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3-3 面接




「まったく」


 むすっとした態度で、クリスは運転席で車のハンドルを握る。

 少なくとも、彼女が上機嫌になる要素はない。

 助手席ではエリーが横を流れていく景色を見つめ、後部座席のリリアは暇を持て余してはしたなくゴロンと横に転がっている。このところ一緒に行動する機会が増えている三人は、それぞれの宿や家でのプライベートタイムを除けば、だいたい毎日共にいる。何が珍しいでもないので、自然と会話のネタも少なくなるのだ。この会話のない空間は、三人の仲がある程度になっているという証左でもあった。

 そんな中でクリスが一人悪態を呟けば、耳につく。もちろんこの悪態は、車に居る仲間に向けられたものではない。


「また言ってる」

「だってさぁ」


 あるいはリリアが会話に乗ってくることを待っていたクリスは、バックミラーで少女の姿を確認しながら。


「何が悲しくてコーヒー豆を隣町まで買いに行かなきゃ行けないのよ。たかが豆よ? どれで淹れても同じだって」

「わかってないわねクリスは。紅茶は茶葉やメーカーで味がすごく変わるのよ。コーヒーだってきっと同じだわ」

「私が論じているのはねリリア。あのレアが、豆に拘ったところで大差ないでしょって事」


 言われて、リリアはふむと思案する。

 レアの料理は家庭料理とすれば及第点以下、飲食店のそれとすれば論外の出来である。あれなら、自分が作ったほうがより美味しくできるという確たる自信がリリアにはあった。そして別に、コーヒーだけはうまいというわけでもない。使う豆はいつも近場のマーケットで入手する比較的安物であり、レアが提供するコーヒー種類もひとつ。それなのに今回、手書き地図と住所を渡されて「ここの店のこれを買ってきて頂戴」などと言い出すのである。隣町まで行かされる事を知ったクリスが詰め寄ると、曰く「有名らしいから」だそうだ。


「まぁ、豆よりも料理の腕を磨くべきね」

「でしょ?」


 仲間にも同意を貰いつつ、クリスは道を右折。

 ウルティスに比べれば、近隣の町はどこも「マトモ」である。車上荒らしだの強盗だのは珍しくもないが、少なくとも銃声はワゴンセールされていないし、建設業者やらの一般人が正しく働ける環境ではある。こういう姿を見るに、お国もウルティスの惨状は理解した上で、どうしようもないのでとりあえずあの場だけ隔離したいのかもしれないとクリスは思った。

 いつかはこういうちゃんとした町に移り住みたい。あるいはリゼだけでも、と考える。彼女が今もウルティスに居る理由は、拾われたのがあの教会だったからというだけではないというのは、二人ともぼんやりと理解していた。無関係に生きているつもりでも、結局は自分達はリゼに心配されているらしい。

 普通に生きて、普通に恋をして、普通に死ぬ。そんな夢物語を、射撃班の友人達と話したこともあった。戦争が終わったら、皆で除隊して楽しもうねと。

 それすら高望みだったのだろうか。


「言っても仕方ないか。ほら降りるよ」


 適当な路肩に寄せて車を止めると、クリスは親友の肩をつつく。

 三人は車を降りる。そして、クリスは手にした地図を広げた。


「えっと。ここがアルプ通りで、そこに路面電車があって‥‥‥こっち? リリア」

「知らないわよ。私、文字読めないもん」

「看板とか支払いとかあるでしょ。今までの旅どうしてたのよ」

「ジゼットがしてくれたわ」


 得意げにするリリア。私の召使いは立派でしょとでも言わんばかりである。どうやら、戦闘以外のあれこれはすべて任せきりだったらしい。

 子供が使えないことがわかったので、エリーに救援を求める。頼られたエリーが確認して「ん」と同意したので、合っているらしいと、地図を頼りにクリスを先頭にして歩いていく。

 比較的大きい通りから、込み入った路地へと入る。一つ角を曲がればストリートチルドレンの居城とぶつかるウルティスだが、この路地はまっとうな商売をする古い街路であった。そしてその街路で見つけた目当ての店は、やや古ぼけた緑の看板を掲げる小さなお店。


