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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第六章 1回戦! ~vs斡木クラブ~
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77/150

76話 野球の華

 二宮は左足を引きずりながらも、精悍な顔持ちで打席に入った。


 だが、怪我は精神力だけでどうにかなるような状態ではない。

 元々長打が打てないうえに、怪我をしている今では外野の間を抜くことさえ不可能だ。

 かと言って、普通の単打の当たりであれば、レフト前だろうが一塁でアウトになる。


 コンコン、とホームベースの5角を叩く。


「ふぅー」


 深呼吸をして、バットを構える。


 四球しかない。

 ただでさえコントロールが良い投手で、コントロールにのみ注力してくる状況で。


「何球かかるかは分からない。でも、それしか、ないんだよねぇ」


 1球目、2球目ともに真ん中近くの緩いストレートで簡単に追い込まれ。


 3球目は、速いストレート。

 ピクッと二宮の手が反応したが、ギリギリで見送った。


「危ない、危ない」


 カウントは1‐2。


 4・5・6球目は緩いストレートだった。

 それを全てファウルゾーンへ転がす。


(大丈夫だ、打つだけなら問題ない。……いや、いつ来るか分からない四球を狙うより、ヒットを狙ったほうがいいかなぁ?)


 外野は前進している。

 打つだけに限れば、怪我している分のマイナスは相手がストレート一本で緩い球しか使わないというプラスで相殺される。かつ外野前進なら、十分に抜ける可能性がある。


 そんな誘惑に心が傾きながら7球目。


「……カーブ!?」


 ストライクからボールへ逃げる落差のあるカーブ。

 二宮は、寸でのところでバットを止める。

 止めはしたが、スイングとして成立するかもしれない。


(……やっ、ちゃった。どっちだ……!?)


 丁度、ホームベース頭上。

 二宮は冷や汗をかきながら、バットを止めたまま顔を上げられなかった。


 当然、キャッチャーは一塁塁審にスイングを確認する。

 判定は。


 審判の腕は、少しだけ間をおいて開かれた。


「あっ……ぶなー」


 相模南のベンチは、審判の判定が出た瞬間に安堵のため息が漏れた。


(審判に、助けられちゃったねぇ)


 審判は平等だ。

 だがそれでも、人間だ。

 もし二宮が怪我をしていなかったら、判定は違ってきたかもしれない。

 どっちに取られても文句は言えない、微妙なスイング。


(だけどそれが許されるのも、フルカウントまでだよねぇ)


 8球目、9球目、10球目。

 カーブが投げられても、二宮は対応した。


 球数を重ねるごとに、集中力が増していくのが分かる。


 ファウルを狙って打つという技術は簡単なものではない。

 フェアゾーンに打ってはいけない、フライを上げてもいけない。

 緩い球が続くからと言って、プロでもないのに何球も続けてできるわけがない。


 ―――ゾーン。


 スポーツ界では、極限に集中した状態をそう呼ぶ。


 もはや、二宮にとって足の痛みはどうでもよくなっていた。

 ストライクとボールを判断する。

 ストライクならカットし、ボールなら見送る。

 それだけの作業だ。

 

 それだけの作業を、何回も、精密機械のように繰り返す。

 その作業以外の情報は、全てシャットアウトする。


 ―――そして12球目。


「……ボール!」


 少しだけ、歓声が上がった。

 これで、フルカウント。


「……ようやく、ここまでこれたねぇ」


 投手はストライクを投げ続ける。

 打者はその球をカットし続ける。

 それだけの作業に、どちらが先に音を上げるか。


 段々と、グラウンドは静まり返っていった。

 ちょっとした音が、張り詰めた糸を切ってしまうのではないかと危惧してしまう。


 その勝負の終わりは、17球目。

 汗で滑ったボールが、高く外れた。


「ボール、フォア!」

「「ぃよっしゃー!」」


 相模南のベンチが、まるで得点した時のように湧き上がる。


 そんな中、ネクストバッターの一ノ瀬だけが静かに立ち上がった。

 二宮にしても、バットを置くと、振り向かずに一塁へと歩いていく。


 まるでこの結果が、当然と言わんばかりに。


 対する斡木クラブの内野陣はマウンドで集まった。


「申し訳ないッス、手が滑って……」

「仕方なくてよ。あの粘りは敵ながら賞賛ものよ。次のバッターにそんな技術はないはず、もしヒット性のあたりを打たれようが、二塁でアウトを取ればいいだけだもの」

「とにかく、アウトコースで勝負っスね」


 内野陣が守備位置に戻り、一ノ瀬が打席に入る。


 ネクストバッターの友希は、その姿をまじまじと見つめていた。

 落ち着いている、というレベルではない。


 ……一ノ瀬は二宮に、チームの勝利を信じていると言った。

 そして二宮に任せたと言った。

 だが、一ノ瀬はもちろん二宮にホームランを期待していたわけではない。

 そして、逆境の場面で後ろの友希に任せるのも酷だと理解している。


 チームの勝利を信じている、ということは。


 自分が打つことを、試合を決めることを信じるということだ。


 ……なぜホームラン打者になりたいと、一ノ瀬が年甲斐もなく主張したのか。

 決まっている。

 それが野球の華だから。

 球場で見た看板直撃のホームランが脳裏にこびりついて離れないから。


 ……そして、一ノ瀬にはその資質があった。


 ―――初球。

 球威はあまりない、アウトコース低めのストレート。

 斡木クラブからしてみれば、四球を出さずに、かつ長打でなければ勝利なのだから、当然のコース配球。


 一ノ瀬もそれを読んでいた。

 強引に踏み込んで、アウトコースを真ん中にする。


 キャッチャーにとってみれば、踏み込んだだけで見送るものだと思っていた。

 一瞬の瞬きの後、ボールはバットで隠れた。

 それほどに速いスイングで、ボールの中心の僅か下を叩き、低めの球をすくい上げる。


 カキィィィィ―――……!


 いつまでも、その音は響き続けるものなのかと、勘違いしてしまいそうな。

 ベンチの皆が、身を乗り出してボールの行方を顔で追う。

 ―――一ノ瀬はバットを投げ捨てた後、固く拳を握りしめた。


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