中間発表/彼らは貴族に喧嘩を売る
「クレイン! ったく、ヒヤヒヤさせやがって!」
「俺はお前の方にヒヤヒヤしたんだけどなぁ……
まあいいわ、結局勝ったんだし」
「凄いですねえ、お二人は。私はあんまりよく出来ませんでした……」
「最後まで立ってたんだからポイントそのまま貰えたし、大丈夫だろ」
終了後、俺たちは早速合流。
俺は帰ろうと言ったが、マイトが残りも見て行くと言って聞かなかった。
仕方のねえやつ。
「え、マイトさん集中狙いされてるって分からなかったんですか?」
「ああ、そうだったの?
もともと全部ぶっ倒すつもりだったから細かく見てなかった」
「お前ってそういう奴だよな。別に褒めてるわけじゃねえからな?」
結局、こいつはこういう奴なのだ。心配するだけ損だ。
残りの試合も見ていたが、特に見るべきものはなかった。
つまりは、貴族の独壇場。剣も魔法もまったくレベルが違う。
そりゃそうだ、貴族には鍛錬の時間があるが、平民にはない。
たまにゴロツキがゴロツキを倒す程度。貴族には敵わない。
平坦な試合運びだ、欠伸が出て来る。
「あんまり見てても面白くねえなあー。そろそろ帰って飯にするか?」
「お前、俺が必死になって押し止めていた言葉をそんなにあっさり……」
「キミらの試合に比べれば退屈だけどさァ。みんな頑張ってんだぜぇ?」
いきなり話しかけられ、俺たちは驚きそちらを見た。
まったく気配を感じなかった。
そこにいたのは、安っぽい服をだらしなく着崩した男だった。
ボサボサの髪を、乱雑にバンダナでまとめていた。
見た目若々しさを物腰の爺臭さで相殺しているように見える。
こいつはいったい何者だ?
「まずは10人抜きおめでとう、マイトくん。
それからクレインくん、さっきのは見事だったね。
レギュレーションの隙を突くような戦い方は、俺は好きだぜ。
ミンクちゃんはもーちょと積極的になれれば、凄い魔法使いになれそうだ」
「あんたいったい誰なんだよ? 俺たちのことを、どうして知っているんだ?」
男は窓枠にもたれかかり、試合にヤジを飛ばしてから俺たちに向き直った。
「俺はカルタ=グラヴィス。新設される第五騎士団補佐隊の隊長だよ」
「ああ、なるほど。あんたがこの茶番を仕切ってる人ですか。どうも」
俺の皮肉に、カルタと名乗った男は眉一つ動かさなかった。
ミンクはおどおどと俺とカルタとを見比べているが、落ち着け。
この男はそう簡単には怒らないだろう、という感触があった。
そしてその感想通り、カルタは笑ってそれを流した。
「そ、茶番だよ。分かってるね、キミ。
でも仕切ってるのは俺じゃないよ。
今回の件を計画したのは、カイゼル=アクティアその人さ」
「ふーん、でもアクティアには海軍があるんでしょう?
それで十分じゃないですか」
この国には四つの騎士団があると言われている。
一つは王国を警護する王衛騎士団、エリートの中のエリートが入る場所。
二つは第二軍、城塞警備隊。
神代に魔王との戦争で使われたという城塞と『国境』を守護する部隊。
何をしているかは知らない、何もしていないのだろうが。
三つはここアクティアにある海域守護騎士団。
外海を回る商船の護衛や、内地の大河を管理する任務も請け負っている。
一番忙しい騎士団だと言われている。
最後が第四軍、駐在騎士隊。
民間人の集団である警備兵とは違って、貴族で構成されている。
中央から貴族を左遷するために設立されたと、もっぱらの噂だ。
別に、騎士団が憎くて言っているワケではない。
基本的に、犯罪者の摘発などは警備兵がやるので、こいつらにすることはない。
いずれにも共通しているものは一つだけ。
貴族様の活躍の場だということだ。
王国がそれらを提供し、運営している。
国営の騎士組合と言っても過言ではないだろう。
「でもアクティアは商船経営でかなり儲けているからね。
金を貯め込み過ぎだって他の都市からチクチク言われてるのさ。
だから、カイゼル様は金を吐き出そうとしている」
「それが第五軍ですか。そんな金があるなら俺たちに分けてくれればいいのに」
「何言ってんの、そんなことしたら身内で回んないじゃない?
あいつらがやっているのは金というオモチャをグルグル回す遊び。
回り方を見て楽しんでいるのさ」
思いの外辛辣なことを言う。
まあ、こいつも貴族だろうし思うところはあるのだろう。
「まあ、キミらの試合が一番面白かったよ。
他はなんていうか順当って言うか……ん?」
カルタが首を傾げた。
俺も偶然それを見ていたので、不可思議さがよく分かった。
「あいつ、いままであんまり動いてなかった奴ですよね?」
「ああ、立ち回りが上手いな。上手く人の死角についている。
でも、得点は……」
そう、総得点では彼を上回るものがいる。
彼は二位で終わった。
「あえて目立たないようにしている、とか?
