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2-9 礼拝堂



 エリーは、スリングをつけたSEVO-3サブマシンガンを肩にかけて、腕には愛用のH28A2を手に礼拝堂裏口へ回っていた。

 これにポケットにはサブマシンガン用の予備弾倉をねじ込み、別途持っている小さなバッグには自分が普段持っていく一式が入っている。二つの銃とこれらを合わせた総重量は10kgはゆうに超えており、相応に重量を感じていたが、エリーは物言わずに運ぶ。

 これから、室内戦だ。

 エリーの得意分野ではなく、またエリーの銃もCQB戦闘に適性はない。アサルトライフルの選抜射手用精度向上型として開発されたライフルは全長1m、本体だけで6kg近い。そんなものを狭い通路で振り回せとなれば相応の苦労が伴う。が、戦えないのかと言われればできなくはない。エリーのH28A2は長距離用のスコープの上に、近距離用のマイクロドットサイトを搭載していた。無理矢理ボン乗せしたわけではなく、この手の武器にしては珍しく正規追加装備品にラインナップされている仕様だ。普段の使用感のまま何かと手間が省けるから、エリーはこの銃が好きだった。

 と、エリーの視界に一人のシスターが目に入る。ここに来た時に外の掃除をしていた中年のシスターだった。今は花壇の整理をしているらしい。

 足音に気づいたか、シスターが振り返る。そして完全装備のエリーを見つけて、目を丸くした。

 エリーは脅かさないように銃口を向けないよう気を払い、彼女に向いた。


「あ、あなた」

「礼拝堂に強盗です。シスター、児童を建物内に避難させてください」

「あ、あの」

「早く。そして静かに」

「わ、わかったわ」


 こくこくと頷いて、大変、大変といいながら、シスターはパタパタと走り去っていく。

 もちろん、銃などと言うものを手にしているエリーに、困惑以上の、恐怖のような感情を込めた視線を送って。

 当然だ。わかっていはいてもその視線にやりきれない思いを感じながら、エリーは裏口に取り付く。

 扉を開いて、ライフルを構えて静かに突入する。

 音はしない。礼拝堂に繋がる扉は閉じられており、それが音を遮断していた。

 その扉まで音を立てないように歩いて近づき、そしてそこらの壁に銃をぶつけないようにしながらドアノブを掴んで捻ると、静かにわずかに、扉を開く。

 隙間からは敵が二人見えた。うち一人はサブマシンガンを手にしている。この時点で、エリーの優先攻撃目標はそいつに決まった。連発できるサブマシンガンとなればそれだけで脅威だ。流れ弾の危険も上がる。

 それで肝心の、人質となったであろう一般人達だが、姿が見えない。男達の向きからして礼拝堂中央か、それより奥の壇の辺りに固められていてエリーからは見えない。

 セレクターを確認する。セレクターは正しくセミオート部にあった。


「到着。いつでも」


 トランシーバーに呼びかけるが、返答はない。銃声もこれまでなかったので死んだとは到底思えず、恐らく敵が近くに居て応答できないといった具合なのだろう。そう判断して、フォアグリップを握って銃を構える。

 扉の向こうの様子は殆ど判別できない。敵はただ黙って見張っているだけなのか、話し声も聞こえない。クリスだけが頼りだった。

 合図を待つ。

 30秒か、1分か。3分か5分か。

 時間の感覚が狂う。どれほど待ったのかわからなくなる。

 「連絡を待つ」。数ある作業の中でも、エリーが特に嫌いな時間だ。緊張しながら、いつ来るのか、そもそも本当に来るのかわからない連絡を待つ。何倍にも感じられる時間を過ごす。

 それでも、緊張を保ったまま、ただ待つ。


「‥‥‥エリー、やって!」


 クリスの大声。

 エリーは警戒されないよう、体で扉をゆっくりと開いて視界と射線を確保すると、マイクロドットサイトで頭を照準する。この中一番の脅威、サブマシンガン持ちに。

 一発。

 銃声と共に7.62ミリ弾が飛び、狙った人間の頭を射抜く。脳に当たれば致命率はきわめて高い。それでサブマシンガン持ちは床に倒れた。


「全員伏せて、伏せて!」


 それを確認したクリスが伏せて、と繰り返し市民達に警告と指示を飛ばしつつ、UP45ハンドガンを抜いて腰を屈め、ウィーバースタンスで近場に居た一人を狙って三発、撃ち込む。二発は掠め飛び、一発が胴体に当たって、男は床に転げた。

 銃声で、近場に居た女性客が悲鳴を上げる。銃声に驚いたのだ。

 突然の銃声と倒れる仲間と響く悲鳴に、何が起こったのか理解できずに辺りを見回す残る男三名。驚いて固まっている三人のうち、近いほうへとエリーが照準。そして一発で頭を撃ち抜き、無力化する。

