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4-13 窪地



 そのキャンプ場は、切り開かれた森の中にあった。

 それなりの規模のキャンプ場であり、個人から団体まで迎え入れられる。複数の小中都市を隔てる山にあることもあって、往年は繁盛と言うほどではないが、運営が回る程度の人気はあった。

 無論、戦後のこのご時世でキャンプにいそしもうという人間は少なく、アランファミリーがつけ込んで安く買い叩き、軽迫撃砲の射撃練習にも使用していた。そして今では、次のギャングが道楽に使用している。

 今回の標的である一棟10名以上用のログハウスが、距離を置いて複数建てられている。クラバニから渡された殺害リストの人数的に一棟に収まるはずがないので、複数に分かれているのだろう。うち、窓から人影が覗いたり室内電灯が灯っていたりするものが三棟。


「さて、どれにいるやらね」


 マティスに束ねさせた掃除屋チームを少し外れの場所に待機させて、先行したクリスはぼやく。

 いい具合に見つけた地面の窪地に収まって顔を覗かせる。外でバーベキューの用意をしている人間や木製の席に座って談笑する人間。ここには一般人はいないのでいずれも標的ではあるのだが、今日の彼女たちはドンパチが目的ではない。

 目的。それは。


「子供達を逃がす、ねぇ」


 ラモレール兄弟の、最低でも銃撃戦中の現場からの退避。

 彼らの父親が世間的にそう誉められる行為をしているわけではなく、またそれに対して殺害の依頼が飛んでしまった。子供二人ではどうしようもない事実と力が働いてしまった以上、もはやこれは覆しようがない。ならばせめて、兄弟は無関係だという前提で何とか救うしかないのではないか。結局ジゼットとリリアは兄弟二人を悪とは指定できず、それくらいしか思い浮かぶ手段がなかったのだ。

 その為に直接こうして来たものの、具体的にどうする、というところまではまったく煮詰めていない。居場所がわからない、どう呼び出せばいいかわからない、ここに自分達がいる理由を説明できない、どこまで兄弟に語るべきかわからない。無策も同然だった。


「で、どうするの」


 クリスが横にいる子供二人に向く。そもそも、現在の兄弟の場所もわからないのにどうするのかと。

 するとリリアが向き直って。


「そうよクリス」

「ん?」

「クリスなら、リュック達の居場所わかるでしょ?」


 リリアが当然よね、とばかりに述べる。船の一件の際、クリスは並居る初対面の人間の中から、一人依頼主を言い当てたことがあった。リリアはその話のことをしていた。

 それにクリスは表情を歪める。


「いや、無理」

「何でよ」

「何でって、そりゃあ、私の勘ってそういうアレじゃないから」

「使えないわね」

「あんたが言う? それあんたが言っちゃう?」

「あの、二人とも。声が大きいですよ」


 睨みあうクリスとリリアの横から、申し訳なさそうにアナベルが忠告をさし挟む。人手が欲しい、というクリスの引き抜きで偵察チームに入れられた彼女の言葉で、二人は声を落とすことにした。したが、二人で小さく言い合いを続けるので、それぞれの肩をアナベルとジゼットが叩いて会話を切らせ、新たにブレーキ役同士で相談は続けられた。


「それでどうするんです。ジゼット君、でしたっけ」

「正面から、遊びに来たという事にして、リュック達と顔を合わせるのを優先しようかと」

「こんな所にまで遊びにって、かなり不審ですけど」

「仕方ないと思っています。後はなんとか誘い出して、門前払いされたら考えます‥‥‥すみません。無計画で」


 そんな出鱈目な案しか出ないのかとさすがにアナベルも吐息が出るが、言葉は飲み込む。襲撃予定者の群れの中に要救助者がいる、とクリスからカミングアウトされた時点で仰天は済ませていた。


「前日入りは考えなかったんです? イレギュラー要素は減るかと思いますけど」

「考えたけどさ、もしもいろいろこじれて総出で銃担いで来られたらうちらだけじゃ逃げ切れないし、嫌な予感したし。だから私の我侭通して今日にした」

「だから掃除屋チームを後抑えですか」

「絡め手絡め手だけじゃね、立ち行かない。正面から押し合う係って必要よ」


 リリア達が追われる状況になった場合、掃除屋チームが駆けつけて来るまでの間はリリア達を守る為にクリスが攻勢を受け止めなければならない役だ。人数は欲しいが、信頼している、最悪でも顔見知りの相手とがいい。だから、少しでも顔を知っているアナベルをこれ幸いと追加で呼んだのだ。彼女がいなければ、同じく知人になるマティスを呼んだかもしれない。

