4-18 抱擁
戦闘の跡と言うものは、いつもひどい。
火薬の臭いが漂う。血煙の鉄の臭いもだ。そして掃除屋チームのいた場所に足を運べば、大なり小なりの負傷者が喚いたり寝ていたりしている。人間だったものも転がっている。こういう様子を見ると、どうしてもハウンド時代の戦場を思い出す。クリスにとっては、いや、多くの人間にとっては気分の良いものではない。
しかしやはり、人間とは順応する生き物だ。始めて目の当たりにした時に比べれば、落ち着いている。果たしてそれが、人間としていい事なのかはわからないが。
しかしこれは。
未だに音を立てて輝くそれに、クリスは呆ける。
ログハウス2棟、いや、中央にも延焼して3棟燃えている。火事である。それを遠巻きに眺めて、クリスは隣のアナベルに顔を向ける。
「どうすんのこれ」
「消防は呼んでおきました」
「あ、そ」
ニュースで見る街中の火災だと、完全延焼から消火まで数時間かかるそうだが、つまり目の前で赤々と燃えるそれはその時間燃えっぱなしらしい。不慮の事故と言う奴だ、我々は見なかったことにしてすたこらさっさである。
エリー達とも合流を果たしたクリスは、延焼前にギャング達が逃げ出したので無事脱出できた子供二人の元へと向かう。脱出時までは体調の良くなさそうだったリリアも、今は落ち着いて少し離れた長椅子に腰を落ち着けていた。
「具合はどうかねチビ助」
「うん‥‥‥」
具合も何もない。弱く頷くリリアの頭を、クリスは優しくなでてやった。
彼女達は、助けようとした兄弟の不況を買って、ちゃんばらごっこをするに至ったという話はジゼットから聞き及んでいた。子供の遺体は付近に転がっていないので、恐らくその兄弟も逃げおおせたのだろう。詳細については、後で話すという。すっかり少年の相談役になってしまったクリスだが、別に悪い気もしない。
目の前の少女を見る。快活馬鹿な娘には到底似合わない、すっかり弱った様子。放っておくのが一番なのかもしれない、とも思ったが、存外に自分の手を受け入れてくる少女を見て、クリスは両手を伸ばしてみることにした。両手を背に回して、そっと少女を抱いてみる。
「クリス?」
リリアは困惑気味な声を出したが、特に抵抗の意思は示さなかったのでクリスはそのままにすることにした。
「それで、話し合いはうまくいかなかったわけだけども。これからどうする?」
「どう‥‥‥したらいいんでしょう」
困り顔を浮かべるのはジゼットだ。
「喧嘩別れって形にはなるけど、このまま触れないのも手なんじゃないかなって思うね。向こうから対話しに来たらその時は、でいいんじゃない。残念なのはわかるけどね」
「そう、ですね」
「クラバニが、殲滅の依頼をまた出すかもしれないけど」
意見を出したのはエリーだ。一応は襲撃成功の形なのだ、この一回で終わらせるとはとても思えない。その可能性は非常に高かった。
それにクリスは頷いて。
「それも込みで、だよ。干渉しないなら徹底的に」
「ん」
「今回はいろいろあってこういう結果になっちゃったけど、あんたらは十分に頑張った」
それで諦めろ、と意見を出すのも酷な話だが。
必ずしも最善手であったとはいえないだろう。だが子供なりに考えてきちんと行動はしたのだ。兄弟側にも問題があるように思えるし、そればかりはどうしようもない。ゲームではないのだ。やったから必ず望む結果になるというものでもない。
ジゼットは視線を落とししばし黙っていたが、やがてゆっくりと首を縦に振った。
「また時間経てば状況も変わるかもしれないし、何か思いつくかもしれない。とりあえずはってことでね」
「はい」
「ほいじゃあ帰ろうか。アナベルも乗っていきなよ」
「でも、怪我人とかがいますよ」
「どうせ救急車呼ぶだけだし、雑務はマティスに任せとけばいいよ」
本当は、自身が人の死の香りのある場所に近づきたくないし、今のエリーやリリアをそれらの傍に寄らせたくもないという考えからであったが。
アナベルはしばし、燃え続けるログハウスを見つめる。
「取り残された人とか、いないですよね?」
「自殺志願者でもなければ、普通火事になれば逃げるでしょ」
「そう、ですよね」
何か悩みながらもアナベルも納得したので、皆が移動を開始する。クリスもリリアを開放して歩き出そうとして。
くいと、服を引っ張られて足を止められる。見れば、クリスのシャツをリリアが指でつまんでいた。少女は俯いていてはいたが、少しだけ顔を逸らしていた。
「どったのリリア」
「別に」
エリーと同じような態度で答える少女は、指を緩める。そんな少女の背をぽんと押して、二人は並んで歩き始める。エリーもまた、その様子を眺めながら二人の後ろを付いていった。




