菊理媛の願い「アンテロス、養子におくれ!」
おばば様の講演と、子供たちの大発見のあったその日の夜のことである.
菊理媛が、こっそりと、愛染一家の間借りしている、別館の一室を訪れた.
「おや、くくりの姐さん、こんな時間に何か?まあ、入ってくださいな・・・」
アフロディーテが、菊理媛を部屋の中に招き入れる.
ちょうど、アレスも来ている時だ.
「ういっす、姐さんお久しぶりです」
「おや、アレス久しぶりだね.この頃も派手に暴れてるのかい?」
「え、そんなことないすよ、俺ももう若くはねえですし、子供のこともありますしね」
キューピーはまだ図書室で海丸くんやドクトルと勉強をしている.
昼間は大活躍だった、アンテロスはもう寝ている.
すやすやとかわいい寝顔.
菊理媛はその寝顔、むちむちのほっぺたを、いつものようにくちゅくちゅした.
ただし、アンテロスを起こさないように、静かに、そして優しく・・・・
「今日来た理由はね、単刀直入にいうよ、アンテロスを、私の子供におくれ.」
「え!」
「ぐえ!」
アフロディーテと、アレスの反応である.
「ちょっと、姐さん、仰ってること、よくわからないのですが.いつもアンテロス、可愛がっていただいて、ありがたいことだとは思っていましたが・・・・」
菊理媛が、アフロディーテに向かっていうには、
「だから、アンテロスを私の養子におくれ.
あんたも薄々気が付いているかもしれないけど、
これから世界に、いや、この地上全体、いやいやもっとだ、
この星そのものにものすごく大きな動きがある.
我々神々が総がかりで、なんとかしないとダメなほどのね.」
「やはり、それが、レト様が、ルシフェルと色々話していたことなんでしょうかね・・」
黙って頷いた菊理媛は、
「まだ詳しいことは言えない・・・・」
アレスと、アフロディーテは、菊理媛の目を覗き込んだ.
普段ニコニコしている、彼女の目の奥だけは笑っていなかった.
「私は、アマテラス様の指示で、ウズメと一緒に、世界中の神々に、色々説いて回るお役目を仰せつかった・・・・」
「それになんでアンテロスが?」アレスが聞く.
「あの子のこと、これまで色々見ていた.かなりの人物になると私は見ている・・・」
「はあ、でもまだあんな子どもですけど、うちの子、そんなすごい素質の片鱗でも?」アフロディーテが、恐る恐る聞く.
「・・・・」菊理媛が黙って頷いた.
それにしてもこの親たちは、自分の息子の非凡をあまり、感じていないのだろうか?
「あの子が普段口にすること、あれは、並の子供のものではない、まさに天性の知性・・・・」
まだ、両親はピンと来ないようだが、
「まあ、強いて言えば・・・
あの子の地頭の良さっていうか、
いかにもお利口さんっていうか、
スマートというか・・・・・
そんなところにあたしゃゾッっこん惚れ込んだってことさね.
そして、なんとか自分で育てて、自分の仕事を見せたい.
そしてゆくゆくは私の仕事を継いでもらいたい
そんなとこかな.
そして、今から、あの子に、私たちの仕事を見せておきたい.
そうして多くを学ばせておきたい.
まだ大人みたいな心のくもりが起こる前にね.
そう思っているところに、アマテラス様からの命令が来たってそんなところさ」
「そんな、世界の神々と会いに行くって、それでなんの交渉をしようってんですか?紛争地帯にも行くんでしょ、危険はないでしょうかね?」とアレスが心配そうに聞くので、
菊理媛は、声を出して笑ってしまった.
「ははは!」と大きな声が出てしまった.
アンテロスが、寝返りをうって、むにゃむにゃと起きそうになったので
「シー!」アレスとアフロディーテに言われてしまった.
「あ、いや・・・ごめん」ひそひそ声で菊理媛が、アレスにいう.
「危険がないでしょうかって、あんたがいうことかね、この乱暴ものの戦争の神様が!」
「まあそれもそうですが・・・」
「危険はない、とは言い切れないが、アンテロスの安全は、私とウズメが責任を持って、なんとしても守る.それは約束する.他には、須佐男や、建御名方、事代主に、なんとあの武甕槌も護衛についてくれるみたいだしね.」
「姐さん、私たち、まだあの子のこと、手放すのはちょっと・・・・」
「出かけない時には、これまで通り、別館に暮らせばいいさ.
年がら年中世界をわたり歩いて回るわけではないからね」
「とにかく、私の友達の世界中の神々に、後継者をお披露目して回りたい、ってそんなとこだろうかね?」
菊理媛が、アンテロスの両親の目をじっと見た.
「姐さん、なんか私は、大事な息子とられるみたいな気がして.
新しい親が姐さんなら、こんないい縁組はないのだろうけど・・・」
「あんたたちから、あの子を取り上げたり、奪い取ろうってんじゃないよ.
あんたたちと一緒に、この子の親をやらせておくれ」
アフロディーテが、菊理媛から目を逸らして助けを求めるようにアレスを見た.
「姐さん、条件が一つあります」アレスがいう.
「なんだい?決してあんたたちに悪いようにはしないよ.もちろんアンテロスの身の安全は、なんとしても私らが守ってみせる.」
「姐さん、なんとかその、使節団に、俺のことも加えてもらいたい!戦争になりそうなんでしょ・・・」アレスが菊理媛の目の奥を探るように睨みつける.
さすがの菊理媛が、アレスから目を逸らした.
「俺がいれば、無用の戦争を防ぐ手立てが見つかるかもしれない!」
・・・・・・・・・・・・・
アンテロスを菊理媛の養子にする
そして、アンテロスも外交使節団の随行員に加えること
まもなく、ルシフェル、おばば様、はるなに静香、ドクトルたち、別館の主要メンバーの承認が得られた.
そして、何よりもアンテロス本人の承認により.
「うん、いいよ、くくりのおばさん、僕、好きだし.ずっと別館で皆と一緒に暮らせるなら、いいよ.世界の国のことも見てみたいし.」
アンテロス、大人から見てもちょっと物分かりが良すぎるかもしれないが.
「それに、お父さんも一緒だし・・・」アンテロス小声で呟いて、ちらりと、そして恥ずかしそうに父のアレスの方を見た.
護衛団の一人にアレスが加わることも承認された.
こうして、菊理媛と、アンテロスの養子縁組が成立した.




