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4-28 戻れない道




 包囲攻撃をされた建物と言うのは悲惨だ。

 篭城しなければならないほど不利と言うことであり、包囲されるほど物資人数差があるわけであり、今回はその状況下で援軍の当ても、逃げる場所もない。さらに初手奇襲を受けた彼らには、家と言う要塞にいると言う以外に何もアドバンテージはなかった。果たして、棺桶と化した砦にいかほど価値があるのかというものだが。

 不運にも狙われた無警戒の人間が床に転がり、銃声が空気を支配し、鉛弾で部屋を荒らされて、それでようやく彼らは自らの生命の為に武器を取った。武器箱からサブマシンガンや拳銃を取り、兎にも角にもと外へ向けてでたらめに撃ち返す。もちろんそんなものが当たるはずもなく、反撃しようと体を晒した分だけ負傷のリスクを抱える。

 怒号で満たされ行くその部屋の中へ、リュックとテオの二人は父親ジェロームに付き従ってやってきていた。

 兄弟にとって、周囲の人間は「お父さんの家来」であり、「他人」であり、「動かない肉の塊」でしかなかった。関係は希薄で、死と言う事象に対する意見もそれだけ。もう、見慣れてしまっているから。


「お前達」


 ジェロームは釘打ちされた木箱を開いてサブマシンガントライトマシンガンを取り出して、重量も大きさも考えずに息子達に手渡していく。リュックがS540AFサブマシンガン、テオはFAB1955ライトマシンガンを受け取る。10キロにも及ぶ重量のあるライトマシンガンだが、テオにとっても問題はない。リュックほど肉弾戦が好きなわけではないが、重いものを持てるようになったのはテオも同じだった。そして、誰にとっても銃の型式などはどうでもいいことだ。引き金を引いて弾が出るという銃としての作動をするのなら、なんでもいい。ジェロームもまたリュックと同じサブマシンガンを手にして、仲間達の元へと向かっていく。

 広めのリビングは既に惨状であった。ようやく敵の位置を理解してマトモな反撃を行う者もいたが、それ以前の者。つまり突然のことで腰が引けている者や、頭を抱えて安全と思った柱に身を隠している人間もいる。彼らは軍隊ではない。彼らにはそれ未満の対応しか出来ない。


「畜生、もうおしまいだ」


 誰かの泣き言が響くたびに、彼らの士気は落ちていく。クラバニに狙われてからと言うもの、常に押されている。ここで生き延びたとして、いずれ彼らはクラバニに屈することになる。そんな彼らにいいから戦えとジェロームは叱咤し、それを見るに付け兄弟達は愉快になる。やはり父親はすごい人だ、と。もっとも、ジェロームにとっては保身的理由ではあるのだが。末席とはいえそこそこの地位にいるのだ。売り込める自分の能力もないのだから、黙って見逃してもらえるわけがないと。

 何にせよこの叱咤は多少の効果を出して、彼らはがむしゃらに抵抗をしていく。

 その間だ。その間なのだ。ここからどうやって生きるか。どうやって逃げるか。

 ジェロームはどこから弾が打ち込まれているのか、どこで戦いが起きているのかを確認し始めた。正面玄関は距離と窓ガラスがあることでかなりの激戦で、別の建物がある二面も、向かいの建物からやられている。

