3-23 おじさん
救命ボートと言う揺り籠の中に入れられたリリアは、その場で蹲っていた。膝を抱えて、丸くなっていた。
わからない。
わからないのだ。
どうしておじさんたちが自分に銃を向けてきたのか、そして撃ってきたのか。おじさんを守るのが仕事だったはずなのに、あんなにいい人だったのに。
あの場から逃げたのは、殆ど無意識だった。あの場に残るのが怖かったのだ。死への恐怖ではなく、何か別の、胸のもやもや。リリアは、それを表現する言葉を持たない。
思えば変なことが続いている、とリリアは思った。誰かを殺して、仕方ないと呟きながら誰かの意見を求めたことなんて、今まで一度もしなかった。アナベルの時だって、普段なら銃を向けられた時点で刺し殺していただろう。なのにそれをしないで待ち続けた上に、クリスにどうしたらいいかだなんて尋ねて。どうして斬り殺すんじゃなくて殴り倒したのかも、わからない。
きっと気まぐれだったのだ。そう考えるようにして。
それでも。
自分がこんなにも動揺している理由も、それをどうすればいいのかも、わからない。
(クリスは)
クリスは、戦わなくていいと言った。ここでじっとしていなさいと。
そうすればいいのだろうか。そうすれば、この胸の苦しさやよくわからない考えは全部きれいになるんだろうか。クリスやエリーが全部解決して、自分のところに戻ってきてくれるのだろうか。
そして、また胸がもやもやする。
どうすればいいかわからなくて、誰かにすがるなんて。
まだ、銃声は続いている。
やることがわからなくて、どうしても外が気になって、頭を上げてみる。だがリリアの位置からではサイモンの傍にいるクリスも、屋上で狙い撃っているエリーも、出入り口で戦う私兵も、見えはしない。銃声だけが、賑やかで。
「ねぇ、どうしたらいいの?」
呟きは、誰の耳にも届かない。
そうだ、と思い出す。トランシーバーのインカムをまだ耳につけていた。操作方法は習ったばかりだ。ボタンを押しながらしゃべれば、それでいい。そうすればクリスとエリー両方に聞こえるらしい。
リリアは手を伸ばして。
手を止める。
(聞いて、どうするの)
通信するべきクリスからは戦わなくていいと言われたばかりだ。どうすればいいか、答えはもう聞いているのに、何を話すと言うのか。
どうしてこんなにも誰かとしゃべりたいと思うのだろう。どうしてこんな時にジゼットは傍にいてくれないんだろう。
どうしてこの世界は、こんなにもつまらないんだろう。
何かを求めて、いろんな方角へ目を向ける。けれど、何もない。だから追い求めた視線は自然と、クリスがいるであろう方角に向いて。
あるのは、コンテナの山。
ここをずっと見ていれば、影からひょっこりクリスが顔を出してくれるかもしれない。インカムをつけたままにすれば、またしゃべりかけてくれるかもしれない。どうしてそれを望んでいるのかは、わからないけれど。そうしたいと、リリアは思った。それくらいしか、思いつかなかった。
だから、待つ。
近くの銃声が、一気に増える。叫び声もだ。近くの室内で戦っているらしいことはわかった。
見えないことにもどかしさを感じつつも、待つ。
銃声と怒声が支配する世界。たまに、エリーとクリスの世界だけの話がトランシーバーにも乗って。
「あれ?」
その世界に、異物が入った。
重たい扉を開けるような、ギィという音が聞こえる。そして同時に、リリアの目の前で下部へと続く甲板が開いた。あんなところにも出入り口があるらしい。
一体誰が来たのだろうとじっと見つめる彼女の前に。
スーツ姿の男が、上がってくる。
サイモンの私兵か、自分を撃ってきたおじさんたちか、どちらのスーツの人だろう。顔をいちいち覚えているわけでもないリリアには判別は出来ない。そんな彼女が眺める中、一人また一人と上がってくる。
いや。
「あ‥‥‥」
声を、漏らす。
一人だけ、知った顔。
いろんな国のきれいなものや、楽しいお話を聞かせてくれた。
