月の満ち欠け
「兄上様、お初にお目にかかりまする.私が、建速須佐之男命でございまする.」と初対面の挨拶をしてから、
「ははは・・・・」と長らく兄の御前にて、須佐之男命は平伏していた.
かの、世界の神話を見渡しても、屈指の荒ぶる神のひと柱である、須佐之男命がである.
最高神である、天照大神の統治する、あの高天原においてさえ、好き勝手放題をやってのけた、あの須佐男がである.
「うむ・・・」
月読命は多くを語らない方である.何せ別館に来たとき自分の名前すら言わなかった方である.
普通なら、兄と弟の初対面、なんらかの感動があるのは歴史の語るところではあるのだが.
例えば、
頼朝と、義経の黄瀬川の陣屋での対面ほどの感動はなかったかもしれない.
三貴子
そもそもよくわからない三姉兄弟である.
姉は、昼の世界と太陽を、
兄は、夜の世界と月と星、
そして弟は、海を、
それぞれ、支配するように父である、イザナギのオオカミに命じられていた.
3人が子供の頃に遊んだとか喧嘩したという記録がない.それはギリシャの神々も同じだと言われて仕舞えば、それまでだが.
天照と、須佐男の逸話は色々あって有名である.
しかし、月読命が絡んだ神話、
唯一のっこっている話が、天照と、月読、食保神、斬殺事件だけのだった.
そしてその後、起こった、天照大神が、月読命に向かって、今後2度と顔を合わせない、と宣告した、という話だけである.
そしてなんと、月読と須佐男、二人の兄弟の神が、会話を交わした、とか、喧嘩をしたとか、他の第三者を介して、何かあった・・・・
一切ないのである.
「汝弟の命、その方が、姉のアマテラスを向いておる時、私は、背後から汝のことをずっと見ておった.姉上に対して汝は決して背を向けることがなかったので、私には一度も会ったことがない気がしただけ、なのだがな・・・」
「え、兄者は私の、背中をずっと見ておられた?」
「その通り.よって汝と相対してその面を見るのはこれが最初かも知れぬの.
ほ、ほ、ほ・・・・」
硬い氷の表情だった、月読命の顔が優しくほころんだ.
「そして、須佐男よ、汝も気がついておろうが、我ら、三姉兄弟、別々にそれぞれの持ち場を収めて居れば、良いというわけにはいかぬ状況にあいなった.これからは割れた手を携えてことに当たらねばならん.良いかの・・・・」
「ははは・・・」また須佐男が平伏した.
「そこでじゃ、ゼウス殿、私が、姉である、天照大神の命を受けて、こちらに降臨した理由については既にお聞き及びであろう.」
「はあ、なんとなく、レトや、息子のヘルメス、アポロ、アルテミスらから情報は得ているのですが・・・・」
「よろしい.しかし、時間はあまりない.これからは、我ら、知恵と力を持ち寄って行かねばならぬ.御助力いただけますでしょうかな」
「へえ、もちろんでございます」
「よろしい.私も、力を尽くす故に・・・・・」
その日から、月と夜空と星々の動きを、読み解く、「月読命」による、天体観測の講義が行われることとなった.
場所はもちろん、「別館大講堂」
例によって、子供たちが最前列に座り、一般の聴衆も多数集まった.
講義の内容
1.月の満ち欠け
2.太陽系の仲間たち.ー恒星、惑星、衛星について
3.惑星の運動.公転と自転
4.予測不可能な、小惑星の運動
5.遠い、銀河の星々
6.ブラックホール
7.ビックバン!
8.宇宙からのメッセージ
「汝、そこなワラシどもよ.」
呼びかけられた、子供達、キョトンとしている.
「あの、先生、いまし、ってなんですか?」健ちゃんが質問した.
「おお、そこなワラシ、そなたは健ちゃんだったな.いましとは、漢字で書くと、汝、つまり、なんじらということじゃ.親愛の情を込めていう、君たちとかおめえら、という呼びかけじゃ.
ほれ、なんじとなんじは、何時に寝るの、とかいう、ドリフのギャグがあったであろう」
子供達は、口をへの字に結んで皆で一斉に首を横に振った.
ドクトルとルシフェルだけはうんうんと頷いている.
「おお、そうじゃ、あまり悠長なことはしておれん・・・・
今日演目は、月の満ち欠け、つまり、太陽の光に照らされた、月が、地上からは、どのように見えるか、つまり、1ヶ月周期で見られる、月の満ち欠けについてじゃ」
要点は以下の通り.
1.月は、29.5日周期で、地球の周りを一周する.
2.月は、ずっと同じ面を地球の方に向けている.
3.月は自分では光らない.つまり月の光は太陽の光を反射している.
4.地球は、北極の方から見ると、反時計回りに、自転している.だから、北半球では、月も太陽も、東から登って、南を回って、西に沈む.
5.太陽の光が当たらない部分は影になる.光があた流部分だけが、光っているように見える.
月の地球に向いた面が、ちょうど全部影になった時が、0日、新月で月は見えない.だんだんと月の位置が左回りに移動することで、月の右側から、太陽の光を受けて見えるようになる.3日では、右側が「三日月」状
8日目頃は、右側の半月(上弦の月)
そして、15日目頃は、月が真っ正面から太陽の光を反射して、満月になる.そして、今度は右側から影になっていき、左側半月(これは下弦の月という)、そして、左側、三日月の形だが、当然、三日月とは言わない.特別な呼びからのない月から、また、新月に戻る.
上に書いた、原則を紙に書いてみると、理解しやすかろう.
ここですかさず、静香と海丸君が気を利かせて、小学校の参考書をもとに作ってきたスライドを、正面のスクリーンに写した.
皆は「おおお!」と声を上げる.
月読先生がお話しされた、通りのことである.
皆の理解が深まった.
しかし、ここで一番驚いたのは、月読先生ご自身である.
「おおお!なんとその方ら、幻術を使えるか・・・・」
古い神は、幻燈とか、テレビとか、知らないようであった