 そして支援と言えばもう一人。


「エリー、そっちは」

「配置付いた。左、北西100メートル」


 クリスがトランシーバーで呼びかければ、平坦な声がやってくる。いつもの愛銃H28A2を抱えて援護射撃の役だ。茂みの中に隠れてもらっているので、発見されるリスクも低い。すぐ近くには遮蔽に出来る太い木の幹を置くようにも言いつけてあった。

 だが、今回に限ってはクリスはエリーに期待していない。信頼していないわけではなく、ただ期待していない。エリーは何も訴えないが、先日の狼狽の件を考えれば帰結であった。エリーのことだ、頼めば仕事はこなしてくれるかもしれない。それはほぼ確信だが、同時に、今日もそうとは限らないという不安。だからクリスは、あるいは今日はエリーに一発も撃たせる気はなかった。狙撃が必要なら、ディーに頼む。

 エリーが常に背後や側面に居る、だからこそ背中を任せて、比して危険な役を買って出る。その信頼している相方が崩れている。クリスにしてみれば痛いことこの上ない。思った以上にエリーに依存していることも思い知らされて。


「クリス」

「なぁに、エリーちゃん」

「建物群の左側、人が二名。確認して」


 促されて、窪地に入った四人は顔を覗かせた。キャンプ地の左側は丘へと続く道になっている。その丘を降りてきたのだろうか。二人分の小さな人影がやってきていた。

 初めは遠目でわからなかったが、その姿がログハウスに近づいてくるにつれ、しっかりと確認できるようになった。そして、彼らの姿を知っているジゼットが確信して呟いた。


「リュック達だ。リリア」

「うん、行こう!」


 一も二もない。リリアはサブマシンガンと各種刃物を詰めていたバッグを、ジゼットは上着の懐にリボルバーハンドガンとトランシーバーセットを忍ばせて、窪地から飛び出していった。探す手間も接近する手間もなくなったのだ、僥倖である。あとは、走る彼らを眺めて何事かと首をかしげているギャング連中が、変なことをやりださないことを祈るばかりだ。

 エリーに引き続き監視をお願いして、後はしばらく待機だ。少年少女が次のアクションを起こすまでは完全に暇になったので、クリスは新たな相方を見る。その脇には黒塗りの、伸縮ストックのショットガンだ。以前船で見たポンプアクション式ではなく、セミオート型。


「おニューのショットガン? ARGO90だっけ、それ。西の国の正式銃」

「元々こちらがメインですけどね。ポンプアクションのは、海に落ちたときに海水でだめにしちゃいました」

「そいつはご愁傷様。あ、そいつPBマイクロ9ポケットピストルじゃん。やだ、やっぱりちっこい、かわいい」

「あの、私としてはこちらのアクセサリーを誉めて欲しいんですが」


 ショットガンにつけた猫のミニアクセには目もくれないクリスに、アナベルは困り顔で答えていた。指摘にそれもそうだと、クリスは自分自身を笑って。


「しかし、銃を向けあった奴と隣り合うとは、縁だよねぇ」

「そう思います」

「アナベルあんたさ、何であの船の仕事受けたの。割と危険だったと思うよ」

「知り合いからお誘いで。クリスさんは、どうしてです?」

「金に目が眩んだのと、直感でね。でも、あんまり大きな仕事はやりたくないや。今回も成り行きで来ただけだし。ちまちま残飯漁る方が気楽でいい」


 小金をリスク低く稼いで、目の前の一日をなんとなく生きる。ここ最近はなぜか妙に大口な物に巻き込まれているが、元々、クリスとエリーはそうしてやってきたのだ。生きる目的はなくても、死ぬのは怖いから。

 それに、アナベルはショットガンを抱きながら。


「私は、嫌いな食べ物はすぐに食べてしまうんです」

「うん?」

「前に言った気がしますが、私、掃除屋はやめるつもりなんです。でも、やめた後のことを考えて必要な額を貯めたいので。我慢して一度に大きく稼いで、早く終わらせてしまいたいんです」

「あの電柱までは走るって? 目的ある奴と、ない奴の違いだねぇ」


 あの子供達も、手段はめちゃくちゃにしてもやりたいことのためにやっている。何か燃えるようなものがあれば、自分もそうやって頑張れるのだろうか。エリーは、どうなのだろうか。何か、目的とか希望とか、無口なりにもそういうものがあるのだろうか。

 顔を覗かせる。視界の向こうでは、少年少女たち四人が、連れ立ってログハウスに入っていく所だった。




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