天沼矛(あめのぬぼこ)① 「ヘパイストスの工房にて」
天照大神から託され、菊理媛、ルシフェルらによってもたらされた、
最初の神器である、「天沼矛」.
これは、ヘルメスにより、ヘパイストスとアテナがまつ、
オリンポスのヘパイストスの工房・鍛冶場に運ばれた.
つまり、「オリンポス工業株式会社最先端技術研究所」のことである.
かつて、遺伝子モデルの解析から、ドロン型DNAモデル「螺龍」を開発し、大量に生産したところである.
海丸くん、ルシフェル、ドクトル、静香に加えて、今回は、愛ちゃんと健ちゃん、みたまが、開発のための検討会に参加している.
愛ちゃんと健ちゃんと、みたまは時空を飛び越えて、オリンポスのヘパイストスの工房にやってくるのは初めてである.
幼い兄妹は、前の夜は、少しの不安、と、ほとんどのワクワク、ドキドキで、眠れそうにないか、と思いきや・・・
しかし、時空を飛び越える旅のこと、オリンポスの大工場のことを想像していたら、いつの間にか眠りについてしまった.
想像の続きは、しばしの幕間の後、楽しい夢の舞台が広がる.それを一晩のうち、3、4回繰り返した.
睡眠生理学的には、つまり、「よく」眠れた.
みたまも古い神様なので、その辺の睡眠調節は、しっかりしたものである.
決まった時間に寝て、決まった時間に起きて、朝からスッキリした顔つきである.
子供達は、数日分の着替えと下着、少しのお菓子、ノートに色鉛筆と歯ブラシを、ハンカチとタオルを何枚かを自分でリュックに入れて、前の晩にすでに支度完了である.
「じゃ、皆さん、行きますよ、準備はいいすか?」ヘルメスが最終安全確認をして、
開いた時空の扉に皆が順番に飛び込んだ.
「あーーー」と竜巻の中できりもみするような感じ?
しかし旅はあっという間に終わる.
オリンポスの上空にぽっかり空いた穴から、次々に吐き出される.
下では、ヘラクレスや、ポセイドンのオトシャンが待っていて、静香に、愛ちゃん、健ちゃん、みたまのことを順番に受け止める.
海丸くんは、時空のトンネルを飛び出してから着地する要領は既にわかっているので、ひらり、と舞い降りると、見事に着地を決めた.
先に地上に降りて見ていた、愛ちゃんと、健ちゃんとみたまは、「すごい!」と拍手をする.
「海丸くんすごいな!今度は僕も、あんな着地を決めたい」健ちゃんは、先輩である海丸くんの鮮やかな着地をいつかは自分も決めたいと思った.
「そのうちできるようになるさ.何度もきているうちにね」海丸くんはちょっと格好をつけて、先輩風を吹かせていた.
ゼウス・ルシフェルが、皆に息子のヘラクレスを紹介した.
「こいつが、俺の息子の、ヘラクレスだ.ほら、棍棒と、ライオンの毛皮が、トレードマークだ!」
「ういっす!ガキンチョたち、みんな苦難の道を歩いてるか?」
いきなり、ヘラクレスの人生講話が始まってしまった.
「楽勝の道、と苦難の道、二つ道があるとする.
さあ、どっちを選ぶか、ガキンチョどもよ・・・・・
俺の選択はいつも、苦難の道だぜ!
それが俺の生き方、ヘラクレスの選択だあ!」
「え?」
「はあ・・・」
最初、愛ちゃんと、健ちゃんはヘラクレスのことをちょっと怖がって、後退りしたが、すぐに仲良くなった.
「ああ、こいつ、見た目あぶねえやつみたいだがな、人間の殻を脱皮して、神々の一人になったからな、前みたいに、めちゃくちゃなことはしねえことになっている、なあそうだろ」ルシフェルが聞くと
「オヤジやめてくれよ、俺ももういい大人なんだから・・・・」ヘラクレスはちょっと恥ずかしそうにいう.
真面目な人なのだ.若い頃には無茶をしたけど、
「アテナもヘラクレスのこと、可愛い弟っていってたし・・・・」
例の木の板の、毛筆書きの看板が風に揺れる、研究所の玄関.
ヘパイストスは、そこで皆の到着を待っていた.
彼に案内されて、入口を通り、地下の最先端研究施設の検討会室に皆は案内された.
そこでは、アテナが、キュクロプス、四天王、そのほかの研究スタップを前に、
「天沼矛」について、いろんな解析のデータについてプレゼンテーションをしていた.
「あ、みんな、早かったね.もう始めさせてもらってたよ.しっかし、オヤジ、これはすごい装置だね、再現して、コピーして、さらに大量生産となると、大変なことになるよ!」
研究開発本部長兼顧問のアテナがいう.
