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5-17 友達




 焚き火が、目の前で燃えている。

 赤く燃えるそれを、エリーは椅子代わりになった木の幹に座って、じっと見つめていた。

 寒いからとか火の番だからとか、そうではなく。他にすべきことはなく、することがなく。いや、そのような事を考えることすら出来ず。理由もなく目的もなく、何もなく、じっとそうしている。

 自分がどうしてここにいるのか、そもそもここはどこなのか。そんな事すら、考えが及ばないほどに無気力。いや、ぼんやりしていてそこまで考えられていない。

 ゆらゆらと。

 ぱちぱちと。

 夜のような暗い闇の中で、炎だけがそこで周囲を不規則に淡く照らしている。

 思考がはっきりしない。体の気だるさを感じる。寝るべきなのかなとエリーは思った。周囲が暗いなら夜だろう。夜は、寝るものだ。

 それに。




 もう、疲れた。




 瞳を閉じる。黒がすべてを覆い隠す。

 このままで良いと、思う。


「エリー」


 ふと。

 彼女のすぐ傍で誰かが囁いた。

 ひどく懐かしい、声。

 その声に誘われるように、エリーは意識を戻される。どろどろとした闇から、ゆっくりと戻っていく。

 瞳を開く。

 エリーの目の前には、一人の顔が視界一杯に広がっていた。すごく近い。

 すごく、懐かしい。そう感じる。赤のかかった髪、赤のかかった瞳。その女性はエリーが起きたことを認めると、くすりと笑った。その表情は綺麗だと、似合っているとエリーは素直に思った。彼女は、そういうものがとても似合う人だ。

