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4-11 始まりの日





 結局、ラモレール兄弟の調査については、ぎりぎりまで待っても成果は上がらなかった。これ自体は、レアからの進言もあったので想定内であった。そこで21日。数日掛けて悩みぬいた結果、彼らに今回の襲撃の件だけでもそれとなく警告しようとジゼットが単身でレストランに向かったのだが、ラモレール一家は既に出立した後であった。

 予定が早まって、出かけてしまっていたのだ。




 □




 まったく、どうしてこうなるのか。

 人生、そして仕事も予定通りに事が運ぶことなど滅多にないが、それにしても思い通りにならない世界に向けてクリスはただただ心の中で悪態をつく。自分はただ平穏を望む善良なる市民なのに、どうして悪い方向ばかりへと転がるのかと。もっとも、彼女を善良な市民だと思っているのは、彼女を知らない人間だけだが。

 クリス達四人は、彼女の運転する車に相乗りしてウルティス郊外を走っていた。目的は言うまでもなく、小山のキャンプ地。そこに行く前にまずは掃除屋の集合場所だ。

 ここに来るに、クリスは襲撃仕事を承諾することにした。やっぱやめた、で拒否はいつでもできるし、名声云々も気にしていない。それよりも、掃除屋チームに異端勢力扱いされて動きにくくなることを危惧しての事だった。もちろん目的は彼らと一緒ではないが、名目だけでもそうしておかないと、掃除屋側から銃弾が飛んできても文句は言えない。そうして今は、掃除屋の一時集合地点まで車を走らせている所であった。

 バックミラーには、ぴったりついてくる黒塗りの乗用車が一台映っている。

 いつもはエリーを後押さえの要として信用しているクリスだが、今回ばかりは、そもそも仕事場に連れて行きたくはないのだ。なので、腕は確かで一応面識もある人間。ディーにも声をかけた。正確には、声をかけるよう、彼との直通電話のあるエリーを介したわけだが。普段エリーが担当するシューターとしての仕事は、彼に押し付ける。

 目的地の駐車場だ。クリスはハンドルを切り、適当な駐車スペースに車を止めた。協同する他の掃除屋は、まだほとんど来ていない。

 山道の途中に儲けられた小さな休憩施設を構える駐車場だ。山を越えた先には都市があり、この道はウルティスとを結ぶ役割を果たしていた。ウルティスは農業で食べているところではないので、相応の輸送があるのだ。おかげで、この休憩所もかろうじて営業をしているようだった。

 食事は先に済ませてしまっている。なので飲料だけを買おうと、クリスはジゼットを呼びつけて車を降りる。他の三人は、車の中で待機だ。


「あいつの様子はどう?」

「リリアですか? 大丈夫だと思いますよ」


 クリス達は掃除屋に混じって銃をぶっ放しに来たのではない。あれやこれや何とか言いくるめて、銃声轟く戦場になる間、兄弟達を他所へ逃がそうという腹積もりだった。

 襲撃自体は最初から不可避だ、止めることなどできない。かといって銃弾飛び交う場所にそのまま兄弟を残すのは、リリアとジゼットは嫌だと感じたのだ。だから自分達の手で、彼らだけでも守りたいと。この駐車場に掃除屋メンバーが来たら、子どもには手を出さないで欲しいとお願いする気でもいた。

 明確に目的があって、いくつか方法もある。だから、リリアは割と落ち着いていた。

 二人は店内に入って、店員に飲み物を5人分と軽食を注文した。てきぱきとはいえない対応で、店員が用意を始める。その間、適当な席に座って待つことにした。

 そしてクリスは、対面に座った少年をじっと見つめる。


「嫁の居ぬ間になんとやら」

「?」

「さぁ少年。このクリス様の暇を潰す為に、あのクソガキとの馴れ初めを語ってもいいのよ?」


 にっこりと、笑顔を振りまく。


「もしかして、その為に僕を荷物持ちに?」

「まぁそれもある。前の、その一回だけ見たって奴の話を聞きたくってね」


 何せお互いにいつも共には相方がいるので、この組み合わせで時間を取れることがないのだ。そしてクリスは、以前のレアに強要された仕事の時、「リリアが取り乱すのを久しぶりに見た」というジゼットの言葉がずっと気にかかっていた。

