小樽からソウルへ
フライトを変更し、カン・サランと共にソウルへ帰国することにしたユン・シウ。仁川国際空港からシウの車でソウル市内へと向かう車中、二人はサランの抱える重い過去や、一人暮らしの不安について語り合います。小学生時代からのいじめ、セクハラから身を守るための拒食や坊主頭、そして劇団での辛い経験など、サランは淡々と自らの半生を告白します。現在の住まいでも男性の影に怯えながら暮らす彼女に対し、シウは優しくアドバイスを送り、スーパーで買った食材を持たせて彼女を自宅へと送り届けます。
小樽の爽やかな朝の光が客室に差し込み、
シウはゆっくりと目を覚ました。
彼は翌日のフライトを変更し、カン・サランと一緒にソウルへ帰ることを決めた。
二人は、チェジュ航空の昼前の直行便へと乗り込んだ。
別々にチケットを購入したので席は離れている。
お互い通路側の席だった為、時折、カン・サランが後ろに振り返り、
ユン・シウに手を振ってきた。
飛行機が滑走路を飛び立ち、
窓の外に広がる北海道の美しい大地が少しずつ小さくなっていく。
フライトは4時間弱の旅程ではあるが、
カン・サランは全精力を使い果たして寝ているようだ。
力の抜けた彼女の後頭部が、通路にややはみ出しているのが見える。
ユン・シウはパソコンを取り出し、
仕事にやり残している仕事を片付ける事にした。
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仁川国際空港の到着ロビーを出ると、
シウは、空港の駐車場に停めてあった自分の車のロックを解除した。
サランは助手席に乗り込み、シートベルトを締めると、
ホッとしたように深くシートに体を預ける。
車はスムーズに滑り出し、
夕暮れ時の仁川国際空港高速道路をソウル市内へ向かって走り出した。
同じ夕陽でも美しい蘭島の、情熱的な眩しさでは無く、
夢から醒めて現実に戻った事を、
実感しなければいけない。
車内で感じる、カン・サランの甘い練乳の香りだけが、
彼のせめてもの慰めになるのであった。
「あ、漢江だ……」
サランが窓の外を指さす。
車が仁川大橋を渡り、ソウルを東西に流れる漢江沿いの道路に入ると、
窓の外には見慣れた、
でもいつもより少し特別に見えるソウルの夜景が広がり始めていた。
高層ビルの窓の明かりや、行き交う車のテールランプが、
水面にきらきらと反射している。
小樽の静かな夜景とは違う、エネルギッシュで華やかな光の海だった。
サランは飛行機の中で十分な睡眠をとり、今は夕飯についておしゃべりしている。
旅行に出ていたので、冷蔵庫に食材がないのだ。
ユン・シウは食品スーパーで一緒に買い物しようと提案した。
大量に買っても車で運ぶ事が出来る。
カン・サランは小学生の頃からいじめの被害で、摂食障害なのだが、
小樽ではたくさん食べて、ここ数日の自分はとても食いしん坊なのだと笑った。
摂食障害はいじめを苦にしたわけでは無く、
自ら食を減らして魅力を下げることで、自分を守っているのかも知れないと分析していた。
そして高校生あたりから、
叔父やバイト先の店主のセクハラまがいの態度や行動が気になって来た。
それから逃れる為に、髪の毛を自分で坊主刈りにして、
学校でもガタガタな短髪で過ごしていたのであった。
「そんな事をして、異性にからかわれたりしなかった?」
「クラスの男の子はきっと私の事、知らないし、覚えていないと思う。いつも一人でいたし、
ひっそりとしていたの。本読んだりして。だから、中学校も高校も恋の経験は全然ないの」
サランはそう言い笑った。
いじめられるなら、無視されている方が気楽だったのである。
映画の影響で『余命何ヶ月のヒロイン』が好きで、
ニット帽を被って過ごすのを、好んでいたそうである。
叔父の気持ち悪い行動などが嫌で、家を出て
劇団に所属したのだが、そこは子供を騙したような、給料の無い雑用係としての扱いで、そこでもセクハラまがいの経験をして半年で退団したのであった。
「グレーなセクハラは卑怯だな。拒絶も訴える事も難しい。勇気を出して訴えたら、
被害妄想だとか、冤罪だとかで逃げると思う」
サランもそう思うのだが、望まずでも遭遇してしまうのである。
住んでいる家は大学の近くにあり、
学生が多い地域なので、比較的家賃が安価で、若者が納得出来る物件が多い。
夜の男性のうろつきとか、
隣とか同じマンションにも男性が居るので、
不安や心配は多いとカン・サランは思っていた。
どこか監視されているような、薄気味悪さを感じる。
思い過ごしなのかもしれないが。
エレベーターなどは人が居ないのを見計らって、
ダッシュで乗り込み。同乗されないよう、
ドア閉めボタンを連打するのだと笑っている。
そのせいで頻繁に壊してしまうそうだ。
「エレベーターさんごめんなさい」と謝罪した。
ユン・シウが、洗濯物に男性の下着などを、一緒にするとよいのでは?と提案すると、
持っていないので、シウの下着を譲って欲しいと言うので、
シウは笑って中古じゃ無くて新品で良いのだと答えた。
車はやがて目的地に到着した。
カン・サランは自分のキャリーバッグを引き、
ユン・シウが彼女に買ってあげた食材を抱えて、2階の彼女の部屋に向かった。
今後、記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、
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こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。
※作中のメインキャラクターは日本語も韓国語も話せる設定となっておりますが、読む側を考慮して日本語表記にしております。キャラクター達は場面に応じて言語を使い分けているとご理解願います。
参考データ
※ユン・シウ…小説家25歳
※カン・サラン…女優志望のアルバイト20歳
※ソン・インナ…女優、シウの母親
※『Love Hunt』…ネット配信の恋愛リアリティ番組
※『私にキス出来ますか?』…シウ作の小説
※『ずっと僕は君を』…シウ作の小説




