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「悪いごは、いねーがー!!」


ある日曜日.朝から子供達を中心に、別館の大掃除である.

何も念入りに掃除をするというのは、正月を迎える前だけではない.


特に、喘息、アトピー、ハウスダストアレルギーのある子供がいる家庭では日々の掃除がこれすなわち治療の一環である.


効率的な、掃除が大事な所以である.


前にも書いたことがあるかもしれない.ドクトルは子供の頃からアトピー性皮膚炎で、それがこじれて、「とびひ」になって、海に入れなかったこともあるし、医学部の学生の時、あんまり掃除をしなかったから、日々皮膚の乾燥と痒みに悩まされたということがある.


畳や、カーペットの部屋は、ハウスダストの温床、というか、いい住処になり、掃除が十分にできないから、よくないということを知ってから、大体ドクトルは、全部フローリングの床敷きの部屋を借りることにしていて、基本カーペットは置かない.

布団もこまめに干して、さらに服の洗濯もこまめにしている.ただし、服やら、上着、シャツとパンツは、基本同じものを使いまわしてであるが.


今日、別館では、初めて、ははきちゃんが「掃除指導」をしてくれるということで、ドクトルも、子供たちに混じって、参加している.

ははきちゃんとは、矢之波波木神.ははき・箒木とはほうきのことで、掃除の神さまである.産室をきれいに掃き清めることは、安産にもつながる、ということで、

安産と命の神ということになっている.


大年神様の娘、とういうことは、須佐之男命の孫に当たる.


須佐男じい様と、大年神パパは、傍で座って、ニコニコかつ目を細めながら、ははきちゃんのお掃除監督ぶりを見学している.


まず、フローリングの廊下の掃除.

子供たちは、まず丹念に少し静電気で埃を吸着するお掃除シートを使って、モップがけである.ビルの清掃請負や、清掃機器のトップである、「ダスケン」という会社の偉い人が、掃除に関する本を書いている.


そこに書いてあることに基本従う形らしい.


ドクトルが、いきなり掃除機で、床の埃を吸い取り始めたから、ははきちゃんは、

「ピッピー!」と笛を吹いて警告である.


「あ、ドクトル、いきなり、床の埃を掃除機で吸っちゃダメ!掃除機の排気口の風で、床の埃を巻き上げるでしょ.それにほら・・・・」


と、掃除機をぱかんと開けて、フィルターのチェックである.


「こんなボロボロのフィルター、ダメでしょ、使い回しは.こまめに交換しないと.

あと、もっと高性能のフィルターじゃないと、せっかく掃除した埃が、また掃除機が、吐き出しちゃう・・・」


「ほら見て、日の光の入るところ、今掃除したところ、細かい埃が舞っているでしょ、それにその埃が舞っているその下の床を見て.

また埃が少しずつ溜まっているでしょ.こんなんじゃ、いくら掃除しても終わりっこないでしょ.」


愛ちゃんと、健ちゃんと、アンテロスは、床の脂汚れなんかは、硬く絞った雑巾で丹念に拭き掃除をする.


「あ、おともだちは皆、いいお掃除ね.脂汚れなんかは、静電気吸着式のシートでは落ちないから.でもね、ホコリは基本的に乾いた、シートがいいと思う・・・」


「あ、でもね、ははきちゃん、シートで集めた床に溜まったゴミ、掃除機かけたほうがいい?それとも、シートで拭き取った後は、何もしないほうがいい?」愛ちゃんが質問した.

「いい質問ね、シートのモップ拭き掃除した後は、そのままでもいいと思います・・」


愛ちゃんが、おもちゃを消毒液のついたシートで拭こうとしたのを見て、ははきちゃんは、


「あ、愛ちゃん、そこまでしなくてもいよ.消毒液の刺激でむしろ、皮膚炎がひどくなるから.それにね、日常の生活、必ずしも、無菌である必要はないと思うな.なにもね、99.9%の除菌じゃなくてもいいと思うよ.悪いバイ菌だけでなくて、中にはいいバイ菌もいるからね」


掃除の前には、窓を開けない.なぜなら埃がゴミを、家具の隙間とか、掃除の手の届かないところに飛ばしてしまうから.


春先は、部屋に花粉を持ち込まない.家に入る前に、服についた花粉を払うのは結構効果的.


図書室を、みたまと、はるなと静香が掃除.本棚に溜まった埃をはたきで叩いて落としている.その後から、掃除機をかける感じ.


「あ、はたきは良くありません.」とははきちゃんの指導が飛ぶ.

「みたまおばさんに、はるな、本棚、置いてある本の前をよくご覧になって.ほら、こんなに埃が溜まっているでしょ.ハタキをかけたら、皆舞い上がってしまうから、ほら、ここは、吸着性のシートで拭き取ると・・・ほら、綺麗になった!」


「おお!」と皆が感嘆の声をあげる.


湿度の調節も大事で、大体、50%前後がいい.しかしあまり湿気が強いと、カビとダニの繁殖が盛んになる.かと言ってあまり乾燥すると、皮膚も乾燥して良くない.


