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3-1 曇天と



 その家の屋上から、空を見上げる。

 彼女は快晴は苦手だ。仕事では逆光が邪魔になる。そうでなくても、そんな気分でもないのに辛いほど眩しい光が照らしてくるのは鬱陶しい。朝は特にだ。瞳を閉じていたいのに、光は目蓋を貫いてくる。そんな日は、日陰に逃げたくなる。

 彼女は雨天は苦手だ。仕事でなくても雨に濡れたくはないし、雨音と雨粒に集中力が乱される。朝は特にだ。外に出るのも陰鬱で濡れる、濡れると面倒なのに、連れ出されて傘を片手に歩く羽目になる。そんな日は、部屋に篭っていたくなる。

 それを考えれば、雲が一面を覆っている空模様は、彼女が好きな天気なのかもしれない。明るすぎず暗すぎず、高すぎず低すぎず、太陽の光を遮り雨も降らない。風で流れることも知らず、雲はずっと鎮座している。

 そんな空を、感慨なく見つめる。

 嫌いではないのに、つまらない。そんな天気。

 面白い天気など知らないが、今ある風景は彼女にとってその一言で片付く。そんなものを見つめる以外にやることがないというのが、彼女の機嫌を少しだけ悪くした。

 ひとつ、息を吐く。

 多少なりとも頭を持ち上げているのに首も疲れてきたので、彼女、エリーは視線を水平線に戻す。

 はしたなくもあぐらをかいた状態で頬杖をつく、見慣れた顔がそこにあった。その顔はなぜか笑みでできていた。


「どったの?」


 空を見るのを辞めて視線を寄越してきたエリーに、クリスは話しかける。そうでもしないとこの相棒は、用件がない限り永劫口を閉ざしたままだからと。

 エリーは視線を外す。伏目がちになって。


「別に」

「そっか」


 話しかけたところでこの答えだろうなとはわかっていたので、クリスは携帯を取り出して、カシカシと弄り始める。暇潰しのネットサーフィンだ。

 手を動かしながらでも、口は別のことをささやける。


「にしても暇だねぇ」

「予定時刻は?」

「9時丁度」

「今は?」

「10時30分」


 携帯画面に表示された時刻を口にして、クリスはサーフィンを続ける。彼女は時事ニュースや芸能に興味あるわけでもない。検索するのはもっぱら、銃器について。購入を検討している銃器の評判とか、実射レポートなどといったもののチェックだ。今やるようなことでもないが、それに手が伸びる程度の暇さと言うことだ。


「さりとて中止の連絡もなし。つまり仕事は継続と」

「そう」


 それならば、ここにいるしかない。

 エリーはまた空を眺める。つまらなかった。

 だから、目の前の相方を見る。人に向けるいつもの軽薄な笑みを引っ込めて、彼女としては真面目な表情で何かを思案しつつ、時折指先を動かしている。そんな彼女に。

 動かない雲の漂う空よりは、面白いのかもしれない。それに、安心するのだ。数少ない、気を許している相手だから。

 その視線に気づいたかクリスは顔を上げて、軽い笑顔を作る。


「どったの?」

「別に」


 答えて、エリーはやはり視線を外した。

 と。

 クリスが手にしていた携帯に、コールがあった。

 「ほいほい。‥‥‥あ~、やっと? 了解了解」と相槌を打って、通話を切る。向こう側の声はエリーには聞こえなかったが、それだけでもどういう内容かは容易に推察できる。


「来たってさ」

「ん」


 エリーが腰を上げる。そして、据え置いておいたマークスマンライフル、H28A2の元へ向かう。

 銃身修理から戻ってきた、射撃場でのチェックも済んでいる愛銃。その傍らまで行って伏射の体勢になると、エリーは銃ではなくその脇に置いた単眼鏡を手に取る。レンジファインダ-と呼ばれる、レーザー式距離測定器だ。今まではただの市販双眼鏡を使用していたエリーだったが、ホニの町での一件以来、彼女はこれを購入して使用するようになっていた。対狙撃兵戦という、掃除屋稼業では中々起こらない出来事が、しかし次は発生しないとも断言できない。これくらいの距離ならこれくらいの修正をする、という経験からの調整に頼るエリーだが、彼我の距離が数値としてわかるとまた具合はよくなると言うものだ。