「おじさん‥‥‥」
リリアが見つめる中、おじさんを含めた5名がコンテナの影に並ぶ。
おじさん。
「後部右側、5名が階段で上がって来てる。味方?」
「そんな話は知らない。この区画に侵入できるのって正面通路だけじゃないの? まずった」
耳に刺したインカムが、エリーとクリスの会話をリリアにも渡した。
おじさん。
今のクリスにとっては、敵の人。
相手の狙いはサイモンであり、そうしようとすれば自然とクリスと戦うことになる。詳しくは覚えていないが、サイモンの護衛にクリスがつくことになっていて、その人数は少なかった気がした。
クリスは、勘とか何とか言って敵が来るのを告げたりするが、戦いの腕前はどうだっただろうか。確か一番最初に仕事を一緒にした時は、たいした事はないかなと思った記憶がある。可もなく不可もなくというか、今まで会って来たそこらの掃除屋とそう変わらないかなと。事実、勘を利用し致命的状況を回避した立ち回りをしているというだけで、クリス自身の腕前は特筆することもなく平凡未満ですらある。
そんな彼女が、彼らと戦う。船の端だ、逃げ場などない。
スーツ姿の男達は、各々に武器を携える。
このまま。
このまま、クリスの言う通りじっとしていたら、クリスはどうなるだろう。
きっとクリスのことだ。また勘と言って何とかしてしまうかもしれない。大丈夫、クリスは何もしなくていいと言った。何もしなくていいのだ。
何もしなかったら。
おじさんが、クリスを殺すのだろうか。
クリスが、おじさんを殺すのだろうか。
だめだ。
クリスにはちゃんと迎えに来て欲しいし、おじさんにはまた面白い話の続きをして欲しい。二人には怒ったり、笑ったり、困ったりする顔を自分に向けて楽しませて欲しい。
どうしたらいいのか。何もしなかったらどうなるのか。
リリアの手が、鞄に触れた。
中には、サブマシンガン。
国の為、誰かの為。そんなサブマシンガンの名前。
少女の息が、荒くなる。
クリスの言葉が、頭の中で回る。
(自分の、やりたいこと)
エリーの言葉が、頭の中で回る。
(人を、殺したいの?)
違う。
やりたい事は、多分、ある。
そうするためには、どうすればいいのか。
それを叶える方法を、少女は今のところ、ひとつしか知らない。そうして生きてきたから。
リリアは鞄の中から右手にWIPKAサブマシンガンを取り、左手にスローイングアックスを持ち。ナイフを刺したベルトは既に身につけて、バッグをボートの中に置いて。
救命ボートから、飛び降り。
駆け出す。
まっすぐにやってくる駆け足の音に、5名の男達が気づきハンドガンを向けた。
警告もなく、発砲。
銃口を見て、線を避ける。
一番手前にいた男の懐に潜り込み、手にしたアックスで切り上げの一閃。拳銃を持っていた右の脇を、深く切り裂く。
そのまま通り過ぎ、二人目の右足の付け根にアックスを叩きつける。力任せに殴りつければ、たとえ斬撃に適しない品であっても何でも壊せる。何もかもを無視して、骨ごと砕く。痛みに絶叫をする彼からアックスを引き抜き、三人目。
三人目の銃口が向こうとする。白兵には少しばかり距離があり、したがってリリアは左手のサブマシンガンを放つ。この咄嗟の判断力は少女の自前のものであるが、まさしく人を殺すのに正しい。構えるのも撃つのもリリアのほうが速い。わずか1秒ほどで吐き出された、25発弾倉のおよそ半分の弾を身に受けて、男は倒れた。
(これじゃ、だめ)
銃は強すぎる。これでは、殺してしまう。
四人目の男の射撃を避けつつ、肉薄。右手の斧でも左手の銃でも、相手を殺してしまう。なら。
リリアは勢いをつけて、回転蹴り。小さな少女の蹴りが大きな男を吹き飛ばし、海へと叩き落した。悲鳴を上げながら、落下していく。あるいはこの男が一番の幸せだったのかもしれない。
5人目。
それはおじさん。
おじさんもまた、リリアに銃を向けていた。そこには遠慮も配慮もない。ただ撃ち、殺す為に武器が向けられ放たれる。今更少女には無駄だ。それを回避して。
