ちゃんの逆境に弱いっていうことは、こういうことやったんやね……」


 友希ほど顕著に現わられるわけではない。

 だがこの雰囲気は、左門にとっても苦手なものだった。

 原因は友希と同じではない。


 結局、左門の元々の性格なのだ。

 野球部に誘われて最初に断った理由。


『足を引っ張るのが怖いから』


 その考えが頭をよぎると、左門の足が少し震える。


 2球目、カーブが来る。


 追い込まれる前に―――。

 そう意識していた左門は、珍しくボール球に手を出した。


「あっ……!」


 打つ直前で、ミスをしたと感じた。

 それでも、バットは止まってくれない。


 平凡なサードゴロ。


 どうか落球してくれと願う。

 どうか悪送球してくれと願う。


 しかし、そんな奇跡は起こらなかった。

 一塁を駆け抜けるまで、どうしてあんな球に手を出してしまったんだろうと自分を悔いる。


「あ、アツコまだ1アウトネ」

「……うん。せや、けど」


 今にも泣きだしそうな顔をしていた左門に、一塁コーチャーの右京が声をかけた。


 だが、まだ1アウト、ではない。

 もう1アウト、だ。


 さらに言えば、もう2アウトのようなものだ。

 続く1番の小鳥遊が倒れれば、残るは2番の二宮だけ。

 走るどころか歩くことさえままならない二宮に2アウトランナー無しで回れば、試合は終わったも同然だ。


 当然、そのことは1番の小鳥遊も理解はしている。

 自分が出塁しなければ、全てが終わりになることを。


「みずき、頼んだよ!」


 友希の声に、小鳥遊は振り向かない。

 ただ自信をもってバッターボックスに入るだけだ。


(自分が出れば2アウト2塁で優美さんに回る。そうなれば1ヒットで同点、そして友希ちゃんや雨音ちゃんに打順が回れば逆転サヨナラも夢じゃない)


 ……それは、カウント1‐1からの3球目だった。

 低めのストレートを、真芯で捉えた。


 ……はずだった。


 柴谷の速球の、回転数がわずかに小鳥遊の予想を上回っていた。


 バットはボールの下を叩く。

 もし小鳥遊がホームラン打者であれば、申し分のないポイントだ。

 角度は完璧にホームランのそれだった。


 だが、虚しくも。

 センターのグラブに収まった。


「みずき……」


 ベンチに帰った後も、小鳥遊はヘルメットをかぶったまま誰とも目線を合わせずにうなだれた。

 そんな小鳥遊を尻目に、二宮はびっこを引きながらバッターボックスへ向かう。


「ニノさん、その足じゃ無茶なのだ!」

「ニノさん……!」


 友希や投山の声に、二宮は少しだけ歩む速度を下げる。

 監督は、止めなければと思いつつも声が出なかった。

 止めるべきか背中を押すべきか、どちらが正しいのかわからない。


 そんな中だった。

 ネクストバッターサークルで既に準備をしていた一ノ瀬が立ち上がったのは。


「どうしましたの、ニノ。同情でも引く気ですか?」

「……。はは、優美は相変わらず、手厳しいねぇ」

「でしたら、どうしてそんな死んだ目をしていますの?」

「……」


 後ろ姿しか見えていない一ノ瀬に、二宮の目がどうなっているかは映っていない。

 それでも、分かる。

 長い間連れ添ってきたからこそ、分かるものがある。


 だから、二宮も何も返すことはなかった。


「わたくしが知っているニノは、こんなところで諦める女ではありませんわ。わたくしはこの状況でも、チームの勝利を信じていますもの。任せましたわよ、ニノ」


 こんな言葉は、滅多に聞けるものじゃないけれど。

 一ノ瀬の口調は、いつもと何ら変わりないものだった。


 絶体絶命のピンチに諦めるわけでも、怖がるわけでも、焦るわけでもない。


 ただいつも通り。

 子供のころ、今日遊ぶよね、と一言伝えれば公園で必ず会えた時のように。


 後ろへ繋ぐことが、そんな日常と同じかのように当然だと。

 『信じる』と言うのは、そういうことなんだと思う。

 震える声で、絞り出すように出すものじゃない。

 変わることのないものだからこそ、信頼と呼べるのだと。


「……優美がそう言うなら、そうなんだろうねぇ。そりゃ、こんなところで諦めるくらいなら、最初から野球部なんて作らない、って話だよねぇ」


 足の痛みは変わらない。

 痛みの信号こそ変わらないけれど、それを受け取る脳の方が変わった気がした。


 なんだか少し、楽になった気がする。

 バッターボックスに向かう足取りは速度を上げ、地面を凝視していた顔が、平行になった。


 9回裏2アウト。

 試合はまだ、終わっていない。


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