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ある暑い夏の風景

ドクトルが通勤で外を歩いている時.


「おや、なんか、この頃、男の人が日傘さしていること多いな・・」


勉強したり、小説を書いたりしてから服を着てパソコンを片付けて、家を出るから、8時半の勤務開始にギリギリになってしまう.


だいたい、8時10分頃に歯科医院の角を曲がって、5叉路の信号を真っ直ぐ渡るか、右に曲がって、チャラい美容室の前で渡るのだが、その信号に向かう道、桜の木の駐車場の前あたりに、いつも日傘をさしている背の高い男性がいる.


「おや、また日傘の人・・・・」

その信号の近く、男性が日傘さしていること多いかも、

と注意してみると、なんと3人いた.


そうか、ご時世なんかもしれない・・・・

ドクトルは日傘を持つということは、今はしないし、今後もしないと思う.

信号を待っている間は、電柱の影に隠れて、アポロンの放つ日差しの矢をなんとかやり過ごしていたのだった.


帽子くらい被った方がいいのかもしれないが.

休みの日などに、時々帽子屋の前に立ち止まって、中を覗いてみるのだが、店に入る勇気はない.

白い帽子.ヒラヒラのついたの.

ここら辺にはスズメバチがいないから、黒い帽子でも.

スズメバチにとって、クマが仮想敵だから、クマと同じ色をした、帽子に対して自動的に襲撃を加えるということらしい.

しかし、わざわざ太陽の光と熱を吸収する黒い帽子でなくてもいいか.とめどもなく思考は、流れる.


「まあ帽子は今度母ちゃんが来た時に相談してみるか.」


そういえば、娘に連れられて、新大久保に行った頃から、携帯電話につけられる小型の扇風機を顔の近くに当てている女性が増えてきたか.


おじさんでそれをしている人は、流石にまだみないが、おっさん・あんちゃんでは、ファン付きの作業服を着ている人は良く見かける.

服の内側から、熱を放散することができるらしい.前に外来で患者さんに見せてもらった.結構涼しい風が吹くのには感心した.


1日の勤務.

病院で、患者さんに熱中症が出ました、では洒落にならないから、院内しっかり冷房が効いているので、酷暑の外とは別世界である.


しかし、ドクトルの勤めている病院、冬の一番寒い時.

事務長が何をとち狂ったか、エアコンの点検・工事の予定を入れて、職員とか患者さんになんの断りもなしに、というか貼り紙一枚で、工事を決行した.

ちょうど、冬の猛烈な寒波が、やってきたのと時期が重なってしまった.


「寒すぎる!」

という方々からの苦情があって初めて、病室に、石油ストーブとかファンヒーター、電気ストーブを持ち込んで凌ぐという、なんともお粗末な対応である.

年寄りの医者が寒さで何人か脳卒中や、心臓病でなくなったのではないかという都市伝説のある病院である(ほんとはそんな伝説ありません).後で事務長が謝罪したかというとそうではなくて、彼は部下に説明とお詫びをさせている.


「まあ、色々あるわな」


あれなんの話だっけ、あ、そうそうこの頃、夏の暑さ、異常だな.

35℃が当たり前だもんな・・・・・

あれ、酷暑というのは、40℃以上のことだっけ?


1日の仕事を終えて、別館に寄ってみると、中が騒がしい.


誰かが号泣する声である.


「あれ、誰の声だ?」


なんとおばば様が号泣している.

玄関にまで響き渡る声である.


図書室の方から聞こえる.


「びえええーん・・・・」

おばば様が声をあげてないている.

周りでは、ルシフェルと、アテナが困ったような顔をしている.


健ちゃんと愛ちゃん、そして海丸くんと、はるなもちょっとべそをかいたような顔をして、ほっぺたには涙の跡が見える.

おばば様が泣くのをみて「もらい泣き」?


「あれ、皆さんどうしたんですか?」


おばば様、一旦泣き止んで、ドクトルの顔を見た.

そしてまた、声をあげて号泣して、泣きながらいう.


「ライオンが、ライオンが・・・・ビエーーーん」


「ライオンがどうしたのですか?」ドクトルがアテナに聞いてみた.

「ほら,この前の春に、おばば様と一緒に行った動物園、あの時見たライオン、メスが3頭、熱中症で死んじゃったらしいの.それで、他の3頭も熱中症で重症らしいってこと、ニュースで言ってて・・・」


亡くなったライオンの享年、名前は以下の通りである.


