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島内探索/彼らは一位を目指さない

 残った参加者は船着き場に案内され、そこで大型の帆船に乗せられた。

 大分振り落とされたとはいえ50人ほどの参加者がいるが、楽々乗れた。

 もっとも、いい部屋はもちろん貴族様が占有している。

 俺たちは船底や甲板に近い場所を宛がわれた。


「すっげーな、海! 俺船に乗るのって生まれて初めてだよ! なあ!」

「ああ、そうだな。俺も初めて乗るよ。分かったからはしゃぐなって」


 とは言っても、俺もそれなりに興奮している。

 初めて感じる潮の臭い、波の音、流れていく白い雲。

 真っ白な鳥が船と並走し、そして消えて行く。

 何もかもが初めて見る光景であり、新鮮だった。

 この旅は驚きの連続だ。


「頬、緩んでますよクレインさん。何だかんだで嬉しいんですね」

「ったく、ホント素直じゃねえなあお前はよ! ほら、海見ようぜ海ッ!」


 ったく、こいつら俺が少しばかり隙を見せたと思ったら。

 付き合ってられない、このままじゃ島に着く前に力尽きちまう。

 俺は船べりから離れた。


「ちと、船を見回って来る。海だけ見てるんじゃ、勿体ないからな」

「おう! なんか面白いものがあったら教えてくれよ……

 ってなんだありゃあ!」


 マイトは海の向こう側に何かを見つけたらしい。

 それにミンクが何か、解説を加えている。

 俺はそんな光景を尻目に歩きだした。

 そして、大きなため息を吐く。


(ホント元気だよな。付き合ってられねえ。付き合ってるんだけどさ……)


 あいつら、案外お似合いなんじゃないだろうか。

 好奇心が強くて、純真で、素直。

 喧嘩っ早いマイトと、思慮深く戦いが苦手なミンク。

 対照的だが、ピタリと合う気がする。

 なんてことを考える自分に苦笑した。


(ま、いい子だけどさ。あいつと一緒になるなんてきっとゴメン……)


 考えているうちに、嫉妬しているんじゃないかと思うようになった。

 話す機会は結構あるが、俺とミンクの間には壁がある。

 余所余所しいというか、何というか。


 マイトはあのガサツな態度で、そんなものを無視して話をする。

 昔からそう言う、裏表のない態度に惹かれる人も多かった気がする。

 不思議なことに。


(下らねえこと考えるな。まずは、こいつを突破することだけ考えろ、俺)


 始めは騎士になる気などなかった。いまでもないだろう。

 だが、すべてを貴族の思い通りにするのは我慢がならない。

 あの傲慢ちきな、人を見下した連中に吠え面かかせてやる。

 それだけを考えて、俺はこの試験に臨んでいる。

 根本的にはマイトと変わらない。


(気に入らないことが嫌いなんだな、俺はやっぱり)


 そんなことを考えていると、通路の奥から人が出て来た。

 足音をほとんど響かせない、独特な歩き方。

 全身を覆う麻のローブを纏っており、頭巾から伸びる薄墨色の髪が特徴的だ。

 女性、なのだろうか? 軽やかな歩き姿からはそんな感じがする。


「……ロウ=ツィル?」


 どうしてそう思ったのかは分からないが、俺はその名を口にした。

 ローブの人物、ロウは軽く会釈して、俺の横を通り過ぎて行った。

 注意して見ていなければ、そこに彼女がいたことすら忘れていただろう。

 彼女の後姿を追おうと思ったが、すでにいなかった。




 船旅を続けること数時間、太陽は既に頭上近くまで登っていた。

 甲板で二人と一緒に駄弁っていると、喇叭が吹かれた。

 そちらを見てみると、カイゼルがいた。


「あのオッサン、こんなところまで来てるのか。

 街の運営はどうなってんだ?」

「まあ、役人の方が何とかしているんじゃないですか?」

「楽な仕事だねえ、他人に丸投げしてりゃあ何とかなる、ってのはさ」


 カイゼルは喉をさすった。

 ちょうど全員がここに来たようで、彼は話し始めた。

 辺りを見渡してみると、ウルザも、アナンもいた。

 ロウだけは見つけることが出来なかったが、彼女のことだ。

 人ごみの中に紛れているのだろう。


「潮の臭い、風の感触、青い海!

