ウズメとくくり・・・・
「オオミカミは、今は誰にもお会いになりません.
用件は私がうけたまわりましょう.
改めて後ほど参りますのでしばしお待ちください」
ニコリともせずにウズメが事務的に伝えて、須佐男一行の押し込められた、板敷の間から、出ていった.
その後を追うように、菊理媛が部屋から出て、ウズメを追う.
「ウズメ、あんたちょっとひどいじゃないか、仮にも外交使節団なんだから、こんなもてなし、ちょっとどうかと思うんだけど」菊理媛が恨言の一つも言いたくなる気持ちはわかる.
「ふん、何が外交使節団さ、植民地の世話役、陳情団だろ・・・」
「陳情団って・・・・
久しぶりにあったんじゃないかい、あんたとツテがあるから、私も須佐男たちについてきたんだよ.
私たち、友達だったんじゃない!もうちょっとちゃんとした扱いしてくれてもいいんじゃない・・・」
「あんたと、私、友達になったことなんて、ない!」
「え、なんで、台本読んだり、猿楽芝居の練習、踊りの稽古、一緒にしたじゃない・・・」
「確かに、稽古は一緒にした.
でも私は血の滲むような努力をしないと、何もできない
1日に何時間もかけて、何日も何ヶ月もかけてやっとできるようになる.
しかし、あんたときたら、難解な台本も、ちょろっと呼んだだけで理解するし、
ややこしいふりも、踊りも、一眼で全て覚えて、あっさりやってみせる・・・
あんたは、天才
私は凡才・・・
努力がなければ、何にもできない.
だから自分に自信がない.
いや、あんたを見てると、
自分の自信がバカらしく、つまらなくなってくる
仕事の時も必死で作り笑いして、
偉い人を喜ばす踊りを精一杯踊って・・・・
笑顔は全て、作り笑い、
所詮は演技の一環さ、心から笑ったことなんで
一度もない.
あんたみたいに年中ヘラヘラ笑っているのは、
違うのさ.
だから、あんたのこと私は友達と思ったことなんかない.
オオミカミもそうさ、立場上、あまり無茶なことはできない.
お歴々の偉い神々、
カミムスビ様、タカムスビ様、思兼神、偉い方々の意見をそのまま皆に伝えて、
何一つ想いの通りにならない.
ハメを外すことなんてできない.
私たち、何一つ自分の思い通りになることなんてないのさ.
それに引き換え、あんたは、あんだけ自分の好きなようにして、
それでもみんなにちやほやされて、好かれて・・・
ヘラヘラうざいのに友達多くて・・・・
おかしいだろ、こんなの」
「そっか、あんた、そんな風に私のこと思ってたのか・・・」
「須佐男もそうさ、天照様の気持ちなんかこれぽっちも考えないで、好き勝手やって、いきがって、ちょっと、性格が丸くなって荒ぶらないかと思ったら、なんだい、親分ずらして、なんなんだい、あのジジイも!」
「だからね、私たちは、高天原に引きこもって、下界にも、天上にも、何があっても知らんふりさ.そして、凡人同士で、毎日、のほほんと暮らすだけさ.神々として生まれてもね、情けないことさ・・・」
「でも、あんたにも、オオミカミにもきっとできること、あると思う.あんたたちにはものすごい力がある.私はあんたたちのような人を心から尊敬している」
「ふん、何を・・・」ウズメが話し終わる前に、
急にあたりが、明るくなった.目を開けていられないほどの明るさである.
なんと、天照大神が現れたのだ.
「オオミカミ、誰ともお会いにならないのでは・・・」ウズメが言うと
「気が変わりました・・・」オオミカミ、光に包まれた顔は穏やかに見える.
それまでウズメと話していた菊理媛、その場にひれ伏すしかない.
「はは、オオミカミ様・・・・」やっとのことでこれだけの言葉を喉の奥から絞り出した.
「菊理姫の姉様、父と母のこと、おせわになりました.この頃は弟の須佐男とも仲良くしていただいているみたいで、感謝いたします.