 そんな彼女は、少しばかり呆れたような感情を混ぜて。


「何度も呼んだんだけどなぁ」

「ごめん」


 謝罪して。

 彼女の名を、呼ぶ。


「ローズ」


 彼女は仕方のない奴だと口角を上げて、それでも笑顔でエリーの隣に腰を下ろした。横目で見る彼女の顔は焚き火の炎によく照らされて、はっきりと彼女の顔が見える。

 そして彼女は心配するような、元気つけるような表情で語るのだった。


「元気ないぞ」

「ん」

「いっつもむすっとした顔してるんだから。そこがいいって言う男もいるけどさ。言わぬが花だっけ」

「それは確か、違うと思う」

「そうだっけ?」


 彼女は笑う。

 だから釣られて、エリーも口元を緩める。

 するとどこから取り出したのか、ローズは二つのグラスを用意すると、脇から瓶を出して注いでいく。そしてそのひとつを、エリーへと送った。


「はい」

「ありがと」


 エリーが受け取ると、ローズは自分のコップを突き出した。乾杯しよう、ということだ。

 グラスを近づけて乾杯。そう二人でコールして。

 そして横から、さらに二つのコップが覗いて来て、四つのグラスがカシャンと音を鳴らした。


「乾杯」

「リゼ」

「氷が欲しいわ、キンキンに冷えたの飲みたい」

「クリス」


 いつからそこにいたのか。打ち鳴らして、伸ばした腕を引っ込める二人の姿があった。エリーは驚いて。

 安堵する。

 ここには、皆居る。

 目の前の人達が飲み物を煽る。だからエリーも、自分のそれに口をつけた。

 そして訝しむ。

 味が感じられないのだ。液体の温度も、匂いも、そして液体が喉を通った感覚もない。不思議に思うが、それでも美味しいと思った。見ると他の三人は、笑っている。


「これ、ただの水」

「おいしいでしょ?」


 ローズが笑う。水なら味がないのも仕方ないなと納得して、続けて飲む。美味しい、と舌で感じるわけではないのにそう思い、確かに幸福はあった。

 飲んで、静かに一息。


「もっとうまいのがいいねぇ。そうそう、スピリタスっておいしいかな」

「人が飲むものじゃないって聞くわよ」

「痛いけど甘いらしいね」

「痛い飲み物って何よ、想像つかないなぁ」


 周りの三人が、楽しそうに語る。周りの人達が楽しげにする、その光景を眺めるのがエリーは好きだった。それだけでもエリーは満足だった。

 こんな時間が、ずっと続けばいいなと。


「ねぇ、みんなはしたいことはあるの?」


 そう、ローズが尋ねる。


「それは前言ったじゃん。こうやって四人で集まって、皆でテーブルを囲むの。雰囲気のいい店で、おいしいパスタつついて。スピリタスも飲んで」

「お酒から離れなさいよクリス」

「いいえ、スピリタスも飲もうよ。それでね、昨日は何やってた? 明日は何やる? 好きな男できた? 暇なら出かけようよって」

「洋服でも買って」

「美術展とか行って」

「いやリゼ、それはない。趣味渋い」


 話が、踊る。

 幸せだった。皆で集まって、何気なく語って、それこそが幸せだった。

 過去を語って、現在を語って、未来を語る。

 語れる人が傍にいること。


「クリスは何かしたい仕事とかはないの?」

「その質問は私にゃ禁句だよローズ」

「ふふ、そうだったね。リゼは?」

「まぁ、私もおいおいね」

「リゼもかぁ。でもそんなものなのかな、うん。子供の時から、大人の未来設計だなんて無理だよねぇ、そのうちやりたいことが決まるよ。ね、エリー?」


 幸せを分けてもらう。そしてできれば、幸せを与えたい。

 後者は、中々難しいけれど。


「そうかな」

「そうだよ。生きてるうちに何かできるって」

「で、そんなローズは?」


 クリスの返しに、ローズは語る。

 少し偉そうで、でも困ったような顔。


「私も、なかったりするかな」

「人のこと言えないじゃん」

「でも夢はあるよ。自分に出来ることを見つけてやって、全力でやって、よれよれのおばあちゃんになって。それでね、笑って死ぬの。一人になって辛くて、苦しかったけど、みんなのおがけで楽しかったよ。ぜんぜん後悔してないよって。最高だったって言うの」

「孫に囲まれて?」

「そうそう」


 彼女が描く理想に、エリーも頷く。それはどんなにかすばらしいだろうと。

 一人になって辛くて、苦しくて。そんな中で三人に出会って楽しくて、後悔はしていない。

 考えると、これはローズの言う最高の人生と言うものではないのだろうかとエリーは思った。この時間だけはエリーは不満もなく、もっと続けていたいと思う。

 一生、このままでいたい。

 と。

 ローズはこう告げた。


「さ。みんな、そろそろ時間だね」

「仕方ないなぁ」

「じゃあ、行ってくるわね」


 リゼが、クリスが名残惜しそうに立ち上がり、手を振りながら去っていく。警備の仕事だったか、それとも就寝時間だったかなと、ぼんやりとエリーは思った。もっと起きていたいのに。寂しいなと、思った。

 自分も動いたほうがいいのだろうか。

 でも。どこへ。

 と考えて。


「エリー」


 名前を呼ばれて、エリーはローズに向く。

 ローズは自身のコップを地面に置くと、伸ばした手でエリーの手を包んだ。

 こうして握られても、やはりエリーは肌の暖かさを感じられない。彼女の行動にも少し驚いたが、エリーはぼんやりとしながらその手を受け入れる。

 そして彼女は、まっすぐに見つめて語る。


「私はね、覚悟してたよ。いつだって。戦争だもん」


 戦争。

 そうだ、戦争だ。三人と出会って、銃を持って。

 そしてローズは。

 ローズは。

 思い、出す。


「銃を撃つのが楽しいわけじゃなかった。今日で最後かもしれないって、怖くて震えながら眠ることもあった。爆弾の音が耳にこびりついて寝れない時だって。でも志願してよかった。皆に会えて良かった。楽しかった」

「ローズ?」

「エリーは、どう?」

「私は」


 考えることはない。感じたことが答えだから。

 答えはひとつ。


「‥‥‥楽しかった」


 楽しかった。

 リゼに面倒を見てもらえて、クリスにからかわれて。そしてローズと、いろんなおしゃべりをして。肩を並べて。それが明日も続くことを願うほどに。

 そんなエリーの言葉に、ローズは。

 ローズは笑った。大きく、一番の笑顔。


「それなら、あの時の選択は間違ってなかったって、私は胸張って言える。少しだって後悔してない。その上、友達皆に囲まれてさ。懸命にローズ、ローズって、名前を呼んでくれるの。怖かったよ。でも、寂しくはなかった。最高だよ。これ以上ない、最高の人生だった」

「ローズ」

「だから。ちゃんと聞いてね、私の言葉」


 包んでいたローズの手の力が緩くなる。離れそうになるその手を、慌ててエリーは掴んだ。

 いつの間にか、ローズの首が濡れている。赤く、血で濡れている。

 それでもローズは笑っていた。曇りなく笑っていた。


「ありがとう」


 笑顔で。

 そして。

 彼女の手が、するりと滑り落ちる。






 :