「古い道に古い店。いかにもな老舗ですわ」

「へぇ。じゃあ行こうよ」


 物怖じを知らないリリアが、やや軋む扉を押し開く。

 店内は、これでもかとコーヒーの臭いが充満していた。飲み慣れているエリーにしてみれば、中々に心地よくすらある。いくつもの種類のコーヒー豆をつめた大瓶がカウンターに並び、小ぢんまりとしたカウンター席も見える。基本は販売店らしいが、ここで簡単な飲食も出来るらしい。その席ではスーツ姿の男性が一人、新聞を広げながらコーヒーをすすっている。

 カウンターには一人、白髭をたくわえ丸眼鏡をかけた初老の男性が居た。三名の来客を認めて、「いらっしゃいませ」と彫りの深い笑みを浮かべる。


「どうも。何だっけ、マンデリンって奴が欲しいんだけど」

「レア様のお使いですかな?」

「はい、そうです」

「伺っていますよ。こちらにどうぞ」


 裏にあらかじめ用意していたとしても商品を取りに行くだけでいいはずだが、なぜ案内されるのだろう。疑問に思いつつもついていかないわけには行かなかったので、三人はついていくこととした。

 男性が、奥まった場所の部屋の扉を開く。中へと入っていく男性に続いて。

 そこで、クリスは立ち止まる。

 表の狭さに対して、その部屋は広く取られていた。まるでこの部屋の為に表を狭くしたかのように、40人ほどが不足なく中で飲食できる広さがある。今は中央に大き目のテーブルが用意され、その向かいに男性が一人。クリス達のために用意されていたように、向かいには空席が三つ。そして両脇には10名ほどが立って待機している。いずれも同じ黒のスーツに、サングラスをかけている。

 どう考えても、一般の光景ではない。

 クリスは勘が働かなかったことにいぶかしみ、リリアは怪しい奴だと腰のスローイングナイフに手をかけ、エリーは背後を確認する。席でコーヒーを飲んでいた男が、いつの間にかテーブルに拳銃を置いていた。

 一人攻撃態勢に入ったリリアを見て、テーブルの男が片手を振った。


「物騒になってしまってすまない。これも安全の為だ、ご理解を頂きたい」


 一味の仲間だったのだろう。店主も脇のスーツ軍団の横に並んで、「どうぞ」と席に着くように促す。


「拒否したらどうなるの?」

「どうもしない。こちらとしては、また斡旋屋に連絡をつける手間が増えるが」

「あ、そ」


 レアとは面識があると見ていいのだろう。

 クリスの勘は相変わらず働かない。多分言葉通りの意味なのだろうと把握して、そして勘を信じることにした。


「リリア、私がオーケー出すまで暴れるの禁止」

「何でよ」

「とりあえず話を聞きましょ。あんたの実力なら、別にそれでもいいでしょ」

「‥‥‥わかったわ」


 自身とそれに対する正しい評価に、リリアはひとまず引くことにした。

 理由はもうひとつある。リリアは、相手がそこらのギャングのような腕ではないことは理解した。その上でクリスとエリーを守りながら勝つのは難しいと、彼女にしては現実を見た分析でリリアはナイフから手を離す。そして、いち早く席に着いた。クリスはエリーを促して、二人も座る。

 話す役はリーダーでもあるクリスだ。彼女はもう一度両脇に立って控える連中を一瞥して、どうやら拳銃を懐に忍ばせていることも把握して、改めて正面の男に向き直る。


「挨拶が遅れた。トゥルビネ貿易のサイモン・アルベルトだ」

「あら、依頼人さん?」


 これは随分と意外なことだ。レアからこの店に来るようにいわれたことを考えれば、会いに行けと言うことであるのだろうと思ったが、それにしても依頼人と掃除屋が面会すると言うのは今までに経験のないことだった。金は払うから仕事をしろという、匿名性のために極薄いラインで繋がるのが通例だからだ。


