夏休み、といえば、虫取り
学校は夏休みになったらしい.
まあ、社会人でしかも、子供たちも皆成人して別に暮らしているとなったら、
あまり夏休みといっても、関係ないか.
しかも、昔と違って、外の気温は、35度を超えることはザラである.
日中外を歩くには、決死の覚悟が必要である.
ドクトルが子供の頃にはあまり一般的でなかった、「熱中症」という言葉をテレビのニュースで聞かない日はない.
「今日も熱中症で、OX人の人が、救急搬送されました」というのはテレビのアナウンサーの決まり文句になりつつある.
昔はこうだったというと、老害だとか言われる.
「ほらまたジジイの昭和自慢がはじまた・・・」とか若い人たちには顔を顰められそうだが、最近は、小学校で、プールの授業がいろんな事情で廃止になりそうだとか.
昔の小学校、プールが、開放された.休みのうち何日か、学校のプールに入れた.
もちろんただ、つまり無料である.監督の先生の手当てはどこから出たのだろうか?
また、登校日にプールに入るのが一つの楽しみだったと思うのだが・・・
同級生たち、皆普通に、50m、100mをクロールやら、平泳で泳げたものである.
小学生で、バタフライのできた子は確かいなかったが、背泳ぎなら普通にできたと思う.
今のこのご時世、先生でさえ、泳げない人、たくさんいそうである.
ましてや授業ができなくなりつつあるご時世、泳げない若者・・・
「きっと増えるでしょうね・・・」
テレビのアナウンサーこの頃のもう一つの決まり文句、
「今日も水の事故で・・・」
暑い日には、犠牲者の数が、全国規模で報道される.
前の日は、ドクトル、細菌学の勉強をしようと思ったが、遅い時間になったら勉強はそっちのけで、インターネットの動画を見たり、自分の書いた文章を、AIに画像化してもらったりで、勉強は、お留守になってしまった.
細菌学実習のノートはうまい具合に見つかって、それを見ながら、再勉強、と思っていたのだが.そして、わかりやすいように書いてみようかなと思った.
しかし細菌学実習、これは、グラム染色とか、いろんな染色法を駆使して、形態を観察して、いろんな培地でどの細菌が育つか、見極め、代謝とか、遊走性とか、抗生剤に対する感受性とかを実際に手を動かして、自分の目で確認するというものである.そしてそのハイライトは、腸内細菌の同定である.
系統授業を聞いて理解していないと分からないことがあったから、授業のノートをもう少し理解してから、にしようと思ったのだ.
すると途端に、まあ、明日でもいいかな・・・
と本来の怠け、モラトリアム体質がむっくりと頭を擡げるというわけである.
漫然とパソコン見て時間を浪費した後、しかも夜更かし.
仕事のある時には、10時には就寝.早い時には、7時半には寝てしまうのに、この日はなんと12時頃まで起きていた.
床について、間も無く眠りに落ちた、らしい.
夢を見た.
なんと仕事の夢だ.やれやれ.
中大脳動脈瘤の患者で、しかも内頸動脈には狭窄があり、中大脳動脈にも狭窄がある.自分は診断だけにして、さっさと逃亡を決めつけて、先輩のドクターに押し付けた.じゃ一緒に治療を、と先輩に誘われなかった.そこで、夢から覚めたのは幸いだった.先輩の先生、ものすごくおっかない先生だったのだが、大学を離れてすごく優しく、親切になったのだが.その先生がなぜか夢の中ではさらに優しくなっていた.
歳を取られたか?
6時に一旦起きてトイレに行く.普段なら起床してもいい時間だが、まだ眠い.布団に入ったら、また眠ってしまった.次に起きたのが、8時頃.
「あ、しまった!あんまり休日に遅くまで寝ていると、頭が痛くなるのだ・・・」
ドクトルは時々偏頭痛と思われる、頭痛の発作に襲われる.決まって、休日、朝寝坊した時だ.それを学習してからというもの、休日で夜更かしの翌朝とはいえ、決して朝寝坊はしないと決めていたのだ.
幸い、頭痛は起こらないようでよかった.
細菌学の勉強.
パストゥールが、「発酵」をどう考えていたか、ということ.
