アルコール関連疾患③「肝臓の異常」
臓器別、アルコールにどのような影響を受けて、病気が起こるかを病態生理学的に考えてみたい.
内科の教科書にアルコールの影響で起こる病気は以下のように書かれている.
脳と神経の病気については先に書いた.
「さあて、どんな感じで書きましょうかね・・・・」
まず、臓器と、アルコールで起こりうる病気をさらっと書き並べてみて、後からその病態生理学的な仕組みについて書いてみましょう、という流れにしましょうか.
例によって、教科書、丸写し的になることはお許しください.
目次的に、各臓器のアルコールに起因する病気を並べてみました.
その後に、各論を詳細に記載したいと思います.
肝臓
脂肪肝
アルコール性肝繊維症
アルコール性肝硬変
消化管
食道炎
食道静脈瘤
Mallory -Weiss症候群
急性胃粘膜障害
消化性潰瘍
吸収障害
下痢
痔核
膵臓
急性膵炎
慢性膵炎
糖尿病
心血管系
高血圧
不整脈
冠動脈疾患(少量の飲酒ではむしろ少ない)
アルコール性心筋症
出血性脳卒中
脳梗塞(少量ではむしろ少ない)
癌
口腔癌
咽頭癌
喉頭癌
食道癌
肝臓癌
女性の乳がん
大腸癌
膵臓癌(疑い)
筋骨格
骨粗鬆症
大腿骨頭壊死
骨折
アルコール性ミオパチー
横紋筋融解症
血液
大赤血球症
大球性貧血
血小板減少
顆粒球減少
代謝
高尿酸血症
脂質代謝異常
電解質異常
脱水状態
アルコール性低血糖
アルコール性ケトアシドーシス
大酒家突然死症候群
生殖
性腺機能異常
精巣萎縮
インポテンツ
妊娠異常
胎児アルコール症候群
胎児アルコールスペクトラム障害
自殺
外傷
暴力
事故
ニコチン依存症の併発
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
肝臓
「アルコール、イコール肝臓病?」
「肝臓は人体の化学工場だとしたら、まあ、そう言えなくもないが、何も化学物質はアルコールだけではあるまい・・・
例えば
ブドウ糖、グリコーゲン
アミノ酸の合成・代謝
アミノ酸から、アルブミンとか、血液凝固、その他の酵素活性のあるタンパクを作る
血液の色素、ビリルビンを作ったり、壊したり
脂質の代謝
コレステロールの合成
アルコールだけではなくて、薬剤の代謝、解毒
尿素窒素の代謝、尿素、尿酸の合成
・・・・・・・・」
「脂肪肝、アルコールの他に原因は?」ドクトルが海丸くんに聞いてみた.
「うーん?なんだろ、いわゆる、メタボ、かな?」
「ピンポン正解!」
「でもね、脂肪肝を内科の教科書の索引で調べてみても、非アルコール性脂肪肝、って項目はあるのだけど、アルコール性脂肪肝という項目はなくて、しかも
アルコール性脂肪肝
アルコール性肝繊維症
アルコール性肝炎
アルコール性肝硬変
アルコール性肝がん
と、一括して、アルコール性肝障害にまとめられている.」
それぞれが、個別の病気ではなくて、時間の経過とともにこのようになりますよ、という書き方である.
「原因は一つだけど、拗らせ方によって、どんどん困った状態になりますよ、という書きかな、なんだろうか?」
「アルコール性肝障害」の病態は次のように書かれている.
定義
長期(5年以上)にわたる過剰の飲酒、1日平均純エタノール60g以上、ただし、女性や、アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrognase:ALDH)2活性欠損者では一日40g以上が肝障害の主な原因と考えられる病態で、
禁酒により血清AST 、ALTおよびγGTP値が明らかに改善する.
明らかな肝炎ウイルスマーカー、抗ミトコンドリア抗体、抗核交代がいずれも陰性の場合.
(アルコール医学生物学研究会2011年)
我が国では、20%以上の肝疾患に大量飲酒が関与している.
肝硬変の成因において、アルコール単独のものは近年著明に増加し、その24.6%を占める.
肝細胞癌の成因についても、アルコール性が、7〜14%を占める.
各病型における病理変化は、
アルコール性脂肪肝:肝小葉の30%以上にわたる、脂肪化.その他の著明な組織学的変化は認めない
アルコール性肝繊維症:中心静脈周囲性、肝細胞周辺、門脈域から星芒上に見られる繊維化のいずれかあるいは全てが見られる.炎症性細胞浸潤や、肝細胞壊死は軽度.
アルコール性肝炎:肝細胞の変性、または壊死.
1.肝細胞の著明な膨化、balooning,
2.種々の程度の、肝細胞壊死、
3.Mallory体(アルコール硝子体)を認める
4.多型白血球の浸潤を認める.
各項目の組み合わせで、診断は定型的か、非非定型的か、に分けられる.
アルコール性肝硬変:小結節性、薄間質性.飲酒状況、画像検査、血液生化学検査から、臨床的に肝硬変と診断できる
アルコール性肝癌:アルコール性肝障害で、画像診断、病理診断で、肝癌の診断が得られたもので、他の病因を除外できたもの.
病態生理
アルコールは、肝臓で、アルコール脱水素酵素により、アセトアルデヒドが産生される.慢性的な飲酒により、チトクロームP450 2E1(CYP2E1)を中心とするミクロソームエタノール酸化系MEOS:microsomal ethanol oxidizing system)が誘導される.
肝内でのアルコール代謝が亢進すると、ADH,ALDHの補酵素である、NADからNADHの変換が促進され、NADH /NAD比が上昇する.
それによって、
クエン酸回路が障害され
脂肪酸の合成が亢進する
ミトコンドリアによる、β酸化による、脂肪酸の分解機序が障害されて、脂肪肝になる.
「大まかな理解だけど、還元型のNADHが、増えることで、TCAサイクルが、右回りに回るのが、ちょっと止まるってことなんだろうか?」ルシフェルはなかなかいいことを言う.
「おそらくそう言うことだと思います」ドクトルも、そう考える.
CYP2E1による活性酸素の酸性が、小葉中心の肝障害を惹起する.
腸管のエンドトキシン透過性亢進が、kupper細胞を活性化して、TNF -αなどの炎症性サイトカインを産生し、肝細胞障害を惹起する.
肝微小循環障害が、多核白血球の浸潤に関与する.
アルコール性肝障害の場合は、AST がALTより優位に上がるらしい.
ALTは幹細胞に多く含まれている.ASTは他の臓器にも含まれる.メタボや、ウイルス性肝炎では、逆にALTが優位に上がるらしい.AST /ALTの比は、アルコール性の方が高くなる?
アセトアルデヒドの毒性により、細胞骨格が変性して、細胞の膨化等が起こると言うこともあるらしい.
治療の要点は、とにかくお酒を減らしなさい、普段から、お酒を健康障害が起こらない程度の量にしておきなさい、と言うことらしい.
肝硬変になって、肝臓の機能が廃絶した場合には、肝臓移植、と言うことも考えるが、その時も変わりなしにお酒を飲み続けると、肝臓移植後の予後も悪い、と言うことが朝倉の内科学(第11版)には明記してあった.
消化管、循環器、そのほかのアルコール関連疾患についてはまた今度書きます.