 クリスの物言いにジゼットは照れたように笑い、そして、真顔になる。あのリリアを見ても付き合いを続けてくれる人たちだ。この人になら話せる、と。

 そしてジゼットは、口を開いた。




 ■




 僕達が最初に出会ったのは、エーヴェの風車小屋だった。居住部分の一戸立てが併設されている建物。

 当時、山の中の小さな平地を守っていた僕の所属する擲弾兵連隊ハウンドは損耗激しく、負傷者を多数抱えて後退することとなった。戦況の詳細は知らない。確かだったのは、歩兵用迫撃砲を初めとして、敵の追撃があったことだけ。轟音の中、いつの間にか傷病者を固めた本隊とはぐれた僕は、近くにいた大人達に混じって歩いた。そして着いたのが、あの風車小屋だった。

 小屋には先客がいた。それは脇に見える山岳を守っていた、同じ連隊ながら別のハウンドの中隊で、こちらも軽症者を連れて後退をしているところだったそうだ。その中に彼女はいた。

 僕は学徒からの徴募兵で、同じ学校の友達もまとめて国民擲弾兵入りしたから、少年兵少女兵なんて見ても特に驚きはなかった。ただ、砂と泥にまみれた汚れた簡素な衣服を着ていた少女は、それでも目を引いた。素直に、綺麗だったと思う。一目惚れ、だったのかもしれない。からかわれるだろうから、これはクリスさんには黙るけど。

 小屋に集まった人間は全員で100名くらいで、誰も彼も年長者で、同年代の子はその子しかいなかった。丁度昼食時に暇が出来たから、その時に話しかけた。最初の会話は、レーションが美味しくないねって、そんな話だった気がする。


「僕はヴァネル」

「リリアよ」

「それ、名前だよね。ファミリーネームは?」

「え? えっと、とぅむるーしゅ。リリアでいいわ」


 苗字の発音がやけに抜けていた。後で聞いたところによると、山師のおじさんとは名前で呼び合う仲だったし、ファミリーネームを必要とする機会が少なかったかららしい。変な子だなとは思ったけど、その頃からリリアは快活で、いろいろと良くしゃべってくれるから一緒にいて楽しかった。

 そこは戦場だった。そんな時間は、長く続かない。

 エーヴェは山岳地方だ。そして主要街道は正規の主力部隊山岳師団がゲリラ戦を展開していたこともあり、敵の装甲戦力はそんなにやってこなかった。もっぱら僕達が恐れたのは航空機による空爆と、歩兵用迫撃砲。その迫撃砲弾が、小屋の傍まで届くようになっていた。

 僕のいた隊は重傷者が多く、まともに戦えない。リリアのいた隊は比較的負傷者は少ないけど、代わりに銃弾がなかった。そこで、部隊は一時統合することになった。そして、その隊を再び二手に分けた。一つは「見込みのある怪我人」とその輸送護衛用の少数の健常者。一つは「見込みの薄い重傷者」と健常者。すべての負傷者を移送できるだけの余力はなかった。健常者の振り分けは、指揮を取る上位階級の人を除けば、くじ引きになった。

 特例として、僕とリリアの子供二人は無条件で後送側に回れるようになっていた。けど、僕はそうはしなかった。あの頃の僕はどうしようもなく子供で、愛国とか侵略者への敵意とか、やっつけてやろうとかそんな気概で溢れていて。大人たちと平等にくじを引いた結果、僕は「はずれ」を。リリアは「あたり」を引いたけど、「はすれ」た人とくじを交換してしまったそうだ。どうしてかを尋ねたら、泣きながらくじの人と交換してって尋ねて回っていた人がいたから、とりかえっこしたと言っていた。今のリリアを思うに、それは同情ではなく、自分はどっちでもいいと言う考えからだったんだろうと思う。命と言うものについて無頓着。兎に角、僕達は小屋に残って敵の足止めをする係になった。

 足止め。それは、死ねと同義だったけど。

 後送部隊は出立した。

 そして程なくして、準備砲撃の後、敵歩兵は接近してきた。

 レンガ作りの小屋は簡易的な要塞だ。迫撃砲の雨は小屋で凌げて、崩れた壁は銃眼になる。

 それでも。


「ぐぁっ!?」


 僕の隣で撃っていた兵士が、胸に銃弾を受けて倒れる。人の死は何度も見てきたけど、やっぱり、慣れない。何でここに残るなんて事をしてしまったんだろうって、周りに溢れる爆音と人の死に、僕は後悔すらしはじめた。