リリアは口を開く。
それが、少女のやりたいこと。
「こ‥‥‥降伏、して」
「こいつっ!」
声は後ろから。足を斬られ床に膝を着いていた二人目の男が、まだ握っている武器でリリアを狙う。
どうして。
エリーの言った通り、圧倒的な力を見せた。そしたらお話が出来るはずなのに。
「なんでっ!」
詰め寄り、片刃の斧をくるりと半回転。刃ではない方向を向けて、横に殴りつける。
あるいは薪割り斧のような片刃であればただの打撃になりえたであろう。だがリリアのそれはスローイングアックスで、刃でない部分も投擲用にそれなりに鋭く加工されていた。斧が、男の側頭部に突き刺さり叩き割る。脳をやられれば、人は死ぬ。
動揺、する暇もない。崩れた二人目の男の影で、右腕を斬られた最初の男が銃を逆手に持ち代えて反抗しようとするのが見えた。それまで当然のように行ってきた生存本能とも言うべき反応で、リリアはサブマシンガンを向けてトリガーを引く。貫く銃弾。それで男は今度こそ床に伏せて死んだ。
そのまま、身を屈める。直後、リリアの頭上を弾丸が飛び去っていく。
振り向く。目の前にいるのは。
おじさん。
目と目が、会う。
「降伏、して。おじさん」
返答は、銃弾。これは射線が元から外れている。従って避ける必要はない。
まだだめだ。もっともっと圧倒的な力を見せないと、ダメだ。
リリアは血肉を塗りつけた斧から手を離し床に捨てた。今までやったこともない手加減だなんて出来ない。斧ではダメだ、これではあまりに威力がありすぎる。代わりに、腰からスローイングナイフを抜き取る。同じ刃物でも、少しだけ長さが違って、少しだけ殺傷力が落ちる。
走り出す。
一発、二発と放たれる弾丸を潜り抜けて。
ナイフを振るう。狙うのは、銃を持つ右手だ。手首あたりを切りつけるつもりだった。
一撃はしかし、一歩後退され腕を引かれて空振りに終わる。追いすがってもう一振りを放ったが、これも避けられた。小柄な少女の体では、徒手のリーチなど知れている。少女は驚異的な身体能力ではあるが、殺す為ではない躊躇いある速度の斬撃は、軍をかじったことのある人間ならば何とかならなくもない。常識から大きく外れた速度であることを除けば、リリアの近接攻撃は格闘の型もなにもない、子供がただ喧嘩の為に繰り出すような大振り粗雑な攻撃なのだ。
引くことは考えない。距離をとる故に銃で撃たれる危険性、ではなく、意地として。
踏み込んでもう一度振るう。これも、避けられる。
手がだめなら、腕を狙う。
斬るのではなく、投げる。
「ぐっ」
男の上腕に、投擲されたナイフが突き立つ。痛みで獲物を取り落としそうになるが、堪えて少女に向ける。
だが次には男の右太腿にも激痛が走る。一挙動で抜き取られ投げられた次のナイフが、深く食い込んでいた。
痛覚に気を取られた、その一瞬でリリアは飛び込む。
文字通りだ。甲板を蹴りつけ、一気に加速して、男の胸に体当たりをかけた。回し蹴りひとつで大の男を吹き飛ばせる脚力が生み出したタックル。少女の体がいかほど軽かろうと、体勢を崩した男を飛ばすには十分すぎた。二人の体は一体になりながらわずかに宙に浮き。
少女の体を受け止め背中から倒れた男の右腕に、リリアは手にした三本目のナイフを甲板に縫い付けそうなほどに叩き付けた。
静寂。
ゆっくりと、少女は男の胸から顔を上げる。
男のわき腹にサブマシンガンの銃口を押し付けながら。
二人の視線が、交錯する。
何もない。男の目には怒りも悲しみもなく、リリアの瞳にも喜びの色はない。それらはむしろ真逆ですらあるのかもしれない。ただ、静かに、視線を交わす。
静寂を破るのは、少女の言葉。
「もう、いいよね」
祈るように、願うように。弱弱しく。
男は、静かにかぶりを振る。
「その銃に弾は入っていない」
