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4-24 ラモレール家



 世の中は良くないことばっかりだな、とテオは思った。

 テオが物心付いた時、母親は既に傍にはいなかった。末っ子のテオを生んですぐくらいに離婚してしまって、兄弟は以来父親の手で育てられた。その父親は酒が好きな人だった。いつも飲んでいて、怖い人たちと一緒で、兄弟は酒瓶で殴られたりしたこともある。

 痛い。とは思うけど。嫌だ、とは思うけど。親が子を殴るという行為は「普通」なんだと、兄弟は学習した。

 そんな父親は食う為に戦争に志願して、その間兄弟は親戚のところに引き取られてしばらく過ごしていた。もっとも、その親戚も兄弟にすれば怖い人だったが。戦争が終わって父親が帰ってきた時は喜んだ、それくらいには扱いが粗雑だった。戦争中、父親から仕送りはなく、親戚からも学費が払われなかったので、学校はその時に行かなくなっていた。

 父親は帰ってきてもやっぱり酒を飲んでいた。家族の食事は缶詰やレトルトパックのもの。帰ってきた時にトラック一杯に持って帰ってきて、それを父親の知り合いで分けていたのを兄弟は見ていた。ものすごく味が濃くて、そんなにおいしくはなかったけど毎日食べさせられた。

 分けられたその食事がなくなりそうになった頃、仕事を手伝いなさいと言われて、兄弟は父親と出かけるようになった。銃を持って人に向けて脅かす仕事。リュックとテオは、酒に酔った父親に殴られたことが何度もある。だから二人にとって、暴力とは平凡なものだった。気に入らなければ殴っていいし、自分達の生活資金の為なら殴っていいし、理由がなくても殴っていい。殴られるほうが悪い、弱いほうが悪い、強いほうが偉い。誰かを殴るくらい、意識しなくても当たり前だと思っていた。

 面白いかと問われれば、テオにすればつまらなかったが。

 棒で叩く。

 銃で撃つ。

 いくらかした頃、兄弟は父親から病気だと言われて、薬を飲むようになった。父親はたいした病気ではないとしか言わなかったし、兄弟もそれ以上は聞かなかった。毎日飲めばよくなると言われて、病院で検査もするようになった。

 棒で叩く。

 銃で撃つ。

 はじめはまごついていたリュックは、いつの間にか面白そうに棒で叩くようになった。一方で自分はそんなに面白くないと、テオは意見が変わることがなかった。もちろん父親がいい事だというのだから、そしてやれと言うのだから、やる。兄に一緒にやろうといわれれば、やる。テオにとって、父親と兄と言う存在は偉い人であり、無論家族としての絆も意識下には感じていた。もっとも以上のものはなく、そんな繋がりだけがテオの知る世界で。

 棒で叩く。

 銃で撃つ。

 世界は、つまらないものだと思っていた。

 そんな時に出会った。


「リリア、どうしてるかな」


 呟く。

 すごくきれいなドレスを着た、すごくきれいな銀髪の、すごくきれいな女の子。

 どきどきした。とても可愛い声で、とても元気で。

 楽しくなるんじゃないかなって思った。


「さぁな」


 向かい席のリュックは不機嫌そうに返す。左肩には包帯が巻かれている。リリアに斬られた、腕。

 リュックは怒っていた。いつの間にか自身でもわかるほど力持ちになったリュックは、大の大人相手でも今まで殴り合いで負けたことがなかった。父親も誇って誉めていた。自分が一番強いのだという自負は自信になり、自惚れし酔っていた。だからリュックは、それ故に自分より強い人間がいることが許せなかった。自分より強い人間が存在することが許せなかった。自分が一番じゃないから。力で解決できなくなるから。

 同時に、リリアと言う「強敵」の存在に楽しんでもいた。自分と対等に戦える始めての人だったから。


「あいつ、次会ったら滅茶苦茶にしてやる」


 ぼこぼこに殴って、もうやめてと屈服するまで殴って、何でも好きに使える召使いにするのだと。

 兄とリリアが仲良く出来ないのが、テオは悲しかった。

 そしてそうなった原因。

 リリアは兄を傷つけた。でも、テオは兄を傷つけたリリアよりも。


「先にジゼットを殺そうよ」


 あいつが変なことを言わなければ。

 テオは許せなかった。居場所を探して殺してやりたいくらいだった。

 でも最近、父親達を嫌う人たちが銃を持って暴れてくるので、まずはそちらを手伝ってくれと言われてそうするしかなかった。今日も兄と一緒に、路上にいた中の悪い人を撃って叩いてきたばかりだ。

 それが落ち着いたら。もしくは前みたいに、リリア達もまた襲ってくるかもしれない。その時は。

 ジゼットがいなくなれば、変なことを言う奴はいなくなる。そしたらリリアとお話できて、また楽しくなる。きっとそうだと、信じて。

 話していると、部屋に男性が入ってきた。彼らの父親、ジェロームだ。

 ジェロームはテーブルの上を見て。薬の箱を見て。


「二人とも、薬は飲んだか」

「あ、ごめんなさい」


 父親に言われて思い出す。食後の薬を忘れる所だった。白い錠剤と、黄色いカプセル。どんな病気かは詳しく教えてもらえていないが、飲まないといけない。最初は飲み込めなくて噛み砕いていたけど、ひどく苦い味がしたけど、今はちゃんと飲み込める。

 薬を飲み終えお皿も洗い終える。

 父親は引き出しから自動拳銃を取り出して、腰にねじ込んだ。そしてリュックとテオにも、それぞれ自動拳銃を手渡した。


「来なさい」


 お仕事だ。

 人を叩いて、撃つ仕事。

 何の疑問もない。父親がいいと言うのならやるし、やって誉められるのならやる。それだけ。


 二人は、父親の後を負う。




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