 けど彼女は違った。


「ジゼット、その銃頂戴」

「これ?」

「そっちじゃなくて」


 僕の持っているS550アサルトライフルではなく、今しがた撃たれて、衛生兵に引きずられていく兵士の居た場所に転がるF3ライフルを指差して、リリアは怒りも恐れもなく平然と語る。撃たれた人の事などどうでもいい、と言わんばかりに。

 拾い上げてそのバトルライフルを手渡すと、小さな体に不釣合いな長く重い獲物にもかかわらず、リリアはアイアンサイトのそれを手馴れたように構えて撃つ。山の狩りで磨かれた射撃術は確かなもので、どんどん当てていったらしかった。ただ淡々と引き金を引いているあの姿は、射的をするエリーさんにも似ていたと思う。

 迫撃砲が飛んできて、機関銃の制圧射撃が入って。僕達が頭を下げて引っ込む間に敵はどんどんと距離をつめてくる。一人3マガジンも行き届くかどうかという僕達の弾薬はすぐに底をついて、射撃は散発的になった。僕とリリアは何とか無事だったけど、ここまで来ると後はもう、できる事は弾のない銃を抱えて耳を塞ぐことだけだった。

 そうしてどれくらい経ったか。




 着剣




 その号令が、小屋に響いた。援軍の当てがあるのか、後送部隊の為の時間稼ぎなのか、死の美学なのか。その命令にどんな意味があったのかはわからないけれど、それで数瞬場が静まり返ったのは覚えている。

 続く銃声と砲声に、思考が鈍っていたのかもしれない。一人でも多くなんて息巻いて、僕は手にしたライフルに銃剣をつけた。なぜかリリアは銃剣を持っていなかったので、負傷者から借り受けてリリアのカービンライフルにつけてあげた。その際に正規軍派遣の兵士から、子供は銃を置いて向こうにいなさいと、負傷者の集まる場所を指差された。負傷者と一緒に投降しなさいと言う意味だったのだろうけど、爆音と銃声で変に高揚し頭のおかしくなっていた僕はいいえ戦いますと言って、兵士さんに渋い顔をさせてしまった。

 頭がおかしくなっていたけれど、それでも恐怖はあった。でも脇にいる少女はここに至っても平然としていて、鼻歌を歌い出しかねない雰囲気だった。


「リリアは、怖くないの?」

「何が?」

「死ぬかもしれないよ」

「それで?」


 言いたいことがわからないとばかりに、リリアはきょとんとした顔をしていた。

 敵はいよいよ壁際まで来ていた。僕達は息を潜めながら思い思いの場所で待ち伏せたり、数名で集団になって突撃準備をしたりして。

 何かが、小屋の中に投げ込まれた。

 破片手榴弾。

 炸裂。それで数人が死傷した。

 敵が複数個所から突入。同時に着剣された銃を槍として構えた兵士が発声で威圧し己を高めながら突撃していく。怒号と銃同士がぶつかる音と、そして銃声で小屋は満たされた。

 僕は風車の歯車装置の陰に屈んで隠れていた。すぐ後ろにはリリアがいる。そして、見えたズボンが自分達の軍のものではない迷彩柄であることを確認して、構えて飛び出していった。三名いた敵の中から一番近い人を選んで、銃剣をまっすぐに向けて、そのまま相手の胸めがけて突き出した。

 けれど、たやすく払われてしまった。


「うわっ!」


 銃剣術はもちろん、格闘術の講習なんて受けていなかった。軌道を逸らされて、バランスを崩した僕はそのまま地面に転がる。

 すぐに自分に向けられた彼らの銃は、火は噴かなかった。


「またガキか。徴兵制なんて聞いてねぇぞ」

「手を上げろ、撃たれたいのか!」

「さっさとしろ!」


 彼らは言いながら、僕の持っていた銃を蹴り飛ばす。僕は丸腰になってしまった。

 銃口が自分に向いている。あの時の感覚は今でも良くわからない。多分とても怖かったんだろうとは思うけれど、頭が真っ白でどうしていいかわからなかった。手を上げろと言われても、手を上げるって何だっけと思って、固まっていた。

