食欲、摂食行動と、脳の仕組み
別館の食堂.
皆が「あ、腹減った」と次々にやってくる.
四天王と須佐男、ヘルメスは、なぜか一塊になってご飯を食べている.彼らは食事の時は静かにするようになっている.別館に出入りするようになってかららしい.
今日の食事当番は、みたまと静香と、はるなと、愛ちゃん健ちゃんのママである.
愛染の母ちゃんは、キューピーと何やら仕事のこと(結婚相談所)のことで朝から忙しそうにしている.
ドクトルと、アテナ、ルシフェルに、海丸くん、愛ちゃん、健ちゃん、アンテロス、デメテル母さん、ヘスティアおばさんが、テーブルの隅っこに固まって食事を食べる.
「人間の食欲とか、食事を摂る行動をするというのは、脳の働きなんでしょ」海丸くんがドクトルに質問した.
「おめえ、どした?なんで今その質問なんだ?」ルシフェルが、いう.別に食事中に変な話するんじゃねえ、とかそういう感じの聞き方ではないし、実際、食事中にしてダメな話ではないと思われた.
「この前、本を読んでいたら、痩せた猫と、太った猫、その脳の一部を、壊すとこうなる、みたいな、脳の図と一緒にを書いてあるのをみたのですけど.」
「ああ、それは、視床下部の破壊実験、外側の視床下部(外側視床下部と言います)を壊すと、食欲がなくなって、猫は痩せてしまう、内側視床下部を破壊すると、満腹にならないから際限なく食べて、猫が太ってしまう、その実験ですね.私以前に看護学校で講義したときにもその図を書いたスライド作ったことありましたよ」
外側視床下部、「摂食中枢」.刺激すると「腹減った!」ということで食欲が出て、食事を食べる.壊すと、食欲がなくなるから、食事が食べられなく.
逆に、
内側視床下部は、「満腹中枢」.刺激すると、「もう、お腹いっぱい!」ということで、食べることをやめる.ここを壊すということは、お腹いっぱいの感じがいつまで経ってもないから際限なく食べる.そして太る.
「詳しい説明はご飯の後にでも・・・」
「ごちそうさま.」子供たちはさっさと食べてしまう.食べるのが早い.でもよく噛んで食べる.
子供がモリモリ、元気に食事をする様子は、なんかみていて頼もしい.
デメテルとヘスティアのおばさんとルシフェルは、ゆっくりご飯を食べて、子供達よりも、食べ終わるのが遅かったりすることもある.
皆で食後のお茶をゆっくり飲んで、興味のある人は、ドクトルの勉強に付き合うことになった.
「最近の内科の教科書、いつもお馴染みの、朝倉書店、内科学11版!」
「お、ドクトルの、バイブル!」
「これにですね、症候学、という項目があってその中に、食欲不振が起こる仕組みについて詳しく書いてあります」
「ほお、ほお・・・」ルシフェルと、海丸くんが覗き込む.
健ちゃんと、愛ちゃんとアンテロスも一緒に覗き込んで、ドクトルの話を興味深そうに聞く.
(すべての高等生物は、他の生物を体内に吸収して同化することで事故の生態を維持している.他の生物を吸収する行為とは、摂食行動のことであるが、食欲とは、空腹感を感じ、摂食をしたいと感じる願望であると言える・・・)
(朝倉出版、内科学11版、p. 74)
視床下部外側部が、摂食中枢
視床下部内側部が、満腹中枢
であることが示されたのは、1950年代のこと、らしい.
「ほお、人間の世界で、鬼丸源一郎が、生まれたのは1952年2月14日ということになっているから、俺が生まれた頃だな!」
ルフィフェルが、なんか偉そうにいう.
そもそも、彼が生まれたのは、いつかはわからない.紀元前10世紀よりももう少し前、あるいはもっと前である可能性が高いのだが.
皆は無視して、教科書を見る.
その後、視床下部の、
室傍核
弓状核
延髄孤束核
も摂食の調節に関与することがわかってきた.
摂食促進に関与する物質
神経ペプチドY( NPY)
アグーチ関連蛋白(AgRP)
オレキシン
グレリン
そのほかに、
メラニン凝集ホルモン(MCH) 、ガラニン、カンナビノイド
グレリンは、胃から分泌される、成長ホルモン分泌促進因子で、日本人が発見したらしい.摂食と体重調節に関与して、レプチンと拮抗する.末梢では迷走神経を介して、視床下部に作用して、NPY/AgRPを介して摂食を亢進する.