 次は、外さない。決意にも似た心情で。

 単眼鏡を覗き込む。目標が通る道路は既にリーク済みだ。見ると遠方から3トン半トラックが三台連なって、道をやってくるのが見えた。

 この車列の先頭、車両の運転手を狙撃するのが今回の仕事内容だ。

 依頼主の目的は恐らくは積荷強奪ではあろうが、トラックをどうするつもりなのか、また結果がどうなるのかエリー達には関係ないし、興味もない。指定されたラインで先頭車両を狙撃で止める、今回の依頼はそれだけ。


「珍しい依頼だよね、狙撃だけって」

「そうね」

「何で狙撃なんだろうね。車列止めるだけなら道を車で塞ぐとかでいいんじゃないの?」

「さぁ」


 正しくは、車列襲撃依頼が珍しい。現在活動している掃除屋には、政府要望の裏仕事としてギャングの掃除依頼が多く投げ込まれている。必然と、市街でどこそこを拠点にしてるこの集団をなるべくなら殲滅しろという仕事になる。町から町を渡る複数の輸送用トラックなどと言うものを使う必要のない規模の連中だ。なれば車列襲撃依頼がくるわけがなかった。あげく、今回に至っては狙撃してそれで終わり、である。使い捨て感覚で掃除屋に丸投げが多い、今回の場合なら例えば、襲撃してトラックの荷を指定位置まで持って来い、と言われるこの界隈にしては一種異端であった。

 もちろん、どちらがよいかと言われれば。


「楽でいい」

「そりゃそうだ」


 くっくっくと笑って、クリスもエリーの脇に寄る。


「どう、見えた?」

「ん。900メートル、入った」

「1キロってどんなもんなの?」


 尋ねたクリスに、エリーはレンジファインダーを渡した。ボタンを押すだけで標的までの距離がわかる、便利な時代だ。

 新しい玩具で標的を確認し、弄り回して一通り満足したクリスは、横にいるエリーに目を向けた。エリーは既に愛銃のスコープを覗き込んで、そちらで標的を追っていた。道はエリー達のいる建物の横に繋がっており、標的はまっすぐこちらに向かっている。今のエリーの位置から300メートルの地点、ここで狙撃して足を止めろという依頼だ。

 空を気もなく眺めるエリーも、一度銃を握れば狩人の顔になる。眠り姫として瞳を閉じているか仏頂面相応の視線のエリーも、今は静かに鋭い。


「仕事の時はキリッとしてますなぁ。そんな真面目な瞳で見られたら、相手さん惚れちゃうかもよ」

「何の話」

「こっちの話」


 一度気合を入れればいい女なのにもったいない、などとも考えつつ、クリスはレンジファインダーを覗く。観測手としての仕事など知らないクリスは、ただ観戦するだけだ。

 距離600メートル。

 道は障害のないストレートだ。正しく位置を予測しながら、エリー標的を追う。

 400メートル。

 トリガーを引き絞る。

 乾いた銃声と共に吐き出された7.62ミリ弾は直進し、移動中のトラックのフロントガラスを突き破ると、その運転手の胸骨を射抜いた。男は前のめりに崩れ、トラックは直線道路から逸れて家壁に車体をこすりつけ、そして止まる。

 先頭車両が停止したことで、後続もブレーキをかけた。それを狙って、道路の左右に潜伏していた襲撃チームが、思い思いの銃を手に襲い掛かる。車列側が抵抗しているのか散発的に銃声が鳴り、そして遠吠えのような鬨の声が上げられた。

 それをスコープ越しに眺めて。


「‥‥‥また、外した」


 呟いて、不機嫌そうに愛銃を手に取り、撤収作業を始める。

 移動目標を相手に標的命中、一発で無力化。銃を「外れないように撃つ」だけでも難しい事と身をもって知っているクリスにしてみればエリーはこの上なく頼れるシューターなのだが、本人は満足しない。エリーは確殺のためによく頭を狙うのだが、それが叶わないとどんな結果であれ不服そうにする。