 その時だった。

 最初に自分が銃剣で狙った敵のわき腹に、僕のではない別の銃剣が突き立った。リリアが、僕に続けて飛び出していた。

 無意識のうちに殺人と言う行為を忌んだ、というよりは単純に勢いと力が足りなかったのだろう。胴体部に突き出された銃剣は敵の着込んでいたアーマーに浅くしか入り込んでいなくて、人体のほうには殆ど影響を及ぼしていないようだった。

 当然敵は反撃した。銃床で、リリアの顔を横殴りにする。彼女は手にした銃は取り落とさなかったけど、それでリリアはよろけた。


「痛‥‥‥」

「リリア!」


 叫ぶ僕に、いいからホールドアップしろと他の兵士が足蹴りを食らわせてきた。刺された敵も、今度はリリアにその武器を向ける。刺された怒りからだろうか、今度は警告なしに発砲しそうな雰囲気だ。




 それが、すべての始まりだった。




 目で捕らえられなかった。

 次の瞬間には彼女の手にした銃の銃剣が、一度はアーマーに阻まれたはずのそれが、深々と男の胸を貫いていた。リリアががしっかりと、突き出していた。

 呻き声を上げながら、敵が崩れ落ちる。ずるりと抜けた赤濡れの銃剣で、倒れたその男の喉元を再度刺突。

 僕よりも訓練されている敵兵士は、十分に迅速に対応した。標的をリリアに変えてライフルを向ける。もはや呼びかけなど必要ない、目の前で仲間を殺した敵はすべからく殺すものだ。けどそれよりも、彼女の銃剣が二人目の胸を貫くほうが速かった。

 引き抜いて、振り上げ、振り下ろす。その挙動すら捕らえきれないまま、三人目の兵士は頭部に食らう。着剣装置の根元から折れるほどの勢いで振り下ろされる凶器。切断に適さない銃剣で、相手の頭蓋はヘルメットごと潰れた。

 騒ぎを聞きつけたのか、他の場所の掃討が終わったのか。敵兵士がやってくる。

 リリアは着剣装置の壊れた銃を投げ捨てて、血塗れた銃剣のみを拾い上げた。その時彼女は。




 嗤っていた。




 楽しいものを見つけたかのように。

 そしてリリアは駆け出して、奥の部屋へと消える。直後には、悲鳴が響き始めた。何とか我に返った僕は、慌ててリリアの後を追って、そして部屋の手前で足を止めた。

 目に映るのは、惨劇だった。

 彼女が腕を振るうたび、手にした銃剣が次々に兵士を刺し斬り、叩き潰していく。ボディアーマーはそのまま貫かれ、ガードしようとした腕ごと胸を貫き、銃剣が折れれば持ち主のいなくなった銃を拾い上げて、棍棒でも振るうように頭部を潰していく。ひしゃげて使い物にならなくなれば、また別の銃を拾う。時折思い出したように引き金を引いて撃つ。

 銃で撃とうと、格闘を挑もうと、敵兵士達が何をしようと、すべては無駄だった。彼女には当たらない。やがて恐怖に逃げ出していく兵士が出始めたけど、その背中も逃がさないと、彼女は偏見なく刺突していく。そしてとうとう、彼女を害しようとする者はいなくなった。

 床は肉塊と、血溜まりで溢れていた。

 その只中で、少女が一人。

 腕を抱いて、震えている。


「あは」


 笑っていた。

 こんなに殺して。

 とても楽しそうに。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」


 狂ったように。

 いや。こんなの狂っている。

 僕にだってわかった。これは化物だと。そして感じた。敵兵に銃を向けられた時よりも恐ろしいと。理解し得ない異物を前にした恐怖、強大な脅威を前にした恐怖。ただただ怖くて、僕は何も言えなかった。

 その化け物が、ゆらりと僕を見た。ただただ、嗤っている瞳。快活な明るい少女はそこにはない。見つめられただけで心臓が止まりそうだった。

 そんな僕には興味が沸かなかったのかもしれない。代わりに、化物は足元を見た。そこでは銃剣の一突きを食らって、それでもまだ息のある敵兵士が痛みにもがき呻いていた。

 そんな彼に、化け物は手にした武器を向ける。銃口が、頭を狙う。

 フルオートの、銃声。

 弾倉が空になるまで、顔に叩き込まれる。人間の頭蓋だったはずのそれは、言葉にするのもはばかられるぐしゃぐしゃな姿になって動かなくなった。

 数時間前まで意気揚々と戦地に残って、率先して銃剣を着けて勇んでいたのに。そんな自分はどこにもいなかった。こんな凄惨な光景を見て誰が戦争なんてやりたいと思うものか。怖い、家に帰りたい。そして。