除湿機にエアコンのカビ、これはこまめに掃除と、長時間の使用を避けること.

ただし、エアコンの掃除は、専門の業者に頼むのがいいらしい.


ダニのついた、布団、干しながら、パタパタ叩くのは、実は全く効果がないと言われている.日光で除去できる、だにも多くはないらしい.

布団も綺麗な掃除機で、埃を吸い取るのは効果的らしい.


「紫外線、照射の掃除機ってどうなのでしょうか?」ドクトルが聞いてみた.

「それは私にはわかりません」ははきちゃんの当然の答えである.


「駆虫や殺菌消毒は、そもそもドクトル、医者であるあなたの方が詳しくないとダメでしょ.」掃除のことについてはははきちゃんはまさにプロである.


アトピー患者経験者で、さらに医師免許を持っているドクトルもタジタジだ.


「ねえねえ、ははきちゃんは、こうやって、乾いた、掃除シートでモップがけして、溜まった埃を、玄関先とかで、掃除機で吸い取るっていうのは?」海丸くんの質問である


「うーん、完全にバツとは言えないのだけど、掃除機で、吸い取る時にまた埃を巻き上げちゃうというところは、よくないかもしれないわね・・・」


一旦、掃除を終わった床で、ドクトルと、健ちゃんが、掃除機のフィルターの交換を始めた.


「ピッピー!」ははきちゃんの警告の笛が鳴った.


「あなたたちは何してるの!さっき言ったことちゃんと守って!

ここでフィルター交換なんかしたら、

せっかく掃除したところまた埃が、飛んじゃうでしょ!

そういうことは外でするか、ビニールの袋にフィルターを入れて、

集めた埃を撒き散らさないように!

ちゃんとして!!」


ははきちゃんあまりの剣幕に、ドクトルはすっかりしょげてしまい、

なんと健ちゃんは、ベソを描いている.

目には涙が溜まり、そのうちに号泣が始まった.


「う、う、びえーーーん!」


「あ!」

「げ!」

「ぶえ!」

愛ちゃんと、海丸君と、アンテロスが、変な声をあげて、凍りついてしまった.


「ははきちゃんがいじめる、ぶウェー!」健ちゃんの号泣は止まらない.

すぐそばで健ちゃんと一緒に叱られていた、ドクトルも、オロオロするばかりである.

「いや、健ちゃん、ははきちゃんもいじめようというわけでなくて・・そのきちんとした掃除を教えてくれようとして、その、何にも悪気があるわけじゃ・・・」


ドクトルのその言葉が、ははきちゃんの怒りの炎に油を注いだ.


「ドクトル!あなた、いい大人が何言ってるの!あなたもアトピーなんでしょ!

そのあなたが、ハウスダストを擁護するようなことを言ってどうするの.

言ってみればあなたにとっては仇も同然.そんなハウスダストを逃してどうするの!ダニやら、カビは、容赦なく、殲滅あるのみ!」


ヒートアップして、あたり構わず怒り、怒鳴り散らす、ははきちゃん・・・・


最初は目を細めてニコニコしながら、みていた、大年神様の表情が、険しくなってきた.


そのうち、夜叉の形相になり、角まで生えて来た(?)、ようにも見える.

蓑をかぶり、(大年神様はいつも、コートがわりに蓑を纏っている.)

どこかから段ボールで作った、演劇用の包丁(もちろん本物を持ってくるわけでない.本場の秋田でもそうである)を持ち出してきて、

ははきちゃんに襲いかかる.そのまま抱き抱えれ、何処かに拉致しようとする.


「悪いごは、いねえがー!!」


なんと、秋田は、男鹿半島に現れるという、

「ナマハゲ」が突如別館に降臨である.


「キャ!」

ははきちゃんの悲鳴である.


「ああ、怖い、許して、許して、もうしません、いい子にします、お友達泣かしたりしません、離して、ゆるして・・・」


ははきちゃんは体をねじらせて、手足をバタバタさせて、泣き叫び、ナマハゲに対して、必死に赦しを懇願する.


「離して、許して、もうしません、お友達、泣かしたりしませーん・・・」

ははきちゃんの声は、庭の方に消えていった.


そう、大年神様、正月を迎えるとき、「お年玉」を持ってきてくれる神様、というだけではない.

大年神と、ナマハゲを、同一視するという説もあるらしい.

秋田のナマハゲも正月をつつがなく迎えるために災厄を、払ってくれる年の神様で、怠け者や悪い子を戒める来訪神である.


いつもは優しそうにニコニコしている、日本版サンタクロースのような、大年神様.そのもう一つの顔、それが「ナマハゲ」なのであった.


この家の教育方針は、どこの家の子供に対しても同じ.

我が子といえ、お友達をいじめた、ははきちゃんは、

「悪いご(悪い子)」と、認定されて、

ナマハゲの制裁を受けたということであろう.


傍で見ていた、須佐男爺様、

息子の大年神=怒ると「ナマハゲ」、

「うん!よし!」と満足げな顔で、その教育方針について、

同意をしているようである.

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