細菌学の教科書にも書いてある.パストゥールの「発酵の定義」
しばらく勉強してから、昼前に病院に行き、患者様方の御用伺いをして、病院で前の日からの日記を書いて、午後3時頃に病院を出てきた.
曇りだからまだ暑さはマシなほう.でも暑い.時々日が差すから、なるべく日陰を歩く.
今日は長らく念願であった、「虫取り網」を買いに街の中の100円ショップに突撃する.予定というわけではなかったが、数日前からそんな、つもりになっていた.
問題は、昼日中、いいおじさんが、長い竿を、担いで、街の中を一人で歩いている光景、人様の目にどう映るか・・・
「おじいさんが孫に頼まれた虫取り網を一人で買いに街に出たのだろうか?」
いやいや、休日だよ、しかも夏休みに入っている.
じいさんが、街に一人で虫取り網を買いに行くはずがない.必ず孫と一緒に行くだろう.
「じゃ、あのおじいさん、虫取りが趣味で、ご自分のために買いに行った?」
普通はそのように理解されると思われる.
しかし人目を気にするドクトル、長い竿を担いで、街中を一人で歩くのはどうも抵抗がある.
患者さんやらその家族、職員に見られたら、なんと言われることか・・・
虫取りの網の上にコンビニの大きめの袋を被せて、さらに歩くときは人通りの少ないところを、それとなく、怪しい雰囲気を、出さないように気をつけて・・・・
「もしや、虫取りがブームで自分のような老人が一人で、虫取り網を持って街の中を歩いているかもしれない・・・」
ありえない.
試しに道ゆく人々観察してみた.虫取り網を持って歩いている人は一体何人いるだろうか・・・・・
もちろんゼロである.
おしゃれな女性のグループも、ちょっとヤンキー風の若者の集団も、デートと思しきカップルも、熟年の夫婦も、ベビーカーを押した若いお母さんも・・・・
そして、小学生くらいの子供ですら、虫取り網を持って街中を歩く、そんな光景にはついぞ出くわすことはなかった.
そんな、ご時世らしい.
ドクトルは言いようのない孤独を感じた.
中古のパソコンショップの中、ちょっとだけ覗いて、その2軒先の100円ショップに入った.入り口に近い、階段手前に虫取り網が置いてあることは、すでに調べがついている.
恐る恐る手に取ってみてみる.
おや、授業で黒板を指すのに使う、アンテナみたいな、金属の棒がついたのがある.
昔のラジオのアンテナ見たいな、するする伸びるやつである.なんていうのだろう?
竹の竿についた網が多いが、そのアンテナタイプ、小さく畳める虫取り網!
「これだ!!」
その一つを手に取ってそのアンテナタイプの、竿を伸ばしてみた.そこそこの長さがある.
「よし決めた!」即決でレジに向かう.
「330円です.」
支払いを済ませて、持ってきたレジ袋に網の部分を入れて、というか、取っての部分まで全部レジ袋の中に隠れてしまうから、嬉しい.
まさか道ゆく人々は私が今このレジ袋の中に隠し持っているのは、虫取り網であるなど、これぽっちも勘づかれることはあるまい・・・・
「う、しししししし・・・・・」
今日は気分が良い、本当にいい買い物をした.
晴れやかな気持ちで、街中をゆき、県庁の脇から公園の中を通る.
「あれ、トンボ、いないな・・・」
流石のトンボたちもこの暑い中、外出は控えるということか・・・・
試しに網を使いたかったが、肝心のトンボや、ちょうちょはいない.
あたりを徘徊することはやめて、とぼとぼ歩いて、家の方角に向かう.
すると公園のベンチの近く、なんと、しじみちょうが飛んでいる.
「よし、お前で、この切れ味を試してみよう・・・」
レジ袋から、虫取り網を取り出して、アンテナをいっぱいに伸ばして、再び敵を探してみた.
「あれ、どっかいっちゃった・・・・・」
小灰蝶は、ドクトルがグズグズと、網を出している隙にどこかに逃げてしまったようである.
もうすぐ8月、ある脳神経外科医の休日の過ごし方、という一席でした.




