城北洞(ソンブクトン)のユン屋敷
サランの自宅に戻ったユン・シウとカン・サランを、恐ろしい事件が襲います。脱衣場の壁にのぞき穴が開けられていることに気づいたサランが悲鳴をあげると、隣室の男が錯乱して突進してきました。シウは男と掴み合いになりますが、サランが渾身の力で御守りの笛「雷丸」を吹き鳴らしたことで男が動揺し、無事に男を取り押さえます。警察での手続きを終えた後、ショックで泣き崩れ、帰る場所も失ったサランを、シウは自分の広大な屋敷へと連れて行き、落ち着くまで居候させることにします。
サランは2日間留守にして、独りで部屋に帰るのが
怖かったがシウが来てくれて、ちょうど良かったと照れくさそうにしている。
鍵を開け、シウが段ボールを両手で、抱えて居るので、
中へ運んでもらうよう、促した瞬間。
カン・サランは恐ろしい事に気がついたのだった。
脱衣場の壁から光がこちらに漏れている。
なんと壁に穴が開けられていたのだ。
カン・サランは驚いて悲鳴をあげた。
するとほぼ同時に、隣から物音がして隣の玄関から、ドアを開ける音がした。
ユン・シウは食材の入った段ボールを下ろして、玄関を出た。
すると隣の男が、自分のしでかした事を焦り、錯乱したかのように突進して来た。
ユン・シウは掴み合いになり、揉み合うかたちになった。
相手が必死でこちらも決め手に欠けていたその時。
背後から雷丸の物凄い金切り音が鳴り響いた。
カン・サランは腹筋運動1回しかできない筋力と
余命1ヶ月の病人と同程度の肺活量を絞り出し、
渾身の力で、もう一度、笛を轟かせた。
カン・サランが名付けた、この笛の正式名称は
「恐ろしき危機が訪れた時の為の雷丸」である。
通称雷丸である。
カン・サランが最も信頼する守護神なのであった。
隣の男は動揺して、たじろいだ。
おかげでユン・シウは
その男を押し倒す事に成功し、確保した。
騒ぎを聞きつけた隣人達も駆けつけて、男は観念して大人しくなった。
カン・サランは泣きながら警察に通報した。
警察で調書と被害届けで2時間くらい時間を費やし、
明日、また現場の確認に立ち会う事になった。
カン・サランは驚いて、悲しくて、泣きに泣いて、見る影もない。
まるで捨てられたボロ雑巾のようになっている。
2人は警察を後にして、外に出た。
ユン・シウは殴り合いの喧嘩などした事も無く、
顔に怪我を負った事も初めてであった。
国宝級の美顔。ソウルの顔面犯罪が傷物になったが、本人はさほど気にしていない。
気にしているのはサランの方で、シウの傷を見ては、また涙を流すのであった。
正直、シウが思う所、サランの顔の方が酷い。
あのような東洋一の美少女が、こんなにも不細工になるものなのだろうか?
雑巾をアスファルトに100回擦り付け、再び濡らしてから絞ったような顔をしている。
元の美しい顔に戻らないのではと、シウは心を痛めた。
とにかく、事件のお陰で日付も変わり、サランは身を寄せる場所も無い。
シウの家は部屋が余っているので、
落ち着くまで居候してはどうかと、提案した。
あの穴の開けられた部屋に戻ったならば、寝る事も難しいだろう。
サランもこの状況ではシウを頼るしかなかった。
2人はシウの屋敷へと向かった。
深夜の静寂に包まれた街並み、車庫のゲートが自動で開き二人を乗せた車が収まった。
車から降りたサランの横顔は、街灯の鈍い光に照らされてひどく青ざめている。
無理もない。つい数日前まで自分が過ごしていた空間を失い、
のぞき穴によって日常が壊されたのだ。
精神的な衝撃は計り知れないはずだった。
サランがシウを見上げた。その瞳には、申し訳なさと、それ以上の不安が張り付いている。「ここだよ」
シウはできるだけ気さくに声を出すよう心掛けた。
彼女に余計な気兼ねをさせないためのシウなりの不器用な配慮だった。
シウの屋敷は、高い塀に囲まれ、重厚な木製の門構えをしていた。
庶民の住宅とは比べものにならないほどの、圧倒的な存在感。
敷地内へと足を踏み入れたサランは、その広大さに思わず息を呑んだ。
玄関を抜け、高い天井のロビーへと入ると、
シウはすぐに2階の一室へとサランを案内した。
「ここを使ってくれ。必要なものは今、一通り持ってくる。足りないものがあれば、明日の朝にでも言ってくれればいい」
案内された客室は、サランのこれまでの部屋が丸ごと入ってしまいそうなほど広く、清潔なリネンが整えられた大きなベッドが中央に鎮座していた。
トイレとシャワールームもある。
窓の外には手入れされた庭が広がり、高級なホテルの様であった。
シウはバスタオルと自分の予備の『甚兵衛』を持ってきた。
夏向けの日本風のルームウエアと説明するといいだろうか?