 ここにいたら、この化物に殺される。お願いだから殺さないで。

 あまりの恐怖で、足も動かない。




 化物が、銃を床に落とす。




 化物が、屈んで口元を押さえる。




 笑いを堪えるように。




 打ち震える姿すら、恐ろしくて。




「ぐ‥‥‥」




 化物が、呻く。




「っ‥‥‥うぇ‥‥‥!」




 化物は、彼女はよろけながら壁際に寄ると、必死にこみ上げるものを押さえていた。

 そして再度、僕を見た。

 今度は笑ってはいない。

 ひどく顔色が悪くて、ひどくぼろぼろで、今にも泣きそうで、助けて欲しいと訴えているようで。

 その表情に、強く胸を打たれた。

 僕は。


「り、リリア‥‥‥?」


 名前を呼びながら、何とか足を引きずって近寄った。何かしてあげられることも思いつかなくて、兎に角何かしようと言う思いだけがはやって、リリアの頭を抱いてみた。

 この子は化物じゃない。化物ならこんな風にはならない。自分が先ほどまで銃剣を携えて意気揚々としていたように、リリアもきっとそういうので変になっただけだ。

 リリアはまだ震えている。たまらなく可哀想で、そんな彼女を、守りたいと思った。

 別の場所で敵を追い返した味方の人が来ても、しばらくそうしていた。





 ■





 語り終えて、ジゼットは俯く。


「見たのは、その時だけです。あれからは。狩りと同じだよって言って。掃除屋を始めてからは、楽しんでいるようにすら見えます」


 それは間違いないだろうとクリスは思う。普通の人間の感性をしているなら、これまでの大逸れたことは出来るはずがない。何が原因にせよ、リリアの頭のネジが数本吹っ飛んでいるのは事実である。加えてあの説明のつかない身体能力とくれば、普通の子供として見ろと言うのが難題だ。


「でも僕は、あの時のリリアを信じているんです。リリアは本当は、殺すのは嫌いなんです。死体を見るのは嫌いなんです。僕が言っても、止めてはくれないけど。それでも」


 ジゼットは熱っぽく語る。

 今までだったらジゼットの話は信じないところだったが。しかし、誰かを撃って取り乱すという姿を見せつけられた後だと、本当のリリアとは少年が信じる通りなのかもしれない。

 すごいなと、クリスは思った。惚れた男の、という奴なのかもしれないが、こうしてリリアの傍にじっといてやると言うのも中々出来ることではないだろう。もっとも、これは悪いことだよ、と堂々と諭せないことこそジゼットが心苦しく思っているところでもある。


「そっか。少年の言いたい事はだいたいわかった」

「すみません、こんな話を」

「逆逆、聞けてよかったよ」


 行こうかと呼びかけて、とうに届いていた注文品を持って二人は席を立つ。


「困ったことがあったらいいなよ、嫁の尻に敷かれてる状態じゃ物も言えないでしょ」

「あはは‥‥‥」


 照れ隠しに笑って、ジゼットは目を細める。


「僕もリリアも、一人っ子なんです」

「私もだよ。確かエリーもじゃなかったかな。うちもねぇ、母親が早くに死んじゃって、親父も私を残して妻の尻追いかけちゃった。天涯孤独だ、悲しいねぇ」

「あ~、その、僕の両親はまだ生きているんですが」

「そうなの。てことは、親元を飛び出して女と逃避行。そして数年後、突然嫁を連れて帰ると。そこから始まるどたばたコメディ。あら、映画一本できそう」


 茶化すクリス。残念ながら彼にはその気がないようだし、そういう年齢でもないのだが。

 そんなクリスを身長差から見上げて。


「もし、自分に年上の兄弟がいるとしたら。クリスさんやエリーさんみたいな、感じなのかなって」

「それはいい、君みたいな弟なら大歓迎だ。あのクソガキは知らん」


 いらないから少年にあげるよ、と付け足して、二人は受け取った飲み物を持って車の元まで戻ってきた。

 店の中でクリスとジゼットが座って話しているところを見ていたリリアが不機嫌顔をしてきたので、クリスは飲み物を渡すついでにその綺麗な銀髪をわしゃわしゃとかき混ぜてやった。




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