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久久能智神

「五十猛の神はアマテラス様からもたらされた、木の種を、妹の神様と一緒に、全国に植えて回ったじゃないですか.植えた種、全部立派な木に育ったのでしょうか?」

海丸くんの質問である.


五十猛神は、須佐之男命の息子で、全国に木の種を植えて回って、日本列島も緑の豊かな森の国にするのに大きな功績を残したということはどこかで話したと思う.


じゃその植えた、木の種、全国津々浦々に、苦労なしに、今の森の木々のように育ったのだろうか?


素朴な疑問であろう.


「植林、って結構大変な作業なんだぜ.考えてもみな、どんぐりのまま植えた、木の種、猪とか、クマとか、リスとか、土の中からほじくり返して、奴らが全部、食っちまうよ」


須佐男の解説である.


「それもそうですね.じゃどうやって、木を大きく育てることができたのですか?」


「それは俺の兄さん、久久能智神くくのちのかみの仕事だ」


久久能智神は、イザナギ・イザナミの神うみによって生まれた、三五柱の神々のうちの一人である.


森を育てる神、あるいは木々の魂そのものであるとも理解されている、森林の神様である.


「だからまあ言ってみれば、五十猛が植えた、どんぐりの種、芽が出て、苗になってそこからまた大きく育つとき、立派な木に育て上げるのが、仕事の神様って言っていいかな」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新羅から、「泥の船」に乗って日本列島に流れ着いた、五十猛とその二人の妹たち.

すなわち、大屋都比賣神と都麻都比賣命.


父の須佐男から丸投げされた、木々の種を植えて回る仕事、初めはうまくいかなかった.


妹たちが兄に文句を言う.

「兄様、せっかく植えた、ブナの木のどんぐり、クマがほじくり返して、持っていってしまいました.杉とかヒノキの種、すぐに雨に流れて、風に飛ばされて、どっか言ってしまいます.ここにきてからと言うもの、2年間、まだ一つも芽が出てません.」


「こんなんで、この国を緑の森の国にするなんてこと、できるのでしょうか?」


「それもそうだけど・・・」


五十猛も実を言うと、木のタネを植えた後、どう言う形で、芽が出て、苗になって育ち、いずれは大木になるのかと言う、木の成長過程、と言うことに関する理解が全くなかったから困る.


「出雲の親父のところにちょっと相談に行ってみようか・・・・」


兄妹3人は、出雲の須佐男のところを訪れて、木の苗の育てから、あるいはその前に、芽を出す(出させる?)方法、苗になってからの育て方を教わろうとやってきたのだが・・・


「ああ?どうやってるのだろうか、俺も、知らねえ.木が育つとこ、あんまり観察したことねえし、それこそ高い一本の木になるまで、何年も、何十年も、どうかすると何百年かかるだろ?まあ考えてみれば気のなげえ話ではあるな・・・」


「親父様、何をゆうちゅなこと!

私たち、木の苗が育つ前に、おばあさんになってしまいます.

嫁にも行けないうちに.どうしてくれるんです!」大屋都比賣神が言うと、


「そうそう、親父様、私たち可愛い娘が嫁に行く姿、みたいでしょ!

なんとかしてください!」と都麻都比賣命もたたみかける.


「うーん、どうしたもんかな・・・姉ちゃんも、タネの袋、まとめて、はい、って渡して、そのまんまで、育て方のコツみたいなの一切教えてくれなかったからな、

まあ考えてみれば無理な命令だったかもな・・・」


「また、親父様そんな呑気なことで!私たちがおばあさんになる前に、

木が大きく育つ方法、なんとか教えてください.

親父様が知らないのなら然るべき神々に教えてもらってください.

そんな神様、親戚にいないのですか?」


しばらく、天井を向いて、須佐男は考えた.

「木の育て方、詳しい神様、か・・・・」


「・・・・・・・」

3人の息子と娘たちは親父様の思案した顔を心配そうに見る.


「あ、いた!」


「して、その神様は?」

「俺らの兄さん、姉さんの一人だ.久久能智神様と言ってな、俺の父さんと母さんが、国を生んだり、神々を産んだりした時に生まれた、神うみの神様の一人だ.森を育てて歩く、森林の神様だ」


「今どこにいるのかな・・・・」


木の苗があるところに、久久能智神あり・・・・

彼はすぐに見つかった.


