5-13 ラスト・ダンス
深夜4時と呼ぶべきか、朝4時と呼ぶべきか。
そのような時間に出歩く人間は希少だが、それでも闇が姿を隠してくれる。
六人は街路を歩いて移動していた。最初こそ走ったが、装備を担いで2キロ以上のランニングはさすがに疲れるのと、歩いても走っても同じだとクリスの勘が教えた為、ならば体力は温存しようということになったのだ。同じ戦うなら、そのほうが良い。
「外出て、どこかの時点で見られてたっぽいね」
「包囲されるよりはいいかと思いますよ」
「そうだね」
背伸びして、そしてクリスは話を振ることにした。緊張状態で歩くよりは、そのほうが気も紛れる。どうせしゃべったとて状況は変わらないのだ。
そして生贄はもはやお決まりの少年であった。
「で、少年よ。どうやってこの美人さんを口説き落としたのかね」
「いや、あの」
「えぇ、それはもう激しく詰め寄られまして」
「アナベルさんっ」
照れた様子を作るアナベルに、ジゼットは慌てたように声をかける。
「アナベルさんが、一度断ってから急に了承してくれたんじゃないですか」
「リリアちゃんを守りたいから助けて欲しいなんて熱く語られたら、ぐらっと来ちゃいますよ。あ、報酬は頂きますからね」
「結局金で釣られてやんの」
「えぇ。これで手に入る報酬で目標資金に届くので、掃除屋はやめます」
そしてアナベルはクリスとエリーに目を配って。
「お二人は、まだ続けるんですか?」
「その質問はクリティカルヒットだからやめて。うちらはいいの。リリア、あんたらは逃げたらどうするのよ」
子供二人に問う。リリアはもう今までのリリアではない。殺人を忌避する人間だ。随分と事情が変わってきたが、これからどうするのかと。
それにリリアはステップで踊りながら。
「そんな事考えてないわ」
「おい。年頃らしく夢とか希望とかないのかい」
「別に。あ、でも旅行には行きたいわ。おじさんがいろいろ教えてくれたの。海向こうの国の博物館や、南の国の浜辺や、東の国のお城。自分で見てみたいわ。寒いのは嫌だから暖かいところがいい」
「世界旅行と来たか」
それでも夢があるだけ、クリスにとっては羨ましい。
さらに歩き、路地に入る。
そして、先頭を歩くクリスが片手を上げて停止命令を出した。
「戦闘準備」
スナイパーライフルを、サブマシンガンを、アサルトカービンを、セミオートショットガンを。戦闘員の四人が各々に準備して構える。
ジゼットが持っていた分を含めてトランシーバーは3つある。これらはエリー、クリス、アナベルが所持する事にしていた。
「アナベルがポイントマン、私がセカンド。リリアとジゼット、リゼは私の後に続け、絶対に離れるな。エリー、テールガン」
「了解」
ポイントマンは、前方警戒で先頭を進む。
セカンドアタッカーは、ポイントマンの後ろから援護及び部隊指揮。
テールガンは、後方警戒。
ここに至るまで散々にクリスが考えた結果のポジションだ。
逃走はいいが、皆でただマラソンすれば狙いすまされて撃たれるだけだ。必ず支援射撃、制圧射撃が必要になる。交互に制圧しながら、小地点を決めて短距離走をする。
逃げるということは敵を後方に置いていくという事であり、陣形でもっとも交戦するのはテールガンだ。リゼは非戦闘員、リリアは護衛対象で、ジゼットも護衛対象なので荒い使い方が出来ない。そしてアナベルは人を撃てず、クリスは勘を使った移動指示など指揮官の仕事をしなければならないので、殿役を出来る人間がエリーしか残っていない。そうするしかないのだ。
全員が生きる為には。
準備を終えたところで、クリスは先の通路に向けて声を上げた。勘は囁く。この先に出たら撃たれると。
クリスは違いなく聞こえるよう、大きく声を上げた。
「鬼ごっこはやめてデッドオアアライブになったの?」
返答はない。
「クリス、後ろから足音。複数」
「了解。よし、最初は全員で走るよ、制圧入れるから。行け!」
クリスが角からサブマシンガンを突き出して、出鱈目にタップ撃ち。そしてアナベルを先頭に走った。一団が飛び出したところで、弾を撒きながらクリスも続く。
返答は、やはり銃弾によるものだった。だがクリスの先制攻撃に驚いて照準を違えたそれは当たらない。
先頭を走ったアナベルは適当なアパートの入り口を見つけると、その空間に後続を招いた。全員が集まった所で、クリスの指示でアナベルがまた先行。エリーの支援の中でクリス達中核が続けて移動。そしてクリスの援護で最後にエリーが動く。こうして遮蔽から遮蔽へ移動していく。
逃げたと判断して、相手は姿を晒して道路を走って追いかけようとしてくる。
もちろんそんな事は容易にさせない。撃ちつくしたマガジンを交換して、クリスがセミオートで撃つ。狙う必要などない。敵に向けて発砲していると言う事実が大切だ。発砲音を聞きそこらに着弾する音を聞けば、身の危険と抵抗の意思ありとして彼らはどこかしらに隠れる。
「行け!」
そして相手が足を止めて頭を隠したところで、また移動する。彼らの撃ち返しはめくら撃ちであり、当たらない。
「エリー、制圧」
「了解」
エリーの射撃音を背中で受けて、クリスが先へと進む。そして道に転がっていた車に辿り着くと、ほどほどに相手に狙いを定める。「エリー、来い!」との指示と同時に、また撃つ。そしてエリーが辿り着けば、またアナベルが先導して工程を進む。
後はこの繰り返しだ。
「リロード」
6発しか入らない弾薬を早々に使いきって、エリーがマガジンを取り外して脇に置き、新しいものをはめる。
その空のマガジンを、横からそっと取り上げる手があった。リゼだ。
「?」
「詰めておくわ」
リゼはそう微笑むと、エリーのバッグに入った弾薬箱から、正しく7.62mmx51弾を選んで、マガジンへ装填していく。銃を触らなくなってから時間が経過していて決して素早いとはいえないが、それでも覚えている人間の手つきだった。
「リゼ」
「必要になるまで殺さない約束をしたんでしょう? これくらいはさせて」
「ん、ありがと」
「私のもお願いリゼ。よしアナベル、ゴーゴー」
肩を叩かれたアナベルは、またひとつ進んでいく。
ずっとこのまま単調にとはいかないだろうが、無謀な接近は相手は出来ない状態だ。いざとなればクリスの閃光手榴弾と発煙手榴弾もある。楽観と言うほどでもないが、初動の成功に確かな手ごたえを感じて、このままなら皆でいけるなと考えていた。
ただ一人を除いて。




