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オルゴール館と『Misty』

あらすじ

ユン・シウとカン・サランの二人は、明治時代に建てられたレンガ造りの「オルゴール館」に到着します。サランは建物の前にある英国風の蒸気時計が白い蒸気とともに奏でる時報のメロディに目を輝かせますが、動画の撮影に失敗して悔しがります。シウは15分ごとに時報があることを教え、館内を見た後に再挑戦することを提案した。

 明治時代に建てられたレンガ造りの建物には、

大きな英国風の蒸気時計があり、汽笛の時報が二人を歓迎しているようであった。

「あ、動いた!」

サランが声を弾ませて指をさす。

時計の頂点から白い蒸気が勢いよく噴き出した。

ゴオォという音とともに、懐かしく優しいメロディが五叉路に響き渡る。

時を告げるその音色に、彼女は目を輝かせた。

あわてて携帯を取り出し、動画を撮影したが、

途中からの撮影だったのですぐに終わってしまった。

あまりに彼女がそれを残念がるので、15分毎に時報がある事を教えてあげた。

館内を見てからタイミングを見計らって、再び撮影すると良いと提案した。


 赤レンガと気品ある石造りの壁面、そして規則正しく並んだアーチ状の窓。

開拓時代の異国情緒を今に伝えるその外観を見上げ、

サランは「うわぁ……」と感嘆の息を漏らした。

二人が赤レンガ造りの重厚な扉を開けると、

無数のオルゴールが奏でる繊細なメロディが、温かい空気とともに二人を包み込んだ。

煌めく音の世界

「すごーい!まるでおもちゃ箱の中に迷い込んだみたい」

きらめくような音色が、幾重にも重なり合って店内の高い天井へと響き渡っている。

サランは広大な空間を見上げ、

その圧倒的な数のオルゴールに息をのんだ。

内装は総カツラ材で作られた全面ウッド調のホール。

広大な3階建ての吹き抜け構造になっており、大きな木の柱や梁が、

歴史の重みを感じさせる温かみのある空間を作り出していた。

ノスタルジックなオレンジ色の照明が木肌を照らし、

まるで巨大な楽器の内部に迷い込んだかのような錯覚を覚える。

「見てください! あっちもこっちも、全部オルゴールです!」 

サランが興奮した様子でシウの腕を軽く引き、

ひな壇のように整然と並ぶ商品棚へと歩み寄った。 

そこに広がっていたのは、職人たちのこだわりが詰まった芸術品の世界だった。

 手吹きガラスの中に可憐な天使が佇むガラス細工のオルゴール、

回るメリーゴーランドを象った陶器製のもの、重厚なマホガニーの木目を活かしたクラシックな木製ボックス。

さらには、動物をモチーフにした遊び心溢れるミニチュアまでが、光を浴びてキラキラと輝いている。 

サランはそっと、アンティーク調の小さな宝石箱型のオルゴールに触れた。ネジを回すと、どこか切なく、しかしどこまでも優しい、澄んだメロディが流れ出す。

サランは目を閉じ、溢れる音色にじっと耳を傾けている。

その長い睫毛が無垢な美しさを放っていた。 

シウはその横顔を、ただ静かに見つめていた。 

オルゴールがそれぞれに美しい音を奏でるこの贅沢な空間の中で、

目の前でサランは優しく微笑んだ。

だが、やがて時間とともに様子が変わり、

悲哀を帯びた表情でユン・シウを見るようになった。

ここにあるものすべてを買う訳にはいかないのである。

それでいて誰かに買って欲しい訳ではない。

その感情を察して欲しい。そんなメッセージだと思う。

ユン・シウは目についた、小さくシンプルなオルゴールを手に取った。

それを会計にもっていき、支払いを済ませるとカン・サランに渡した。

ジャズ・ピアノの名曲『Misty』のオルゴールである。

甘く切ないロマンチックなバラードだ。

『Misty』の言葉を直訳すると『霧深い』であるが、

『もやもや』という意味もある。

彼女に気づかれないであろう、ジョークと好意を含んだプレゼントであった。

ユン・シウはにこやかに微笑むと、先ほどの蒸気時計の撮影を促した。

