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3-21 奇襲




 元軍兵、警察官、傭兵やPMC経験者。

 元々、荒事への遭遇が多かったサイモンの私兵達は相応の経験があるか訓練を積んでおり、民兵上がりのクリス達とは比較にならない錬度を持っていた。銃器の扱いもなれたもので、指示さえあればそれをこなすだけの肉体と精神力を持っている。

 そんな彼らが、珍入してきた即席の司令官を得て、動き出す。

 1班と呼ばれたチーム6名が、見つけた縄梯子を使って後部甲板に降り立った。上階のサイモンの部屋を襲撃するという関係上、後部甲板に敵の見張りはいない。誰もいない地点を制圧した彼らは後続のチームに合図を送って、そして指定された客室を各々の方法でこじ開けて、部屋で待機した。

 合図を受けた3班も降下を開始する。サイモン及び護衛のチームだ。彼らは降り立つとサイモンを連れて船の後部へと移動し、コンテナの陰に隠れた。その途上、クリスはリリアの手を引いて一隊から離れ、舷側へと移動する。そして緊急時用として吊ってあった救命ボートを見つけると、これ幸いと少女の体を抱いてボートの中に押し込んだ。急場の隠れ場所にはなるだろう。


「クリス‥‥‥ん」

「いい子にして待ってなよ」


 困惑顔で見つめる少女の頭を撫でて、クリスはサイモンの元へと戻っていく。

 普段は憎まれ口で、自分に厳しくて、つい最近では自身の勝手に怒って。なのに。

 そんな彼女の後姿を見つめていたリリアだったが、すぐ近くから銃声がしたので頭を引っ込めた。

 銃声は上階からだった。残っていた殿役の2班が激しく交戦していた。味方の準備完了を認めて、彼らも縄梯子で脱出を始めた。クリスから預かったスモークグレネードを階段に投擲し足止めを試みようとしたが、意図を察知した襲撃側の元私兵が掃除屋に突撃を命じる。充満する白煙の中を突き抜けた彼らと、撤退行動中も絶え間なく銃撃が行われた。無事に後部甲板に降りられたのは、チーム6名中3名だった。

 高所を制圧した襲撃側は、身を乗り出して甲板の彼らを攻撃しようと身を乗り出し。

 そして、さらに高所を取って待機していたエリーから後頭部を射抜かれ、一人二人と沈んでいく。


「上だ、上にいるぞ!」


 彼らは応射もしたが、姿の殆どを隠せる所からの一方的な撃ち下ろし攻撃にはあまりにも分が悪く、彼らは首を引っ込めた。これで、上方からの圧迫はすべてエリーが押さえ込む形になる。


「ナイス、愛してるよエリー! そのまま頭抑えるだけでいいよ。敵が梯子上っていくかもしれないから気をつけて」

「了解」

「小船のほうはどうなってる?」

「ディーが撃ってる。向こうも近づいてこようとしない」


 敵の小型艇は、無理な接近は試みてこなかった。元々彼らは、ボートで脱出するかもしれないサイモンの追撃任務を負っていた。無理攻めなどする必要がなかったし、また、想定外の距離からエリーとディーの射撃を浴びて泡を食ったのもある。客船撃沈が任務でない以上、味方のいる船めがけて据付の重機関銃を必要以上に叩き込むわけにも行かない。


「おっけー、ここまではよしと」


 後部甲板に繋がる道、客室通路のや舷側など後部エリアに繋がる通路を封鎖するチームの動向を見つめて、クリスは一息。とりあえず撤退行動と陣地の再構築は終了だ。エリーが孤立気味の位置なのが不満であったが、進入経路が少なく防御が容易な屋上であることに期待を寄せるしかない。

 襲撃集団は、階段を下りてきた。通路を警戒して、そして誰もいないことを訝しみながら、それでも標的は先にいるので前進せざるを得ない。勇猛ある人間が先に立ち、集団ならばと残りが続いていく。銃を正面に構えいつでも撃てるようにしながら、ゆっくりと船の後部へと続く道を行く。その後ろには、掃除屋を盾にする元私兵達が続いた。

