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ドーム外の死闘/彼らは名誉と富を求める

 ドームから出た途端、空気が一変した。

 そこかしこで剣戟や怒声、悲鳴が響いている。


「こいつは厄介なことになったみたいだな。武器を――」


 抜け、と言い掛けたところで横合いから斬撃が放たれた。

 逆手で剣を抜き、それを受け止める。衝撃が腕まで突き抜けた。

 斬撃を放ってきたのは血走った目のゴロツキ。


「星ッ……! 手前、星を寄越せ!」


 すぐに剣を引き、もう一撃を加えようとしてきた。

 だが俺は逆の手でマジックアローをすでに生成していた。

 攻撃者の膝に一発を叩き込み、体勢を崩したところを切り上げた。

 顎を打ち抜かれた男はもんどりを打って倒れ、ぴくぴくと痙攣した。


「これって……もう、奪い合いが始まっているってことですか!?」

「思いの外クリア率悪かったんだなぁ。どいつもこいつもがっつきやがって」


 出て来たところを奇襲するような奴はそれほど多くなかった。

 その代わりに、ドームから少し行ったところにある平地は凄惨な状況だ。

 参加者が打ち合い、殴り合い、星を奪い合っている。

 その輪は徐々に広まっていく。さて、どうするか。


「やることは分かってるよな、相棒!」

「ああ、分かってるさ。とにかく――」


 俺とマイトは同時に駆け出した。


 ただし、方向は別々だったが。


(えっ! このままあいつらぶっ倒して星を貰うんじゃないのか!?)

(いったんここから逃げようって話じゃなかったっけか、マイト!?)


 どっちにしろ、マイトは止まれなかった。

 奴の接近に気付き、打ち合いを行っていた男は顔を見合わせた。

 まずは目の前に現れたカモから倒そうということになったのだろう。

 二人は左右に立ち、マイトを両側から攻撃しようとした。


「まったく、話の分からない相棒を持つと苦労するな……!」


 マジックアローを生成、発射した。

 フレアを使ってもよかったが、あれは派手に光と音が出る。

 乱戦状態で注意を引くのは好ましくない。

 こいつらを倒して脱出しなければ。


 ただのゴロツキかと思っていたが、どうやら違ったようだ。

 俺が放ったマジックアローは、シールドによって防がれた。

 距離もあったのだろうが、広域シールドで防御されるとさすがに傷つく。

 舌打ちし、俺はゴロツキに向かって駆け出した。


 それでも、数秒掛かる。

 その間にゴロツキはマイトを倒すべく動き出した。

 右に立った男がカトラスを突き込み、マイトを襲う。

 マイトは剣でそれを受け流すが、その背後にもう一人の男が回った。

 音もなく回り込んだ男は、コンパクトな打撃を加えようとした。


「マイトさんは……やらせませんよ!」


 それを、ミンクの放ったマジックアローが防いだ。

 ゴロツキはさっきと同じようにシールドで止めようとした。

 だがすぐ考えを改め、後退しながらシールドの範囲を広げ防御に専念する。

 矢はシールドを貫通したが、男を倒すほどではなくなった。


「ヤバかったんじゃねえの、お前? 怪我とかしてねえだろうな?」

「んなワケねえだろ。こんな奴ら一人でやったって余裕だっての!」


 マイトは強がるが、その口ぶりに余裕はなかった。

 一度打ち合っただけであいつらの実力をある程度把握しているのだろう。

 相変わらず戦いに関しては勘の働く奴だ。


「兄者、どうやらこいつら一筋縄では行かん連中のようですぜ」


 カトラスを持った男が口を開いた。さっきのは演技だったか。

 身長は俺たちの中で誰よりも高い、ウルザよりは小さいだろうが。

 剃り込みを入れた髪が特徴的な筋肉質の男だ。


「貴族の坊ちゃん連中から星を奪うのも面白いが、張り合いがなくてな」


 もう片方、拳を守るガントレットを身に着けた男は飢狼のように笑った。

 こちらの背は低い、だがみっちりと筋肉の詰まった太い体をしている。

 男は禿げあがった頭を撫で、腰に手を回した。

 次なる攻撃を俺たちは警戒したが、それは行われなかった。


 代わりに、何かが地面に投げられた。

 それは地面に当たると爆発し、凄まじい勢いで土煙を巻き上げた。

 俺たちが怯んでいる一瞬の隙に、彼らは消え去った。


「ちっ! マズい、音に反応してあいつらがこっちに気付いた……!」


 広場で戦っていた連中が、ドームから脱出して来た俺たちに気付いた。

 遠巻きに見物しながら逃げらればよかった。

 誰に星が集中しているか分かったのに……!


「悪い、クレイン。てっきり全員倒せば話が解決するものかと……」

「謝るのは俺の方だよ。

 お前の頭が悪いってことをすっかり忘れてたんだからな」


 言い合っている時間はない。

 とにかくこの状況を打開しなければ。

 だがどうすればいい?

 もちろん俺たちに、あれだけの数を相手にする力は……


 賭けだが、やるしかない。俺はフレアを生成した。

 マイトとミンクは驚くだけだが、フェリックは意図に気付いた。

 見よう見まねで俺のフレアを模倣した。


「ミンク、一瞬でいい。あいつらを止めてくれ。

 あとはもう……運次第だ!」


 ミンクは頷き、両腕で魔法を生成した。

 彼女の手に出来上がったのは、土色の魔力球。

 彼女はそれを、人並みの先頭に向けて放った。

 地面に当たったそれは、爆発や衝撃をもたらさなかった。

 代わりに、地面を砕き、人々の足を瞬間止めた。


地変魔法(アースドライブ)! でも、これほどのパワーなんて……」

「ボーっとしてんな、フェリック! こいつが決まんなきゃ始まらねえ!」


 俺たちはフレアを左右の森に放った。

 そして、走り出す。あいつらから逃げるために。


 俺たちを追いかけ、ゴロツキやチンピラ――中には貴族もいる――が走る。

 だが、彼らも聞いた。大地を揺るがすいくつもの足音を。

 不快な羽音を。そう、人造生物の足音を。


 特に、グローワスプの群れは効果的だった。

 身を屈め走る俺たちを無視して、蜂は集団の中へと飛び込んで行った。

 人々の悲鳴を尻目に、俺たちは一目散に逃げた。




「ハァーッ! ハァーッ! くっそ、休憩!