 :






 蛍光灯の明かりと白い天井が、彼女の目に映る。

 全身の痛みと気だるさと息苦しさを感じながら、はっきりとしない頭で、エリーはそれを見つめていた。


「‥‥‥」


 体が辛かったので、身じろぎする。いまいち力が入らず、体のあちこちが痛んでたいして動けなかったが、刺激のおかげで脳が覚醒し思考が戻ってきた。

 記憶にない天井だったので、ここはどこだろうと首をめぐらせる。白を中心にした壁、清潔感のある布団、間仕切りするような薄ピンクのカーテン。味気ない窓の外の景色や、知らない小さな機械、それに細いチューブで繋がっている自身の腕。遠くで反響する人の声や歩く音や、消毒液のような匂い。確かに五感を刺激するもの。病院の一室らしいことは想像できたが、そして自分が病人扱いであることも理解できたが、場所はわからない。

 さらに探す。

 と。

 ベッド脇に、それが立てかけられているのが目に留まった。

 ひとつの銃。WS200。

 ローズの銃。


「ローズ」


 思い出す。

 この銃で確かに戦ったことを。

 そして、最後の敵を撃てず、相手の拳銃に倒された所までをエリーは確かに思い出した。

 自分は生きている。記憶が途切れた瞬間からここに至るまでにどのようなことがあったかは知らないが、兎に角、なぜか、自分は生きている。

 では、皆はどうなったのだろう。

 それを教えてくれる物はなく、考えても推測すらできず、不安に駆られたエリーは上半身を起こす。そしてただひとつはっきりとしているもの、ローズの銃に手を伸ばして掴み、引き寄せて膝の上に置いた。

 そして考える。先ほどまで見ていた夢の事を。

 ローズから聞いた、ありがとうの言葉の意味を。




 あれは、夢だ。




 あれは記憶ではない。あんな、焚き火を囲んで話した記憶はない。

 ローズが撃たれた時、彼女は何もしゃべれない状態だった。そう。あの言葉を彼女が言ったわけではない。

 ならば。ただの夢であることは疑いようもない。

 あれは、彼女の姿で自分が言って欲しかった願望なのだ。友達だったと思いたくて、彼女の死は自分のせいじゃないと思いたくて、恨んでいないと思いたくて。彼女の姿でしゃべらせた自分の願望なのだ。あれはローズの言葉ではないと、エリーは。


「私は」


 自分は、救われてはいけない。

 エリーの目の前に出て拳銃を撃ってきた相手。

 知っている顔だから、撃てなかったのだ。助けてもらった相手だから、撃てなかったのだ。一人でも敵の数を減らすことがクリス達を守るという目的に必要だったのに、撃たなければならなかったのに、できなかったのだ。自分を殺して相手を殺す。そうしてきたのに、しなければならないことを最後まで貫けなかった自分は結局だめな人間なのだと。

 こんな人間が、救われてはいけない。なぜ自分が今生きているのかとすら思う。

 これで、もしクリス達に何かあれば。

 何かあれば、自分のせいだ。自分がやるべきことをやらなかったからだ。自分の勝手で、また友達を。

 もし仮に無事だとすれば。

 それでいい。

 それだけだ。

 どのような結果になっていようと、今更自分に出来ることなどないだろう。だから、もういいのだ。

 辛い。

 痛い。

 疲れた。




 もう、耐えられない。




 手元には、銃がある。

 自分を恨んでいる人の銃。

 差し込まれたマガジンを手触りで確認して、エリーはゆっくりと、銃をセーフティからファイアへ切り替える。射撃の為に。 

 コッキングレバーを引く。銃弾を装填する為に。

 そして銃口を、自分の喉に向ける。標的を撃つ為に。

 あとは、簡単。

 静かにトリガーを。引き絞る。

 殺す為に。

 エリーは指に力を込めて。





 カチリ、と、乾いた音が鳴った。





「‥‥‥」


 エリーはしばらく待って、遅発でもないらしいと思い。もう一度コッキングレバーを引く。銃弾は、排出されない。薬室に弾が入っていないなら、撃てるはずもない。

 マガジンキャッチを押し込み、弾倉を取り出してみた。

 弾丸は。

 入っていない。

 記憶では確か数発は残っていたはずだがとエリーは思う。そして気づく。放置したり地面に転げさせたにしては銃自体が磨かれていて、汗や埃や、自分の血で汚れている様子はまったくない。自身が何日ここに寝ていたかは知らないが、火薬の残り香もしない。サイモンから受け取った時と変わらない姿に戻されている。