確かに、リリアのサブマシンガンは弾切れだった。また、男の左腕はフリーのままで残っており、確かにこの体勢からでも抵抗する術はある。だがそんな事は、ここまで来れば大きな問題ではない。格闘能力で上を行くリリアを相手に勝利を握るのは、困難を越えて無謀と言うべきだ。
揺るがないのだ。圧倒的なのだ。
だから。
「私は、おじさんを殺したいわけじゃないわ」
だから。
男はすぐには答えない。
ひとつ。
溜息。
「武器は完全に捨てさせなさい。武器が手元にあると、不利を感じ取れず抵抗をしてくることがある」
「じゃあ、捨てて」
促すと、男はあっさりと右手にした銃を床に滑らせて手放した。
「やるなら四肢を封じなさい。相手の背中に回るのが一番だ」
「うん、わかった」
「必ず呼びかけることだ。わかりやすく相手に伝わる。話も早い」
「うん。降伏して、おじさん」
「わかった。降伏しよう」
言葉を聞いても、リリアは銃とナイフをどかさない。
本当に降伏してくれたのだろうか。階段で出くわした時のように、撃ってはこないだろうか。
撃たれることが怖いのではない。そんなことはされたとしてもどうにでもなる。ただ、また嘘をつかれるのが怖かった。
「本当に?」
「本当だ」
念押しに、男は頷く。
リリアは。
銃を取り落とし、ナイフからも手を離して。
そして男に体を預けた。抱きつくように。
言葉を信じたいと思った。
やはり、おじさんの事は好きだったから。
「本当よ、おじさん」
「あぁ。階段の時はすまなかったな。早とちりの者達がね」
「いいわ。後でまた、面白い話を聞かせてね」
「そうだな」
彼は開いた左手で、そっと少女の頭を撫でる。それが少女には心地よくて。
静かな、でも、体温の分だけ暖かい世界。
リリアは目を細めて、おじさんの胸に当てた耳でその心音を耳にする。少し速いテンポだけれど、規則的で。
「さて、どいてくれるか。右足のナイフに体重がかかって、痛いんだ」
その言葉通り、突き刺さったナイフにリリアの足がかかって、抉るような格好になっていた。言葉にはっと我に返ったりリアは、飛び起きて男を解放する。
ナイフを三本身に受けた男の出血は、狙っていなかったとはいえ大きな動脈は傷つけておらず、それほどではなかった。一本深々と突き刺さった前腕のナイフを、これはさすがに眉間にしわを寄せながら抜き取って、地に落とす。
一通り終えて、体の具合を確かめて。
「敵の武器は奪うか、遠くに蹴り飛ばすかしなさい。近くに転がっていると拾って使おうとするぞ」
「わかったわ」
「相手からは目を離さない。警戒は解くな」
言われた通り、リリアはおじさんを注視しながら、床に転がっている拳銃を海に蹴落とした。落ちる音は、波の音にかき消されて聞こえない。
確認して、男はひとつ頷く。
「後はホールドアップさせるなり、拘束するなり。以上だ」
「おじさん」
「何だ」
「どうしてなの?」
リリアは、男を見上げた。
どうして。
「このお仕事は、金髪の人の代わりにおじさんを守るお仕事だったわ。でも、おじさんは金髪の人を攻撃してる。おじさんは悪い人なの?」
「経緯は、それぞれあるがな。世界は、どちらが良いどちらが悪いということはない。お互いの正義がぶつかり合って、お互いの悪意がぶつかり合う。どちらも正しいしどちらも正しくはない。ただ、勝ったほうが正義を名乗れる」
「???」
「難しかったか」
いまだ向かいから響く銃声に、男は腰を下ろしてコンテナに背を預けた。既に投降している身だが、それ故に向こうが落ち着くまではやることがないからだ。船の戦い自体は決着を見ておらず、終わらなければ捕虜の処遇など話している余裕もない。
体を落ち着けた男に、リリアは寄っていって隣に座った。
見つめる海は、何も変わらない。
「私は悪い人間ではないし、サイモンも悪い人間ではない。結果的に裏切りと見える私も悪いし、会社簒奪を狙うサイモンも悪い。東の国では、喧嘩両成敗と言う言葉もあるな」
「私はお仕事で人を殺すわ。ギャングとか、武器密売人とか、悪い人たちでしょ?」
