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細菌にも顔がある

「ドクトル、細菌って、いろんな病気の原因になるじゃないですか?

治療は抗生物質使ったり、洗浄したり、手術で汚染組織とか、膿を取り除いたりするのでしょ.では一体、その細菌の正体、どうやって突き止めるのですか?」


「うわーまた海丸くん、医学の本質に迫る質問してきますね・・・」

いつものようにドクトルは、天才少年海丸くんの、ものすごい豪速球質問を真正面からキャッチした.


いい加減な答えは例によって許されないから、ドクトルも精一杯応えるために頑張るのだが.


「細菌のことを記述したり、病気との関係やら、治療にどのような抗生物質が有効か、とか、薬剤耐性という、抗生剤がそのうち効かなくなる仕組み、みたいなこと、細菌にまつわること記述したり、研究する学問、これが細菌学、ということになるのでしょうか・・」


医学部の授業では、2年間の教養課程(今は教養課程がないと聞くがどういうカリキュラムになっているのだろう・・・)が終わって学部に上がってすぐ「細菌学」の授業がある.


月曜の朝8時40分からだったのではないかと思う.


(その先生、のちに、旧帝国大学に栄転された時、あまりに出席者が少ないので、誰もいない教室でしばらく待って、何人か学生がきてから授業を始められたと聞く・・・)


授業の開始が、学生の出席を待って行われるということはドクトルの学生時代にはなかったと思う.


ドクトルは、結構真面目に聞いたと思う.

明快な語り口で、先生の授業が実に面白く、そして理解しやすいものだったから.


まだ当時まだ30代後半、新進気鋭という感じの細菌学の教授.

着任早々に受け持ったのがドクトルたちの学年だったらしい.


血液内科の臨床医をされていて、白血病の患者さん、細菌感染で亡くなっていくのを見て、なんとかしなければと、細菌の研究.


感染免疫とか、細菌の細胞内感染?の研究を深められて、「基礎医学」の一分野としての細菌学を極められることになったと聞く.


「細菌学の授業とか実習のノートがあればいいのだけど・・・・・」


ドクトルはゴソゴソと本棚、細菌学の授業のノートを探してみた.

実習のノート、組織学とか病理学と同じ、無地の大学ノート使ってたから、まとめて本棚にあるかと思ったけど、


「あれ、ありませんね・・解剖とか薬理学、病理学のノートはあるのですけど」


「なんでないのかな・・・私、学生時代のノート、原則捨てていないのですよ.だからどこかにあるはず、だって、あると信じないと探すなんでことできませんからね.途中で捨ててしまうという、操作が介入する可能性をあらかじめ排除しておけば、絶対どこかにあると信じて探すことができる・・・」


「それでもないということは・・・」

「まあ、引っ越しが多いから・・・」

途中でいらない紙の入った封筒に紛れ込んで、誤って捨ててしまったかもしれない.


そういえばが、本とかノート原則捨てないという、原則が若干甘くなった時期があった.


広大な社宅に一人で住んでいた時.そこから次に移る住居は広さでいえば半分くらい、いや、三分の一くらいかもしれない.

書籍やら、ノート、パソコンなど、収容できる、スペースがかなり制限される可能性があったから、読む可能性が少ない雑誌等を捨ててしまったことがあったのだ.


「その時、なのでしょうかね・・・・」ドクトルは、確証がないが、探す時間があるわけでもないから、古い教科書の目次を見て、細菌学のあらましを、海丸くんに伝えることにした.


「どういう学問かということは、教科書でみましょうか.

これ、学生の時に使っていた教科書


エッセンシャル微生物学(1985年 第2版第3刷)

細菌学実習提要(1985年 改訂5版第10刷)

戸田新細菌学(1987年 第4刷)これは、学生の時に買ったものではない気がする.

細菌また新しい版が出たのを買うかどうしようか迷って結局買わなかったらしい.


いずれの教科書にも、ボールペンや、鉛筆で線を引いたりメモを書いたりしていないから、学生時代にほぼ読まなかった本なのだろう.


どれだけ講義のノートが、この学問を学ぶ上で重要だったとかつ、十分な情報をカバーしていたということになろうか.


「細菌学実習のノート、結構いろんな細菌のこと、スケッチしたと思うんだけどな・・」


結構重大な紛失物、かもしれない.


「いや待てよ、ファイルの入った段ボール、探してみるか・・・」

ドクトルは、コピーの紙をクリアファイルとか、封筒に入れてまとめて入れた箱を20個ばかり、これも引越しの時に一緒に引き連れてくる.どの箱にどのファイルが入っているかはエクセルで整理しているから、わかる.


ファイルのエクセル、みると

「あ、あった、細菌学の授業のノートと実習ノート、段ボールは7番、

その中で、真ん中あたりか・・・・」

ゴソゴソと、ダンボールを探してきたドクトルは嬉しそうに、ボロボロになった封筒を持ってきた.

中にはルーズリーフに鉛筆で書かれたノート、授業のプリント、次週のスケッチノートが入っていた.


「ありました、ありました、これこれ・・・」

改めて、ドクトルは、海丸くんに細菌学の授業というか、説明をした.


1987年当時.

前期と後期に分かれていた.後期は授業は木曜日?その辺の記憶は、ない.


