矢乃波波木神(やのははきのかみ)
別館の、毎日の恒例行事、朝の掃除である.
子供達、つまり、愛ちゃん、けんちゃん、アンテロス、キューピーに海丸くんが中心となり、廊下や、共有スペース、神々の各部屋を掃除して回る.
お母さん、お姉様方は、子供たちの手順と作業を尊重しつつ、家中をフォローして掃除し残しをきれいにして回るという.
「あら、まだ埃が残ってますはよ、ちゃんとなさい!うちの嫁はダメね」という姑の嫁いびりとは全然違うが.
みたまも、このお姉さんたちグループに加わって、掃除の手伝いをする.
家庭科の先生だから、料理、掃除、お裁縫は、お手の物かと思いきや・・・
「料理と裁縫はなんとかできるんだけど、あたし、どうもお掃除が上手くなくて・・・」
「はいはい、そんなこと言って手を止めない、こんな広い家、ちょっとでも手を止めたら、1日かけても掃除終わらないよ・・・」ヘスティアおばさんが、みたまが手を止めたのを見逃さない.
家事一般は、ヘスティアおばさん、はるなが最高指導者ということになっている.
しかし彼女たちも、料理に裁縫、洗濯といったことはそこそこできるが、掃除が今ひとつ、上手くないかもしれない.
何しろ、大邸宅.
部屋数が多すぎる、一つ一つの部屋が広すぎる、住人も多い、といった問題があり、掃除を効率的、組織的、系統的に行うのは、結構大きな問題である.
みたまは家事一般の効率化が本来の仕事であるので、これをなんとかしないとダメだと常々思っている.本来掃除をサボりガチの彼女だからこそ、その掃除をいかに効率的に行うか、つまりいかに手を抜いて、より部屋をきれいにするかということが、最近の課題であったのだ.
「うーん、掃除の仕方、子供達にあまり頼り切るわけにも行かないしね・・・」はるな.
「そもそも、はるな、あんたが一人で暮らしているときは、掃除とかどうしてたん?」静香は疑問に思う.
「そりゃ、使う部屋、圧倒的に少ないし.私の部屋と、お父さんの書斎、台所くらいしか使わないから、他の使わない部屋は出入りがないから、掃除もしてなかったかな・・・」
「ふーん・・・」
「でも、これだけ住人が増えて、お客もひっきりなしで、使う部屋がホテル並みだから、掃除のことなんとかしないとねえ」
「ああ、いた!大年神兄さんの娘で、私の姪っ子に、掃除の神様・・・・」みたまが急に思い出した、というように声を上げた.
「え、一回遊びに来てもらって、よそ様の子供そんなこき使って掃除させるわけにはいかないから、それとなーく掃除の手伝いとまでいかないけど、ちょっと私たちの掃除の仕方どこが悪いか教えてもらおうかね・・・」
ヘスティアおばさんもちょっといいかも、というように意見を言う.
大年神様が子供たちのプレゼントを持ってくる日である.
今日は一人、小さな女の子を連れている.
応接室で、皆と対面である.
お父さんの影に隠れて、ちょっとモジモジしている.
ヘスティア、みたま、静香と、愛ちゃん・健ちゃんのママ、そして海丸くん、愛染の母ちゃんが応対した.愛ちゃん、健ちゃん、アンテロスもお菓子が食べられるかもしれないのと、応接室に出たり入ったりして、女の子のことをチラチラ見る.
「これが私の娘の、ははきです.よろしく.さあ、皆さんにご挨拶しなさい」
大年神様に促されて、ははきちゃんが皆に挨拶する.
「あの、私、ヤノハハキ・・・ははきって呼んでください.」
モジモジとななす.
ははきちゃん、お掃除好きだと聞いていた.
で、実際会ってみると、おとなしそうな女の子である.
大年神様に溺愛されて大事に育てられたらしく、
つまりは、育ちが良さそうな雰囲気?
お嬢様、という感じなのだろう.印象だけで話をするとだ.
「みたまおばさま、お久しぶりでございます.おばさまは家庭科の先生なのに、お掃除ちょっとは上手になりまして?いつも私が教えて差し上げてるのに・・・」
「いや、あのその・・・」みたまは掃除が結構苦手だから、一番痛いところを刺された感じである.
ははきちゃんは、叔母にあたる、みたまに対して、恭しく話をするのが言葉に少し棘があるようにも感じられる.
「ははきは、箒のことだね、お掃除得意なの?」アンテロスがいきなり、質問である.初対面のしかもモジモジと内気で恥ずかしがりのような、女の子にはちょっと不躾な話し方かもしれない.
ははきちゃんは、下を向いてしまった.何も言わない.
「僕たち、この広い家の中、毎日掃除で大変なんだ、なんかいい方法があったら教えて欲しいんだ、よろしくね.」と海丸くんが、右手を差し出して握手をしようとした.
ははきちゃんは男の子に話しかけられると、下を向いてモジモジしている.ちょっとほっぺたが赤い.恥ずかしいのかもしれない.
「よろちくね・・・」とあいちゃんが、手を出すと、
ははきちゃんは、小さな声で「よろしく・・・」と右手を差し出して、ちょっとニコッと笑って目を見て、愛ちゃんとだけ握手をした.
チラリと、健ちゃんと、海丸くんの方に、一瞬だけ目をやった.
「は!」としたようにすぐに下を向いた.
その後、視線を、アンテロスの方に向けた.下の方から、順に上の方に視線を移し、顔の方向で、その視線を固定した.みるみる彼女のほっぺたはほんのりと赤くなった.
ドタドタドタ・・・・
須佐男とはるなが応接室にやってきた
「ははきちゃん!」はるながいう.
「ははきー!」須佐男が、ははきちゃんを抱き上げて、高い高いをする.
はるなはいとこにあたり、須佐男はおじいちゃんである.
「お爺ちゃま!」須佐男に高い高いされて、ははきちゃんは満面の笑顔になった.さっきの男の子たちを見た時のような硬さは消えた.
ははきちゃんは、このグランパが大好きで、須佐男も孫娘を可愛がっている.
おじいちゃんに抱っこされながら、少し顎を上にあげ気味に、
「あら、はるな、久しぶりね」
皆が、おや?と思った.あれ、はるなに対してはタメ口?
掃除の神様、だけに血縁関係の掃除というか、整理整頓もしっかりしているということなのだろうか?
そして、ちょっとだけ「潔癖症」?
特に男の子に対しては・・・
矢乃波波木神
そのほうきで、妊婦のお腹をなでると、安産になるという.
箒の神様、そして、掃除をすることで、産室を清潔にするからだろうか、出産の神様ともされる.さらに、一歩進んで、「生命の神」とも言われている.
患者の死亡に立ち会った後、解剖室から、産室に向かう.ある産婦人科医.
出産に立ち会う前に、手指を消毒して、清潔にすることで産褥熱、そしてそれによるお産後の死亡を激減させた.
彼の学会での発表は初めは黙殺されたが、のちに「母親たちの救い主」とか、
妊婦・産褥婦の守り神と言われた.
イグナーツ・ゼンメルワイス先生
矢乃波波木神は、その日本神話版といったところであろうか?




