「遺伝子が先か、タンパク質が先か・・・」それが問題だ.
秋の日の、日曜日の朝.
明日からノーベル賞週間が始まる.
別館の面々も、日々学習に励んでいるという感じか.
はるなのお父さんの書斎.今では、別館図書室になっている部屋.
誰が声をかけるというのではなしに、皆がここに集まり、思い思いの勉強をするというスタイルである.
そして、誰かが発した、疑問に対して、皆でああでもない、こうでもないと、議論する.
知的な、サロンというところであろうか.
子供がいるから、ある種の洗練された教育機関?
学校とは全く違った形の・・・・・
今日も、子供のリーダー格の、海丸くんが疑問を口にする.話しかける相手は、大体がドクトル.ドクトルがいない時は、彼が帰ってくるのを待つ.
しかし、どうしても待てない時、緊急の疑問については、
しょうがないから、ルシフェルに聞く.なんせ、ギリシャの最高神にして、全知全能を自ら自慢している、ゼウス、その人であるから.ちゃんとした答えをしてくれるかどうかは別として.
ルシフェルがいない時、実はこっちの方があてになるのだが、アテナがいれば、彼女に聞く.ゼウスの娘にして、父である最高神の脳みそからいいところをみんな掻っ攫ってきたという女傑であるから、その頭の良さ、思考の切れ味、性格面の完璧さ、度胸、決断力、親分肌、彼女が生まれる前の、ゼウスのいいところは、ほとんど彼女が受け継いでいる.しかし残念なことに、彼女は、忙しく、あちこち駆け回っているから、別館にいないことも多い.
逆にいうと、そのいいところ、ほとんど、娘のアテナに持ってってしまわれたのが、ゼウス=ルシフェルである.
子供たちは、あまり彼の答えを期待してはいない.ときに、見事に外すからである.しかし、彼が、ドクトルと一緒に考えてくれる時、彼の脳みその欠けたところ、ドクトルは見事に補い、ものすごい、答えを導いてくれるのだ.
まあ、いいコンビなのだろう.
成長途中、勉強中の子供たちにとっては、それはものすごく、エキサイティングなところである.
今日は、幸にして、ドクトルも、アテナもいる.アテナも珍しく、本を読んでいる.
ドクトルは数学の勉強の問題を解いた後、小学校高学年、理科の参考書で、月の満ち欠けを確認したのち、アルツハイマー病に対する、遺伝子治療に関する情報を集めていた.
このアメリカの研究グループは、AADC欠損症という、アミノ酸の代謝異常による、先天性の運動障害に対し、遺伝子導入治療を行い、成果をあげているという.
チラリ、ドクトルの勉強していることを覗き込んだ海丸くんが、神童質問である.
「ねえねえ、ドクトル、遺伝子とタンパク質、どっちが先にできたんでしょうね?」
「え!また海丸くん、すごい質問ぶつけてきますね・・・」
「あ、それ僕、知ってる、鶏が先か、卵が先か、っていうんでしょ」健ちゃんも、人の子ながら、神の子と一緒に勉強しているだけあって、かなりすごい.
そこにいた、大人たち、がみな「うーん・・・・」と考え込んでしまった.
「それはね、本当に、大変な問題で・・・・
地球が生まれたのが、45億年前としましょうか、
そして生物の元?が生まれたのが・・・・・」
とある知恵者の意見を参考にしてみましょうか.
年代、
地球・環境の変化/分子進化・生命との関係、
(証拠の程度)
と並んで記載されている.