「おお、兄者、元気だったか!」


「おお、須佐男じゃないか!お前、評判悪いぞ、天照と大喧嘩して、高天原を追い出されて、地獄に落とされたんじゃなかったっけ?」


「まあそんなところさ.なあ兄者、俺の息子たち、木の種を植えて回ってるのだけど、なかなかうまく育たないみたいなんだ、立派な森になるように、木を植えるこつ、みたいなのを教えてもらえると嬉しいんだが・・・・・」


「なあ、須佐男、おめえ、天照からどんな種もらったか、ちょっと俺に見せてみ」


お前のことだから、植える種、全然見当違いのところに植えるかもしれねえ・・・


と言うことで、教えてもらったこと、概要は以下の通りである.


「へえ、木の植え方、色々むづかしいんだな・・・・」

須佐男一家は、ククノチの神と、木の種を囲んで、どこに何を植えるべきかと言う、コツのようなものを学んだ.


なぜそこに植えるのか

どんぐり(コナラ・クヌギ・ミズナラ)


植える場所

山の中腹

雑木林

里山


理由

根が深く土砂崩れを防ぐ

落葉が腐葉土になる

木の実がクマ・シカ・イノシシ・リス・鳥の餌になる

人間も薪・炭に利用できる


まさに「森を育てる木」と言える.


スギ

種は小さな球果(松ぼっくりに似た実)から飛び出す.春にはアレルギーのある人たちには悪夢でしかない.


植える場所

雨が多い山地

谷沿い


理由

成長が速い

真っ直ぐ伸びる

建築材に最適


日本家屋の柱の多くはスギの木材が使われる.現在見られるスギ林の多くは人工林である.


ヒノキ


植える場所

山地

やや乾燥した斜面


理由

腐りにくい

香りがよい

神社仏閣に最適

伊勢神宮の建材として有名.高級な木材のイメージ.



植える場所


海岸

痩せた土地

岩場


理由

塩風に強い

やせた土でも育つ

最初に森を作る「先駆者」

だから海岸には松林が多いのです


植える場所

川沿い

人里

山の縁


理由

鳥が実を食べて運ぶ

明るい場所を好む

花が受粉昆虫を呼ぶ


実は桜は森の中心よりも、「森の縁」が好きな木である.


植える場所

 川岸

 湖畔

 湿地


理由

水が大好き

根が土をつかむ

川岸の侵食を防ぐ


昔から堤防沿いによく植えられた.


実際に久久能智神は、五十猛たちに教えるだけでなく、「講義」したことを実際に、全国を歩いて見せて回った.


「ほら、この尾根は風が強いだろう。ここへスギを植えたら乾いてしまう」

「この谷は霧がよく出るだろ、ここならスギが喜ぶ」

「海の潮風が当たる浜にヒノキを植えても育たん.松を植えろ」


五十猛神は、久久能智神の教えに従って、

「全国に木を植えた」ではなく、

「その土地に最も適した木を選び、人・動物・山・川が共に生きられる森を育てた」

と考えると、現代の森林生態学にもよく合う.


例えば、

海岸には松

川には柳

神社にはヒノキ

山にはブナ

里山にはコナラ・クヌギ

木材生産にはスギ


というように、それぞれ役割が異なり、適材適所がある.


神話では「木を植えた」という一言で済まされる.現実には樹種の選択こそが最も重要な仕事だったはずである.


「枯れた枝でかまどの火を灯し、薪をくべて、ご飯を炊く、

木材で家を建て、かやをふいて屋根にする・・・」


「それだけではないぞ・・・」と久久能智神は、大事なことを教えてくれた.


「ほら、こうして所々に、

桃やら、栗やら、柿の木を植えると、それがまた森の中に彩を添える.

いちじくにぶどう・・・・

そして森の恵は、また獣たちへのささやかなプレゼントにもなる.


「それに、ほら、松の林、丁寧に整備して面倒見たら、松茸ができるだろ」くくのちが、見せると、三兄妹と須佐男は、

「おおお!」と感心する.


「もっとあるぞ・・・」


くぬぎの幹から溢れて出る、樹液は、虫たちにとってはこの上ないご馳走となるだろうし・・・」


ここでまた海丸くんの質問に戻る.


「植えたき木は全部育ったの?」

「いや、それが一番難しかったんだ.海辺にブナを植えても枯れるし、川岸に松を植えても大きくならない.その土地の風や水や土の声を聞いて、一番喜ぶ木を選ばなきゃならない.それが五十猛神の本当の仕事だったんだ」と、須佐男の答えである.


「へえ、苦労があったのですね・・・しかし日本の豊かな森、そういった神様たちのご苦労の結果だとしたら、粗末に扱ったら、バチが当たりそうですね」


五十猛も久久能智神も、決して荒ぶったり、祟りをもたらしたりしない神様なんだけど・・・・・


「バチとか、祟りはないのだが、せっかくの森、大切にしたいものだな」










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