 ご丁寧に銃弾まで抜いているあたり、誰かがやった、のだろうが。だとしたら誰だろうか。

 エリーがそう考えていると、部屋の扉が遠慮がちに開かれた。

 エリーは目を向けて少しだけ驚き、そして大いに驚いた。


「エリー?」


 先頭をやってきたクリスに。そしてリゼと。

 リリアとジゼット。

 覚醒して病室のベッド上で身を起こしている友人の姿にクリスは一回思考を止めて、そして。


「よかった、起きた!」


 駆け寄ると、ぎゅっと抱きしめた。


「あの」

「三日よ三日。ずっと寝っぱなしだったんだから。眠り姫もいい加減にしてよマジで、心臓止まるかと思ったよ」

「そう。それで」

「何であんな事したの、もう本当クソ馬鹿。あぁ私の事わかる? 映画みたいに記憶飛んでたりとかない? 苦しくない? お腹空いてない?」

「落ち着きなさい、クリス」


 エリーが大丈夫と答える前に、リゼがクリスの頭を小突いた。

 いずれの質問もエリーには問題ない。言ってしまえばこの場で一番冷静なのはエリーであった。ホニの町へ逃げる予定のはずの子供二人がこの場にいることを問おうと思うくらいには、無頓着で無神経でもあった。そして同時に、二人が何事もない様子でいるのなら、自分が倒れてからは特に問題はなかったらしいとも把握して安堵した。


「リリアは」

「おはようエリー」

「おはよう。それで、どうなったの」


 少女と挨拶して、問う。

 あんたは人を心配させといてそれかいと、眉間にしわを寄せあからさまに不機嫌顔になるクリスにぺちぺちと頬をはたかれながら、エリーはリゼから説明を受けた。あの後、車を使ってエリーを回収し、無事に脱出できたこと。その足で最寄の病院に担ぎ込んだこと。そして。


「それからは何もないわ」

「ここはウルティス?」

「えぇ」

「リリアは、逃げないと」

「その必要はありませんよ」


 一行の一番後ろ、眼帯姿のアナベルの答えにエリーは首を傾げる。そして落ち着いて離れたクリスが、残りを答えた。


「追撃なしだってレアが教えてくれた」

「どうして」

「さぁね。でも一時的なものでいずれは再開するだろうって事だから、こいつら、この国を出るって話になったよ。出来るだけ早いほうがいいってせっつかれたけど、我侭炸裂でエリーが起きるまで残るってさ。少しはこっちの苦労を考えろこの馬鹿娘」

「一回だけちゃんと考えたわ、それで後悔はないかなって。それでいいんでしょ?」


 当然とばかりに胸を張って答えるリリアとクリスが睨みあう。もちろん本気のいがみ合いではない。お互いに助け合った仲で、すぐに二人は笑って答えあう。


「エリーも起きたし、なるべく早く出国すべきってのは間違いないしね」

「後で連絡します」

「そうしなそうしな。‥‥‥でさ、エリー」


 ふいに真面目な顔になって向いてきたクリスに、エリーは目を向ける。

 あんたが起きたらすぐに言おうと決めてたんだけど、とクリスは前置きして。

 一拍。


「掃除屋、やめよ」

「‥‥‥」

「今回ので私も参った。もう勘弁だよ、誰かがいなくなるのなんてさ。だからやめよう、一緒に」

「ん」


 エリーにとってはクリスがいたからこうしているわけであり、彼女がやめると言うのなら何も異議はない。エリーは短く答えた。

 掃除屋をやめるという事は、もうクリスは誰かの手によって命の危険に晒されることはない。リゼは以前からそうだ。そしてリリアとジゼットも、遠くへ行くという。アナベルもまた、やめると言っていた。

 もう、誰かを守る為に銃を取り、それを言い訳に誰かを殺す必要はない。

 そう考えた瞬間。

 気分がふっと軽くなるのを、エリーは感じた。

 もう、いいのだ。

 先のことは、知らない。選んで生きる理由がない以上、エリーの自身の命に対する価値はそれで終わりだった。しかし進んで死ぬ理由もない以上、後は適当に息を吸って、資産の限り寝食し、どこかで静かに消える。