「相変わらずの完璧主義だねぇ」

「別に」


 不機嫌を隠さず、エリーはガンケースを開く。それでも手元は丁寧で銃を乱雑に扱わないあたり、やっぱりエリーだなとクリスは思いながら。

 クリスはしばし、黙ってその作業を見つめる。

 二人はこうして殺して回る掃除屋家業をしているが、軍を、ハウンドを辞めてからずっとそうだったわけではない。クリスが食うに困って流れ着いた先が、あの店。そして、示し合わせたわけでもなくこの町でクリスはエリーに再会した。後は流れだ。殆ど必然によってクリスはこの場所に身を落としていて、偶然によってエリーとこうしている。少なくともクリスはそう考えている。

 偶然さえなければ、エリーは今も「一般人」だったのではないか。彼女が人を殺して不服そうにするたびに、こんな事必要じゃなかったんじゃないかと、思う。

 罪だ。クリスが思う、罪。


「エリー」

「ん」

「もしもさ」


 銃を仕舞い終えたエリーに、借りていたレンジファインダーを返却しながら。


「私と来なかったら、何してた?」

「さぁ。銃のメンテナンスの練習でもしてたかも」

「そうじゃなくてさ。この仕事に」


 もしも、偶然が起こらなかったら。

 エリーは黙って、クリスを見返していた。言いたいことがわからないという様子。事実、エリーにはわかっていない。

 わからないから。


「さぁ」


 呟いて無表情にレンジファインダーを受け取り、バッグにつめる。

 わざわざ触れる話題ではないのかもしれない。クリスも、それ以上は言わないことにした。

 さてもと息をつく。

 と。

 屋上に繋がる階段から、とんとんと歩く音が聞こえた。音はエリー達に近づいてきている。

 こういう仕事柄だ。敵かもしれないと、クリスは腰に下げたC5Kサブマシンガンに指を触れた。エリーも、今しがた愛銃を仕舞ったばかりのガンケースに手を伸ばす。クリスは兎も角、エリーは懐に入れっぱなしにしてある拳銃、W99Cを抜いたほうが早かったのだが、それに手が伸びない辺りはさすが彼女である。

 しかし二人はすぐに警戒を解いた。この、ステップするような軽い音、そしてそんな音を鳴らしてここにやってくる人物には覚えがあったからだ。

 果たして階下からひょっこりと姿を現したのは、長い銀髪と黒のゴスロリ服の少女、リリアであった。


「ただいま」

「おかえり~」


 予定時刻を過ぎても仕事が始まらないので早速痺れを切らせた少女は、外出ついででクリスに頼まれた買出し品である缶ジュースを投げ渡し。


「さっき銃声が聞こえたけど、終わったの?」

「そうそう。もう帰るだけだよ」

「つまんないの」


 今回の仕事は狙撃であり、エリー以外は暇なのはわかりきったことであったが、それでもリリアは感情を隠さずに唇を尖らせる。

 そしてガンケースを担いだエリーの元にとてとてと寄ると、手にしていたもうひとつの缶を、両手を伸ばして差し出した。


「はい、エリー」

「ありがと」

「ちょい。何で私は投げ渡しで、エリーは手渡しなわけ?」


 扱いの差についてクリスが問いただすと、リリアはクリスの瞳を見つめてから。


「ふんっ」

「こんのクソガキ」


 一発頭を小突いておこうとクリスが近寄ると、リリアはエリーの背に回って彼女を盾にする始末であった。

 一方でエリーはそんなやり取りは知らないと、受け取った品を確認する。缶にはブラックコーヒーと書いてあった。朝の苦手な彼女に、カフェインのお届けものと言うことだ。

 仕事は終わったのだ。コーヒーを胃に流し込んでからやってきた朝の仕事の後は、エリーの睡眠の時間である。今飲むと、気分的にも眠れなくなる。


「後で飲む」

「うん」


 折角買ったのに、とは言わず、むしろリリアのほうがうれしそうに答える。リリアらしくないといえば、らしくない反応である。

 ホニの町の一件から、リリアはエリーに懐くようになっていた。自分を仲間だといって、自分を見てくれて、やさしくしてくれるから。理由はリリア以外わかっていなかったが、仲良くなるのは悪いことではない。エリーに懐いたことが遠因で、自分勝手をやるわがままお嬢様リリアも最近は比較的しおらしい。