 も、もう無理。もう動けねえ……!」


 人目を避けられる岩陰に潜り込み、俺たちは息を吐いた。

 足がパンパンになるまで走った、もう一歩だって動けない。

 っていうか動きたくない。

 ミンクやフェリックも同じような状態であり、元気なのはマイトくらいだ。


「んだよ、お前らだらしねえなぁ。鍛えてないんじゃないの?」

「時折お前を無性に殺したくなるのはなんでなんだろうな?」


 俺の皮肉を受けて、さすがにマイトもしゅんとした様子を見せた。


「悪い、はしゃいじまって。俺のせいであんな目に遭ったってのに」

「……いや、いまのは八つ当たりだ。俺も悪かった、すまん」


 あそこで逃げることを選んでいたとしても、逃げ切れたとは限らない。

 いや、あれほど多くの敵がいたのだ、逃げ切れなかっただろう。

 結果としては上々だ、誰一人として欠けることはなかったのだから。

 それにしても、これからどうするか。


「とにかく、今日はここで終わりにしよう。

 一日一チェックポイント、それで行くぞ」

「まさかあんなにみんな必死になっているなんて……

 想像もしませんでした」


 ミンクはため息を吐き、座り心地の良さそうな岩を選んでそこに座った。

 戦いが好きでないだけでなく、争いとは無縁の場所にいたのだろう。

 本当に呆然としていた。


「……ま、本当に騎士になれるってなら、誰でもああなるだろ。

 騎士になるってことは貴族になるってことだ。

 騎士は貴族でしかなれないんだから、逆説的にそうなる」

「皆さん、貴族というものにそんなに憧れているんでしょうか?」

「憧れてるっていうか……クレインみたいに、恨み半分ってのが多いだろうな」


 別に俺は恨んでいるわけじゃないが……まあ、分かりやすいならいいか。


「貴族なんてのは横暴の代名詞みたいなものだからな。

 特権を傘に着て威張り散らし、法律に守られぬくぬくと暮らす。

 もちろんそんな連中ばかりじゃないことは知っている。

 ウチのところの領主はいい人だった。

 けど、そう言うイメージをみんな持っている」


 貴族は年貢を取る側だから、簒奪者として恨まれる。

 農民からは『何も生み出せない無能者』と蔑まれている。

 もし神代の怪物とやらがいれば、そいつらと戦ってくれるのだろう。

 だが、いまそいつらはいない。いまの騎士は無駄飯喰らいだ。


「憧れって言うのとは違う。

 どうして俺たちがそうなれないんだ、って言う怒りかな。

 俺たちが抱いているのは、そういうものだ。分かり辛かったかな?」

「いえ、横暴って言うのは分かります。新興貴族だから苛められる側だし」


 フェリックは苦笑しながら、俺の言葉を肯定してくれた。

 反対に、ミンクは何かを考え込んでいる。

 その表情には否定のニュアンスが浮かんでいるようにも見えた。


「騎士は……本当の騎士は、貴族は、そんなものじゃありません」

「でも、そう言うことをする紛い物の貴族が本物として振る舞っているんだ」

「由々しきことですね、本当に。神の騎士の誇りを忘れてしまった人々……」


 ミンクは不貞腐れたように目を閉じ、それからすぐに眠り込んだ。

 慣れていないことが多くて、疲れてしまったのだろう。

 それでも、寝顔は安らかなものだった。


「マイト、見張り頼むわ。俺は暖を取る」

「おう、頼んだぜ。俺はそう言うの、からっきしだからな」


 そう言って、マイトは洞窟から出て行った。

 逃げ道が他にもあればよかったが、この際贅沢は言っていられまい。

 俺は背嚢から着火剤を取り出し、詠唱。

 すぐに俺の指先に小さな炎が生まれ、火が燃え移った。

 しばらくはこれで足りるだろう。


「凄いんですね、クレインさんは。剣も出来て、魔法も使える。手先も器用だ」

「おまけに読み書き計算も出来る。村じゃ一番だったんだけどね、これでも」


 大きくため息を吐いた。

 世界の広さとか、そういうものを思い知らされた。


「ここに来てようやく分かったよ。

 俺には出来ないことの方がよっぽど多いんだって」

「何だって出来る人なんて、いませんよ。僕なんて何も出来ないし」

「そうだな。でも……越えるべき目標は、いつだって一番近くにあるんだよ」

「……マイトさんのこと、ですよね?」

「あいつの前では言うんじゃねえぞ? 調子に乗っちまうからな、あのアホは」


 マイトが俺なら、フレアなんて姑息な真似は使わないだろう。

 相手をキレさせて動きを鈍らせもしなかっただろう。

 ポイントを取って離脱、なんてことはしなかっただろう。


 俺がやったことは、弱いからこそやらなければならなかったことだ。

 どんな理不尽でも、どんな強敵でも、ねじ伏せられる力。

 マイトにあって、俺にないもの。

 ミンクやウルザが持っているもの。

 俺では手に入らないもの。


 大きくため息を吐いて、俺も目を閉じた。

 今日は色々あり過ぎて、疲れた。


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