アグーチ(Agouti)とは、毛の色を調節するタンパク質で、メラニンを抑制する働きがある.メラニン細胞刺激タンパクには食欲を抑制する働きがある.
摂食抑制に関与する物質
プロオピオメラノコルチン(POMC)
コカインアンフェタミン調節転写産物(CART)
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRF)
それと、レプチン
「レプチンは、脂肪細胞から分泌されて、血液脳関門を通過して、視床下部や、脳幹に働いて、摂食を抑える作用をする.エネルギー代謝や、糖脂質代謝を亢進して、肥満を抑える働きをする.摂食を抑えるのは、直接、視床下部の弓状核に作用する.
これはアメリカの先生が発見した.」
「CARTってよくわからないですね・・・」
「視床下部弓状核外側野で、含有神経細胞のほとんどは、POMCと共存している.」
その他として、
ノルアドレナリン、ヒスタミン、インスリン
「へえ、ヒスタミンって、摂食行動にも関係しているのですね.蕁麻疹とか、花粉症とかアレルギーに関係するかと思ってました」海丸くんがいうと、
「そお、ヒスタミンは、オレキシンと一緒に睡眠覚醒にも関与する神経伝達物質で、ほら、アレルギーの薬、抗ヒスタミン剤ってあるでしょ、最初の方に出た薬は、皆副作用というか、眠くなるという不都合な点があった.最近の抗ヒスタミン剤は、あまり眠くならない作りになっている」ドクトルの解説である.
「へえ・・・・」
視床下部を中心といた摂食の調節機構
視床下部外側部は先ほど行ったように、
摂食中枢つまり、
「腹減った、なんか食いてえ、中枢」
オレキシン、メラニン凝集ホルモン(MCH)が働く場所
「そうそう、オレキシンも日本人が発見したのだった.最初は、摂食行動を促進する受容体に作用する未知の物質ということで発見されたのが、睡眠にも関与することがわかった.」
室傍核というのは視床下部内側部の代表的な神経核の集合部位で
「お腹いっぱい、もう食べたくない、中枢」
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRF)や、MC4R(Melanocortin-4 Receptor:メラノコルチン4受容体)が働く場所.
さらに、弓状核というところでは、
NPYとAgRPが、グレリンの刺激と、レプチンの抑制を受けて、内側視床下部の機能を抑制して、外側視床下部の機能を促進する.
POMC/CARTが、グレリンの抑制と、レプチンの刺激を受けて、内側視床下部の機能を刺激して、外側視床下部の機能を抑制する.
と、こういう図式らしい.
いわゆる「美味しいもの」の摂食の時には、大脳皮質や、海馬の多く存在する、カンナビノイドが関与する.摂食行動は、これは、グレリンにより増強されて、レプチンにより抑制される.
血糖値
インスリン
遊離脂肪酸
胃内腔の虚脱
インターロイキンー1
複雑に関与して、空腹感、満腹感を感じてそれが摂食行動に反映される.
空腹時の低血糖、インスリンの低下、血中遊離脂肪酸の上昇、
空腹状態=胃が虚脱した状態では、
グレリンが放出されたりする、内因性の要因に加えて、
味覚、嗅覚、視覚刺激を介して、視床下部を介して、摂食行動を亢進させる.
ストレスがあると、CRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)が出て、摂食抑制が起こる.
「なあ、ドクトル、実際に食欲がなくなって食えなくなった時、なんか使える薬、みたいなんはあるんか?」ルシフェルが真っ当な質問である.
「がんの末期で悪液質と言って、食欲不振で、極度に痩せてしまう状態があります.
アナモレリン塩酸塩(一般名:Anamorelin hydrochloride、商品名 エドルミズ®)は、グレリン受容体(GHS-R1a)作動薬で、主にがん悪液質(cancer cachexia)に伴う食欲低下と体重減少を改善する目的で用いられる経口薬.日本では世界に先駆けて承認されたとのことである.
2021年1月22日:製造販売承認(厚生労働省)
2021年4月21日:薬価収載・保険適用開始
最近使われる様になった様です.癌の末期の患者さんをあまりみたい脳外科では使うことはないのではないでしょうかね.
他に食事が取れなくなった人に、苦肉の策で、漢方薬の六君子湯という薬を使うことがあります.これも、グレリンの分泌を増やす働きがあるそうですが、この辺のこと、私はよく知りません」
「うわ、複雑な神経の働きで、ご飯を食べたり、お腹が空いたりということが決まるのですね.なかなか今日理解するのはむづかしそう」
海丸くんがいう.
「私だって全然わからないことばっかりだからこれからゆっくり勉強してみましょうよ」ドクトルのまとめである.