 本来ならこれらの敵の動向を探る偵察が観測するべきものであるが、この閉所でこの手駒でとなると厳しい。すべてのチームには、次の指示があるまで頭を出さないように通達してある。なのでこれらの様子は、クリス達は完全には把握できなかった。

 だが、大きく問題にはならない。


「タイミングお任せね」

「もちろんだ」


 委託に、フェルトンが自軍用のトランシーバーを片手にする。まだ攻撃指示は出さない。それを遂行するだけの忍耐も、彼らの兵士は持ち合わせていた。

 敵が近づく。

 一番先頭の掃除屋が後部甲板へと警戒しながら踏み入ろうとした瞬間、出入り口脇で控えていた私兵が彼の側頭部を打ち抜いた。


「やれ」


 同時に、フェルトンの指示。

 通路の客室の扉のうちの三つが開け放たれた。そして、前方のみを警戒して廊下を進んでいた敵の側面から、二人一組で部屋に待機していた六名が所有していた破片手榴弾を投擲。不運にも開け放たれた扉の傍にいた襲撃者は、その体で榴弾の爆発とその破片を受け止めることになった。苦悶の声を上げながら、倒れる。一方で幸運を掴み取った者たちは狼狽し、そんな彼らに通路の出入り口で待機していた私兵が銃火を放った。狭い一本道の通路。遮蔽などあるはずもなく、隙を突かれた彼らは縦射を浴びる。

 スラングを吐き散らしながら応戦して打ち抜かれる者。

 後退しようと向けた背を打ち抜かれる者。

 臆病の極みで最後列にいたため逃げ切れた者。

 通路は血煙と硝煙に包まれ、奇襲を受け一挙にその数を減らされた襲撃者は一転して不利に立たされた。

 優勢を確信して顔を覗かせたフェルトンは、それらを確認して。


「それなりの戦果に見えるな」

「勝ち戦のお味はどうかね諸君。じゃ、一時だけど優勢は取ったから、気合入れてその戦線守ってね」


 士気は大事だ。士気さえあれば、例え銃弾がなくとも銃剣でも石つぶてでも何でも使って戦ってくれる。

 彼らには聞こえない声援を送り軽薄に笑うと同時、一息。失敗したら作戦立案者の立場がなくなるところだったわけであり、窮地になったり変に負い目を感じることもなくなったわけだ。


「誘い込んで戦力集中し奇襲クロスファイア、優勢を確保し押し込む。戦線は減らす。戦いの原則を概ね遵守しているな。本当に民兵か君は」

「こういうのは何度かやった。習ったんじゃなくて、そうしないと死ぬってのを見せられて理解したんでね」


 勇猛果敢に飛び込んだり、策もなくうろちょろして死んだ人間ならいくらでも目にしてきた。そうして生き残った人間同士で、ああでもないこうでもないと言いながら敵味方の位置を報告し合い、どうにか連携を取ったのだ。融通の聞かない部隊、勝手に突っ込む部隊、勝手に逃げる部隊をあしらいながら。役にも立たないので、エリーとクリスだけで待ち伏せ挟み撃ちなどという事もやったこともある。それに比べれば、人数は少ないし市内戦のように回り込める地形ではないにせよ、きちんと指示に従って結果を出してくれる私兵達は非常に頼もしい。それこそが軍人と民兵の差であった。


