『ずっと僕は君を』
二人の話題は、シウの第2作『ずっと僕は君を』へと移ります。
作中ではヒロインが兵役中の主人公を裏切り親友へ乗り換える展開が描かれますが、サランには「なぜそんな魅力的な主人公と別れるのか」が大きな謎だった。
作家ユン・シウが発表した
第2作『ずっと僕は君を』のモデルは誰なのか。
その答えは、シウ自身と、彼の元恋人であるキム・ソヒョンだった。
シウが恋愛リアリティ番組
『Love Hunt 3』に出演していた期間中に執筆されたこの作品は、
読者の間でさまざまな憶測を呼んだ。
番組内での合宿生活や、
毎週繰り広げられるデートのエピソードが、
巧みに作中へ組み込まれていたからだ。
また、他人のエピソードを交えながら、
主人公である男性の心理描写が能動的に描かれている点も、
デビュー作『私にキスできますか?』とは大きく異なっていた。
それでいて、再び物語の舞台となった小樽の街並みは、
臨機応変かつ臨場感あふれる筆致で美しく描かれている。
しかし、作中には大きな謎があった。
ヒロインが主人公の兵役中に浮気をし、
彼の親友へと乗り換えてしまう展開だ。
熱心な読者であるカン・サランには、
そこがどうしても腑に落ちなかった。
「別れる理由はどこにあるのだろう?」
女性であるサランは、どうしてもヒロインの目線で物語を読んでしまう。
もし自分がヒロインなら、絶対に彼と別れたりしない。
作中に登場する男性陣
――『ソウルの顔面犯罪』なら浮気の心配もあって仕方ないかもしれない。
だが、『軟体世子』なら釘を刺して自分だけを見るように誘導するし、
『乱心プリンス』なら泣いてしまうかもしれないが、
それでも親友に乗り換えるような裏切りは絶対にしないはずだ。
他の女性読者も、きっと同じように感じるだろう。
『Love Hunt 3』の展開や出演者たちと、
結びつけて作品を捉えようとする人ほど、この謎の深みにはまっていく。
実は、この小説『ずっと僕は君を』は、
恋愛をモチーフにした一種の推理小説なのだ。
作中で誰も死んではいない。
しかし、そこにはあえて書かれていない、
隠されたサブタイトルが存在していた。
――『君に恋をした僕の心はあの日、殺された』。
名探偵を気取るサランがそう推理を披露すると、
ユン・シウはいたずらっぽく笑って答えた。
「それ、すごくいいね。もし映画化されたら、本当にサブタイトルに採用したいよ」
シウはそのまま言葉を続け、
タイトルに隠した巧妙な仕掛けについて明かした。
「もし『ずっと僕は君を』というタイトルを完結させるとしたら、読者はきっとこう補うと思うんだ。『ずっと僕は、君が好きだった』『ずっと僕は、君を愛している』『ずっと僕は、君を忘れない』ってね。でも、原作者である僕自身は別の言葉を込めていた。『ずっと僕は、君を友達のままにしておけばよかった』という後悔を抱えながら、この物語を書いていたんだ」
サランの推理通り、この作品はやはり、
失われた愛の真相を追うミステリーだった。
驚くべきことに、ヒロインのモデルは
『Love Hunt 3』の女性参加者の中にはおらず、
番組を裏で制作していたプロデューサーだったのだ。
純粋に番組を観てから小説を読んだ人は、
きっと大いに混乱するだろう。
画面には映らない「見えない誰か」が存在していたこと。
それこそが、この謎の真実だった。
サランは純粋に文章を読み解くことで、
隠されたサブタイトルを炙り出した。
そこから一次方程式や二次方程式を解くように、
「Xは誰か? Yは誰か?」と考察を進めた結果、
番組の本編には出演していないものの、
現場に極めて近い人物の存在にたどり着いたのだ。
実際、収録中の現場には、
画面に映らなくとも常にキム・ソヒョンがいた。
参加者なら誰もが、毎日のように彼女と顔を合わせていた。
そしてソヒョンは、シウが番組内で見せる行動に激しく嫉妬していた。
シウが他の女性参加者と仲良くしたり、
デートをしたりするのが面白くなかったのだ。
そのため、他の男性参加者をひそかに煽るなど、
終始何らかの形で番組の人間関係に関与し続けた。
勘の鋭い女性参加者はすぐにその異変を察知し、
「そんなにあれこれ気になるなら、あの人自身が出演すればいいのに」と、