立ち回りは地味そのものだし」
「まあ、逃げ回って失点しないでいたようにも見える。
そう立ち回っていたみたいだ」
格好も極めて地味だ。
周囲に溶け込むような服装をわざと選んでいるようにも思える。
自分の存在を隠しているような気にもなる。
「あいつ、そうか……ロウ=ツィル。確かにあれは……」
カルタはおかしな名前をつぶやいた。
それが彼の名前なのだろう。
「……ま、いいや。僕はそろそろ帰るとするわ。
キミたちも遅くならないうちに帰れよ」
「夜の街に遊びに行くわけじゃねえし、問題ないですよ。
そちらこそ、お仲間に怒られないようお気をつけて」
「僕のサボり癖はみんなが知っている。
つまり怒られる心配はないのさ」
「それってただ呆れられているだけなんじゃ……」
ミンクの言葉を笑って打ち消し、カルタは去って行った。
窓の外に視界を移すと、すでにロウ=ツィルはいなくなっていた。
そこから最後まで試合を見て行ったが、特に面白みのある試合はなかった。
……更に次の日!
予定ではここで中間発表が入ることになっている。
「楽しみだなァ、クレイン! 俺たち、どこまで行けると思う!?」
「行けなくていいから、俺はさっさと村に帰りたい。
家畜の世話が残ってんだぞ」
テンションが上がっていくマイトとは対照的に、俺の心は冷えて行った。
どうせ最後には貴族様が勝つんだ、なら頑張るだけ無駄ってもんじゃないか。
それが分かっているのか、いないのか、マイトは元気なものだ。
時々羨ましくなる。
「……んだよ、クレイン。じろじろ見て、気持ち悪いぞちょっと」
「安心しろ、お前ほど気持ちが悪くなる生き物はそうそういないからな」
じゃれついてくるマイトを押さえながら、結果発表を待った。
待っていると、やたらともったいぶってカイゼルが壇上に上がって来た。
「厳しい試練を乗り越えて来たもの、乗り越えられなかったもの。
そのどれもが尊い」
やや自分に酔った様子で、カイザルは演説を打った。
「しかし、結果というのは残酷なものだッ!
ここに名前がなかったものは、これにて失格!
残念ながら、第五軍に加わることは出来ないものと思って欲しい!」
そう言って、カイザルは石板を掲示した。
どうでもいいがなんでいつもいつも石板なのだろうか?
つけたり外したりするのが辛くはないのだろうか?
そんな俺の考えをよそに、係の人たちが石板を付け替えていく。
歓声と悲鳴とが辺りに響く。
「ッシャア! やったな、クレイン! 俺たち残ったみたいだぜ!」
「マジかよ。さっさと落ちてくれれば助かったのに。
ミンクも……ああ、おめでとう」
「やったな、ミンク! 俺たちなら出来る! 三人できっと騎士になれるぜ!」
「しれっと俺も混ぜてんじゃねえよ。
それに見てみろ、貴族連中はみんな受かってる」
石板に刻まれていないのはゴロツキ連中ばかり。
ポイントを取れなかった連中だが、貴族はその中にはいない。
「なんだよ、あれ! 全員俺がぶっ倒した奴じゃねえか!」
「面接の受け答えが非常によかったんだろう。
分かったろ、これは貴族のためのテストなんだよ。
このまま行ったって、俺たちが受かる分けねえ。夢なんて――」
言い切る前に、殴られた。
腰の入ったすごくいいストレートだった。
「手前何しやがるマイト! いつかと言わずいま終わらせてやろうか!?」
「すまん、いまのは完全にノリで殴ったわ!」
ぶっ殺してやる。
そう思う俺の肩に、マイトは無理矢理両手を置いた。
「お前、そんなのでいいのかよ!
一生貴族に負けっぱなし、インチキ試合を組まされてそれでいいのかよ!
俺たちでそんなの、ぶっ壊してやろうじゃねえか!」
「お前それさっきと同じで、ノリで言ってるよな?」
キレそうになる俺を、ミンクもまたなだめすかした。
「マイトさんの言っていることももっともです。
このまま唯々諾々と従って、それでいいわけがありません。
これが試験だというのなら……戦いましょう、クレインさん。
ぐうの音も出ないくらいはっきりと、点数で差をつけてあげるんです!」
「うん、順序立てて言ってもらえると大分イライラが収まって来るわ」
後頭部をポリポリと掻きながら、俺は考え、そして決断した。
「……分かったよ。
従いたいわけじゃない、仕方ないと思っていただけだ。
けど、うんざりしているのは確かだ。
負けたとしても、デメリットはねえ。付き合うよ」
「最初っからそう言えばいいんだよ、この寂しがり屋のかまってちゃんめ!」
「お前のことは真っ先にぶっ殺そうと思っていたんだ」
やり合う俺たちを横目に、カイゼルはこれからの予定を告げた。
「残ったものたちはこれから移動してもらう。
最後にして、最大の試練……ザイア島サバイバル試験のために!
これまで以上の奮戦を期待するッ!」
ザイア島サバイバル試験。
その言葉を聞いた途端、俺の背筋にゾワリとと何かが走った。
それは、予感。本能が告げている、ザイア島が危険な場所だと。
もちろん、そんなことを二人は微塵も感じていないだろう。
二人は能天気に未来のことを信じている。
こんなザマではいつくたばっても不思議ではない。
……ならば、せめて俺が警戒していよう。
まったく、手間のかかる連中だな。