約46億年前地球誕生/微惑星の衝突/集積生命の材料となる元素はすでに存在(確立)
約45億年前/月形成につながる巨大衝突、マグマオーシャン冷却によって地殻や大気が形成.(有力なモデル)
約44億年前地殻形成、液体の水が存在した可能性/水を溶媒とする有機化学反応が可能な環境の出現. (鉱物学的証拠)
約44〜40億年前/海洋・熱水系・陸上水域の形成/アミノ酸、核酸前駆体、脂質などの非生物的生成と蓄積の可能性(環境は一部実証、反応は仮説)
年代不明/有機分子の重合.アミノ酸から短いペプチド、ヌクレオチドから短い核酸が形成された可能性.(実験的可能性)
年代不明鉱物表面や局所的な水域で化学反応が進展鉱物触媒、乾湿サイクル、酸化還元反応などによる分子の複雑化.(実験的可能性)
年代不明原始的な膜構造の出現脂肪酸などが小胞を形成し、分子を内部に保持する原始細胞モデル(実験的可能性)
年代不明RNA中心の分子進化RNAまたは類似分子が情報保存と触媒機能を担い、複製能力が進化(有力仮説)
年代不明RNAとペプチドの共進化ペプチドによるRNA機能の補助、原始的な翻訳系や遺伝暗号の成立(研究段階)
年代不明DNA・RNA・タンパク質の分業安定した遺伝情報保存、翻訳、酵素触媒を備えた細胞への進化(進化経路は未解明)
約42億年前最終普遍共通祖先(LUCA)が存在した可能性分子時計による推定。すでに複雑な細胞生命が存在した可能性(新しい推定・議論あり)
約38〜37億年前生命活動を示す可能性のある地質記録炭素同位体や岩石構造から生命活動を推定(解釈に議論あり)
約35億年前微生物の比較的明瞭な地質記録.すでに微生物が存在し、多様化していたことを示す(比較的強固な証拠があるらしい)
生命の共通祖先(LUCA)
LUCA(Last Universal Common Ancestor:全生物生存共通祖先)は、地球上のあらゆる現生生物(細菌、古細菌、植物、動物、ヒトなど)の系統樹を遡った根元に位置する、すべての生命の「共通の直系祖先」であるという.
「アマゾンでLUCAとか、共通祖先って関連の本探したけど、ないねえ・・・」
最初に出現した生命(最初の生命)そのものではなく、原始の化学進化を経て誕生した多くの初期生命群のうち、現代まで子孫の系統が生き残った唯一の共通分岐点を指す.
「LUCA誕生、人類その他のあらゆる生物の、共通の祖先が生まれたのが、約42億年前、年代については議論があるらしいが・・・」ドクトルが遠い目をした.
「気が遠くなりそうな時間」静香の意見である.
「億まで数を数えるのに、ひとーつ、ふたーつ、って数えるだけで、何年もかかるのでしょ?」」はるなの質問もけっこう、何億年という時間の経過の長さを示している.
「一つ、二つ、と順に数を数えて、1億まで数えるのに要する時間・・・・」
「一円玉で、一億円支払うときに数の確認をするということにしましょうか.どれくらい時間がかかる?」ドクトルの仮説である.
「1円玉を1枚ずつ数えて、1億円を確認する場合ですね・・・」海丸くんが確認した.
「1秒に1枚数えると、約3年2か月かかります.しかも、睡眠も食事も休憩も取らず、24時間数え続けた場合です.」
「1億秒ですら約3.17年・・・・」静香は絶句である.
「地球誕生から生命誕生までの数億年という時間を実感するための例としても面白いですね.億年という時間は、私たちの直感をはるかに超えています.いやいや、実感なんてできませんね、こんな長い時間・・・・」
「まあ、こんだけ長い時間かければ、生き物、最後には人間みたいな形に行き着くって、まあそんなとこかい?」ルシフェルの強引なまとめに、一同、声を揃えて、
「うーん・・・・・」
「なんであんたは、物事を簡単に片付けようとするの?もっと知恵を絞って考えたらどお!」おやつのホットケーキと飲み物を持ってきた、ヘスティアおばさんと、デメテル母さんが弟のルシフェルに向かって意見をする
「ほんとにもう、うちのボンクラ亭主は・・」おや、ヘラ様もお盆をもって図書室に入ってきた.
「・・・・・・・・・」ルシフェルは何も言えない.
「さあ、さあ、愛ちゃんに健ちゃん、みんなおやつにしましょう」ヘラ様がいうと、
子供達は見た、指示しなくても手を洗って、テーブルのところに集まってきた.
ドクトルと、ルシフェルは、ブツクサ言いながら、手を洗わないで、テーブルに着こうとする.
「もお!あんたたちは本当に!おやつは手を洗ってからっていつも言ってるでしょ!ダメ、だめ、め!」
出た!ヘスティアおばさんの必殺技.
生き物の進化、それこそ、遺伝子が先か、タンパク質が先か・・・
「この問題、当分の間は答えはわかりませんね.まあ色々勉強します.」
海丸くんの意見がやはり一番、建設的だった.




