『ハバネロ大君』と『木の葉飛び』
ユン・シウが保有するソウル郊外の洋館で、激辛スナック『ハバネロ大君』のCM撮影が行われることに。少女、幽霊、泥棒、変質者が絶叫するホラーコメディです。撮影はパク・ドユン監督と、そのお抱えの映像制作チーム『虹の薔薇組』。カン・サランはその演技から『絶叫女優』と称賛されるのであったが。
「こっちの映画作った方が良いんじゃ無いか?」
イ・ソジュンはいつもと違う真顔でありながら、
いつも通りの超重低音の声でパク・ドユンに前のめりであった。
ドユンは彼の地鳴りの様な声にたじろぎ、
仰け反った。
「面白いか?」
「アジア通貨危機の際に伝説の投資家が、
巨大財閥を救ったんだよ。そしてその資産は25年後に200倍になった」
ソジュンはまるで自分の事の様に得意げだ。
「そして!その伝説の投資家は、パンデミックの時に底値で買い戻して、この世を去ったのであった」
ソジュンは片手を握りしめて、遠い目をしたのであった。
「相続税で半分、持っていかれたとさ。めでたしめでたし」
コーヒーを淹れて戻って来た、ユン・シウが2人の所にマグカップを並べた。
1990年代後半、アジア通貨危機(IMF危機)により、
韓国最大の財閥『トリニティ・グループ』もまた、倒産寸前の壊滅的な打撃を受けた。
トリニティの会長が三拝九拝して日本から招き入れたのが、ユン・シウの祖父。
佐藤直樹だった。
当時「兜町の生ける伝説」と呼ばれた、投資家佐藤直樹は単なる株式の買い手ではなく、
企業の未来の価値を見抜く「神の目」を持っていた。
トリニティ・グループは彼を、『グループ最高投資責任者(CIO)兼 経営戦略特別顧問』という、
創業家すら不可侵の特別地位で招聘。
彼は当時まだ「安かろう悪かろう」だったトリニティ電子に対し、
数千億円規模の「半導体(DRAM)への超強気な先行投資」を提言。
この佐藤氏の投資決断が、後にトリニティ電子を「世界の覇者」へと押し上げる決定打となったのである。
父親がトリニティ・グループの最大の救世主であったため、娘である志乃は、
幼少期から韓国の政財界のトップオブトップ、
すなわちトリニティ・グループの一族と家族同然の付き合いをして育った。
彼女が韓国芸能界で「誰も逆らえない絶対的な女王(大女優ソン・インナ)」として君臨できた背景には、
彼女自身の圧倒的な才能だけでなく、
バックに控える『トリニティ・グループ』という国家レベルの巨人の影があったからである。
この城北洞のユン屋敷とソウル郊外の洋館は、佐藤直樹がトリニティから譲り受けたものである。
ソウル郊外の洋館で今回、CM撮影を行おうとしていた。
内容はホラータッチのコメディで、引っ越してきた家主の少女と、男幽霊、女幽霊、泥棒、変質者が
すったもんだして絶叫するシナリオである。
激辛スナック『ハバネロ大君』のキャッチコピーは『絶叫するほど辛くて美味しい』である。
スタジオ代わりの洋館が、ユン・シウの保有物件である為、
このCMプロットを流用して、様々なタイアップで展開して行こうと目論んでいた。
監督はパク・ドユンで、彼の後宮『虹の薔薇組』が撮影を支える。
『虹の薔薇組』は『Juringエンターテイメント』所属の映像制作チームで、大半が同性愛者、もしくは女装愛好者で
構成されていると、もっぱらの噂である。
パク・ドユンの『可愛い愛人達』と言われているが、誰も真実を知りたがろうとしない。
ユン・シウとイ・ソジュンのような最も身近な人物達でさえ、見て見ぬふりを決め込むのであった。
パク・ドユンと『虹の薔薇組』の真骨頂は『芸術的な映像美』と『神速』であるが、
それは監督パク・ドユンの『怪鳥・ボイス』と『オットセイ・ターン』から生み出される。
「アークショッ!!」
「カーァッ!!」
パク・ドユンの掛け声は甲高く『まるで不気味な鳥のような声』との評判であった。
また『オットセイ・ターン』とは現場を鼓舞する際に前のめりになって、股間の付近で手を叩きながら、
徘徊する姿がオットセイに似ている為に名付けられた。
ターンは1回から3回までバージョンがあり、『オットセイ・ターン』3回になると、
『死ぬ気で全力を出せ!』という合図になっている。
『虹の薔薇組』の面々は、
この時の監督の雄姿が『オスのオットセイの求愛』を感じさせて非常にセクシーだと、
声を揃えて言うのであるが、シウとソジュンのような常人には理解できない世界のようである。
かくして、激辛スナック菓子『ハバネロ大君』の撮影は順調に進み、
カン・サランも大活躍で『薔薇組』のお姐様達は、
「あの子。顔と絶叫はピカ一ね」などと『絶叫女優』の称号を授与されるに至った。
ところが最後の一コマ。洋館の2階の吹き抜け部分からカーテンに捕まって、
1階の降りるスタントで事故が起きてしまった。
スタントマン無しでカン・サラン自ら挑戦したのであるが、
後に定番となる『ソン・カナンの木の葉飛び』が発生してしまったのであった。
今後、記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、
もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。
こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。
※作中のメインキャラクターは日本語も韓国語も話せる設定となっておりますが、読む側を考慮して日本語表記にしております。キャラクター達は場面に応じて言語を使い分けているとご理解願います。
参考データ
※ユン・シウ…小説家25歳
※カン・サラン…女優志望のアルバイト20歳
※ソン・カナン...女優。カン・サランの芸名。ソン・インナに名付けられた。
※ソン・インナ…女優、シウの母親
※ユン・ジュンソ...シウの父。総合映像制作会社S.S.Iの会長
※イ・ソジュン...シウの親友。Juringエンター専務。子犬の幼顔と低音ボイス
※イ・ウジン...映画監督。『残酷な美しさ』『私にキスできますか?』
※パク・ドユン...映画監督。シウの親友。Juringエンタ常務。映像制作部部長。
※イ・ダイン...『私にキスできますか?』ヒロイン
※キム・ソヒョン...シウの元恋人『Love Hunt』プロデューサー。
※ハン・チョヨン...女優『私にキスできますか?』イ・ダイン役
※虹の薔薇組...ドユンのハーレム軍団。精鋭撮影チーム。
※佐藤直樹...ユン・シウの祖父。伝説の投資家。
※トリニティG...韓国最大の財閥グループ
※『Love Hunt』…ネット配信の恋愛リアリティ番組
※『私にキス出来ますか?』…シウ作の小説
※『ずっと僕は君を』…シウ作の小説