 ようこそ、我がアクティアが誇るアクティア海に!

 そして次なる試練の場は……ここだーっ!」


 カイゼルは大仰な仕草で指さした。

 そちらを見てみると、島が一つあった。


 中心部には山があり、その周りを深い森が覆っている。無人島だろうか?

 あるいは、かつては人が住んでいたがいまはいなくなったか。

 それを証明するように、海岸線にはいくつか放棄された建造物が見える。

 波の間に間に見え隠れする廃墟もあった。


「次なる試練の場は、このカルマ島!

 かつて大海を支配した海魔族が拠点にしていたと言われている場所だ!

 いまも恐ろしい亡霊が出る……かもしれない!」


 笑いが起こった。俺も失笑してしまう。

 今時海魔族もないだろう。

 おとぎ話の存在だ。


 この地上を、神が支配した時代があると言われている。

 その時、地上を二分するもう一つの勢力とその王、すなわち魔王がいた。

 魔王は陸、海、空を統べる強大な力を持つ怪物、魔族の支配者であった。

 神と人は悪徳をばら撒く魔王の支配に対抗し、そしてそれを打ち破った。

 戦いの後、末永く神は地上を支配した……


 それが神王国の成り立ち。

 祖父の代に神から人へ地上の支配権が与えられ、新王国が誕生した。

 もっとも、そんなことを信じているものなどいやしない。

 何せ、数百年この地を支配して来た神を見たものなどいないのだから。


「海、魔族……」

「オイオイ、しっかりしろよ。そんなのいるわけないだろう?」


 だが、その言葉を聞いて体を固くしたものが一人いた。ミンクだ。

 よっぽど厳格で、頑迷な祖父に育てられたのだろうか?

 彼女は魔族の存在を信じているのだろうか?


「もし魔族なんてのがいたら、面白ェな。

 一人残らず、この俺が叩き切ってやれる」

「押し潰されねえように気を付けろよ。

 確かサイクロプスの話聞いて泣いてたよな?」


 そう言えば、魔族の存在を信じている奴がここにも一人いた。

 おとぎ話の魔族の話を、人を苦しめる怪物の話を、こいつは真剣に聞いた。

 もしかしたら、それも騎士を目指す原動力になっているのかもしれない。

 現実の出来事に目を向ければいいのに。


「……そうですね、ありがとうございます。マイトさん。勇気、出ました」


 ミンクは笑ったが、しかしその表情はぎこちない。

 マイトはそれに気付いているのか、いないのか。

 満面の笑みを返した。俺はカイゼルの話に意識を戻した。


「キミたちには島の地図が配られる。

 今日から三日の間、最終日の日が昇り、落ちるまでの間に!

 目的地へと辿り着け! 来られなかったものは成績の如何に関わらず失格だ!

 ただしただ着けばいいわけじゃない」


 カイゼルは懐からバッジのようなものを取り出した。

 星型のバッジだ。


「これは一人に一枚配られる。

 目的地までに10枚集められなかったものも失格だ!」


 血みどろの奪い合いが始まるわけか。

 と、思ったがそうではなかった。


「なお、島にはチェックポイントが設置されている。

 ここで規定のテストをクリアすることで印が押される。

 1つ目は1つ! 2つ目は2つ! 3つめは4つの星を得ることが出来る!

 なお、このチェックポイントは潜らなくてもいい。

 リタイアポイントにもなっている。しないだろうがな!」


 すべてのポイントを回れば、8つの星を得ることが出来るわけだ。

 と、なると少なくとも2回は星を奪わなければならない。

 どういう手段であってもいいのだろうが……


 そんなことを考えていると、地図が俺に渡された。

 ついでに、星も。


 取り敢えず、盗られないように押し込めながら俺は地図を覗き込んだ。

 島の簡易図、それからチェックポイント通過の印を描くための欄が三つある。

 なるほど、これの数だけ星をくれるわけだ。


 俺はマイトと目を見合わせ、頷き合った。

 そうこうしているうちに接岸した。

 衝撃が俺たちに襲い掛かり、体勢を少し崩した。

 揺れが収まったと同時に、カイゼルは宣言した。


「ではこれより、最後の試練を始める! 諸君の奮戦を――期待する!」


 参加者たちは勝鬨を上げ、そして走り出す!