女性用の気の利いたパジャマなどは当然持っていなかった。
「ありがとう」サランはベッドの端に腰を下ろし、ようやく深く長い溜息を吐いた。
緊張の糸が切れたのか、呼吸がまだ乱れている。
「今夜はもう寝よう。明日、相談にのるよ。安心して。おやすみ」
シウはそう言い残すと、彼女のプライベートを邪魔しないよう、
静かに部屋のドアを閉めた。
一人残されたサランは、柔らかいベッドの感触を感じながら横たわり、天井を見つめた。
同じ屋敷の別室で、シウもまた、静かに窓の外を見つめていた。
明日もいろいろ忙しくなりそうであった。
今後、記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、
もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。
こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。
※作中のメインキャラクターは日本語も韓国語も話せる設定となっておりますが、読む側を考慮して日本語表記にしております。キャラクター達は場面に応じて言語を使い分けているとご理解願います。
参考データ
※ユン・シウ…小説家25歳
※カン・サラン…女優志望のアルバイト20歳
※ソン・カナン...女優。カン・サランの芸名。ソン・インナに名付けられた。
※ソン・インナ…女優、シウの母親
※ユン・ジュンソ...シウの父。総合映像制作会社S.S.Iの会長
※ユン・ヒョヌ...シウの異母兄。ソヒョン・チョヨンの恋人。S.S.Iの後継者
※イ・ソジュン...シウの親友。Juringエンター専務。子犬の幼顔と低音ボイス
※イ・ウジン...映画監督。『残酷な美しさ』『私にキスできますか?』
※パク・ドユン...映画監督。シウの親友。Juringエンタ常務。映像制作部部長。
※イ・ダイン...『私にキスできますか?』ヒロイン
※キム・ソヒョン...シウの元恋人『Love Hunt』プロデューサー。
※キム・ソンミン...キャサリン。薔薇組第二夫人。数千万ウォンの身体を誇る
※ハン・チョヨン...女優『私にキスできますか?』イ・ダイン役
※ハン・ジヨン...女流写真家。奇跡の1枚を撮る「アメイジングメーカー」
※ナ・ジウ...薔薇組音響アシスタント。通称小枝。
※虹の薔薇組...ドユンのハーレム軍団。精鋭撮影チーム。
※佐藤直樹...ユン・シウの祖父。伝説の投資家。
※佐藤志乃...ソン・インナの本名。
※天翔樹林...ソン・インナのシルフィード歌劇団時代の芸名。
※涼風小鳥...中村綾。サランの母親。
※中村綾...サランの母親
※トリニティG...韓国最大の財閥グループ
※S.S.I...総合映像制作会社
※Juringエンタ...芸能事務所兼資産管理会社。会長インナ。社長シウ。
※アトリエ・ノア...中堅芸能事務所。サランことカナンが所属していた。
※『Love Hunt』…ネット配信の恋愛リアリティ番組
※『私にキス出来ますか?』…シウ作の小説
※『ずっと僕は君を』…シウ作の小説




