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4-26 選択




 リリアの服装は、兎に角悪目立ちが過ぎる。

 祭事でもないのにドレスを着込み、決して裕福とは言いがたい市街を練り歩く。ピエロの仮装でもしたほうがよほど町に溶け込むというものだ。そしてもうひとつ、そんな冗談みたいな娘が掃除屋として仕事をしている。直接的な目撃者はあまりに少ないが、そこの人間が遺体で発見された、そういえば数日前ドレス姿の女の子を見たと言う感じでリンクス側は把握しており、イコールリリアであるという認知はないもののまったく知られていないわけでもない。

 それは、少し前に仕事で絡んだクラバニにとっても同様だった。依頼をしたわけでもないのに資金隠匿場所のひとつを守ったフリーランスという、少々記憶に残りやすい出会い方をしたため、クラバニは彼女達一団の存在をある程度認知していた。もしかしたら自分達の手駒として引き込めるかもしれない、そんな打算もあって、前回の山襲撃の話を個別に渡したのである。

 その一団の娘が、自分達も狙っているギャングの場所を探している。そして人海戦術と資金を利用した情報網によって、手元にその情報がある。

 少々の小銭稼ぎあるいは、兵員増強。その為に再度、クラバニから接触を図ってくるのは必然だったのかもしれない。

 彼らは再度、襲撃依頼をレアを介して渡した。夜に決行される予定の襲撃。もちろんその場所には、彼女が探す彼らの存在も確認済み。


 クリスは悩み、悩んだ末にリリアにその話を渡すことにした。

 当然のようにリリアは食いついた。ほぼ確定で、兄弟がそこにいる。だから彼女は場所を教えてとせがんだ。それにあたり、クリスは条件をつけた。自分の言う事を聞くこと。いつもそうだといえば、その通りの条件。

 リリアにとってはそんな事はどうでもいい。やはり二つ返事で諾し、ここに全員参加が決定した。リリアが行くというのでジゼットも付いていく。リリアが危険だからとエリーが同行を申し出る。エリーが行くのでクリスもくっついていく。まさに芋ずる式だ。なお、アナベルはアナベルでリンクスを通して同じ依頼を受けたので、今回も共闘となった。

 どうしてクリスがそのような条件をつけたのか。

 少女は知る由もなく、リリアは当日を迎えた。




 □




 リリアのバッグの中身はいつも決まっている。サブマシンガンと、予備のマガジンと、スローイングアックス。腰につけない時は、スローイングナイフを差したベルトも入れている。後はハンカチと、櫛と。持っていく物はいつも同じだ。

 リリアはぺたんとベッドの上に座って、目の前にあるドレスを見つめていた。

 ドレスは、二着ある。


「‥・・・・」


 簡単な話だ。どちらを着ていくか。ただそれだけの話。

 簡単なのに、選べない。

 ベッドの上にドレスを広げたまま。少女は夕食後からずっと悩んでいる。




 扉が、ノックされた。




 支度を終えて、読書しながらホテルの部屋で待っていたジゼットが応対に出る。そしてドアスコープから見えたものが見知った顔だったので、ジゼットは開錠して迎え入れた。

 やってきたのはエリーとクリスと、アナベルだった。

 三人が迎えに来る予定だった、のではなく、時間になっても集合場所にしたはずのレアの店に顔を出さないので、痺れを切らせてやってきたのだ。ジゼット達は携帯電話を持っていないので、レアが住まいを教えたのである。宿の固定電話を使って遅くなるとは一度伝えていたが、それにしても遅すぎたから。


「ちょっと~、どんだけ時間過ぎてると思ってんの」

「すみません、クリスさん」


 謝るしかないジゼットが頭を下げる。

 謝罪があったのならひとまずはよい。クリスは息をついて、いまだ白の下着姿でベッドに座っているリリアに目を向けた。


「大体察してたけどあんたのせいか。何やってんの」

「何でもいいでしょ」


 リリアは唇を尖らせて、ふいとそっぽを向く。

 こんのクソガキが、とクリスは思いつつも廊下で待つのも他の迷惑になるので部屋に入る。リリアのことだから部屋も高級志向なのかと思っていたクリスだったが、取っていた宿の部屋は小綺麗でこそあったがそう広くはない。住む部屋については、掃除が行き届いているなら狭さは気にしないのがリリアのスタンスだった。

 そのベッドの上で、洋服を見つめるリリア。

 二着のドレス。

 どちらも黒を基調にしたゴシック服。

 ひとつはフリルをふんだんにあしらった。ひとつは落ち着いた印象の。

 ひとつはテオが薦めていた。ひとつはジゼットが薦めていた。

 どちらもリリアは好きだった。だから選べない。

 それに。どちらかを選んでしまったら、どうしてか今は、片方を捨てたような気分になって。


「どっちがいいのかな」

「好きなほうでいいでしょう」


 何を悩んでいるのかを知らないクリスは、だからこそ当たり前の答えを口にする。

 両方を着るのは変だ。だから選ぶしかない。けれど。


「どっちも好きだったら。どうするの」

「より好きなほうでしょう」

「同じくらい好きだったら?」

「それでもどっちか選べ」


 続けてクリスが小言を言うが、リリアの耳には入っていない。

 兄弟か、ジゼットか。

 確かに、どちらかと言われたら、リリアには答えはあるが。

 大丈夫だ。今日着ないほうも、後で着ればいいんだ。だから。リリアは片方のドレスを手にとって、着替え始めた。子供用の衣服だ。たいした手間もなく着付けられる。


「ねぇクリス」

「なぁに?」


 落ち着いたゴシックドレスを着たリリアは銀の髪を襟から出して、振り返る。


「私、リュック達とお話したいの。だからこの前みたいに、最初だけ好きにしてもいい? 終わったら言う事聞くから」

「へぇ、あんたにしちゃあ譲歩だね。その姿勢は認めてやろう。ま、無理にならない程度になら構わないよ」

「うん」

「でも、出来もしない事を言うもんじゃない」

「何を」

「言う事聞くってのは、軍隊と同じだよ。どんな無理難題でも文句言わずにこなす。あんたは私の言う事は聞けない」


 それはこれまでのリリアの態度から予測できることであり、これから起こることをクリスが予測したものだ。こう言っておけば自分の好きに動ける、リリアのその打算は正しかったが、ここにおいての言葉の重みを少女が理解しているとはクリスは思ってはいない。

 意味のない言葉には、意味がない。あとはもう、責任の所在の問題。


「その話は移動しながらね。さて、もう出かけてもよいかね諸君」


 一声で、ジゼットとリリアも荷物を手にする。




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