「ほお、そんなにすごいものなんかね?」ルシフェルが聞くと、
「お頭、そもそも、混沌から、国土を生み出したもんですぜ、そりゃちょっとやそっとのものではないと思いますよ・・・」
ヘパイストスもこの神器について、解析すればするほどその構造、仕組みについて驚くことが多かった.
「そもそも、混沌ってのは、数値化ができないもんなんでさあ.溶鉱炉で、2000℃の温度の中、溶けた鉄がドロドロになっているのとも違うし、粒子の運動もなく、結合もなく、時間と動きの止まった、熱的な平衡状態、まあこれは、ボルツマンって物理学者がその状態を心配して、世界の行く末に絶望する原因になった宇宙の終焉状態のことですがね、もちろんそれとも違う」
秩序の種も何もない、そこにあるのはただの無秩序?
いやそうとも言い切れない
無秩序とは、何もないともあるとも言い切れない状態ではないだろうから
形もない、状態もない、温度も運動も、エネルギーも、時間も、質量も、相互作用も・・・・・
何もない・・・・・・
しかし全く無でもない・・・・
「禅問答みたいですね・・・」
海丸くんが、冗談まじりにいう.
大人たちは皆苦笑いするしかない.
「混沌、まずはそいつの正体から知らないと!」
混沌をかき混ぜて、
そこに秩序を作り出して、
形を生み出す、
最初にして最終の神器・・・
「それが、天沼矛・・・」
「こりゃ、大変な宿題もらったもんだな」ルシフェルが、他人事のようにいう.
「そう、だから万一再現できなかった場合、このオリジナルが一つだけってことになるから、うっかり分解もできない・・・・」ヘパイストスの悩みである.
「このままの形で、その構造と機能をどうやって分析して、理論を作るか、そして、同じ機能のコピーを作り出すか.しかも大量生産となると並大抵のことではないのだけどね」とアテナが、ヘパイストスとルシフェルの顔をジロジロ見た.
「いや、俺は、おめえらなら、できると、信じている!」
ルシフェルは心から、みんなを信じている、というふうにアテナと、ヘパイストス、それに四天王にキュクロプスを順に見て、真面目な顔で、激励をした.
「ほんじゃ、まあ頑張って見ますかね・・・」ヘパイストスは、よっこらしょと、解析データの資料に目をやった.
四天王たちも、膨大なデータの資料を必死で読み込もうとする.
ホワイトボードには気の遠くなりそうな難解な数式が、いっぱいに書き込まれている.
海丸くんに、健ちゃん、愛ちゃん、静香にみたまは、圧倒されて言葉が出ない.
「ねえねえ、静香、私たち、ここにきてよかったの?邪魔にしかならない気がするんだけど・・・・」みたまが静香にいう.
「うん、前の時もね、アテナとかヘパのおじさんの色々議論するところ、私たちほとんどよくわからなかったんだよね、だから、勉強のために見させてもらうだけ、みたいなところあるけど、でも邪魔にはされないから、いてもいいと思うよ・・・」
静香の顔はなんとなく嬉々としている.
「しっかし、まあ、これはDNAモデル、作るどころの騒ぎじゃないねえ・・・」
静香はそう言いながら、大きな鞄からいろんな参考書、ノートにパソコンを取り出した.やる気満々のようである.
「そんなもんだろうか・・・」みたまも鞄からノートと筆入れを取り出して、勉強したことを記録しようとしていた.
「アテナ、あの、動画撮ってもいいかな?」静香が聞いた.
「まあ、いいにはいいけど、今ここで議論していること、その場で理解しないと、後から見てもわかるわけないと思うよ.それよりも今のここで議論されることを、目の奥と心に焼き付けること、それが大事じゃないの?」
「あ、そうか」とアテナの言いたいことを理解した、静かは動画を撮ることをやめてそこで行われている議論、ホワイトボードの文字を目に焼き付けるように努めた.
「よーし!わからないわからないと、落ち込んでいても天沼矛の大量生産はできない.
ここで、発想を転換しようか」
アテナがパンと手を叩き、検討会室の空気を引き締める.
「そもそも、混沌の正体がわからない、これは確かにそう思うだろう.
誰も経験したものはいないわけだから、
じゃ、この天沼矛が、実際どのような状態に変化を加えて、あるいは反応して、混沌から新たなものを生み出すか、ということから実験して、データを取って、それを詳しく整理してみようか」
天沼矛によって、変化しうる物理量を、「混沌」と名付けて、それを数式化するということになるらしい.
実験計画が立てられて、各部署が手分けしてデータの収集を始めることになった.
「ぐー!」海丸くんと、健ちゃんと愛ちゃんのお腹が同時になった.
壁掛けの時計を見ると、まだ午前11時15分・・・
「ちょっと早いけど、お昼ご飯にしましょうか・・・」アテナの一言で、
「ヤッホ!」と海丸くんと、四天王、が廊下に躍り出て、愛ちゃんと健ちゃんがそれに続く.