 それじゃあ帰るよ、とのクリスの号令で、三人は歩き出す。

 今日も、生きる。




 □



 

「ただいま~っと」


 一仕事終えたその足で、通い慣れた名無しの飲食店の扉を、一行はクリスを先頭にくぐる。

 普段ならここで、店主であるレアが「おかえりなさい」と静かに返すところだ。しかしいつものカウンター内に店主の姿はなく、代わりにカウンター席の端から小さなテレビを観賞していたらしき少年、ジゼットが振り返ってくる。


「おかえりなさい」

「やぁ少年」

「ただいまジゼット~!」

「おかえり、リリア」


 ジゼットの姿を目にするや、リリアが飛びつく。

 アツアツな少年少女にやれやれと肩をすくめるクリスの脇を、殆どゾンビのような足取りでエリーが通る。車に揺られている間に睡魔が来て、もはや彼女は限界近かったのであった。エリーは店の奥まで何とか歩行すると、そこにおいてあったソファに腰掛け、背をもたれた。ここの店主が、いつも姿勢悪く寝る眠り姫の為に中古で買って来た、お姫様専用品であった。

 相方が何とかソファという名のベッドまでたどり着いたのを確認して、クリスもカウンター席に腰を下ろす。


「お熱いことで。ご結婚の日取りは?」

「あはは‥‥‥リリアとは、そういうのじゃないから」

「ほう。もう嫁だと、そう言いたい訳ですな」

「いや、あの」


 困り顔のジゼット。クリスにとってはいい玩具である。


「レアは?」

「居ないみたいです」

「めずらし。外出とか、あんまりしない人なんだけどね」


 レアは大方の仕事はここに居ながらしており、クリス達が毎日のように通っていても居るのが当たり前であった。飲食店を名乗っているのでもちろん食料をどこからか調達する必要があるのだが、その買出しすら、店に入り浸っているエリー達に投げる。やることもないのでエリー達も受ける。ついでに食べたいものなどがあれば、勝手に買ってレアに押し付けるまでがテンプレと言うものであった。


「お仕事は終わったんですか?」

「まぁね。狙撃して帰るだけ。金額もそれなりだったし、毎日がこんな仕事だと楽なんだけど」


 ジゼットとクリスが話し始めたのを見て、リリアはジゼットに擦りつくのを辞めて黙って身を引き、その場を離れた。本当に、これまでの彼女を考えれば珍しい。

 そしてリリアは、夢の中へダイブ中のエリーの横にぽすっと座ると、おとなしくテレビを眺める。これまた、珍しい。


「エリーを起こさないでよ」

「わかってるわよ」


 口うるさい人だとばかりに舌を出して、そしておとなしくテレビ鑑賞に戻る。リリアはまだ14歳ほどの少女だが、クリスから見ても将来有望な整った容姿をしていて、目を引く銀髪、衣服も拘っているのかそれなりに値の張りそうなひらひらのお洋服。黙って座っている分には美少女である。

 これまでの資金の貯蓄があるため、また共に行動するジゼットの治療がまだの為、エリー達は仕事を控えめにしていた。だが仕事が出来ないとリリアが喚くこともなく、従って少女の凶暴な切り裂き魔、リッパー様も鳴りを潜めている。リリアは殺人と言う行為について特に何も思っていないし、たやすく出来ることから遠慮もないが、血を愛する狂人では―――非常に危うい所にいるとしても―――ない。一般人らしい生活を享受していると言う点ではそれなりに満ち足りていた。