 エリーは駆け出した。そして近場の長椅子まで寄って身を隠す。横では同じく、長椅子を盾に屈んでいるクリスがいる。


「クリス」

「いぇい、愛してるよエリー」

「愛が軽い」


 エリーは担いできたSEVO-3サブマシンガンと、予備マガジン2本を床を滑らせてクリスに届けた。そのいずれもをキャッチしたクリスはセーフティをかけたハンドガンをズボンにねじ込むと、SEVO-3のコッキングレバーを引いて装填、セレクターを回してセーフティを解除する。そして、ようやく状況を飲み込んで銃を構えた敵に向けて発砲した。

 タップ撃ち射撃音が、礼拝堂に響く。

 最初から撃ち殺すと決めて動いたエリー達と、無力な人質を相手に優雅に構えていた襲撃者。どちらの対応が早いかは言うまでもない。銃は握ったものの、いまだ反撃するか否かも決めかねていた彼らに銃弾が襲い掛かり、また一人床に崩れ落ちる。最後の一人は、近場にあった長椅子に屈んで隠れる。


「おい、勝手に暴れるなよ」


 ここにおいて別の男が一人、銃声を聞きつけてへらへらと笑いながら戻ってきた。そして床に転がっている仲間を目にし、「敵だ!」と叫んだ礼拝堂配置の最後の一人の言葉にはっとして、手にしていたアラクランサブマシンガンを腰だめに構えて、銃弾をそこらに撒き散らした。

 銃声を聞きなれていない市民達が、一斉に悲鳴を上げた。

 と。

 そのうちの一人、エリーの傍にいた一般客の女性が唐突に立ち上がった。パニックを起こしたのだ。そして本能として危険から逃げる為に、手近にあったエリーが入ってきた扉のほうに駆けようとした。


「伏せて」


 彼女にしては逼迫した声で言うと、エリーは一度立ち上がり、そして女の首根っこを掴んで力を込めて地面に引きずり倒した。直後、姿が見えたというだけで向けられたサブマシンガンの弾が空間を貫き、壁を抉る。

 いまだ恐慌状態で暴れる女性を片手で引き倒したまま、エリーは長椅子にライフルのハンドガードを乗せて出鱈目に打ち返す。自分の作業に忙しいし、当てる必要はない。それは隣のリーダーがやってくれると信じて。そしてサブマシンガンの男の注意を引く間、フリーになったクリスが腰を上げて狙う。アイアンサイトとはいえ彼我の距離は20メートルと離れていない。狙うには十分すぎる距離で照準し、撃ち、そして死体が5つに増えた。

 銃声が、止む。

 少しはおとなしくなった女性から手を離して、エリーは両手でライフルを構える。残る敵の隠れた位置はわかっており、これと言って物音もしない。敵は位置を変えていない。

 そして、両手で銃を構えてそっと頭を出してきた敵に―――手にしていた銃がリボルバー式で、予備弾も持っていなかった為に狙って撃たざるを得なかった敵に―――エリーはマイクロドットサイトで素早く狙い、一度トリガーを引き絞る。

 ひとつの銃声と共に、事は終わった。


「五人プラス一人、クリア」


 クリスが口にした言葉に、エリーも一息つく。

 クリスはそのまま小走りに駆けて、サブマシンガンの男が入ってきた扉の壁に取り付いた。この扉の向かいには、職員が使っている建物がある。残りの敵が向かっていった場所であり、リリア達を配した場所でもある。


「エリー、援護よろ」

「ん」


 短く同意して、腰を浮かした。もちろん射撃援護位置に付く為だ。


「エリーちゃん」


 そのエリーを、呼ぶ声があった。

 聞き覚えのある声に呼びかけられて、エリーは足を止めて声のほうへと顔を向ける。

 声の主はシスタールーフォだった。彼女はエリーとの対面が終わった後、ここに来て作業をしていたのだった。

 彼女の驚きの瞳が、エリーを見つめる。

 エリーは表情を堅くした。彼女が考えうる限り一番見られたくなかった人に、銃を握って人を殺すところを直接見られてしまった事に、後悔がなかったかと言われれば嘘になる。だが、だからこそエリーは表情を変えぬように勤めて。


「ごめんなさい」


 私は銃を捨てられませんでした。私は平気で人を撃ち殺せます。

 他にかける言葉が見当たらず、短く謝罪した。そして、エリーはシスターたちに背を向けて移動する。守りたい人を守るために。

 建物一杯を使って距離をとりライフルを構えたエリーの視線の先で、向かいの建物の扉が開かれた。銃声を聞きつけて何事かと様子を見に来たらしい。まさか銃を持った別の人間がいて、仲間をすべて無力化したなどとは思っていないようで、彼らの動きは実にだらしない。

 その中にアサルトライフル持ちを見つけて、エリーは狙う。


「やっていいよ」


 クリスからの許可。

 指を引く。

 その銃声が、本当の開戦の合図となった。





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