「君達の名前と顔写真は斡旋屋からもらったが、今日は面接のようなものだと思って欲しい。こちらとしても、多少は素性を知っておきたいのでね」

「はぁ。あ、一緒に仕事予定の奴がもう一人いるんだけど」

「聞いている。そちらも後ほどする予定だ」

「じゃあ問題ないわね。で、面接ってあれ? 御社の志望動機は~とか答えればいいの?」

「一目会って人柄を確認したかっただけだ。掃除屋と言うのは今回始めて雇うんだが、どうもピンからキリまでらしいからな」


 まさにである。掃除屋は登録制でも何でもない。昨日今日拳銃を握ったような人間でも、金目的でも名を挙げる目的でも単なる快楽殺人でも、掃除屋を名乗ればそいつは掃除屋なのである。その中でもリンクスの斡旋屋と繋がる奴は、腕前は比較的安定はするが、それとて何かしら訓練をした経験を持つ人間はそう多くはない。クリス達のように擲弾兵連隊としてばりばりに前線で戦っていた者もいれば、国民擲弾兵参加者という箔持ちでも、後方で荷運びしてましたと言うだけの連中も居るのだ。


「一応、斡旋屋から君達の仕事ぶりは聞いている。小規模ギャングの掃討が主らしいな。これまでにどれほど?」

「いちいち数えてないけど、多い時は三日に一回とかかなぁ。最近はちょっとさぼり気味」

「いい収入の仕事を受けたそうだな。それもあって、君達に招待状を渡す気になったんだが」


 どうも、自分達の与り知らない所で名が売れているらしい。あるいはレアがクリス達を売り込んだのか。あまり危険な仕事を受けたくないクリスにとっては決してよい事ではないので、喜ぶ事はしないが。生きるための金はほしいが、死にたくはないのである。

 別に、目的あって生きてるわけでもないけどねと、クリスは胸中で自嘲しつつ。


「君達は、どうして掃除屋になった。やはり金か?」

「生きるには必要なんでね。ま、なろうと思ってなったわけでもないから、仕方なくって感じ」

「今回は船旅になる。数日間拘束されるわけだが、もしその時期に被る報酬の高い別の仕事が来たら、掃除屋と言うのはそちらに飛びつくのかね」

「そういう奴もいるんじゃないの。あぁ、欠員出るの心配してるの? 大丈夫よ、一度仕事を受けたら基本辞退はするなってレアから言われてるし」


 途中で仕事を反故にすると「レアの店の掃除屋が云々」ということになり、斡旋屋の名のほうに傷がつく。回される仕事が減るのでそれは辞めてくれと言う意味であるが、それを抜きにしてもクリスは受けた仕事を放り投げる気はなかった。個人的に裏切りと言う行為を好まない、と言うのが一番。それにこういう仕事、どこで恨まれるかわかったものではない。勇名は広がるのは遅いが、悪名のほうはさっさと全国拡散されるのだ。隣に居る「リッパー」を筆頭に。ぽんぽん仕事を放り投げて、金につられて右に左にふらふらする奴、などという評価が定着した日には自分達の仕事がなくなる。

 「そうか」とサイモンは小さく頷く。


「貰った情報を見ても、君達にはあまり心配していない」

「それは、あんたらが雇う人間の中から裏切り者が出るかもってことかしら?」

「そういうことも、あるだろうな」


 警戒しろ、ということか。

 いつ誰が裏切るかわからない。背中にいた奴が突然銃口を向けてくるかもしれない。その点では、ほとんど無条件で信用できるのはこの隣にいる二人だけなんだなぁと、クリスは両脇の仲間達に目を配る。


