「私たちの食生活」②
「でもね、みたま、飢えに苦しむ国があるのは、事実で、子供たちはじめ、その国の人たちは気の毒だとは思う.しかし、それが、私たち、幸いにして、食べ物が、豊富にある国のものたちが、食事を楽しんではいけない、ということにはならないのではないか、と私は思うのだけど.一件豊かそうに見える国にもお腹はすかせた子供はいるだろうし、もちろん、食べ物を無駄にするというのと、食事を楽しむというのは全くの別問題として.」
みたまの兄である、大年神様.
彼は、本当に穏やかに話す.いつも優しい微笑みをたやさない.
子供の扱いをさせたら、彼に叶う神様はいないのではないかと言われる.
ニコニコしているかと思うと、「悪いご」を見つけるや否や、突然、「ナマハゲ」に変身して、悪いごを懲らしめるという、タダの「優しいだけ」の男ではない.
一本すじの通った、おじさんなのだ.
彼の意見はもちろん、全く反論の余地がないほど正しいことである.
大年神様は世界の児童福祉と教育関係の仕事を生業とされている.
「確かに・・・子供には食事を楽しむ権利があるけど、それぞれの国の、大人とか、政府とか、神々とかが、子供を食わせて、育てる義務をちゃんと果たしてないってことになるからね・・・」みたまもその辺の事情はよくわかる.
「子供は何も悪くないからね」ヘスティアおばさんもいう.愛ちゃんと健ちゃんのままもしきりに頷いている.
「私も発言していいかい・・・」
おや、珍しい、テミスのおばさま・・・・
「だから、本当は役所が出す文章、こう書き直すべきなんだろう・・・」
テミスおばさんは続けていう.
「すべての子供には食事を楽しむ権利がある.そしてすべての子供が飢えることなく、食事を楽しむことができるようにするのが、国家の責任、神々の義務である、
と、まあ、そんな感じかな・・・」
まあ、神々の義務というのは、デモクラシイの国では言い過ぎか.
テオクラシイの国であれば、別であるが.
今の世界で、「神権国家」はあるのだろうか?
テミスおばさまは、おばば様・レア様の妹にして、
ティタン神族の中では、法を語らせたら彼女の右に出るものはいない.
あのゼウスが、いちもくもにもくもおいたと言われる、えらい女神様.
「うーん・・・・」一同納得である.しかし、それでもなんか少しの引っかかりが残る.
「私この前、病院の事務に変なこと言われたんですよ、有給休暇を取るのは労働者の義務である、と.これ冷静に考えたら、違いますよね、有給休暇を取らせるのが事業者の義務であり、それができない時に、罰金を取られるのは事業者である.労働者は、有給取らないことでペナルティはないわけですからね.そもそも、有給休暇が取れる状況を作るように、労務管理をしたり、職場の環境を整備するのが、事業者の責任であり、義務でしょうからね.」
ドクトルの発言である.
「いついつこの時に仕事を休みなさい、いう命令を病院から受けたことはありませんねえ.代わりは病院が責任を持って手配しますから、みたいな感じで.」
「食べるご飯がないのに、食事を楽しめ、とは、なんかお役所変なこと言ってますよということになってしまうのでしょうかね.やらざるを得ない、いつまでも終わり見えない仕事を押し付けといて、労働者は有給休暇を取るのが義務だって、同じこと言ってる気がします」
ドクトル、ちょっと脱線したように見せかけて、見事に自分の意見の軌道修正をしてみせた.インフォームドコンセントで、鍛えただけのことはある.
「ほお、なるほど・・・」みたま先生は、分厚い、1500円の大学ノートに、テミスおばさんとドクトルの意見をメモした.
「憲法にも生存権を保障するとかあるだろ.健康に生きることも生存権.その憲法を擁護する義務があるのは、国会議員、国務大臣議員、裁判官、その他国やら地方の公務員なんだよね.」テミスおばさんがいうと、
「ねえ、ねえ、テミスおばさん、憲法の決まりって、国民みんなが守るんじゃないんだ?」キューピーが質問した.
