五十猛の願い「この島を木々の緑豊かな国に!」
爪を剥がれ、高天原を追い出された須佐男命は、新羅の国に降りたった.
この地の須佐男には三柱の神子がいたとされる.
五十猛神、
大屋比売神、
抓津比売神(都麻津比売神)
である.
五十猛は「いたける」と読むらしい.
五十嵐さん、五十ふた文字で、「い」と読ませるのかな?
嵐が「ガラシ」?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
須佐男は土地の者たちに受け入れられなかったと伝わる.
たいまつを持った村のものたちが、口々に叫ぶ.
「この国には、荒ぶる神はいらん」
「祟り神はいらん」
「異国の神は出てゆけ」
中には魔除けの、呪い(まじない)を始める老人もいたらしい.
「父上、また村のものどもが、騒いでいます・・・」
「父上、何を、彼奴等の好き勝手を許すのです.荒ぶる神の怒りをお示しになられてもよろしいのでは?あのものども、神を冒涜するにも程がありまする・・・」
「十握剣を存分にふるいなされ、嵐と雷を起こしなされ・・・」
「いやさ、お主らは簡単にそういうがな、
あまりに荒ぶって、親父のイザナギの大神には、勘当されて、
家と領土を追い出されて、それでも荒ぶったら、
今度は、姉貴に警戒されて・・・
誓に勝って誤解が解けたのをいいことに、
調子に乗って、好き勝手にやった高天原、
俺は、爪を剥がれ、下界に落とされた、
異国の者ども、倭国の神に、好き勝手にはさせるまいて・・・・」
須佐男は、姉の天照大神から下された、木々の種の詰まった袋を大事そうに抱きかかえて言う.
「その方、降り立った、土地にこの種を植えて、木々の緑の豊かな国にして見せてみよ、そなたの悪行のせめてもの罪滅ぼしに・・・」
新羅に舞い降りた、荒ぶる神は、異国の民には、いまひとつ、どころかかなり受けがよろしくないようである.
「特に暴れたり、悪戯したりしてないのだがな・・・・」
須佐男ぼやきである.
「土地の者たちに受け入れられない以上、長居は無用と存じます.
アマテラス様より賜った、貴重な種、
何もこの土地の無礼なものどものために、
無駄に使う必要はございません.
父上がお生まれになった、倭の国に戻りましょう、
そこを、木々の生い茂る、緑の豊かな国に変えて見せましょうぞ!」
息子の五十猛に言われた言葉を、須佐男がぼんやりと復唱する.
「生まれた国、木々の生い茂る、緑豊かな国か・・・」
かつての荒ぶる神は、望郷の思いから、遠い目をした.
「でもどうやって帰るかね?高天原から落とされて、半島までどばされたからな、
倭国に行くには、海を渡らねばならない.
筏を組んで帰るか?それとも木をくり抜いて船を作るか・・・
おめえら、船作ったことあるか?」
「父上、泥をこねて、船の形にして、乗っていけばよろしいでしょう」
「ってなおめえ、何にもわかってねえな、泥の船、水の上には浮かばねえ、しかも、波に洗われて、溶けて無くなってしまうさね.」
五十猛は、ちゃんとしているようで、やっぱり須佐男の血はしっかり引いている.
こういう常識がわからないみたいである.
須佐男と子供の神々、三柱は泥舟で、朝鮮半島から渡ったと伝わるが、流石にそれは無理であろう.
おそらく、筏を組むか、木をくり抜いた船を作って、日本海を渡ったらしい.
その航海、須佐男には心強い、味方が二組、いた.
いずれも近しい身内である.
高貴な神々である.
宗像三神
と
住吉三神
かつて、誓が行われた時・・・・
宗像三神.美しい女神たち
須佐男の娘、という事になっている.
須佐男の持ち物である、剣を、天照大神が三つに折り畳み、バリバリ噛み砕いて、霧吹きのように、ぷーと吐き出して、女神が生まれた.
かわいい顔した、大神が、剣をバリバリ噛み砕く?それを霧吹のように吹き出す?
あるいは一緒に炎も吹き出したか?
妖怪と女神は紙一重か?
蛇の髪の毛、みたものを石に変えてみたり、
親父の頭から生まれてみたり、
口から尻から食べ物を吐き出して、男の神に気色悪がられて殺されたり、
剣を噛み砕いて新たな女神を生み出してみたり・・・・
玄界灘の航海の安全を守るのが彼女たちの役割である.
そしてもう一組の身内、
住吉三神は、須佐男の兄にあたる神々である.