「こちらからは以上だ」

「本当に顔を見にきただけなのね」

「そう言っただろう。何か質問はあるか。答えられる範囲でなら回答するが」

「う~ん」


 腕を組んで、クリスは天井に視線を泳がせる。頭を使うことは苦手だが、それでもリーダーらしくしようと懸命に思考する。

 そんな中、小さく手を上げたのはエリーだった。


「どうぞ」

「護衛目標、あなた達の行動予定は?」

「我々は港を出発し、南の国で仕事をして、また船で帰ってくる。その船上での護衛を君達が行う」

「襲撃情報は、どれくらい把握しているの」

「敵の戦力ということか。相手は小型高速艇を2隻確保した可能性が高い。人数については不明だ」

「船を沈めに来るの?」

「君達に乗ってもらうのはそれなりの大きさの貨客船だ。重機関銃も用意するし、携行ロケット程度は問題ない。恐らくは移乗してくるだろうと見ている」

「あなたは船内で護衛をつけて待機?」

「そうなるな」

「そう」


 そこまで聞いて、エリーは口を噤んだ。もう質問はないと言う意味だ。

 外からの襲撃可能性がある。遠距離戦となればこれはエリーの出番である。相手方に撃沈の予定がないのなら怖いのは船内からの強襲だが、それもリリアと共に行動していれば、依頼人の安否は兎も角自分達は大丈夫のはずだ。こうして考えると、遠距離も近距離もいけるいいチームになってるなと考えるクリスだった。

 そしてもうひとつ。

 エリーの質問で、クリスは疑問に思う点が出た。そして自分なりの精査の結果、疑問は正しいらしいと結論して。

 にやりと、嫌味たらしい笑みを浮かべて正面の男にぶつけた。


「ねぇおじさん」

「何だ」

「私達は、このおじさんを守ればいいのかな?」

「そうでなければ困る」

「あっそう」


 鼻で笑い、軽く身を乗り出す。


「ねぇおじさん。手品って好き? 最近巷じゃ流行らしいよ」

「そうなのか」

「そこでひとつ、私も手品を見せてあげようと思いまして。皆さんご静聴」


 言うと、クリスは見て右の人差し指を立てて、鉄砲の形を作った。

 そしてそれを、右手の壁に立つ端の人間から順に、人差し指を向けていく。

 一人ずつ、一人ずつ。

 そして全員を指差し終えたクリスは、改めて一人の男に指を向けた。

 それは右手真ん中にいる、短い金髪の男だった。特に動じることもなく指先を受け止めた男に、クリスは「バァン」とまったく似ていない発砲音を唇で紡いで。


「本物のサイモン・アルベルトは、あんただ」

「‥‥‥」

「さぁ結果やいかに」


 軽薄な笑みで答えを待つ。

 口を挟んだのは男ではなく、リリアだ。


「何言ってるのよ」

「おかしいと思わない? いやまぁ、疑問に思ったのはついさっきだけどさ。ボディチェックも武装解除もなしに部屋に案内されて、目の前に座ったあからさまな奴が一人。うちらの気分次第で、この場で襲われるかもしれないんだよ。こんな危険な役、ご本人がわざわざやる?」


 この面接もこちらの顔を見るのではなく、「目の前の男を護衛目標だと認知させる」のが目的だったのではないかと。そして。


「サイモン・アルベルト本人は実は船に乗らず、この影武者が乗り込む。雇われた掃除屋は知らずに護衛する。相手方に対してそれなり数の警備を見せ付けておけば本当に乗っていると思い込んで戦力を割いてくるだろうし、護衛失敗しても問題なし。ご本人は手薄になった別ルートをこっそり行く。こんなトコじゃない?」

「へぇ~」

「ほう。それで、なぜその男が本物だと? 君の話の通りなら、この場に本物がいる必要もない」

「タネを明かしたら手品じゃなくなるでしょ」


 余裕の笑みを崩さず、クリスは手で作った拳銃を解いて金髪の男を見やる。

 しばし、静寂が流れた。

 そして、彼は両腕をゆっくりと動かした。銃を使うのかと数瞬リリアが臨戦体勢に入ったが、彼は持ち上げた両手を胸の辺りに持ってきて。


「いや、すばらしい手品だ」


 ぱちぱちと、手を叩き始めた。

 賛辞の拍手を笑みのまま受け止めた。だが、同時に胸中で苦い顔をした。

 本当は、当たっていて欲しくなかったのである。今更だし、仕事には代えられないから飲み込むが。

 金髪の男は拍手をやめて、一歩進み出た。


「お嬢様方、ご無礼を。僕がサイモン・アルベルトだ」

「ボス」

「いいんだ」


 席に座った男を制して、サイモンは微笑む。

 まさに好青年といった風情で、体は随分と華奢だ。到底戦闘訓練を受けたとは思えないので、「営業」の手腕を振るって今の地位に上ったのだろう。年齢は間違いなく自分たちよりは上だろうが、取り巻きのおじさん達のほうが年配だ。組織をまとめる人間としては随分と若い印象を受けた。これが若気の至りでの反逆なのか、若きカリスマの才覚を持ってのそれなのかは今は判別しようがないが。