「いい質問だね。憲法は、まず国の権力を持つ者を縛るための決まりなんだよ.別の表現で言うと、国家とか、国家権力が暴走しないための自戒みたいなもんだろうかね」
とテミスおばさんは答えた.
「日本国憲法第99条の憲法尊重擁護義務は、公権力を担う者に課されている.天皇と、摂政にも憲法を尊重し、擁護する義務がある、と憲法には書かれている」
テミスのおばさんの解説である
「あれ、あれ、でも、尊重して擁護するだから、憲法の文言を守る、遵守義務は違うのだろうかね・・・・」テミスおばさんでさえちょっと自信がないような言い方だ.
海丸くんがすかさず、パソコンを調べる.この頃は憲法初め法律を全文で読むことができるし、言葉の検索もできる.
「遵守という言葉は憲法の全文の中にありませんね.擁護という言葉は99条に、一回だけ使われています.だけ、尊重は、99条の他には、ちらほら・・・」
「だからね、役所が食事を楽しみましょう、なんて人民に言ってもみたまちゃんが感じたみたいに、絵空事、みたいな感じになるのだよ.所詮は、お上からのお達し.大事なのは、役所が全力で、皆が食事を楽しめるように行政官一同は、命をかけて、米の用意をします、みたいな宣言をすることなのだろうけどね.」
「じゃ、去年一昨日、米がなくて、値段が上がったと言うのは、行政の失策?」
みたまが言うと、
「食事を楽しめ、とお役所はお触れ書きで、通達出したとしておきながら、
米の値段が高くて、食事もおちおち楽しめませんて・・・・」はるなの切実な声
「そんなの行政の二枚舌なんて、しょっちゅうさ、車運転する奴には、横断歩道の近くに歩いてる人がいたらすぐに止まれるようにと言いながら、幼稚園児とか一年生には、横断歩道は手を上げて渡りましょうなんて言ってるんだからね.手を上げないで渡っている子供がいましたから、そのまま止まらずにはねてしまいました.・・・・
子供に手を上げるよう指導するのはいい。しかし、手を上げなかった子供に事故の責任を転嫁するようなことがあってはならない.手を上げなかった子供が悪いっていってるわけでしょ.止まらないで子供をはねちゃったドライバーが全面的に悪いわけだからね.しかし、子供に横断歩道を手を上げて渡らせる指導をすると言うことは、安全に横断歩道を渡るのには子供にも責任があるかのように行政がいってしまうと言う問題がある.歩行者が、横断歩道を渡るかもしれない、と言う可能性をちょっとでも感じたらすぐに停止できるように、徐行する義務があるのだから・・・」
テミス様の法律解釈である.
「食うものがなければ、食事を楽しみようがない・・・・」ルシフェルがいつもの皮肉屋を発揮である.
「そうして、世の中では時の政府とか権力者に対して暴動が起きる・・・」なんか嬉しそうに、アテナがニヤニヤしながらいう.彼女ならフランスの自由の女神さながらに暴動を煽りかねない.あ、でも彼女、服は抱けておっぱい見せてやると、皆失明だから気をつけて・・・
「同情が過ぎて、自分の幸せを否定するのは行きすぎだとは思うけど、
国ガチャ、親ガチャで、私は豊かな国に生まれてよかった、恵まれた家庭に生まれてよかった、だから貧しい国、あるいは家庭に生まれたあなたはお気の毒、といってしまうのも、まあ、人としてどうかとは思いますけどね・・・」大年神様の意見である.
その辺、兼ね合いというか、むづかしいところですよね・・・・
実際はどうしようもない.富と食料には限りがあり、その分配については、公平が前提でない以上.
平等、だからとみんなで軒並み貧乏になるのもどうかと思うし、
不公平でも、食料物資が豊富にあって、最低限以上の食べ物、
が皆に行き渡ればいいわけだし、
最悪なのは、不平等な社会、しかも食料もわずかしかない.
その少ない、食べ物、誰かが独り占めして、ぶくぶく太り、
多くの民が飢えに苦しみ、骨と皮だけになってしまうこと・・・
なんか「みたま先生の家庭科」は、
結論が出しにくい、解決困難な、むづかしい議論を巻き起こす.