イザナギが黄泉から戻り、つくしの日向の、おどの、阿波岐原でつけていたものを全て、脱ぎ捨てて、体の穢れを全て洗い落とした、禊の時に生まれた.
底筒之男神
中筒之男神
上筒之男神
の三神である.
のちに、かの神功皇后が、三韓を制圧するために、同じ海を渡った時に、
身重の皇后を守り、水先案内をした神々でもある.
彼らの加護もあり、無事に九州に渡った、須佐男とその子供の神々、
出雲国は、船通山・鳥上峰に「舞い降りた」
そこを起点に、
「木の種を植える仕事、おめえらやってくれねえかな・・」と
須佐男に命じられた、五十猛とその妹の神々は、
全国に木の種を植える仕事を進めた.
その間、須佐男は出雲国に、たたら製鉄を進め、暴れ川の氾濫を治め、クシナダ姫を娶って、幾重にも巡らせた防壁で、外敵の侵入から妻を守りながら、新たな地盤を出雲国に築きつつあった.
そして、ついには、「根の堅洲国」と言う異世界にも勢力を及ぼすようになったという.
日本全土、津々浦々に木のたねを植え、苗を植え、豊かな森の国土にする仕事をやり終えて、五十猛と、妹の大屋比売神、都麻津比売神は、
紀伊の国、伊太祁曽神社にお鎮まりあそばした.
「オヤジ様、どのようにお過ごしであろうか・・・」妹たちは出雲に残した父を思う.
「ほどほどに荒ぶっておられるのではないか、たたら製鉄も、暴れ川の制圧も、侵入してくる敵の鎮圧も、一筋縄ではいかぬだろうからな」
高天原では、無駄に暴れものであった、須佐男は、今や出雲のヒーローである.
紀州の暮らしは平穏であった.
しかしある日・・・・
紀伊の国・伊太祁曽に、八十神に追われた、オオナムチが逃れてきた.
大屋毘古神に匿われたと伝わる.
五十猛と同一神であるとも言われる.
「私は、兄たちに追われています、すでに何度か殺されています.その度に母たちの助けで蘇りはしたものの・・・今度ばかりは、どうなることやら・・・」
軍靴を踏み鳴らす音、
鎧の揺れて、擦れる音、
馬の嘶き、
兵たちの騒ぐ声・・・・
これらが次第に、伊太祁曽のやしろに近づき、取り囲む.
妹たちが駆け込んできた.
「追っ手がすぐそこに・・・・」
「やれ、やれ、兄たちの軍勢、もうここまできましたか、
いやはや、なんとも仕事の早いことで、
しかしまあ、惜しむらくは、無益なことに、無駄に素早いことで・・・・」
オオナムチ、絶体絶命の自分の運命、例によって平然と、笑みさえ浮かべて、人ごとのように話す.
そして、人たらしの本領発揮である.
とにかく、須佐男の息子である、大屋毘古神・五十猛、
そんなオオナムチに感動して、全身がしびれた.
(なんと、この男、これから殺されるかもしれぬというのに、
平然と自分の運命を話す.
そして、その目は、あくまでも澄み渡っている.
口元に笑みすら浮かべている・・・・
恨みは多いだろうが、怨念の光はその目の中には窺い知れぬ.
不思議な御仁とお見受けした.
兄たちの理不尽と自分の正しさに、これっぽっちの疑念もいれぬ、
つまり信念の人である
この国を、嫉妬に狂ったその結果、
弟一人を亡き者にしようと、追いかけ回す、
八十神どもに任せるべきではあるまい、
この男こそ、この緑の国を治めるにふさわしい、のではないか.
助けねば、
何がなんでも助けねば、
ぼやぼやしてはおられぬ!)
「ささ、この木の股をくぐって、
私の父、須佐男が治める、根の堅洲国に逃れなさい.
父はあなたが苦境を克服する手立てをきっと、教えてくれる・・・・」
「あなたは命の恩人です.このお礼はいつか、必ず・・・・」
木の股を潜る前に、また 大屋毘古神の方に向き直って、丁寧に挨拶をしようとする.
「ああ、ダメ、だめ!今はそんなことをやってる暇はありません、
さあ、早く、追手がきます!」
伊太祁曽の三柱の神々は、オオナムチを木の股の中に力いっぱい押し込んだ!
オオナムチ、のちの大国主命、五十猛は須佐男の息子、大国主の嫡妻となるスセリビメも須佐男の娘である.
因果と縁の糸は、いろんなところで繋がっているようだ・・・・