「手品の中身を知りたいものだけど、謎があるほうが魅力的だ。詮索はしないでおこう」

「そりゃどうも」

「大方、君の言った通りだよ。探偵業にでも転職しないかい?」

「検討はしておくわ」

「ただまぁ、そういうことだ。船ではこちらの彼を護衛してもらうことになる。不満なら、ここで降りてもいいけれど」

「報酬が変わるわけじゃないでしょ。むしろ本物が乗らないならちょっと安全になりそうだし?」


 相手は本物のサイモンを狙っているのだ。本物が乗っていないと確認されるなりすれば、襲撃そのものがなくなる可能性すらある。そうしたらクリス達はボロ儲けだ。何せ今回の依頼、参加しただけで報酬がもらえるのである。

 もちろん、そうでない場合は命のかかる仕事と言う点は変わらないが。


「安全は保障しないけどね」

「いつもの事」

「そうかい。では手品のお返しに、少し情報も渡そうか」

「あら、いいの?」

「信頼できる人間は取引に値し、才覚ある人間は友人に値する。君は友人にすばらしい」


 目を細めて、サイモンが答える。

 こういう顔は見覚えがある。そう、仕事の話をする時のレアだ。こういう顔をする奴はいい人を装っておいて、裏で何か考えていやがるのだ。彼が武器商人の端くれである以上、そういう世界を渡って身につけたものなのだろうが。裏の思考をいちいち推察しなければならないのは面倒だが、今だけは価値を認めて教えてもらえると素直に受け止めていいのだろう。


「余所者に頼ると言うのは利口じゃないんだけど、まぁいろいろとね。これも運試しと思って掃除屋を雇ってみた。それでランヌ、襲撃側のほうもね、地区の掃除屋を雇っているようなんだ。それでまぁ、僕と彼が依頼する掃除屋がかち合ってしまうようでね」

「両方の依頼を受け取って、かつ襲撃側に入った掃除屋がいるって事よね」

「そうなるね。こういう面接ごっこをしてもあからさまに怪しい奴しか弾けないのはわかっているんだけど。それで、内部からの内通者と言う形で、船内が慌しくなると思う。見分ける方法は今のところなしだから、気をつけておいて欲しい」

「つまり何もわからないことがわかってるってことね、はいはい」


 とするなら、高速艇で外から襲撃するチームは陽動ということかもしれない。さすがにリッパーとして暴れるのは控えてもらうとしても、リリアにひと働きしてもらう必要があるだろうなと考えるクリスだった。

 ホニの町でのリリアの件は、エリーから聞き及んでいた。恐ろしい身体能力で文字通り銃弾を避けて、平然と人を刺し殺していったらしい。ナイフからサブマシンガンに持ち替えたところで戦闘力が落ちるわけでもなし、むしろその細腕一本で高速連射型のサブマシンガンの反動を制御できるならガンマンとしてもいける。戦闘能力だけなら優秀なアタッカーだ。


「率直に言って出たところ勝負だ。それでも受けるかい?」

「えぇ。まぁぼちぼち働くわよ」


 前に出て差し出されたサイモンの手を、クリスは握る。仮に襲撃側の依頼が渡されたとして、そちらの支払いがよかったとしても乗り換える気はクリスにはない。契約は成立だ。


「手間を取らせたね。そこまで送ろうか?」

「結構よ。ほいじゃ帰ろうか、二人とも」


 エリーとリリアを促して、クリスは席を立つ。

 今度レアからの外出依頼が来た時は警戒しておこう、と心に決めながら。



















 サイモンとの面会が今回の用事だったわけで、クリス達は手ぶらでウルティスで戻ることにした。


「ただいま~」

「おかえりなさい。クリス。コーヒー豆は?」

「‥‥‥その話、本当だったんだ?」


 ついでで豆を買ってきてという話だったこと知って、クリスはマヌケ面で返すのだった。




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