周囲に愚痴をこぼしていたほどだった。
恋や愛とは、双方がお互いに寄り添い合って築き上げるものだ。
突然どこかから降って湧くものでもなければ、
神様から完成品を与えられるものでもない。
それは常に未完成で、移ろいやすい。だからこそ、
高望みは良くないし、未練を残しすぎるのも良くない。
どうしても割り切れないのが人間だからこそ、
自分が納得できる程度に心に収めるのが最善なのだろう。
ハッピーエンドの先にはバッドエンドが待っていることが多い。
だが、バッドエンドの先には、
それ以上のバッドエンドはそうそう起こらないものだ。
もちろん、必ずしもとは言えないが。
人は別々に生まれ、別々に死んでいく。
孤独であることが人生の大前提なのだ。
その寂しさを少しでも埋めたくて、
誰もが物語にハッピーエンドを求めるのかもしれない。
「何もなければ、何も起こらない」
それもまた、あらがえない真理である。
シウは今、作家ゆえの特性なのか、
いわゆる「マルチタスク・トラップ」の状態にあった。
脳の半分でサランと普通に会話を交わし、
目の前の相手に接していながら、
もう半分の脳ではまったく別世界の思考の旅に出てしまうのだ。
そう告白してもなかなか理解されにくいが、
相手に対して無礼や無作法を働いているつもりは毛頭ない。
表向きは普通に会話が成立しているため、
周囲に気づかれることもほとんどなかった。
シウは、何かと考えを巡らせている
カン・サランをじっと見つめていた。
そう、何もなければ、何も起こらないのだ。
だからこそ、二人の間に流れるこの静かな時間もまた、
新しい何かが始まる前触れなのかもしれなかった。
今後、記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、
もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。
こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。
※作中のメインキャラクターは日本語も韓国語も話せる設定となっておりますが、読む側を考慮して日本語表記にしております。キャラクター達は場面に応じて言語を使い分けているとご理解願います。
参考データ
※ユン・シウ…小説家25歳
※カン・サラン…女優志望のアルバイト20歳
※ソン・カナン...女優。カン・サランの芸名。ソン・インナに名付けられた。
※ソン・インナ…女優、シウの母親
※ユン・ジュンソ...シウの父。総合映像制作会社S.S.Iの会長
※ユン・ヒョヌ...シウの異母兄。ソヒョン・チョヨンの恋人。S.S.Iの後継者
※イ・ソジュン...シウの親友。Juringエンター専務。子犬の幼顔と低音ボイス
※イ・ウジン...映画監督。『残酷な美しさ』『私にキスできますか?』
※パク・ドユン...映画監督。シウの親友。Juringエンタ常務。映像制作部部長。
※イ・ダイン...『私にキスできますか?』ヒロイン
※キム・ソヒョン...シウの元恋人『Love Hunt』プロデューサー。
※キム・ソンミン...キャサリン。薔薇組第二夫人。数千万ウォンの身体を誇る
※ハン・チョヨン...女優『私にキスできますか?』イ・ダイン役
※ハン・ジヨン...女流写真家。奇跡の1枚を撮る「アメイジングメーカー」
※ナ・ジウ...薔薇組音響アシスタント。通称小枝。
※虹の薔薇組...ドユンのハーレム軍団。精鋭撮影チーム。
※佐藤直樹...ユン・シウの祖父。伝説の投資家。
※佐藤志乃...ソン・インナの本名。
※天翔樹林...ソン・インナのシルフィード歌劇団時代の芸名。
※涼風小鳥...中村綾。サランの母親。
※中村綾...サランの母親
※トリニティG...韓国最大の財閥グループ
※S.S.I...総合映像制作会社
※Juringエンタ...芸能事務所兼資産管理会社。会長インナ。社長シウ。
※アトリエ・ノア...中堅芸能事務所。サランことカナンが所属していた。
※『Love Hunt』…ネット配信の恋愛リアリティ番組
※『私にキス出来ますか?』…シウ作の小説
※『ずっと僕は君を』…シウ作の小説