 しかしそれを許さないとばかりに、クリスは続けた。


「実は就職先、もう決まってるんだよね。エリーの分も取っておいた。飲食店のレジ打ちとウエイターだよ、どう?」

「別に」


 自分にとっては大して問題ではない。どこで失おうと構わない価値の命だ。どこで拾おうともやはり価値はない。彼女が付いて来いと言うのなら、求められているのならば付き合う。その程度。

 しかし次のクリスの言葉には、エリーは聞き逃せなかった。


「やりたいことは、それから探すよ。こんなダメ人間だからローズにも笑われるんだろうね」

「ローズ?」

「あ、うん」


 エリーの復活に気を緩めていたクリスは、出すべきでない名前を出してしまったことに決まり悪い顔を作って、しかし後の祭りと諦めてそのまま続けた。


「夢だよ、焚き火囲んでちょいと話す夢みちゃってさ」

「スピリタス?」

「そうスピリタスの話、って良くわかったねリゼ」

「えぇ、まぁね」


 自身で述べておきながら少しだけ驚いた様子のリゼは目を細めて、クリスは軽薄に笑い。


「え、ちょっ、どうしたのエリー」


 そしてエリーの小さな嗚咽に気づいて、クリスが慌て始める。

 うれしかった、とは、ほんの少しだけ違う。それでもエリーの気持ちを表現するとしたらその言葉なのだろう。皆で同じ夢を見る。それはエリー一人の妄想という意見を否定するもの。もしかしたら本当に、彼女が夢に化けて出てきたのかもしれない。

 ローズの言葉が本当だとわかって、ローズの気持ちが本当だとわかって、うれしかった。怨まれていない事、赦されていた事、友達と思ってもらえていた事。うれしくて、抑えていた感情が溢れて、涙を流す。

 慌てるクリスを横目に、リゼはエリーの肩をそっと抱いた。三人が、いや四人全員が同じ物を見たのだと。予想であり希望であり、夢であり確信。

 まだ狼狽しているクリスの手を取り、銃にを重ねる。リゼがエリーの名を耳音で囁くと、エリーも軽く涙を拭いてからその上に手を置いた。


「ん~?」


 そんな三人の間だけでわかる無言の会話に少女、リリアはきょとんとした。

 まずは隣のジゼットに向いてどうしたのと尋ねるが、彼にもわからない。だからアナベルにも向いたが、彼女も静かに首を横に振った。

 リリアはむぅとむくれて、エリーが泣いている理由を考えた。彼女なりに頭を使って考えたが、なぜ泣いているのかはやっぱりわからなかった。

 自分はこの国にはもう居られない、お世話になったこの人達とは離れなければいけない。だからそれまでは楽しもうと思っていたのだが、故に三人がなんだか幸せそうに固まっている姿が少女には気に入らなかった。自分も混ぜて欲しかった。それでも何か取り込み中だからと少女は少しだけ我慢して待ったが。

 やっぱり我慢できなくて、輪の中に突っ込んでいった。


「ねぇ、今日は何するの?」

「空気読めクソ娘」


 睨め付け、それでも邪険にするわけにはいかず、クリスは仕方なしに空間を空けて迎え入れる。新しい友達なのだ、仕方ないことだ。


「ねぇエリー、クリス」

「ん」

「何?」

「私、絶対に戻ってくるから。また遊んでね」


 なんだか仕方ないから国を出るが、なぜ好きな人達と離れなければいけないのか。リリアは戻ってくる気満々であった。

 そしてそれは、エリー達としてもまったく吝かでない。


「あぁはいはい。もうちょっと落ち着きを持ったレディになって、酒を飲める年になったらね。後、うちら善良なる市民なんだから、面倒事は持ってくるな」


 お酒は飲まないと。友達で揃った時に飲むとそう決めていたクリスの言葉に、リゼは驚く。


「あらクリス、いいの?」

「ま、許したげるよ」


 飲むのは、全員が揃った時だ。友達全員が、揃った時。

 クリスは軽薄に笑う。リゼも、ジゼットも、アナベルもそれぞれに表情を緩める。


「エリーは? いいよね」


 少女がずいと顔を近づけて問う。

 エリーは指で涙を拭き取る。そして不器用に、少しだけ、しかし確かに。


「いいよ」


 何年も前に置き忘れてきた彼女自身の笑顔を、見せた。




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