3歳のムギ

11歳のイチゴ

15歳のルエナ


解剖の結果、3頭すべてに全身の脱水と多臓器不全が認められ、暑さの影響があったとみられると説明.


「最初にニュース聞いた時の おばば様、一瞬その場に立ちつくしてな・・・」ルシフェルも説明してくれる.


ライオンが熱中症で死んだというニュースがおばば様に与えた衝撃は並大抵のものではなかったらしい.


「しばらく、呆然としてたおばば様・・・」


以下は、ニュースを聞いた直後の、おばば様の様子である.


初めはおばば様、気丈に振る舞っていた.

凛としたその立ち姿、まさに冷徹かつ威厳に満ちた、オリンポスの地母神である.

そう、おばば様、いや、レア様は、ライオンを子猫のように飼い慣らす、神々の母・・・・


「すぐにレトを呼びなさい、アポロンとアルテミスも大至急呼びなさい!」

早速、やってきた、彼らに説教をする.


「この異常な日差しをなんとかしなさい、いったいあなたたちは何をしているのです!」


続いて、そうそう、風の神たちは何をしているのです、ときた.


「アイオロス(Aeolus)!風の王でしょ、あなたは!

ちゃんと、風の神たちの指導をなさい!


ボレアス(北風の神)!

ゼピュロス( 西風の神)!

ノトス(南風の神)!

ウーロス(東風の神)!


いろんな場所、風通しはどうなっているの!

あなたたちもちゃんと持ち場を守りなさーい!」


次々におばば様の指示が飛ぶ.


「須佐男、あなたのお兄さんにも風の神様がいましたよね、すぐにここに呼びなさい、私が一言苦言を申し上げます!」


日本の風の神、イザナギ、イザナミの神うみで生まれた、志那都比古神シナツヒコまで呼び出された.


流石のおばば様も、日本の天照大神まで呼び出せとは言わなかった.

ただでさえ、引きこもりがちの彼女が、申し訳ないなんてことで、


「あら、日差し、ちょっと強かったかしら・・

ごめんなさい.私ってダメね.加減ができなくて・・」


と反省して、本格的に岩戸の中に引きこもると、世界の全てが暗黒に包まれてしまう.適度に夏の日照りがないと、農作物にも大きな影響が出てしまうから.


「いやさ、母さんよ、そんな日差しやら、風向き変えたからって、日本のこの暑さはどうにもなんねえから、ライオンたちにはかわいそうだが・・・・・」


息子のゼウス・ルシフェルがなんとかおばば様を宥めると、


「・・・・・・・」

しばしの沈黙の後に

「う、う、う、、ビ、ビエンーーーん」とおばば様の大号泣が始まったとのことである.


「ライオンたち、暑かったろ、のど、乾いたろ、しんどかったろ、かわいそうに、ビえーーん」


おばば様の号泣は、しばらく止まなかったということである.


皆が多少の落ち着きを取り戻してから・・・・・


ドクトルを取り囲むように、皆で対策会議?

体裁はまさにそのようであるのだが.


「この頃の日本の夏の暑さ、なんとか、ならないでしょうかね」海丸くんが

ドクトルにいう.

「・・・・・」ドクトルは何もいえない.


「なあ、ドクトル・・・・」ルシフェルもいう

「・・・・・・」


「お願いドクトル、・・・・」愛ちゃんと、健ちゃんとはるなが懇願するようにドクトルを見つめる.

「・・・・・」


「なあ、ドクトル、なんとかならねえかな!」アテナにも言われたが.


「私に言われても・・・・・」ドクトルは口籠るしかない.


彼が絞り出すように口にした言葉は、以下の通りである.


「暑さを凌ぐ方法、考えられるのは・・・・


あまり炎天下では、張り切らないように、

日の当たるところには、長時間いない、なるべく日陰を歩くように、

そして、日のあたるとところでは、帽子を被るか日傘をさして、

汗をかいたらこまめに水分補給、ハンディファンもおすすめです・・・・・」


熱中症予防の基本的な注意事項?


「残念ながら、私に言えるのはそれくらいでしょうか」


温暖化のことも、

世界情勢も、ホルムズ海峡の封鎖で石油が値上がりして、

電力供給も減っているかも・・・

それにより、電気代の高騰、

エアコンの2027年問題.

値段の高い、省エネ仕様の機種に買い替えが必要になる・・・


電力供給だけでなく、石油を主とした世界のエネルギー事情、

世界の情勢には目を離ないさないこと、


気象の勉強と、獣医の資格も取っておくのだったか・・・

ドクトルはみんなになんか申し訳ない気がしてそう思ったのだった.



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