 時間がのんびりと過ぎる。ある意味では得がたいのかもしれない。クリスはリリアを見つめてそう思い、横に居るジゼットに視線を戻す。


「怪我のほうはどう?」

「走るのは、まだ厳しいけど。大丈夫ですよ」


 言って、立てかけてある一本の松葉杖に目配せする。殆どお飾りらしい。


「完治するまで絶対に仕事連れて行かないからね」

「はい、わかっています」

「そのまま掃除屋から足を洗うという道があるよ、少年よ」

「それは、ちょっと」


 困りつつも寂しそうに、ジゼットは答える。


「リリアが居るから?」

「はい。それに、僕達でできる荷運び仕事とかだとどうしても賃金が。良くない事とはわかっているけれど」

「世知辛いねぇ。ま、そのうちにね。うちらはもうダメ人間になっちゃったけどさ、あんたらまで後追いする必要はないよ」

「クリスさんはしっかりしていますよ。見てきた他の掃除屋とも、空気が違います」

「残念、私は典型なドブ野郎だよ。知らない奴は音頭取れるお姉さんに見えるらしいけど。実はダメダメだって事、リゼやレアには見透かされてるし」


 答えて、自嘲をかみ殺す。

 悪い点は理解しているつもりだ。残念ながら彼女自身が改善できるとは思っていないし、従ってするための労力を支払う気もないが。

 だから、自分の事はいいから。エリーには「まとも」に戻って欲しいと願う。リゼと言う、まっとうに生きている仲間が傍にいるのだ。決して不可能なことではないのは彼女が立証し続けてくれている。リゼは、クリスにとって道標だ。こちらにマトモな世界があるよ、と教えてくれる。

 自分はいいからエリーだけでも、と思いつつ。しかしクリスはそれをエリーに語ったことはない。

 やっぱり、仲間が居ないと寂しいから。彼女が無条件で傍にいてくれるから、このままでもいいやなんて考えが出てしまう。

 後ろを振り返る。眠り姫はのん気に無防備に寝息を立てている。


「‥‥‥」


 その横で、エリーにも垂れる形で、リリアも目を閉じて規則正しい呼吸をしていた。

 本当に。今までのリリアからすれば、考えられない珍事だ。


「やけにエリーにべったりなんだよねぇ。何かあったの?」

「詳しくは、聞いていないけど。とてもいい人だって言ってました」

「まぁ、否定はしないけど」


 むすっとした顔をしておいて、目に付いたストリートチルドレンらしき子供を見ると話しかけて、教会に案内したりする。リゼの話だと、最近も少女を一人教会に連れて行ったらしい。エリーが形だけの偽善や理想を語るようなおめでたい人間ではない事は知っている。つまりはそれこそが本当のエリーなのだ。

 兎にも角にも、あの五月蝿く囀る子供が黙ってくれるのはいい事だ。ことに仕事についておとなしくなってくれるのはありがたい。

 相方が無口のエリーなので、いい話相手にもなる。冗談を絡めつつリリアと小突きあうのも、クリスはそう嫌いではなかったが。

 二人も眠ってしまったのなら、おとなしくしておこうか。クリスはテレビの音量を下げようとリモコンに手を伸ばし、はたとモニターに目をやる。

 画面の向こうは平和ボケの世界だ。覚える気もない中年のおじさんの名前がテロップに表示され、画面右上には「驚愕の透視能力」などと書かれている。クリスがぼんやりと眺めていると、どうやら箱の中身を言い当てることができるというものらしかった。


「こんなのが好きなの?」


 クリスが帰ってくる前からついていたテレビ番組である。ジゼットにそんな嗜好があるのかと、クリスは何気なく聞いた。

 対して、ジゼットは。


「いえ。他に、面白そうなのがなかったので適当に」

「ふぅん」

「最近多いみたいですね、超能力の特番。病院に居る時もやってました」

「これで金が取れるなら私にも頂戴な。私の勘はよく当たるぞ~」

「敵がいるかわかる、でしたっけ」

「ん~、危険かどうかがなんとなく感じるって具合かね? これで億万長者だわ」


 何の役に立つんだと鼻で笑い、ボタンを押して音量を下げていく。これで少しは娘共も睡眠に集中できるだろう。


「超能力、ねぇ」


 寝息を立てるリリアを見つめる。こいつのは、超能力とはまた違う気がする。その点において異常なのは、自分の「勘」のほうなのかもしれないとも。

 改めて、テレビ画面に目を向ける。金庫か何かを開いて、わざとらしく驚く女キャスターが映し出されていた。

 それをジゼットと二人して、しばし眺める。

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