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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第五章 夏休み!
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45話 死球なんて怖くない!  

 心中してくれる?

 その言葉の意味を、投山も分かっていた。

 時間が解決してくれる問題ではない、と心の奥底では分かっていた。


 友希はキャッチャーの防具など、まともにスイング出来ないほどにプロテクターで体を覆って打席に立つ。


「桜ちゃん、これで当たっても大丈夫だから。当てても良い……ううん、当てて」


 デッドボールのコースを投げろ。

 投山も、厳しい指示が来るとは分かっていたが、それでも額に汗をかいた。


 いくら防具を纏っていても、硬球が当たれば痛いに決まっている。

 それに運悪く隙間にでも入れば、怪我をする可能性だって十分にある。


 ……人間だから、コントロールミスはある。

 それでも、死球なんて避けられる。当たっても怪我なんてしない。

 そんな印象を、実際に植え付けなければトラウマは克服できない。


「まずは外角からよ」


 真中の指示通り、アウトコースから徐々に要求をインコースに近づけていく。

 友希が防具をつけているからか、いくらか改善はしていた。

 インコースにも要求通り投げられる、が。


「まだ、いつも通りとは言えんのう」


 だが、打者をのけぞらすようなボールは投げられない。


 球威は戻っている。すっぽ抜けもない。

 友希たちは全員、それに対して尊敬の念を抱いた。根本的に治っていないのに、一日でここまで修正できたことに。

 それでも、まだ遠い。


 デッドボールのコースに構えても、甘いインコースのストライクゾーンにしか来ない。

 クロスファイアは、打者がのけぞるようなコースでなくては意味がない。

 これでは、強打者にとってはただのホームランボールだ。


「はぁ、はぁ」


 あのスタミナのある投山が、30球ほどで息を上げる。

 真夏で、しかも試合のように攻撃で休む時間もない。

 それを加味しても、いつも以上に疲弊していた。


 感覚がなくならない寸前のところまで、ギリギリを付いている。

 言ってみれば、これ以上コースを厳しくすれば、死球になる可能性があるという事だ。

 死球を当てろと言われていて、頭では分かっても身体が拒否している。

 それを見かねて、友希はもう1歩死地へ踏み出すことを決めた。


「……暑いし、もう防具なんていらないよ。当たっても怪我なんてしないし。インコースが全部ストライクになるんなら、バッティングピッチャーには丁度いいかもね」


 友希が防具を外す。

 敵意剥き出しで、刺すような目線で投山を見る。

 ヘルメットで影が出来ているのも相まって、投山からは友希の目が、悪魔のように映った。


「友希ちゃん……」


 審判役をしていた小鳥遊が心配そうに声をかけたが、友希は打つ構えを崩さず、ただ投山の方を見据える。


「うっ……」


 分かっている、投山も。

 これが友希の演技であることくらい。

 言いたくない言葉を、心を鬼にして、投山のために口にしている。

 そんなのは分かっている。


 でも、だからこそ投山は悔しかった。

 自分のせいで、危険を顧みず打席に立っている友達がいることに。


 血が、熱くなるのを感じる。

 熱く、滾る。

 今まで、左腕に血が流れていなかったのではないかと思うほどに、感覚が研ぎ澄まされていく。


「わ、我は、大魔王サタンなのだ。……友希。後悔するでないぞ!」


 瞬間、投山の雰囲気が一変した。


 大魔王。

 口調は変だが、マウンド上に立つ投山には、確かに威圧感が垣間見えた。


 友希は、似たような異名を持つピッチャーが、黄金期のスターオーシャンズにいたことを思い出す。

 応援しているはずなのに、どこか恐怖を覚えたものだ。

 今は実際にバッターボックスに立っているせいか、あの時と、いやそれ以上に恐怖を感じる。


「さあ、来て!」


 投山が振りかぶる。

 友希は避けることだけを念頭に置いていたはずだったが、身体は違った。


 打ちたい。

 純粋に、勝負がしたい。


 ……投山はいつもと同様に、流れるようなフォームで、インステップで踏み込む。

 だが右足を接地した瞬間、直感した。


 踏み込み過ぎた、このままだと本当に死球になる、と。

 どうすればいいか、頭で考えるよりも先に、身体が反応した。


 元々柔らかい手首を更に捻り、ボールの下を切るのではなく、内側を切ってシュート回転をかける。

 ……ボールの軌道は、完全に死球のそれだった。

 避ける手筈ではあったが、打ち気があった友希はギリギリのところで躱す……が。


 ボールは、ストライクゾーンまではいかずとも、そのギリギリまで食い込んできた。

 動体視力と反応に長けたキャッチャーの熊捕でさえも、ミットに当てるのが精一杯だった。

 まさか軌道が変化するとは予想していなかった友希は、後ろに足を出すのも忘れて尻餅をつく。


「今の、球は……?」


 シュート。

 ナチュラルにかかった、初期の棒球とは違う。

 打者の手元で急速に曲がる剃刀シュート。


「桜……アンタ、今の球もう1度投げられる……?」


 投山の横で見ていた真中にも分かった。

 今まで見たことのないその軌道が。


 要求のまま、投山はシュートを投げる。

 死球の軌道ではないが、打者をのけぞらせるコースからストライクゾーンに切り込んでくるシュート。

 感覚が研ぎ澄まされた投山は、ストレートも要求通りに投げられるようになっていた。


「ふふ……ふはははは! 見たか! これが大魔王サタンの力なのだ!」


 投山の隣にいた真中が、小さく投山の帽子を叩く。


「なに調子に乗ってるのよ。全く、他人をこれだけ心配させて」




 『カキィン!』


 右京が打った打球がレフトへ伸びる。

 狭いグラウンドならホームランになってもおかしくない飛距離だが、レフトに広いため、予め予測していた左門が苦も無く捕球する。


「段々、どこに来るのか分かって来たわ」

「ムキー! また捕られたネ!」

「次はわたくしの番ですわよ」


 一之瀬が入れ替わりで打席に入る。

 バッティングマシンの球とは言え、一之瀬はライトのネットを越えて中庭の方まで打球を飛ばした。


「ヘイ、ユミ! 早く交代ネ! 次こそミーも柵を超えるデス!」

「そうは言いましても、飛距離で言えばわたくしとあまり変わりませんわよ?」

「全然違うネ! 角度のせいデス!」


 物凄いアッパースイングで素振りを始めた右京に監督が釘を刺す。


「右京さんは一之瀬さんの真似をしちゃいけませんよー。……あれー? ニノさん、どうかしましたかー?」

「いやぁ。どうやら、1年生も上手くいっているみたいだなぁ、と思ってねぇ」


 バッティングマシンにボールを入れていた二宮が、ブルペンの方を見て小さく笑った。

 次の練習試合が、待ち遠しい。


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