「これで兵数の差も縮まったでしょ。勝ちを確信したいところだねぇ」


 きちんと戦線も組みなおしたのだ。平押しでも勝てるかもしれない。

 そんなクリスに一目向けて、サイモンは口を開いた。


「こういう揉め事は結構あるんだ。どうだい、うちで働かないかい」

「そんで効率よく相手を殺してくれって? ちょっとどころじゃなく不愉快な話ね」

「給料は結構出るよ」

「そうだお金だ。あぁんどうしよ、悩むわぁ」


 生きるのにお金が必要なのであって、その稼ぎがいいというのであれば。しかしあまり真面目に考える気がなかったので、クリスはおどけて見せるに留めた。

 そうしているうちに、フェルトンの持っていたトランシーバーに通信が入る。


「何かあった?」

「通信室はほぼ制圧したそうだ」

「順調順調。防衛にいくらか残して、それ以外はこっちに来て後ろをつついてもらいたいけどどう?」

「恐らくはそこで交戦しているの最後の集団だろう。異議はないな」


 どれほど被害が出たかは不明だが、放送室側のチームが反転挟撃してくれるなら、後は戦争の大正義、数の暴力で叩くだけだ。最大の懸念が数で押し込まれてしまうことだったので、ここまでくれば勝ちも同然だろう。勝負ありと理解してさっさと諦めてもらえるとなおよい。

 あるいは。


「最後に突撃かまして来るかもね」

「よくあることだ」


 戦況を見極められず高揚に任せ、あるいは見極めた上で逆転の一手として、本丸を狙う。平押しが無理な以上、最早彼らの勝ち筋はそれしかない。

 とはいえ優勢を取って浮かれるような手駒でもなし。人数の少なさから来る防御の薄さはやはり遺憾ともしがたいが、立地も取ったのだ。短期的ならば耐えてくれるはずであると、クリスは楽観的に見積もった。

 だから、自分のことよりも相棒の事が心配になって、呼びかける。


「エリー、そっちは大丈夫?」

「ん」

「ま、あんたが大丈夫じゃないって答えることってないけども。何も起こってない?」

「ない。敵も来ない、船も離れたまま」

「りょ~かい。そんじゃあ任務続行でよろ」

「ん‥‥‥待って」


 目の前で起こった動きを見咎めて、エリーはそれを注視する。

 小型艇からの機銃攻撃を嫌ったクリスらが隠れているのは、後部でも左寄りの位置だ。その反対側、右側の甲板にあるハッチのようなものを開けて、5名ほどのスーツ姿の一団が船倉のほうから上がってきている。コンテナが邪魔で、クリス達からは視線が通っていなかった。


「後部右側、5名が階段で上がって来てる。味方?」

「そんな話は知らない。この区画に侵入できるのって正面通路だけじゃないの? まずった」


 図面のすべてを把握できたわけではない。そのハッチの存在はクリスが見落としたものだった。正面攻撃する掃除屋とは別に、元私兵達が回りこんできたのだ。

 味方ではないと聞いて、エリーが銃口を向ける。だがそれらの姿はすぐにコンテナの陰に隠れてしまった。

 敵襲の報に、サイモンも肩をすくめる。


「うまくいっていると思ったんだけどね。やれやれ、僕の悪運も尽きたかな?」

「運試しなら宝くじでもやってて」

「金は確実だけど、くじは不確実だ」

「金が万能なら、いい未来でも買い取ればいいじゃない」

「確実と万能は別物だよ」

「はいはい。エリー、行動監視できる?」

「コンテナで見えない‥‥‥待って」


 その彼らを追う、小さな黒い影をひとつ、エリーは目にする。

 何者かは語るまでもない。子供で、派手な黒衣装。この船の上に該当者は一人しかいない。


「リリアが行った」

「はい? 何であいつが」


 少女は救命ボートの中に置いて来たはずだ。そこから飛び出したというのか。何の為に。

 そう、クリスが訝しむ間もなかった。それよりももっと身近で、もっと重要なことを捕らえたエリーが警告を出したからだ。

 先ほどの一団とは丁度逆側にある、もうひとつのハッチ。クリスの隠れている場所からコンテナをひとつ挟んですぐ傍にあるものから、這い出てくる人間。

 エリーはライフルを構える。遠距離用スコープでは話にならないほどの近距離だが、スコープを外すその時間もない。


「クリス、側面警戒。すぐ傍に敵、挟まれてる」


 言うと同時、エリーはトリガーを引き絞った。




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