 係員がフラップを立てる。

 それを待てぬものたちは船べりを蹴って浜辺に着地!

 一斉に走り出した!


 俺たちはその流れに負けまいと――その場に必死でとどまった。


「はー、みんな必死だな。

 騎士になれるって餌吊るされてるなら、それも当たり前か」

「ま、もうしばらく待ってみようぜ。まだ昼めし食ってなかったな」


 そう言えば、昼食が振る舞われていたな。結局食わなかったけど。

 係員が片付けようとしていたパンと水筒を掴み、流し込む。

 うん、マズい。無いよりはマシだが。


「……って、マイトさん! クレインさん!

 ボーっとしてていいんですか!?」


 マイトに抱きかかえられ、出発し損ねたミンクが抗議の声を上げた。

 見ると少し息が荒い、走り出そうとしたところを止められたのだろうか?


「落ち着けよ、ミンク。こりゃ後手の方が有利だろ」

「えっ、後手有利って……どういうことですか?」


 俺たちは地図を広げ、ミンクに説明することにした。


「地図の縮尺から、だいたいの距離は分かる。

 一直線に歩いて行けば、一日でも回り切れる距離だ。

 なのに三日も設定されている。

 考えられることは二つ。

 チェックポイントに滅茶苦茶時間が掛かるか。

 道中にも超えなきゃいけないなんかが設置されているか」

「この人数を捌くってことを考えると、チェックポイントは多分すぐ済む。

 ってことは、道中に危険な罠とか、あるいは野生動物とかがいるってことだ」


 俺たちは二人旅で嫌というほど危険に遭っている。

 狼の群れ、野生のクマとご対面、ハチの巣をつついてしまったこともある。

 盗賊の罠とも知らずに小屋に泊まり、危うく殺されかけたこともある。

 危険に関する嗅覚はそれなりに優れているつもりだ。


「つーわけで、あいつらに先に行ってもらうことにした。

 罠を潰してもらえりゃ御の字」

「そもそも早く行っても恩恵がないからな。急ぐだけ無駄」


 マイトは船べりにもたれかかり、思い切り背を逸らせた。

 そんなマイトの様子を見て、ミンクはポカンとした様子で大口を開けた。


「ま、マイトさんって……そ、そんなに頭の回る方でしたっけ?」

「剣を持ってない時はそれなりに頭回るんだけどねー。持っちゃうとダメよ」


 考える頭がないわけじゃないのに、考えない方に思考の舵を切る。

 こいつがもっと考えて行動してくれれば、俺の負担も減るのに。

 そんなことを考えていると、肩を叩かれた。


「キミたち……私たちはこれからゴールに向かわないといけないんだ」

「おっ! ってことは、俺たちゴールまで連れてってもらえるってことか?」

「さっさと降りろって言ってるんだよ、このクソガキども」


 そんなわけで、俺たちはカイゼルに船から蹴り出された。


「ったく、あの髭オヤジめ! ちょっとは融通利かせてもいいだろ!」

「利かせたら終わっちまうだろ。ま、仕方ねえか」


 それなりに時間を稼ぐことは出来た。

 死屍累々の状況があれば、警戒出来る。

 そうでなくても、急ぐことは出来る。

 どっちにしろ、俺たちに損はないはずだ。


「んじゃ、行きましょうか。

 英雄譚の始まり、少しばっかり手伝ってやるよ」

「おっ、いいなそれ! 俺の英雄譚は、ここから始まるんだ!」

「皮肉とかそう言うの、ちょっとは理解してくれると助かるんだけどなぁ」

「まあまあ、楽しんで行きましょうよ。ね?」


 そんなこんなで、俺たち三人のカルマ島探索が始まったのである。


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