あの通り、乱暴者で、私には、とてもではないが、手に負えないあの愚弟、
よくぞ、まあ、あそこまで手懐けられたもの、さすがございます・・・」
と、口元に手をやり、くすくす楽しそうに笑われた.
いつの間にか、そこに、須佐男、事代主、建御名方、ルシフェルが控えていた.
皆平伏している.
「おや、皆さん、いつの間に・・・・
ウズメからの報告で、
皆の聞きたいこと、わかります.
確かに、今、天空の星々の動きに異変が迫っています.
闇の力、私の心を支配して、星の動きに細工を加えようとしていることも事実
しかし、私にもどうしようもないこともあります.
大惨事にならないこと、それだけを考えて、今なんとか手を打ってはいるのですが・・・」
「姉上、どうすれば、良いでしょうか?我々は・・・」
須佐男が下から天照大神を仰ぎ見る.
須佐男には微笑みかけるだけで何も言わず、ゼウスの方に目をやった.
「おや、そこにいらっしゃるのは、異国の神々・・・」
「ははは・・・」
ルシフェルは天照の威厳の前にやっと声に出せたのはこれだけである.
「あなたも、あの荒くれの弟をはじめ、葦原中国のものたち皆と仲良くしていただいて、お礼を申します」
「はは・・」
「皆の心配、私にもわかります.しかし、私一人の力では如何ともし難いこと、とだけ申し上げておきましょう.
今の時点では・・・・
しかし、手の施しようが、全くない、とまでは言えません.
破滅を回避するために、皆がなすべきこと、
参考にでもなればいいのですが・・・・」
「一つ、まず、私のもう一人の弟である、月読命、
あのものを其方たちのところに遣わします.
色々と示唆を与えてくれるものと考えます・・・
そして、ウズメ、宝物殿から、ヌボコを持ってきておくれでないかえ・・・」
「え、ヌボコとは、例の天沼矛のことでございますか、神宮殿の中にあるのですか?私はまだ見たことがありません」
「我らが父母のイザナギ・イザナミが、混沌から、大地の種である、オノゴロジマを形作るときに用いられた、神の矛・・・」天照がいう.
数名の神々が担いで宝物殿から持ってきて、皆の前においた.
「姉上、これが、神話に名高い、天沼矛・・・・」
須佐男が恐る恐る、それを見る.もちろん手に取って、などもってのほかである.
「そお、これが、この世にたった一つだけ存在する、天沼矛・・・」
アマテラスが続けていう.
「そこの異国のお方、ヘラスの国のゼウスと仰る神よ.その方の力で、この天沼矛を大量に作り、私の大切な、日の本の八百万の神々に持たせてはいただけませぬでしょうか?きっと大きな力になるものと思います」
「そして、ウズメ、あなたは、菊理媛とともに、全ての精霊や神々を説いて回って、さまざまな問題を調停してもらいたい.できますか?」
天照大神が優しい眼差しを、ウズメに注ぐ.
「しかし、私が高天原を離れると、誰がオオミカミの話し相手になればよろしいのでしょうか・・・・」
「その方、心配ない、私も一人の時、何もせずただ引きこもっているだけではない.
ただ、用事があってそのほうを呼んだときにはすぐに戻ってきておくれ・・・」
「ははは・・・」ウズメも平伏していた.
天照大神から授かった「天沼矛」、オリンポスに持ち帰った、ゼウス・ルシフェルは、早速、ヘパイストスとアテナに命じて、その構造やら組成やら、作動機序を精密に分析して、大量生産に取り掛かった.
混沌から、大地を生み出した、いな、世界を生み出した、唯一無二の神器・・・・
そして、今、天と地と空の秩序が、
混沌により飲み込まれようとしているということか?
なぜ、それが、大量に必要かということはいまはまだ誰にもわからなかった.
日の本の最高神である、天照大神を置いて他のものには・・・・