 そして一方面、脇の通りに面する勝手口側は撃ち込まれた痕跡や、それに伴って味方が頭を抱えているなどという事もないことを生存本能で見つけた。

 逃げるならこちらからだ。


「二人とも、裏口を見て来い」

「誰かいたら殺していい?」

「もちろんだ」


 リュックの肩を叩き、ジェロームは一度部屋に戻る。まさか着の身着のと言うわけには行かない。金という力は、生きるのに必要だ。

 その間にテオから予備のマガジンを受け取ったリュックは、サブマシンガンを持って裏口の通路へと向かった。

 部屋を抜けて、短い通路へ。


「あ‥‥‥」


 そこには人が一人いた。いないはずの人間。

 黒いゴシックドレスを着た、銀髪の少女。


「お姉ちゃん」


 再会に、三人の子供達はそれぞれに驚愕し。

 リリアは喜び、リュックは怒り、テオは悲しんだ。


「よかった。ねぇ二人とも、私、お話が」

「あぁリリア。何だ、また俺達を殺しに来たのか」

「違うよリュック。私は」


 歩み寄ろうとするリリアに、リュックはサブマシンガンの銃口を向ける。

 リリアは固まって、彼の指先に意識を注ぎながらも何とかしようと口を開く。仲直りして、また一緒に遊びたいから。


「もう、やめてよ。お父さんことを悪く言ったのがよくなかったなら謝るから」

「それは怒ってるさ。けどそうじゃなくてさ。だいたいリリア、言ってることがおかしいじゃないか」

「なんで?」

「リリアの言う悪い事をやめて欲しいってことだろ? でもリリアは今日も来てる。俺達を殺す奴らと一緒に。そのバッグに入ってるの、銃だろ。腰のナイフは。何でリリアはやめないのさ」


 問いに、リリアは答えられない。

 銃を持って、銃を持つなと言う。核を持って、核を持つなと言う。殺しをして、殺しをするなと言う。矛盾だ。どこにも説得力はない。


「それにさリリア」

「何、リュック」

「俺、リリアと戦いたい」


 強さを持つ人間として。戦いを享楽とする人間として。


「リリアみたいな強い奴と、初めて会ったんだ。俺より強い奴がいるなんて許せない」


 リュックは嗤う。より強い相手を倒し、屈服させる。自身の力の誇示と、勝利と言う満足感のために。

 リリアは理解した。もうだめだと。それでも認めたくなくて、そして兄の後ろで黙っているテオに目を向けた。テオなら、テオだけでも自分の気持ちをわかってくれるかもしれないと。

 リュックとは違い、テオはまだリリアと話す気はあった。彼が向ける怒りの相手は『リリアをたぶらかしているジゼット』であり、リリアを助けるのだとある種の使命感に燃えていた。少なくとも、ほんの数十秒前までは。


「ねぇテオ」

「お姉ちゃん」

「何?」

「それ、あいつの選んだ服だよね」


 少女の着ている服を、落ち着いたゴシックドレスを見て、テオは悲しそうに表情を歪めていた。

 それが、リリアの選んだもの。ジゼットが選んだ、落ち着いた印象のゴシックドレス。それすら、テオの憎しみの対象。自分は選ばれなかったと。

 もう何も、言えない。

 リュックの指先が、動いた。

 ある種の本能で、リリアの体は生きる為の動作をした。狭い通路を一杯に使って右へ。直後に銃弾が横を掠めた。そのまま追いすがろうとフルオートで振り回される銃口の動きを読みきって、すべてを射線から逃げる。

 わずか2秒足らずでマガジン内の銃弾を吐き出し終え、銃の作動が止まった。


「お願い‥‥‥やめて」


 その言葉を弱弱しい態度で呟くだけで、リリアは一杯だった。

 その中、裏手からの銃声を聞きつけた彼らの父親ジェロームがやってきた。彼はキャンプ場の時にやってきていた少女の姿を認めるとしばしいぶかしみ、そして状況的に考えても少女が今回も敵だと判断したジェロームは、自らも銃を向けながら息子達に声をかけた。


「撃て!」


 発砲。

 もうどうしようもない。悲しくなったリリアはもう一度射撃を全弾回避すると、彼らのリロードタイムで、侵入してきた窓から外へと飛び出した。

 望んだリリアが来たのだ。そして今まさに逃げ出していく。逃がすなどもってのほかだった。リュックはリロードを済ませたサブマシンガンを持って、後を追おうと進み出て。


「待って兄ちゃん」

「いるのか?」

「うん。壁の向こう」


 言って。

 テオは装填済みライトマシンガンを腰だめに構えて、「見えた」影に向けて引き金を引いた。




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