蒸気時計の時報はタイミングよく始まった。

汽笛がどことなくコミカルにメロディーを奏でる。

カン・サランは笑顔で携帯を構えている。

今回は満足の行く撮影ができたようであった。

すぐさまソウルの友人に送っているようだ。

先ほどのオルゴールを取り出し、撮影した動画も送っている。

二人は再び歩きだしたが、カン・サランはプレゼントの真意を知りたがった。

オルゴールを取り出しては、音を鳴らして何度も聞き入っている。

心地の良い綺麗な音色だ。そして美しい旋律である。

オルゴールの音楽に何かメッセージ性があるのかどうかが知りたいのであろう。

だが、いかにネットやAIを駆使しても明確な答えにたどりつけない。

曲名にある通り、『Misty』なのだ。

「この曲はね。食事に例えるとするね。あなたが部屋に一人いるとして、

台所から美味しそうな匂いがしてきた。それでね。あなたは台所で料理を

作っている人の真意を考える。なんで料理しているのかって。

私の為に作っているのか?それとも自分に作っているのか?

そして自分はダイエットしたいような、食べたいような。

良くわからなくなってきた。どっちなのだろう?そんな曲だと思うよ。」

カン・サランはしばし考え込んでいた。

「難しいけど。なんか嬉しい気がする曲?」

「そうだね。」

だから『Misty』なのだと、ユン・シウは笑った。


今後、記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、

もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。

こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。


※作中のメインキャラクターは日本語も韓国語も話せる設定となっておりますが、読む側を考慮して日本語表記にしております。キャラクター達は場面に応じて言語を使い分けているとご理解願います。


参考データ

※ユン・シウ…小説家25歳

※カン・サラン…女優志望のアルバイト20歳

※ソン・カナン...女優。カン・サランの芸名。ソン・インナに名付けられた。

※ソン・インナ…女優、シウの母親

※ユン・ジュンソ...シウの父。総合映像制作会社S.S.Iの会長

※ユン・ヒョヌ...シウの異母兄。ソヒョン・チョヨンの恋人。S.S.Iの後継者

※イ・ソジュン...シウの親友。Juringエンター専務。子犬の幼顔と低音ボイス

※イ・ウジン...映画監督。『残酷な美しさ』『私にキスできますか?』

※パク・ドユン...映画監督。シウの親友。Juringエンタ常務。映像制作部部長。

※イ・ダイン...『私にキスできますか?』ヒロイン

※キム・ソヒョン...シウの元恋人『Love Hunt』プロデューサー。

※キム・ソンミン...キャサリン。薔薇組第二夫人。数千万ウォンの身体を誇る

※ハン・チョヨン...女優『私にキスできますか?』イ・ダイン役

※ハン・ジヨン...女流写真家。奇跡の1枚を撮る「アメイジングメーカー」

※ナ・ジウ...薔薇組音響アシスタント。通称小枝。


※虹の薔薇組...ドユンのハーレム軍団。精鋭撮影チーム。

※佐藤直樹...ユン・シウの祖父。伝説の投資家。

※佐藤志乃...ソン・インナの本名。

※天翔樹林...ソン・インナのシルフィード歌劇団時代の芸名。

※涼風小鳥...中村綾。サランの母親。

※中村綾...サランの母親

※トリニティG...韓国最大の財閥グループ

※S.S.I...総合映像制作会社

※Juringエンタ...芸能事務所兼資産管理会社。会長インナ。社長シウ。

※アトリエ・ノア...中堅芸能事務所。サランことカナンが所属していた。

※『Love Hunt』…ネット配信の恋愛リアリティ番組

※『私にキス出来ますか?』…シウ作の小説

※『ずっと僕は君を』…シウ作の小説

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