形態と機能

生理・滅菌消毒

代謝

遺伝(1)(2)

化学療法、薬剤耐性(1)(2)

感染(1)(2)


グラム陽性球菌(1)(2)

グラム陰性球菌

腸内細菌、ビブリオ(1)(2)

臨床細菌学

グラム陰性好気性桿菌、ヘモフィルス

嫌気性菌(有芽胞)菌(1)(2)

真菌

スピロヘータ、マイコプラズマ

リケッチア、クラミジア

外毒素

近年注目される感染症

抗酸菌

内毒素の構造と生物活性


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

細菌の分類

まず習うのは、グラム染色、だったっけ?

そうではなくて、細菌の構造に関することか.


グラム染色は、細菌学で最も重要な検査の一つである.

脳神経外科でも髄液や膿瘍、創部感染の初期診断には欠かせない.

ただし、ドクトルは医者になってから、この染色をしたことはない.

おそらく実習ではやったのだろうが.


「グラム染色は何を染めているのか?」という問題.


実は細菌の細胞壁を染めている.


特に重要なのは、

ペプチドグリカン(Peptidoglycan)

という細胞壁の成分らしい.


グラム染色の要点は、細胞壁の構造によって、濃い紺色の色素が漏れ出してくるかどうか・・・・


グラム陽性菌

細胞壁に

ペプチドグリカンが非常に厚い

最初に入れた紫色クリスタルバイオレットが細胞壁の中に閉じ込められる

アルコールで洗っても落ちない

紫色のまま


グラム陰性菌

ペプチドグリカンは薄く、

その外側に

外膜(リポ多糖:LPS)がある.

アルコールをかけると

外膜が壊れる

紫色が流れ出る

その後

サフラニンやフクシンで染めるので

赤~ピンク色

に染まる.


染色の流れ

クリスタルバイオレット(紫)

ヨウ素(紫を固定)

アルコール脱色

サフラニン(赤)


これだけらしい.


違いが出るのはアルコールによる処置ということになるらしい.


続いて、グラム染色の結果、

グラム陽性

ブラム陰性

の分類ができた後、


さらに、細菌の形から、丸っこい、細菌か、棒状の細菌かで、

球菌と、桿菌に分ける.


つまり、

グラム陽性球菌

グラム陰性球菌

グラム陽性桿菌

グラム陰性桿菌


の4種類に分ける.


「これだけでかなり絞れます」


代表的な細菌をリストアップしてみましょうか、


グラム陽性球菌ブドウ球菌・レンサ球菌・肺炎球菌・腸球菌

グラム陽性桿菌リステリア・炭疽菌・ジフテリア菌・クロストリジウム・バチルス

グラム陰性球菌淋菌・髄膜炎菌・モラクセラ

グラム陰性桿菌 大腸菌・肺炎桿菌・インフルエンザ菌・緑膿菌・サルモネラ・赤痢菌・レジオネラなど


さらに細菌の並び方、集まり方の特徴からは、


球菌の並び方、直線状に並べば、連鎖球菌

二つ並んでいる連鎖球菌は、肺炎(双)球菌

葡萄のフサのように細菌が並んでいれば、ブドウ球菌


という具合.


「はあ、かなり、クリアに分かれますね・・・・」海丸くんは感心する.


「そお、あとは

免疫原性というか、血清型とか、赤血球を溶かす性質があるか、とか

カタラーゼ活性があるかとかそういうことで、それぞれの細菌を細かく分類できるのだったと思う.


割り当てられた、細菌を、グラム染色から始まって、陽性、陰性、形を見て、いろんな酵素活性とか色々見て、


最後は、この細菌は一体なんでしょうか?ということを突き止めるのが細菌学実習の流れ、だったと思う.


身体中の病気、細菌絡みの病気、どんな細菌でどんな症状、どんな臓器にはどんな細菌が感染しやすいか・・・・


「これで診断が決まってしまいますからね、細菌学の知識は臨床医にとってはすごく重要ですね.」


日本の臨床医、検査技師さん任せでなくて、自分で、とってきた喀痰とか、おしっことか、脳脊髄液を、グラム染色して、診断の目星をつける、という作業をする先生は少数らしい.

アメリカとか、日本国内では米国式の医学教育が進んでいる沖縄なんかでは、初期研修医の先生で、細菌学の知識がしっかりしておられる先生が多いと聞く.


そして、内科の中でも専門領域として「感染症科」を標榜される方が一定数いるらしいのだが、日本では圧倒的に数が少ない.


最近でこそ、感染対策委員会、とか感染制御ドクターなんかが、感染症外来を行ったり、院内感染対策をされている施設が増えてはいるそうなのだが・・・


どのような細菌にはどんな抗生剤が効くか?

薬剤耐性の問題は?

薬剤耐性を起こさないようにするには?


そもそも細菌が抗生物質の集中砲火から逃れて生き残る、

薬剤耐性を起こす仕組みは?


院内感染、薬剤耐性菌問題

MRSA

VRE

・・・・・

この頃は、多剤耐性菌もでて.なんでそんなことになるか?

・・・・

免疫異常ではどのような細菌感染が多いか?


HIV感染や、ステロイド、高齢者に結核や、MACなど、抗酸菌感染が増えて来たこと、

細胞性免疫、補体欠損症、好中球減少症・・・・・


「系統的にしっかり学び直す必要がありそうですね・・・」

ということで折に触れて感染症について勉強をし直すことになった.

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