「それを殺していく君も悪い子だ。殺人は国の法律で裁かれる事柄だし、道徳として決して誉められることではない」
「私は」
私は悪い事はしていない、と言おうとしてリリアは辞めた。いつもだったらそう切り返しているところだが、おじさんが悪い子だというのならそうなのかもしれないと。
「君は悪い子だ。想像に過ぎないが、手にかけた人数は10や20ではきかないだろう。あまりにたやすく人を殺しすぎている」
既に息絶え転がっている仲間を見つめて。
同僚の死だ。少女に対して思うところはないわけではない。だがそれでも、彼は視線を落として少女を見る。表情は崩さない。
「人を殺すのは好きか?」
リリアは顔を上げた。男は笑ってはいなかったが、怒ってもいなかった。
エリーにもされた同じ質問。それに、リリアはややむくれて。
「好きじゃないわ。嫌いでもないけど」
「どちらかで答えなさい」
「え~」
唸って、そして悩む。
人間の血にも臓腑にも興味はない。結果的にぶちまけられるそれに、斬り殺し殴り殺すその感触に、どうしても感想をつけなければならないとしたら。
たまらなく高揚する瞬間は、ある。すべてが愉快になり、すべてが痛快になるひと時。遠慮なく力をふるって、壊して、殺してく。その過程が、結果が、その時だけはたまらなく心地よい。
けれど。
あのぐしゃりと潰れる感触は、血の生暖かさは、あの匂いは、改めて考えれば不快を感じることもある。
そうして考えて、エリーに対して答えたあの自分のことも考えて、答えを出すとするのなら。
「嫌い、なのかな?」
「ならば。君は良い子になれる」
「‥‥‥うん」
それが、良い子と思われるらしい。なんとなくだけ、リリアは理解する。
もちろん自分は自分の勝手にやりたいが、それでいけないことだ悪い子だと言われるのは癪だ。おじさんみたいな人になら、良い子と思われたい。良い子にすれば、いろいろしてもらえるだろうから。
「君が何を踏み外して殺し屋になったのかは知らない。だが、君は人殺しが嫌いなんだ。自分のその気持ちは、覚えておきなさい」
「‥‥‥わかったわ」
自分は、人殺しが嫌い、らしい。良い子であるにはそうである必要があるらしい。よくわからないけどそうらしいとだけ、リリアは頷く。
「まったく理屈に合わないが、君には力がある。人を容易に殺せる力だ。だが、その力ではもっと別のことができる。私を殺さずに降伏させることも。好きな道を好きなように選べる。今の道だけがすべてではない。好きに生きるのは嫌いか?」
「ううん、大好きよ」
「ならば好きに生きなさい。そして、好きに生きる為に、いろいろなことを見て感じて学ぶことだ」
述べて。
そこで始めて、男は軽く頬を緩めた。
「次の時に、役に立つ」
やっと相好を崩した男に、リリアも気持ちを軽くさせた。
直後、炸裂音。反対側では丁度、クリスが閃光手榴弾を投げたところであった。
まだ戦闘は長引きそうかなどと考える男の脇では、調子を取り戻したりリアが目を輝かせていた。リリアにとってこの程度の爆発音は、自身に影響しないなら対岸の火事以外の何物でもない。
「おじさんが教えてくれるの?」
「話を聞かせただろう?」
「もっといっぱい聞きたいわ」
言葉に、男は嘆息する。
「おしゃべりなら仲間としなさい。君の傍にいてくれる人間だ」
「エリー達?」
「そうだ。大切にするといい」
エリー達を大切にする。これまたリリアには良くわからない感覚だ。エリーは気に入っているし、クリスも真面目な時はいろいろとしてくれる人だというのはわかったし、不満に思うことだってあるけれどリリアとしてはそんなに不服はない。それは、ジゼットが傍にいる時に近いような感じではある。
大切にすると言うのが具体的にどうすることなのかはわからないが、特に否定する気もなかったのでリリアは頷いておくことにした。
銃声の演奏会が終わるまで、二人はしばし海を眺めた。




